⑨
メメメがそんなこと言ってたな。
「一つは勇者の聖なる力を人形に直接送り込むこと。そして、もう一つは……」
「もう一つは……うわっ!」
突然、強風が吹き付けた。
同時にプロペラが回転するような断続的な音がイヤホン越しに聞こえはじめる。
「もう一つは〇×△□♡――」
「いや、音がうるさくて聞こえないんですがっ!」
まさかとは思うが、ヘリコプターでもやって来たのか?
しかし、その予想を裏付けるかのように、先生の身体が宙に浮いていく。
「……………………っ!」
「だから聞こえないって!」
みるみる上昇していく先生。
その姿はフェードアウトするように夕焼け空の中に消え、うるさかった音も徐々に遠ざかっていった。
「マジでヘリだったのかな? だったら金かけすぎだろ」
空を仰ぎ、ツッコミ一つ入れてから振り返る。
いつの間にか、メメメに巻き付いていた糸が消えていた。
「メメメ……」
風にたなびく黒い髪と、メイド服のスカート。
だが、様子がおかしい。
杭で十字架に張り付けになったどこぞの聖人かのように両腕を左右に広げた状態で、ふらふらと左右に揺れている。
キラリ、と何かが光った。
「……操られたという訳か」
光ったものは、メメメの全身から伸びる、目に見えないほど極細の糸。
俯いていた顔が上がり、視線がこちらを向く。
いつもと違う色の瞳。
「……敵、確認」
紫色の瞳が残光を残して左に揺れた。
それを最後に、メメメの姿が視界から消えた。
「なっ……」
周囲を見回す。
しかし、どこにも見当たらない。
「殲滅」
背後から、声。
反射的に振り返ろうとしたが、それが失敗だった。
右回りでひねった身体の横っ腹に、メメメの小さな拳が直撃。
結果的にカウンターパンチとなった。
当然、ダメージは倍増。
「ごふぅっ……!」
「な、直里、大丈夫っ!」
メメメ自身も予期していなかったのだろう。
演技を忘れ、俺の心配をしはじめる。
「ゲホッ……大丈夫だ。そんなことより演技を続けろ。コココさんにバレたら飯抜きにされるから」
「そんな……でも」
「いいからっ!」
「……分かったよ」
メメメは一度距離を取り、再び元の操られている状態に戻った。
「次が最後の一撃」
胸の上で祈るように両手を握る。
するとメメメの胸から派手な装飾を施された大砲が出現した。
「エルフバズーカ。カウントダウン開始。十……九……」
発射口に紫色のエネルギーが集まっていく。
グラフィックの豪華さからして、喰えば999999ダメージで即死するだろうな。
「……さーて、どうやって止めればいい?」
それは独り言だったが、俺の疑問に答えるようにポケットからピロピロリンッとメール音が。
女神さまからだった。
『メメメから伸びている糸をよく見ろ』