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優しい蛮族  作者: zan
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2

 ヤズマは集落を出てから、背負い袋の中身を確かめた。

 道中の食糧らしいものと、水袋が入っている。それに、武具の手入れに使うための用具と薬がいくらか。

 決して十分な装備とは言えないが、一族の状況から考えるとこれだけでも用意してくれたのだからよかったと思うべきだろう。武器に関しては腰に下げた小剣と弓がある。

 途中で何かと戦うことになっても、たやすく後れをとることはないはずだった。

 せっかくだし、景色でも楽しみながら行こうと気楽に考える。ヤズマはよほどのことがない限りは楽天的で、陽気だった。およそ、いつでも笑っていられる。

 集落から出て旅をするという経験は初めてだったが、特に不安もない。旅人たちから聞いた話をもとに、カタロニアへと続く道を行く。

 むしろ楽しみだ。話でしか聞いたことのなかった下界へ、今から行こうというのだ。

 何があるのか? どのような人間がいるのか?

 あるいは、どのような食べ物があるのだろうか。音楽はどうだろうか。

 ヤズマは陽光に目を細め、期待に口元を歪める。

 道は長いが、いざともなれば道中で獣を狩って食料にしてもよい。そのための弓には自信があり、矢も十分な数を用意している。あまり使いたくはないが、相手を一撃で仕留める毒をも。

 何も心配はいらないだろう。


 彼女の気楽な旅はさして大きなトラブルもなく順調であった。

 ウサギやシカなどを狩り、豪華な食事を楽しむこともできたのである。何しろ集落であれば一族の者たちと分け合わねばならなかったところを、ヤズマ一人で独占できるのだ。そのぶん、下処理や調理といったところもヤズマがすべき必要があったが。

 しかし若いヤズマからしてみれば食事は質よりも量が優先された。よって、彼女はおおむね満足している。

 集落の中で、ヤズマは孤立してしまっていた。誰に声をかけてもあまりまともに話を聞いてもらえず、特定の者と親しくなろうとするとすぐに避けられてしまう。

 なぜそのようにされてしまうのか、ヤズマにはわからなかった。ならばとばかりに狩りの腕を習熟させ、多くの獣や魔物を仕留めてきたが、それでも彼らの態度は変わらない。むしろ孤立は深まった。

 なので、ヤズマにとってはこの一人旅もさみしさを感じるということはなかった。


 ヤズマがそのように考えているというなどとは、一族の者たちは全く知らない。

 何しろ彼女と親しくなろうとする若者は多数あったのだが、彼らにとって目の保養となっているヤズマを独占するものは許すまじという不文律がいつの間にかできあがっており、多くの者がその犠牲となっていた。このため、彼らはヤズマのことを遠巻きに愛でて満足こそするものの、極度にヤズマと親しくなることを恐れていたのである。

 あまり大っぴらには言わないが、ヤズマは族長の娘でもある。なんといってもヤズマと親しくなろうとするものを射殺さんばかりににらみつけているその代表格というのが族長というありさまだった。

 実際にはヤズマも一族の者から敬愛と親愛の目をもって見られていたが、当人ばかりがそれに気づいていなかったのだった。

 そうして彼女は、周辺をうろつくサイクロプスをこれ幸いとばかりに討伐し、その死体を引きずってカタロニアへと到着した。


 彼らが、ヤズマをどういう目で見るのかということを想像もせずに。

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