②
メメメは普段、この校内の敷地にある専用ラボで、VRグラス用アプリの開発をしている。
そして俺はそのアプリのテストユーザー兼助手としてメメメに協力している。
ロリ属性がある訳でもないのに、どうして俺がこんな面倒なことをしているか。
それはメメメへの協力の報酬として、コココさんが毎日料理を作ってくれるからだ。
そのお陰で、俺は親と絶縁状態で仕送りのない状態でも、アルバイトをせずに悠々自適な高校生活を送ることができている。
「さあ目覚 めよ。勇者 よ」
イヤホンからボカロイドの声がして、俺は目を開けた。
「ん、あれ……さっきと変わらんぞ」
そこはVRグラスを掛ける前と同じ、ラボの中だった。
だが、全く同じという訳でもない。
さっき隅っこに片付けたゴミが消滅しているし、ちゃぶ台の上のスピーカーも消えている。
「存在はしているんだよな」
試しに手を伸ばしてみる。
すると確かにそこにはさっきのピザの箱の感触がした。
ということは、やはりこのラボの風景も本物ではない、メメメが生み出したものなのか。
「……で、当人のメメメは?」
畳の上にいたはずの、メメメがいなくなっていた。
とすると、メメメの姿もこのピザの箱同様に透明化しているのだろうか。
「直里」
その時、メメメの声がした。
イヤホン越しなので、声の方向は不明。
「メメメ、どこだ?」
「直里。助けて……」
いや、さっきまでそこにいたよね?
メガネを外してツッコみたいところだが、そうするとゲームオーバーになってしまうので仕方なく話を合わせる。
「助けてって……今回はどういう趣旨なんだ? クッパにでも攫われたのか?」
「クッパ? 何それ。分からない……」
「マジかよ、お前」
ニン●ンドーが作った世界のスーパーマ●オだぞ?
それを知らずによくこの平成の世で呼吸しているな。
「ここは……暗くて……狭い……空気の籠った部屋……」
「……暗くて狭い……空気の籠った……ということは」
俺は畳に上がり、ガラリと押入れを開けた。
その瞬間、シャララランというゲームっぽい効果音。
流星のような、小さな光が大量に飛び出した。
「……直里」
「やっぱり……いつの間に隠れたんだよ」
押入れの上の段、布団の上にメメメはいた。
こちらに背を向けて、畳んだ布団の上に横たわっている。
メイドみたいな恰好をしているのは謎だが、その辺りはスルーしよう。
「おい、寝たふりをするな。起きろ」
肩を揺さぶり、起こそうとする。
しかし、無反応。
「……無駄です。私は呪いで起き上がることはできません」
「呪いね……」
中二病か。
「で、どんな呪いなんですかね?」
「私は元々、人間とエルフの間に生まれたハーフエルフ。でもある日、私は身体を奪われ、このマキナに魂を閉じ込められてしまった」
「よくある設定だな」
「私の呪いを解けるのは勇者だけ。さあ、直里、私の手を握って」
「手、何で?」
寝返りを打つようにこちらを向き、さりげなく左手を差し出す。
「この身体を動かす方法は二つあります。そしてそのうちの一つとは、勇者の聖なるエネルギーを私の魂に送り込むことです。そうすることで一時的に呪いは解除され、マキナは起動します」
「……よく分からんが、つまり俺がお前に触れれば目が覚めるって設定か」
「大体そんな感じ♪」
どうでもいいけど、しゃべっている時普通に口動いていますよ。
「……なるほどね」