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西欧歴27年
あるいは、ごんざはあの時に死んでいた方が、まだしも幸いだったのかもしれぬ。
その時、確かにごんざの世界は、全てが緩慢に流れておった。
羽交い絞めにされた藤の前に、太刀を構えた侍大将が立つ。
憔悴すら許されぬ、藤の歪んだ顔。
縦に、刃の斬線が走る。
やめろ。
藤の大きな腹が――子供を宿した揺籃が、裂ける。
やめろ
羊水と共にゴロリと落ちる、ごんざと藤のやや子。
やめろ
侍大将は、赤子を片手で持ち、藤とを繋いでいたへその緒を引き千切る。
やめろ
ああ、吾子よ。まだ藤の温もりが恋しかろうに。
ああ、吾子よ。輪廻転生の類いが、理に組み込まれているかどうかは知る由もないが、こうも酷な世界に生を受けるには、まだ早すぎる。
侍大将は、太刀を地に突き刺し、片方の手で赤子の頭を、もう片方の手で赤子の体を掴む。
赤子の、かすかな産声。
やめろ。
雑巾を搾るように。
やめろ。
やめろ。
やめろ。
赤子の首を捻じる。
産声は、静まり返る。生まれているのかすらも定かではなかった亡骸を投げ捨てる。
藤の眼差しは、子のようだった。赤子の魂が乗り移ったように。
「あのお、お侍さん。
私のやや子を、返して頂けませんかあ? お乳をあげないとお」
いよいよ藤は、壊れてしまった。
「松明!」
侍大将が叫ぶと、家来は松明を差し出す。藤を羽交い絞めにしていたさむらい共は、藤を突き放す。腹を裂かれたのも構わず、藤は赤子まで這った。
藤は、首の捻じれた赤子の首を元に戻そうと真逆の方向へ回すが、どうにも首のおさまりが悪い。
侍大将は、そんな藤の髪に松明の火を近づける。
やめろ! もう沢山だ! やめてくれ!
火が点った藤は、その熱に気付くや否や、赤子を抱えたまま地面を転げまわる。しかし、すでに手遅れ。火の手は藤全体をいともあっさりと覆いつくす。鈴の音のようだった藤の声は、今や太くカン高い、長い長い断末魔をあげながら、それでもなお地面をのたうつ。侍たちは、藤の狂乱をじっと見つめる。
藤は、動かなくなった。
もはや、ただの燃え滓と相成った。
ごんざには、もう何もない。
いよいよ、自身の命の灯もあとわずか。
「冥土の土産に見たか!
これが朝敵の末路よ!
その木偶の坊も、刎ねて御仕舞い!」




