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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
一話 オウマクラブ
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一寸法師式ブートキャンプ

 西欧歴1046年 4月15日

 東雲 桜真


 目くらましを食らっている間にダメ押しの銃撃が俺の脛に直撃、そのまま片膝をついてしまう。


 コヨーテの野郎、まるで俺のチートを知っているかのように――。


 網膜に光が焼きついているが、俺は足元に何かが居るのを見つけてしまった。


 それは、強いて言い表せば小鬼だった。


 紫色の小鬼。体長は一五センチ前後。太古の人が纏っていたとされる、狩衣と呼ばれる衣装――ゆったりとした薄紫色を纏い、その拵えからでも筋骨隆々とした浅黒い肉体が幽と見えられる小人。こいつも面具で顔を覆っている。固く結んだ唇からは乱杭歯が歯見出し、目元から下を覆い隠す意匠の面具。防具というよりも、忍耐、黙秘、頑なさを表す、むしろ祭具を彷彿とさせる仮面のようにも見えた。


 今まで俺に付きまとってきた奇妙な気配――まさか、コイツが正体だったのか!?


 考えてみれば当然のこと。コヨーテが単独で実働しているワケがない。一人で出来ることなど限りがある。俺は、今までこのチビに監視されていたんだ! 今日、ここで肇ことのはを手籠めにすることまで筒抜けだったのだ! クソ、俺としたことが!


 子鬼はノミのように高く飛び跳ねて、俺の額に掌底を食らわせる。昏倒。チビのクセに、なんて腕力だ。痛覚遮断によってさほど痛みは感じないが、額は痺れ、耳鳴りを起こし、視界はぼやけ、一瞬意識が飛びかける。あの小ささで、メチャクチャな膂力!


 子鬼は、俺の額の皮に爪を立ててむんずと掴む。


 身体が硬直しながら痙攣する。動けないのに、意に反して体がガクガクと動きだす。矛盾したこの感覚。焦げた臭い。


 ようやく感電していることに気付く。いっそ香ばしいこの臭いは、俺の全身が焼けているからだった。


 この子鬼が俺を感電させているだと? 一体なんなんだこいつは。電気まで操るのか?


 クソ、卑怯だぞコヨーテ! 卑劣だぞ歌い狼!


 『チート』を解除。全身の愛素を肉体の復元に回して、なんとか俺は子鬼を掴み、額から剥いで、床に叩きつける。だが子鬼は宙で体勢を取り直し、受け身を取って衝撃を殺しながら地面を転がり、ヌルリと立ち上がる。憎たらしい奴め。


 コヨーテの方はどうなっている!? コート左腕の裾から肩口にかけて真っ直ぐ伸びたチャックを上げる。裾が真っ二つになり、左腕が露わになった。鍛えられて締まっているが、あの細さと絞まり具合、違いなくあれは女の腕だ。


 コヨーテは、女だったのか。ならば身体の差は歴然。落ち着け。勝機はある。


 コヨーテの左下腕がどす黒く変色していく。かと思えば、ほどけた縄のように、一の腕は無数の線状にバラけ、それらは再び人間の腕の形へと編み直される。


 その筋と筋の隙間から虫の節足の腕骨、小鳥の羽、貝殻の爪、亀の甲羅の手の甲、羊の蹄の肘、茨の下腕――キマイラ的な器官が無秩序に撒かれた腕に生え変わる。


 その手のひらから、スイッチブレードのように刀身状の器官が勢い良く飛び出て来た。


 異形の左腕。べっ甲色の刃。


 転生者狩りのコヨーテは、毒溜みの巫子。


 コヨーテが、凶悪な転生者狩りである理由は、この腕を持っているからだ。


 切っても突いても、撃たれても死なない転生者に明確な致命傷を与える、不倶戴天の落とし仔ども。


 その切っ先が――コヨーテの犬歯が、躍り掛かって来た。

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