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優しい蛮族  作者: zan
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10

 どうやら作戦としては、挟み撃ちにもちこみ、数の力で討伐するということらしい。

 すでに斥候として何人も出発しており、前日までに得られた情報をもとにデモニック・オーガの現在地をおよそ特定しているようだ。

 あとは比較的防御力の高い冒険者たちで構成される足止め班がデモニック・オーガを足止めし、その隙に背後から戦闘力に秀でる攻撃班が襲い掛かる。救護・補給などを行う支援班は巻き込まれない位置で待機し、必要に応じて足止め班と攻撃班を支援する。戦闘後の処理なども支援班の仕事であるようだ。


「当然、今の段階でやれるだけのことはしている。時間があれば簡単な罠などもしかけて、斥候部隊がオーガの体力を削いでくれているだろう。そうでなくとも、必死になってオーガの位置を特定して我々に知らせてくれようとしているはずなんだ。

 それにこたえるためにも、生半可な覚悟の者は戦闘チームに入らないで。かえって邪魔だから。

 戦闘に参加する班の報酬は上乗せするが、死んでしまっては払えるものも払えない」


 サフィーというギルド職員は強い語調できっちりと説明をしている。

 これにいちいち余計な口を挟むものはない。ヤズマも理解しようとしている。ところどころわからない単語はあったものの、おおよそは把握できたといってよい。


「では希望のチームを聞こう。足止め班を希望する者はこちらへ、攻撃班はこちらへ。支援班を希望する者は奥へ行ってくれ」


 そういわれて冒険者たちは素直に希望の位置へ移動した。

 冒険者たちはやや攻撃班に偏った。攻撃力に秀でると自負するものが多いというだけではなく、危険な役割の足止め班には入りたくなかったのだろう。

 ヤズマは支援班の位置にいる。人数が少ないと感じたからだ。

 しかしそれでもサフィーは納得しなかった。


「少し人数が偏ったから、移動してほしいね。あんたらは上質の鎧があるみたいだから、足止め班に入りな。報酬には上乗せするから」

「わかった」


 冒険者たちも討伐依頼が達成されないのは困るので、サフィーの言葉に素直だった。ギルド職員のサフィーはさっさと人数を分けていく。

 もう数名を攻撃班から足止め班に回し、戦闘力に不安そうなメンツを支援班に回した。

 さらに彼女はヤズマを見てこう言い放った。


「あんた、なんでサポートなんかしようとしてんだい。ケネルを一撃で倒すような奴が、攻撃役にいなくてどうすんのさ。攻撃班に入りな」

「そうか、わかった」


 そのように言われては逆らえない。ヤズマは攻撃班に移動した。

 これで、戦闘に参加する班がそれぞれ13名ほど。残りの4名が支援班となった。あまり人数が多くても動きにくいだろうし、このあたりが限界だろう。


「じゃあ作戦通りにいってよね。足止め班は私の先導に従ってもらうわ。攻撃班はケネルがのびちゃったから、レイ! あなたが先導してあげて」


 突然名前を呼ばれたレイという冒険者は、驚きのあまり自らを指さしてしまった。


「わ、わたしがですか?」


 見たところ、レイという冒険者は突剣を装備した女性剣士だ。長い髪を無造作に一本縛りにしただけだが、その幼さを残した顔立ちには愛らしさが見え隠れする。彼女を伴侶にと思う男も少なくないだろう。


「わかりました。皆様の命を預かります」


 とはいえ、彼女も冒険者となって長いようだ。すぐに自分の役割を認識して、表情を引き締める。

 ヤズマも自分を先導するレイという冒険者がしっかりしていることに安堵する。彼女なら任せてもおそらく大丈夫だろう。

 あとは出発し、作戦通りにデモニック・オーガを追い込むだけだ。

 サフィーに先導されて足止め班は早速出かけて行った。熟練の冒険者たちは、すでに準備をぬかりなく終えていたようだ。


「では私たちも行きましょう」


 レイが声をかけ、攻撃班もギルドを出て出発していく。ぞろぞろと武器を携えて出かけていく。

 驚いたことに、カタロニアから出て周辺を探索するにあたっても集団行動のままだった。

 後から支援班も来るようだが、彼らはより念入りな準備をしてからの出発らしい。支援を中心にして、さらに討伐後の処理もするというのだから荷物も必要になるのだろう。


 カタロニアの町から出て、しばらく歩く。

 攻撃班のメンツはどちらかといえば軽装で、身軽なものが多かった。レイを筆頭とし、革の鎧さえもつけていないような冒険者ばかりだ。

 突剣をもつレイ。小剣と弓のヤズマ。あとは男ばかりで剣が4人、槍が5人、弓が2人。

 背後から襲うには少し人数が多い。ヤズマは嫌な予感がしているが、ギルドが決めた作戦である。身勝手な行動はできずに従う。

 アーシャはギルドにおいてきたが、職員たちに預けてきたのでおそらく大丈夫だろう。ケネルのような連中にいじめられるということはまずないはずだ。


「なあ、かなり歩いているがそんなに遠いのか?」


 疲れてきたらしい槍使いが訊ねる。確かに相当な距離を進んだ。

 このまま歩き続けては、いずれはクルミー山に達する。ヤズマの一族がいるところだ。


「予定よりずいぶん場所が離れていますが、デモニック・オーガの生活範囲は広いのでこのくらいは予想の範疇です」


 レイがこたえた。彼女は先導役を任されるだけあって、経験豊富らしい。

 しかしこのこたえはヤズマにとっては聞き捨てならないものだ。デモニック・オーガを生かしていた場合、一族を害することになりかねないということなのだから。


「作戦では、ここから先に少しいったところでオーガを足止めしているはずです」


 かなり歩き回って、ようやくレイが目的地に近いということを口にした。どうやらオーガたちの背後をつくためにぐるぐると歩く必要があったらしい。

 戦いの音は確かに聞こえてきている。この先にデモニック・オーガがいることに疑いの余地はないだろう。

 足止め班は無事なのか。無事なら、作戦通りにオーガたちの背後から襲い掛かるだけだ。しかし無事でないのなら?

 やがて、デモニック・オーガらしい巨体が見えた。

 大体事前に聞いていた通りの外見である。顔を見れば飛び出した牙が目を引き、その皮膚は青い。手には大きな剣を握っている。その体躯に見合うだけの武器なので、非常に長大で、重量もありそうだ。一撃をまともに受けるようなことがあれば、鎧ごと真っ二つに裂かれるだろう。


「いましたね、作戦通りです。みなさん、足音を小さく。背後からかかります。私の合図で、初手は弓からいきましょう」


 レイの指示があった。弓をもつ冒険者はそれを用意し、全員が歩みを慎重にする。

 落葉を踏む音さえも殺し、彼らは少しずつ敵に近づいていく。

 ヤズマも弓を取り出した。まだデモニック・オーガとはかなりの距離があるため、冒険者たちはさらなる接近をはかる。

 足止め班はそれなりの仕事をしているようだった。

 数十人を殺したというデモニック・オーガを相手にしっかりと戦い、連携をとっているようだ。大した怪我もなく、その場に敵を釘付けにしている。

 危なげない。うまくやっている。

 作戦は成功するだろう。目の前にいるオーガを見る限り、そう思えた。


「レイ」


 しかしヤズマは、レイの肩を軽くたたいて右側を指さした。

 突剣を握っていた彼女もヤズマの注意に、森の奥を見やる。瞬間、顔色が変わった。


「作戦中止、撤退!」


 冷酷ともいえる判断で、レイは全員の即時撤退を決める。

 作戦の達成が不可能だと判断したからだ。デモニック・オーガがもう一体、こちらに接近してきているのでは、無理もない!


「サフィーさん、撤退します!」

「わかった!」


 足止め班を指揮するサフィーも、攻撃班の撤退を承諾する。


「各自の判断でギルドまで撤退してください!」


 レイはあらためて指示を出すが、冒険者たちはそれぞれ素早い判断で撤退にかかっている。

 攻撃班はそれでよかったが、今まで戦っていた足止め班はそういうわけにもいかない。人数が多いため、何とか逃げ出せた者もあるが、今まさに攻撃を受けている冒険者はどうしようもない。


「早く行きなさい!」


 サフィーが自ら長剣をもってデモニック・オーガの相手を引き受けた。最後まで敵の攻撃に耐えていた冒険者もそれでその場を離れることができる。

 しかし、ギルド職員であるサフィーはこの場から逃げ出せなくなった。


「ふっ」


 オーガの一撃をどうにかいなし、サフィーは息を吐いた。

 あらためて見れば、このデモニック・オーガの巨体はどうだ。サフィーの二倍近い身長に、ケネルのような力強く大きな体格、みっしりと詰まった筋肉。

 重量と膂力に任せた攻撃。生半可な刃を通さぬ防御。

 『悪魔的デモニック』というその名は伊達ではない。これは、なるほど。軍の半分が被害を受けるというだけはある。


「くそ」


 悪態を吐きながら、サフィーは接近しつつあるもう一体を見やる。あちらは少し小柄ではあるものの、その力も小さいとは思われなかった。偽物などではない。デモニック・オーガは二体いたということになる。

 斥候はいったい何をしていたのか。なぜ二体いると気づかなかったのか。

 愚痴を言いたかったが、そのヒマもない。

 サフィーとて、腕には自信があった。カタロニアのギルド職員となる以前は、冒険者としてずいぶんならしたものだ。だがこれほどの敵を二人も同時に相手取るということはなかった。たった一人では。

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