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① メメメと手を繋いで世界を救うクエスト


 今日もメメメからラボ呼び出された。


「何の用だよ……」


 扉を開けると、部屋の電気は消されていた。


「刻 が訪れました。勇者 よ。今こそ立ち上 がる時 です」


 真っ暗闇の奥から聞こえてくる声。

 ボカロの声を編集して作ったのだろう。

 まったく、今度は何をしでかしてくれるのやら、あいつ。


「この世界 は闇に侵 食され、人々の 美しか った心 も、その影響 を受け、憎しみ合っている」

「へー、じゃあ光を取り戻さないとな」


 パチッ。


「ああっ! バカッ!」

「リアル世界で闇を払拭するのは勇者ではない。トーキョー電力だ」


 明るくなった視界に、いつものラボの風景が映る。

 広いワンルームの床の隅の畳スペース。

 ちゃぶ台の面積いっぱいに置かれた二台のスピーカーとノートパソコン。

 その奥から俺を馬鹿呼ばわりするムカつくちびっ子。

 ヒッキーで人見知りで、まともに授業を受けたことが一度もない、社会不適合者だが、一応、クラスメイト。

 時河萌々女。


「ううう……せっかくOP考えたのに……」


 レンズ越しに俺を睨む、赤い眼。

 しかし、こいつが掛けているのはフツーのメガネではない。


「もういい。直里、早く掛けて」

「掛けて?」

「メガネだよっ!」


 はいはい、分かってますよ。

 俺は鞄からメガネケースを取り出し、こいつとお揃いのメガネを掛ける。

 言っておくが、別にこいつと特別な関係にあるわけではない。


「なあ、これ、違うデザインにしてくれないか?」

「そんな資金ない」

「いや、あるだろ」


 周辺に落ちていた宅配ピザの箱を拾い、ゴミ袋に入れる。

 他にもポテチの袋やら何やらが散乱しているので、このまま片付けタイムへ移行。


「毎日毎日こんなもの食いやがって。体壊すぞ」

「別にピザだけじゃないし! ちゃんと魚も卵も食べてるし」


 ああ、いつの間に俺は綺麗好きになったのだろうなどと自分を振り返りながら。

 まあ心当たりは一つしかない。

 このちびっこのお姉さまだ。


「宅配寿司もダメだ。ちゃんと野菜を食え」

「……なんか最近お姉ちゃんに似てきた気がする、直里」

「そりゃ伊達に毎日一緒に暮らしてないですからね」


 まあコココさんは寮母だから当然だけど。


「……まーいい。とりあえずアップデートするから。メガネ外すなよ」

「ま、待て。まだ掃除が」

「問答無用っ!」


 メメメの人差し指が勢いよくエンターキーを叩く。


「データダウンロード、開始!」


 その直後、視界に、正確にはメガネのレンズ部分に大量のコードが登場した。

 データのダウンロードが開始され、バーが緑色に染まっていく。

 

「せめて、このエリアだけでも片付け……っ!」


 ピザの箱を重ねて紐で縛る途中でダウンロードが完了した。

 濃いサングラスのように視界が真っ黒に染まる。


「くそっ、何のこれしき」


視覚に頼らず、手の感触だけで堅結びをしたそれを、ゴミ箱の脇辺りに手探りで立てかける。

よし、これで思い残すことはない。


『Welcome to Mememe Quest!』


 視界中央にフェードアウトされた「ようこそ、メメメクエストへ」の文字。

 そのロゴが消滅すると、真っ黒な視界が徐々に白んでいく。


 俺は専用のワイヤレスイヤホンを耳に入れながら、心の中で強く念じた。

 

(……今日はラノベの発売日だ。早く終わらせてやる)



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