4
リットがヤズマのために用意した邸宅は、田舎町としては上等なものだった。こじんまりとした平屋ではあるが、馬小屋まで備えられている。一人用の家屋としては十分にぜいたくであるといえた。
ヤズマは下界の家屋に慣れておこうとしてそれを使用してみたものの、やはり肌に合わない。勝手もよくわからなかった。
そこで結局、ヤズマは馬小屋で休むことにする。風通しもよく、たくさんの藁が用意された馬小屋は清潔なシーツで包まれた寝台よりもむしろ心が安らいだ。
自覚しないところで旅の疲れもあったのか、やわらかな藁に包まれてヤズマはぐっすりと眠ることができた。
一方の田舎貴族の御曹司はどうだろうか。
彼にとってはこのわずかな時間でおこったことは一大事だった。リットはヤズマの機嫌を取るためにプライドをかなぐり捨てている。
何しろこのヤズマのために用意した邸宅というのが、本来ならば彼の婚約者に与えられてしかるべきものだったのだ。
田舎貴族によくあることだが、リットも幼少より親同士の取り決めにより婚約者が決まっていた。相手の方が家としての格は上であるため、その婚約者はそれを鼻にかけてはリットをよくいじめてきたものである。オフィリアという名のその婚約者はかなりの美貌を誇っていたが、求愛されることも多く、それゆえにリットが邪魔だったのかもしれない。彼女はおそらく、リットとの婚約を解消して自由に恋愛をしたいと考えていたのだろう。
しかし一方のリットはオフィリアのことを慕っていた。いじめられたとはいっても子供同士のたわいのないことであり、自分のことを気にかけてくれているものと考えられたのだ。そのために彼はオフィリアの機嫌をとり、なんとか自分との婚約を破棄させまいと手を変え品を変え努力し続けてきたのである。
そうしたリットのアプローチが実ったか、オフィリアも最終的には彼のもとに自らやってきて、ひと時を過ごすということがあった。逢引きである。リットはオフィリアのために熱心に愛を語り、その心をつなぎ留めんとする。オフィリアも彼の愛を受け止め、やがては結婚式を執り行うための準備まで行われたのだ。
「御曹司、私はたくさんの方から求愛されていますが、やはり幼いころから知っているあなたが安心できます」
そう言われたとき、リットはぐっと拳を握りしめて歓喜した。
オフィリアの美貌ばかりに目がくらんだ男たちの愛など、所詮はまやかしであった。自分のひたむきな愛が勝ったと。
それだけの努力をリットは確かにしてきたし、ガディ家としてもオフィリアとの婚約は大切にしたかったので全力で応援したのだ。
「ありがとうオフィリア、きっと君を幸せにしてみせる」
リットもそうこたえた。
心優しいオフィリアの笑顔をきっと曇らせまいと固く心に誓う彼は、誰がどこから見てもけちのつけられない紳士であり、貴族であった。まさしく御曹司と呼ばれるものはこうあれという模範だった。
その評価が反転したのは結婚式当日である。
早朝から式場に駆けつけて準備をすすめようとしているリットだったが、いつまでたってもオフィリアが来ない。かわりにやってきたのはオフィリアの実家から婚約の破棄をしたいということが書かれた紙切れ一枚だけだ。
聞いた話では、オフィリアはガディ家の用意したウェディングドレスを着こんで、別の男と結婚式を挙げたという。リットはこの上ないほど完璧な形で顔に泥を塗られ、打ちのめされたのだった。
一体何が悪かったのか、リットにはわからない。彼はオフィリアのことを本気で好きだったし、一緒になりたかった。その気持ちは簡単に裏切られ、自分のところには女に逃げられたドラ息子という不名誉だけが残ったのである。
ヤズマに与えた邸宅は、このオフィリアのために用意されたものだった。リットには無用のものであったが、それでも今までオフィリアへの愛を捨てられずに持っていたものだ。
どうしてそのようにしたのか、それはリット自身にも説明がつけられそうにない。
「とにかく親父に報告して、色々と準備をしなくては」
彼は疲労しきった心身を引きずり、ガディ家の屋敷へ急ぐ。
早朝、夜も明けきらないうちから物音が聞こえた。
わずかな足音だ。どうやら、敷地の中に誰かが踏み入ろうとしているようだ。ヤズマは即座に意識を覚醒させ、上体を起こした。
物音ひとつなく武器を身に着け、周囲を見回す。
すると、この邸宅を用意してくれた田舎貴族の御曹司、リットの姿が見えた。こんな早くに何か用事があるのだろうか。いや、おそらく何か他人に聞かれたくないような話があるのだろう。そうだとしても不思議でない。
さっと彼の背後に忍び寄ったヤズマは、かすかな声でささやいた。
「リット。何かあった?」
すると、リットは飛び上がらんばかりに驚き、硬直した。しばらくしてからゆっくりと背後を振り返り、そこでヤズマと目を合わせる。
「お前、早起きだ。わたしに何か用なのか」
ヤズマが質問を繰り返すと、リットはあわてて首を振った。
特に用事があるわけではなさそうだ。ということは、彼はいつもこんなに朝早くに起きているということだろうか。
昨日はあまりの腕の悪さになじってしまったが、早起きをするくらいには勤勉であるらしい。少し見直した。
能天気なヤズマがリットのことを誤解している一方、リットはヤズマを出し抜くのは無理だという結論に達していた。
彼はむろん、ヤズマの寝起きに襲撃をかけるつもりであったのだ。なのに、家の中に踏み入る前に背後から話しかけられるという失態である。家の中にいるはずのヤズマが、外からやってきた自分の背後をとったのだ。腕前の差があるとかいう問題ではない。
どうあがいても、おそらくこの蛮族は殺せないだろう。たった今、確かめてしまった。
であるなら、やはり一晩熟考した末の結論に入るしかないだろう。蛮族のために力を徹底的に貸す。これしかない。
面従腹背ではない。リットのヤズマを討たんとする気持ちはたった今、完全に潰えたのだから。
現時点では最も有益な作戦であると思われた。蛮族の機嫌を取るため、とにかく彼女に力を貸す。公私ともに、やれることは全てやるというくらいでなければならない。
無論、本来の目的はヤズマにすすんで服従するとみせかけ、どうにか彼女の手綱をとることである。カタロニアにとって、なるべく被害を出さないようにもっていくのが理想だ。
それができるかどうかはわからないが、リットがやるしかない。彼は田舎貴族であるとはいえ、人の上に立つ者の心構えを知っている。
「ヤズマ様。不慣れな環境でご不満もおありでしょう。
ご不備はなかったかと確認に参った次第」
「こんなに早くに。わたしも、女。お前、やはり死にたかったか」
嫁入り前の女の家に早朝から忍んでくるなんて、夜這いならぬ朝這いか。
ヤズマは軽い冗談を飛ばしたが、もちろん彼女の真意が伝わるわけもなかった。死の恐怖にさらされたリットが全身を硬直させるものの、その首がちぎれ飛ぶことはない。
「とくに問題、なし。わざわざきてくれたのは、感謝する」
「わ、わかりました。
ところでヤズマ様。退治されたサイクロプスの件なのですが」
リットがあわてて話題をかえた。早々に取り入っておくべきだと考えたからだ。
「ああ。死体、焼いたのか?」
「いいえ」
ヤズマとしては自分が退治したという証拠のために持ってきただけなので、それが済んだ後は燃やしてしまうつもりだった。が、リットがヤズマを案内したとき、処理を任せろと申し出てきたのだ。
サイクロプスの死体は大きい。その処理は早めにしておかなければ、内部が腐敗していくだろう。そのまま長く放置しておけば疫病を招きかねなかった。
だというのに、リットはまだ焼却していないという。
どうしてだろうという目線を向ける前に、彼はその理由を口にした。
「サイクロプスは討伐依頼が出されている怪物です。討伐に成功したのなら、ギルドへの届け出が必要ですので」
「昨日のうちにしなかったのか?」
「ヤズマ様がなさるほうが、今後のためとなりますので」
「お前、いいやつ」
ヤズマはにんまりした。
ギルドというのはおそらく、怪物たちの情報を管理して配布してくれるところだろう。そこへの届け出がいるというのなら、確かにヤズマがしたほうがいい。サイクロプス退治自体はヤズマにとって大した労苦ではなかったが、小さな功績でも少しずつ積み上げていけば、いずれはカタロニアの人々からの信頼という形になるはずだ。
そうしたところまで考え、リットは管理局への届け出をしなかったのだと考えればこれ以上は責められない。むしろ、ありがたいとさえ感じる。
「い、いえ。ではギルドの窓口が開き次第、報告に行きましょう。鐘が鳴るころにお迎えに上がります」
「わかった」
どこかぎこちない動きで、リットがその場から立ち去っていく。ヤズマはそれを追わずに見送り、せっかく早起きしたのだからと日々行っている鍛錬を始めた。
小剣を振り回し、弓を射る。
ヤズマの持つ武器はいずれもそれほどの大きさはなかったが、十分に威力があった。
剣は丁寧に焼きを入れて鍛えた伝統の刃だ。その品質は旅人たちも保証したほどである。これが簡単に折れることは考えられず、敵に接近を許した場合には存分に力をふるってもらうことになる。ヤズマがこの剣をもったなら、敵が簡素な鎧を着こんだくらいなら全く問題にならない。その粗末な皮ごと骨まで断ち切られることだろう。
弓にしてもその品質はいささかも剣に劣らない。質の違う素材をいくつも組み合わせてつくられた弓は、強靭さと使いやすさを同時に兼ね備え、ヤズマの狙った獲物を的確に穿つ。狩猟弓としては、破格の性能だった。
それらの装備はカタロニアの町で売られている高級品と比較してもほぼ遜色ないものである。もしもヤズマの装備の性能がカタロニアの住人に知られていたなら、彼女は盗賊にひっきりなしに狙われることとなっていたかもしれない。
そんなことは知らないヤズマは、一通りの訓練を終えたのち、汗をぬぐってから軽い朝食をとり、出かける準備を整えた。
「さきほどは失礼いたしました、ヤズマ様。それと、こちらの者を紹介いたします」
約束通り、カタロニアの広場の鐘が朝を告げる頃、リットがやってきた。
その傍らにくりくりとした瞳の愛らしい、童女を連れている。帽子をかぶり、使用人のような衣服と前掛けをつけた彼女は惚けたような顔でヤズマを見上げていた。
「お前の、子供か?」
「ちっ、ちがいます。こちらは使用人の娘です。ヤズマ様の生活を手助けするため、本日よりこちらの邸宅に住まわせます。
ほら、挨拶したまえ」
リットが促すと、童女がぺこりと軽く頭を下げた。
「わ、私。アーシャともうします。ヤズマさまのおせわをさせていただきます!」
「わたしの?」
実に子供らしい、ヤズマの半分くらいの年齢だろう。このような子供に世話をされるようなことはないのではと思えた。
アーシャは精いっぱいやらせていただきます、と頑張る意志を見せている。それはありがたいが、リットが何を意図してこの子を自分につけるのか?
少し考えて、思い当たる。
集落で暮らしていた自分は、カタロニアの文化に疎い。旅人たちから少しは聞いたことがあるものの、まさかここで暮らすことになるとは考えもしなかったので、聞き流していた。自分がここで過ごし、住人からの信頼を得ていくためにはそうした文化のすれ違いからトラブルを起こしていてはいけない。
そうしたことを防ぐために、アーシャを送ってきたのだろう。子供ではあるが、ヤズマもこのくらいの年齢の頃にはすでに冒険者や旅人たちの接待役をしていたものだ。何の不思議があるものか。
「そうか、ではおせわになる。わたし、ヤズマ。言葉はあまりうまくないので、機会をみて教えてもらえるとありがたい」
「はい、私にできることなら」
アーシャはぐっとかわいらしい拳をにぎった。それを見たヤズマの表情はゆるんだ。
集落の中でも、子供の世話は得意としていたほうだ。ちいさな子供はかわいいものである。どんな聞かん坊であろうとも、それは変わらない。一族の未来を預かるのは、子供なのだから。
ここにいるアーシャは一族ではないが、今後一族はカタロニアに移住する予定である。そう思えば、もう一族の一員と考えてもいいはずだ。なによりそうした理屈を抜きにしても、このような幼い子が精いっぱい自分の務めを果たそうとしているのである。何をおいても応援するべきであるし、頭を撫でてやりたいと思う。
素直な欲求にしたがってヤズマがアーシャの頭に手を伸ばそうとしたところ、あわてたようにリットが声をかけてきた。
「あっ! お、お気に召したようですね。屋敷のことでわからないことがありましたら、アーシャに相談してください。
アーシャでわからないことがあれば、私に」
「ああ、そうか。それで、ギルドにいくのか?」
「そうです。いきましょう。アーシャ、荷物を置いておいで」
リットはあわてた様子で出発をせかす。よくわからないヤズマであったが、とにかく承知し、ギルドへと赴くことになった。
ヤズマ、リットの間にアーシャをはさむ。ヤズマは自然にアーシャの手を握って、ゆっくりと歩き出した。
「サイクロプスは今、どこにある?」
「町の入り口に。動かすことも重労働ですのでね。昨日のうちに、処理の手配をしております。ギルドへの報告が終われば、焼却するなり素材をとるなりできるでしょう」
「そうか、なら少し急いだ方がいいか?」
「ギルドは逃げませんし、窓口は決まった時間しか開いていません。ゆっくり行ってもいいと思います」
話しながら歩いたが、それほどの時間はかからない。
途中でリットは暗色のマントをヤズマに差し出した。いわく、カタロニアでは肌の露出はあまり好まれず、奇異の目線を向けられることになるだろうと。
ヤズマとしてはマントを着こんでしまうと動きづらくなるので、断りたかった。身軽な恰好でいたかったのである。
しかしリットは好色な者たちからいらぬ目を向けられるだろう、また余計な問題をかかえるかもしれないのでと言葉を重ねてきた。仕方がないとばかり、ヤズマは渋々マントをまとった。
その姿をアーシャが格好いいと褒めてくれたので、いくらかは不満も減じたが。
マントをなびかせながらしばらく歩く先に、ヤズマは特徴的な建物をみつけることができた。三階建ての立派な石造りの建物で、二階のあたりに大きな看板が掲げてある。剣と槍を交差させたような図柄があり、その隣には酒瓶の絵柄が並んでいた。
どうやら、これがギルドというものらしい。一階部分の入り口は大きく開いていて、ウェスタンドアがついている。
「どうぞ、ヤズマ様」
「わかった」
ヤズマはリットに促されて、ウェスタンドアを開いた。このように腰の高さにしかない扉は、一体何の役に立つのかと疑問を感じながら。
続いてアーシャがギルドに入る。
視線が集まる。ヤズマは暗色のマントを羽織っているので、伝統的な衣装は見えない。
だが、見ない顔がギルドに来た、とは思っているのだろう。アーシャを連れているということもあるかもしれない。
ヤズマは集まった視線に対して、一つ一つ視線を返す。いくらかは、カタロニアの入り口で見た顔もある。彼らは驚愕に目を見開いているようだった。
何をそんなに驚くのだろうか、と思っている間にリットが入ってきた。
「まずは、登録をいたしましょう。私がヤズマ様の身元を保証しましょう、そうすれば登録はすぐに終わります」
「わかった」
ヤズマは周囲の反応を気にしないことにして、まずはここにきた目的を遂げることにした。リットに続いてギルドの受付に行き、長机の向こうに座る女性と向き合う。
「こちらのヤズマ様を冒険者として登録したい。用紙を出してくれ」
リットは勝手を知っているらしく、女性に色々と話しかけて手続きを進めている。すぐに羊皮紙らしいものが出てきて、必要なことを書くように言われた。
だがヤズマは字が書けない。一族の文字なら堪能だが、下界言葉の文字までは精通していない。
仕方がないので振り返って童女を呼ぶ。
「アーシャ、文字は?」
「はい、お任せください」
少し緊張した面持ちで、アーシャがヤズマを見上げた。
「わたし、かけない。たのんでもいいか」
「はい!」
嬉しそうにアーシャが進み出て、インク壺からペンをとった。
代筆をたてることには問題がないらしく、リットも長机の女性も何も言わなかった。リットは少しほっとしたような顔をして、長机の女性にいたっては微笑ましそうにアーシャの姿を見ている。
書くべきことは多かった。
名前、住所、出身地、得意とする武器などだ。紙には他に肌の色や髪の色、瞳の色まで書かねばならないようだが、それはギルドの職員が記入するのだろう。髪の色などは染色すれば容易にごまかせるだろうから、あまり意味があるとは思えなかったが。
「ヤズマ様、姓はおありですか」
「わたしの一族、姓がない。わたし、ただのヤズマ」
「住所はどちらにしましょう。リット様の邸宅でよろしいですか?」
「それでいい」
アーシャの質問にヤズマが答え、それが羊皮紙に書かれていく。幼いながらもアーシャの字はきれいで、読みやすそうに思えた。
「出身地は、クルミー山の集落。武器は小剣と弓、ですね。これでいいですか?」
書き終えたアーシャはヤズマの頷きを見届けてから、それを女性に提出した。女性はそれをさらにリットに手渡す。
「この方の身元を保証される方は、こちらに記入を」
「ああ」
羊皮紙の下の方に、リットは自らの名前を記した。さらに、身分証として何やら書類をいくつか提示したようだ。
女性はそれらを受け取った後、一旦長机から離れて奥の方で作業をしにいった。リットによるとヤズマをギルド員にするための作業らしい。しばらく時間がかかるようだ。
「アーシャ、ありがとう」
ヤズマは早速仕事してくれたちいさな世話係に礼を言う。アーシャの方も少し照れてはいたものの、素直にその礼を受け取ってくれた。
なぜかリットは難しい顔をしていたが、特に何か問題があるわけではなさそうだ。
ヤズマはこれで自分がギルドに所属できれば、カタロニアとのつながりも一層深くなると考えている。サイクロプスを討伐した功績を受け取るためにたぶんギルドに所属するというのが必要なのだろうが、好都合だったといえる。
「お話し中、すまないな。あんた、少し話したいことがあるんだが」
と、声がかけられる。ヤズマに近づいてきたのは少し長めの黒髪を揺らす、細身の男だった。
細身とはいえ、鍛えていないというわけでもなさそうだ。必要なだけの筋肉をつけて、あとは贅肉を絞っているのだろう。ひょろりとしてみえるが、手練れだろうとヤズマはあたりをつける。これは間違いでなかった。
「ああ、なにか?」
「そこで聞いた話なんだが、あんたがサイクロプスを殺して、死体を引きずってきたって話があるんだ。
うわさに過ぎないとは思うが、確認させてほしい。本当にサイクロプスを殺したのか?」
訊ねてくる男の目は、笑っていない。
ヤズマとしてはこのような質問をされる意味がわからない。迷惑になっていただろう怪物だ。退治したことで文句を言われる筋合いはないと考えていたのだが、どういうことなのか。
ひとまず質問にはこたえようと考える。
「そうだ。わたし、あのかいぶつをたおした」
「だが、君はまだギルドにも登録をしていなかった。討伐依頼が出ている魔物を、君が倒したと?
そんなことを誰が信じるっていうんだい。ましてや、死体を引きずってきたなんて。君は何かの具合で死んでいたサイクロプスをただ、ここへ運んできただけなのではないか。それでもって、栄誉を得ようと考えているのではないか」
なぜか、この細身の男は否定から入った。
ヤズマが倒したと言っているのに、そんなはずはないと否定してくる。こういう手合いは一族の中にいないでもなかった。人のやることなすことにケチをつけ、少しでも名誉を削ごうとしてくるのだ。
恥ずかしいことに、それでわずかな満足を得ているのだから始末に負えない。
「わたし、ヤズマ。おまえ、誰だ」
「ぼくはフエルスト・ファスナだ。身の丈にあったことをしなければ、君は身を滅ぼすぞ。
君のことなどどうでもいいが、幸運を頼りに過剰な栄誉を手にしても、ろくなことにはならない」
フエルストと名乗った男は、真面目な目でヤズマを見た。どうやら勝手に納得して、言いたい放題にして逃げるつもりらしい。
事実、数秒もしないうちに彼は踵を返そうとする。
だがヤズマとてそれを黙って見逃すほど大人になりきれていない。
確かにトラブルは避けるべきではあった。しかしながら、円滑に一族をカタロニアに招くためにも自分がなめられっぱなしで終わるわけにはいかなかった。
「まて、お前、フエルスト!」
ヤズマは右足を踏み、フエルストを呼び止める。