国なき出国
西欧歴27年
国滅びて、土饅頭あり。
皮肉にも、火葬はいらなかったのだ。
たっぷり三日かけて、ごんざは村の者達全員を弔ってやった。一日目の夜には、無残に殺された者達の呻き声、その魂の残響が聞こえたものだが、土饅頭で地面に凹凸が出来るほどに、亡霊の苦悶は収まっていった。
土と垢まみれになった全身を近くの川で清め、再び一松の屋敷跡に向かう。
着物をしまう籠の蓋を開ける。
中には、薄紫の狩衣が。名のごとく都の者が、よく動く際に召す衣服だ。ゆったりと、たっぷりと布地を扱われたものだが、袖などで阻まれぬよう、機能性にも配慮がなされている。
その紫は、藤の色だ。学のないごんざだが、藤とは紫の花の名であることは知っている。その色にそっくりだ。紫の染料とて、この時分に易々と手に入るものではない。やはり一松は、こうもごんざを慕っていたのだ。
これは、藤達が遺してくれたものだ。ごんざはそう思うことにした。
一松の部族は、まだ、ごんざという者が残っている。鬼と代わってしまったが、それでも、生き残りには違いない。
ごんざは、頼りなさげにそれを着る。なにせ、こんな立派な召し物を身に纏ったことがない。
なんとか馬子にも板についた時、ごんざの耳に囁き声がさえずり渡った。
――貴方、よく、似合っておいでですよ。
「藤?」
ごんざは振り向いた。誰もいない。自然のことだ。藤はとうに死んだ。もういない。どこにもいないのだ。
ごんざの心の中で生きている、などと筆するには、あまりにも今生の別れは惨いものであった。
ごんざは、藤の気配を求めて焼け跡を巡りたかったが、錯乱とするにも、その怨嗟の燻ぶりがいきり立ってきて仕方ないのだ。
足取りは速く、重く、村を出る。
ごんざは、ごんざという名を村に捨て、体を村に捨て、情けを村に捨てた。
仏の真似事も、ここまでじゃ。
だから、鬼は駆ける。
藤と吾子を殺したさむらいどもを同じように、ごみのように殺してやる。
林を抜け、麓を一目散、山を跳ねる。
ごんざと呼ばれたものは、改めて魑魅魍魎と化したのだ。
あとがき
ご存じの通り、土饅頭というのはジロン・アモスを罵る言葉でありますが、本来は浅く掘った穴に亡骸を葬り、土をかぶせただけの簡単な土葬を指す言葉であります。




