Gルートの審判
西欧歴27年
果たして、ごんざは屈強な人の子だったのか。
あるいは、やはり人の形を模った人ならざるものなのか。
はたまた、征夷軍の侍が仕留め損なっただけなのか。
どうあれ、なみなみならぬ生命力で、ごんざは立ち上がる。地面になみなみと流血を残して。ままよ、とその腹から生えた槍を引き抜き、杖代わりにする。
致命傷には違いないが、生き物が神懸かりめいた力に突き動かされることは、確かにままある。
ごんざは気休めに傷口を手で抑えながら、征夷軍の侍が向かった場所へと向かう。木の根、ぬかるみ、傾斜にあふれる山々を難なく踏破する健脚は、それでも小走りが精いっぱいだが、藤を取り戻さねばならぬ。
息も絶え絶え、体中が寒い。あまりにも血を流し過ぎた。視界も暗くなってきている。手負い――ましてや腹を突かれ、臓腑を刻まれた体で、征夷軍たち相手からどう藤を取り戻そうというのか。
それでも、藤を想えばこそ。
往くしかないのだ。
それが、ごんざという男なのだ。
「藤! どこだ! 藤!」
ごんざは流れ出る意識の中、気迫を振り絞り、朦朧としながらも藤を求めてさまよう。
どこをどう歩いたのか、それでもごんざは征夷軍どもがたむろする場所を、どうにか探し当てた。燃える故郷からさして離れておらぬ、なんてことのない原だが、今のごんざでは、たどり着くのに一刻はかかった。
松明の灯りと、藤の呻き。さむらいどもの卑下た哄笑。
身重の女一人に寄って集って、曲がりなりにもいくさ人として得物を佩く誉れ高き者共が、どうしてこうも惨いことを出来ようか。
ごんざは猛り狂った。藤の苦しみと痛み、屈辱、慄きが通じて滂沱が地に伝う。かかとに突き刺さった矢を引き抜く。矢じりの返しに、肉の筋が絡みついているのも構わず。ごんざは持った槍を得物にさむらい共に踊りかかる。
後ろから藤に覆いかぶさっているさむらいの後頭部に、その槍を突き刺した。
頭を貫かれたさむらいは、ごんざの方を振り向き、そして後頭部に手をやって、崩れおちた。周りのさむらいどもは、仰天したのか、腰がぬけたのか、ごんざの奇襲に応えきれなかった。
「藤! 藤! 藤!」
「あなた! 生きてくださったのですね!」
ごんざは振り絞って藤を抱え、さむらい共から離れようとする。
あっけにとられていたさむらい共は、ようやく上を下へのとどよめく。
「なんじゃ、コイツは! 誰か仕留めそこなったな!
よくも与左衛門を!」
大将とおぼしき、大仰な兜を纏ったさむらいが叫ぶ。
「おのれ、もののけか! 確かに心の臓を突いたというに!」
藤を攫ったさむらいが叫ぶ。
もののふ達は、太刀に槍を構える。
ごんざは、挺して藤の楯となり、その矛先を一身に受けた。ズタズタの八つ裂きである。
ごんざの喀血混じりの怒号。
「藤! 逃げろ!」
自分の身など、どうなってもいい。いずれ長くは持たない。
藤と、二人の吾子だけは……。
さむらい共は柄に力を込め、ごんざを再び地に伏せさせる。
「させるかい! この野良畜生めら!
与左衛門を殺した仕置き仕る! その女を後ろから抑えい!」
さむらいは、藤の腋を抱えて、無理やり立たせる。




