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 視線を降ろし、目標物を確認する。

少し爪の伸びた指に、日差しを浴びていない白い手。

小さい手、まるで赤ちゃんだ。


「……ええと」


 おい、どうした何を躊躇している。

 相手はメメメだぞ。色気のかけらもない、我がままなちびっ子小学生の手だぞ?

 そう自分に言い聞かせるのだが、同時に一つの事実が俺の脳裏に浮かんでいる。



『されど、女子の手』



「……くっ、知るかそんなこと」


 俺は理性を殺し、半ば勢いでその手を握った。


「わっ」


 小さな叫び声と共に、逃げるように引っ込められた手。


「そんなにぎゅっと握るな! びっくりするだろ!」

「はっ、握れと言ったのはお前の方だろうが」

「ち、違うっ! もっとそうっとして!」


 やれやれ、眠っているキャラのくせに注文が多すぎる。


「これでいいか?」

 

 メメメの手の甲の上にそっと手を乗せて訊ねると、メメメは「ん」と頷く。

すると突然、こいつの全身が眩い光に包まれた。


「……エネルギー充填完了。マキナ、覚醒します」


 大きな光がラボを包む。

 視界が白一色へと染まっていく。


光が収束し、周囲の風景が戻ってくる頃、メメメの閉じていた目が開いた。


「……ありがとう。私を呪いから解放してくれて」


 いつものメメメでは考えられない、無邪気な微笑み、言葉遣い。


反射的にポカリ(飲み物じゃないよ)。


「いてっ! な、何すんだ!」

「何か喋り方がムカつく」

「別にいいじゃんっ! やってみたかったんだよ、こういうのっ!」

「でも、せめて喋り方は普通にしてくれ。気になって仕方ない」

「……ちっ」


 渋々、キャラクター変更を受け入れるメメメ。


「簡単に説明すると、私をこの身体に閉じ込めた敵を見つけて倒すのがクリア条件」

「で、俺が主人公の勇者役ということか」

「イエス」

「でお前が仲間か」

「イエスイエス」

「敵ってどこにいるんだ?」

「それを見つけるのもクエストの一部」

「探す所から始まるのか。時間かかりそうだな」

「ふっふー」


 ピロロロロ……


「あっ、エルフの女神様から神託が」

「携帯の着信音だろ」


 そんで相手はコココさんと相場は決まっている。

 どうせどこからか俺達を見ているんだろ。


「ふむふむ……五丁目の赤い屋根のおうち」

「五丁目ってことはここから歩いて十五分ぐらいか」

「よし、行くぞ。勇者」

「ちょっと待て」

「何だよ、勇者」

「ええと、このまま外に出るのかな?」


 メメメと繋いだ手を指さして訊ねる。


「仕方ないだろ。マキナは手を繋いでないと動けなくなるんだから」

「どうしてそんなに面倒な設定にしたんだよ」


 ピロリロリン。


「『文句を言うな。さっさと行け』って女神さまから」

「女神、口悪すぎだろ」


 そういえば、この手を繋ぐ設定、なんか聞いたことがあると思ったら、コココさんが以前言っていたやつじゃないか? 「ヒロインが妹なら最高なのだが」とか言ってた気がするけど。


「コココさん。この設定って、あなたの願望では」

「……『黙れ、天罰を食らわすぞ』だって」


 否定しないのかよ。


「メメメはいいのか? 恥ずかしいだろ」

「恥ずかしい? 何で?」

「いや、だって手を繋いでいる所を下校中の生徒に見られる訳だしさ」

「大丈夫。VRグラスだから都合の悪いオブジェクトは姿を変えてるし」

「こっちからは見えなくてもだな……」

「目に見えなければ存在しないのと同じ。だから見えなくすれば気にならない」


 だからその思考は独特過ぎるんだよ。俺にはさっぱり理解できない。

 俺も含め、普通は他人に自分がどう映っているのかすごく気になるし、どう見られるかを考えて行動するのが普通だと思う。

 が、そんな俺の意見をここで言ってもメメメに理解してもらえるとは思わない。

 どっちにしろ。このまま外に出るしかないのだろう。

 ……選択肢が一つしかないなら仕方がない。

 

 だが。選択肢は一つでも、手段は一つではない。


「……仕方ない。行こうか、メメメ」

「おおっ! 頼むぞ勇者よ」


 俺はにこやかに頷き、そして空いている方の手をポケットに入れた。

 携帯を取り出し――


 プルルルル、プルルルル……


「ん、勇者。どこに電話してるんだ?」

「しっ…………あ、もしもし? すんませーん、タクシー一台お願いしたいんですけどー。場所は港川高校の―ー」



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