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僕の体内  作者: いんぬ
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第一話

肝臓にはLDL受容体というものがある、

血液中のLDLコレステロールを吸収する細胞だ。

しかしまれにLDL受容体が正常に働かない人間が存在する。

そのような人間には二種類の人間がいる。

片親からその性質を受け継いだ「ヘテロ型」と、両親から性質を受け継いだ「ホモ型」だ。

彼等はLDLコレステロールをコントロールできないので一般に短命であるリスクが指摘されている。

しかし、2032年、LDLコレステロールは自然界の大いなるエネルギー、「フォース」を受信し自らのエネルギーとすることが確認され、強大な力と能力を発揮する者達「シシツイジョウショウ(Sisitu Izyou Shou、通称シス)」が現れた。

彼等は当初世間に驚きをもって迎えられたが、ある事件をきっかけに人間達と対立していくことになる。

世界はシスに征服されると誰もが思ったそのとき、人間サイドにおいて、人為的にHDLコレステロール値を高めた戦士達(ジェダイ)が現れた。

今人間界はジェダイとシスによる全面戦争に突入して行くこととなる…。


第一章 ジェダイの希望


ソリオ内科クリニックではいつ果てるともない議論が続いていた。

「シスに対抗するにはリピトールが絶対的に足りていない!」

「リピトール等時代遅れだ。今の時代わが社のクレストールがシスを倒す唯一の希望である!」

会議室は企業が送り込んだ代議員達による怒号が飛び交っている。

「マスター、これでは結論が出そうにありませんね」

若い黒髪の男が苦々しげに吐き捨てる。

「代議員ども、自分達の薬を売ることしか考えていないようです。前線ではコレステロール低下薬が絶対的に不足しているというのに」

若い男と並び立つ老人は淡々とした様子である。

「それはしかたあるまい、ダルマよ。議会は今や企業の私物。分かりきったことよ」

老人はその真っ白な長髪とヒゲを撫でながら呟く。

ジェダイの証である真っ赤なマントをまとった二人は、長身で筋骨隆々とした体を持ち、つり上がった眉の下にギョロリとした目をせわしなく動かすダルマと呼ばれた赤ら顔の若者と、背が低いが背筋が凛と伸び、長く美しい銀色の髭と髪を持つ老人が並び立ち、代議員たちの議論を眺めていた。

「わしらの任務は議会の警護。シスの手先による要人の暗殺情報があった。用心しなければならん。」

老人はそう言って白髪の隙間から鋭く輝く目をじっとダルマに向けている。

「分かってますよ」

ダルマは正面を見据えたままぶっきらぼうに答えた。ダルマは見た目通りの男であり、戦闘能力はジェダイでも屈指であるが、いかんせん頭が悪い。マスターのユーモアを理解することはほとんどなかった。

「要人に用心するのだぞ」

「分かってます」

マスターレイヴンは悲しそうに目を伏せ議会に注意を戻した。

その時。

二人の意識に鋭く寒い、冷たいナイフで切りつけるような感覚が走った。

「ーうっ?!」

「ダルマ、シスだ!シスが紛れ込んでおる!フォースの流れに集中するのだ!」

二人は侵入者を探すため意識を血中を流れるコレステロールに集中した。

「ーいた!」

レイヴンは邪悪なコレステロールの反応を敏感に感知した。

「ダルマ、クローム社の代議員秘書がシスだ!」

そう叫んだ瞬間、ダルマの体は既に大きく跳躍しシスに飛びかかっていた。

「ー!」

シスがダルマに気づいた時には既にダルマは頭上に迫っていた。

「おおおおっ!」

ダルマが伸ばした右掌からドロリとした白い液体が流れ出し、たちまち刀剣の形に固まった。

「ーはッ!」

シスはとっさに手で防ごうとするが、ダルマの降り下ろした剣の前に脳天から両断され、議会の床に肉片として転がった。

ざわつく議員たちをかきわけ近づいてきたレイヴンが死体を見下ろす。

「これはシスの暗殺者だな。見なさい」

死体は煙をあげて溶け、白い脂のかたまりのみが残った。

「これがシスの力の源、LDLコレステロールだ。邪悪なコレステロールだ。悪玉コレステロールといわれている。悪玉コレステロールにとらわれないよう気を付けるのだぞダルマよ。」

「当然ですよ、そんな気持ち悪い脂になっちゃたまりませんよ」

脂の塊を踏みつけ鼻をならして腕組みをするダルマの視界の隅に、議員達に紛れてはいるが一瞬目が泳ぐ気配を捉えた。

「何者ー?!」

その人物は議員たちを突き飛ばしながら会議室の出口へと猛然と走り出した。

「待て!」

ダルマは謎の人物を猛然と追う。

「ダルマ止まれ!我々の任務は議員の警護だぞ!」

レイヴンの必死の呼び掛けもむなしくダルマはクリニックを飛び出した人影を追いかけ、首都モリオカの大通りに出た。

(ー速い!)

謎の人物は人混みの中をスルスルと逃げていきながらふと振り返りニヤリと笑った。

「なめやがって!」

その刹那背後で耳をつんざくような爆音が響き、すさまじい衝撃が襲ってきた。ダルマも吹き飛ばされ通りの商店のショーウインドウに突っ込む。ガラスの破片が体に食い込みとぎれかける意識の中目にしたのは先程まで会議が行われていたクリニックと付近の高層ビルが跡形もなく消し飛んだ様子だった。

(ー…マスター…!)

ダルマの意識は深い深い谷へと沈んでいった。

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