⑥
―――――直里。直里っ!
誰かが俺を呼ぶ声がする。
「直里っ! 直里っ!」
誰かが俺の手を強く握っている。
あれ、どうして俺の手なんか。
「……んん」
僕を真上から覗き込んでいる小さな人影。
誰だろう。逆光で顔が見えない。
あっ、でもメガネ。
ああ、そうか。
「……メメメ?」
「な、直里ッ!」
「あれ、俺はいつの間にか気絶して――」
「良かったぁっ!」
だきっ!
ぎゅううっ……
「えっ、あっ、ちょっ、いててててっ」
意識を取り戻した俺にぎゅっと抱き付くメメメ。
「この馬鹿タヌキっ! 死んだかと思ったじゃないかっ!」
「そんな大袈裟な……」
「おはよっ、色男君♪」
麹町先生が運転席側から言った。含みのある笑顔。
「ごめんねー、ちょっと本気出し過ぎちゃったみたい♪」
「そんなニコヤカスマイルで言われましても……マジ死ぬかと思いましたよ」
「えへっ♪」
「あと後半、車の後ろから火を噴いていたみたいなのですが気のせいですよねー?」
「うふふっ♪」
「空を飛んだり、貯水池の水面を爆走してたり」
「あははっ♪」
「最終的にトランスフォーミングして崖をよじ登ったりもしていたような気がするんですが」
「直里君、面白いねー♪」
あははーと言って麹町先生は肯定も否定もしないまま車を降りた。
どうしよう。あれが本当に夢だったのかめっちゃ気になるんですけど。
すぐに追いかけようとしたのだが、その前に俺を掴んでいるこいつをどうにしかしないと。
「ううう」
「メメメさん? 心配してくれるのはありがたいんだけど、そろそろ離してもらえませんかね?」
「……はっ!」
メメメが思い出したように顔を上げた。
自分のしていたことが急に恥ずかしくなったのか、みるみる顔が赤くなっていく。
「ぐぐぐぐぐ」
「えーと、し、心配ありがとな」
「も、もうっ行くぞっ!」
メメメは俺を引っ張って外へ出た。
俺が気を失っている間に、どこをどう進んだのかは分からない。
しかし停車した駐車場の向こう側には夕日を受けてオレンジ色に輝く草原地帯が広がっていた。
「直里くーんっ、こっちー」
草原の中で、麹町先生がこちらに手を振っている。
その足元に、気になる物体があった。
「麹町先生、なんすかそれ。巨大な卵みたいな……」
近づいて訊ねると、麹町先生は「ふっふっふ」と不気味に笑った。
「引っかかったわね、愚かな勇者達」
「きゅ、急に何すか?」
「……ひょっとしてこの女」
メメメが目を細める。
「お前は私たちの味方じゃなかったのか」
「その通りっ! えーと」
手に持っていた紙の束をめくる。
「あっ、ここね……アインシュタイン麹町とは仮の姿。私の本当の正体を見せてやるぅ」
「ほ、本当の姿っ!」
棒読みの麹町先生の言葉にガチで驚くメメメ。
「さあ、恐怖に震えるがいい、勇者どもっ♪」
「な、何をするつもりだアインシュタインッ!」
「ふふ、見ればわかるわよっ♪ —―――メタモルフォーゼッ・インフォメーションッ!」