3、異世界に来ちゃいました
いよいよ異世界ライフスタートです。
それでは、どうぞ。
目をあけると、目の前に暗い闇広がっていた。
目が暗さに慣れてきた。どうやらここは15畳くらいの部屋のようだ。
床や壁は石造りで、若干じめじめとしている。僕のまわりには蛍のようなちいさな光が飛び交っている。
その光を目でおっていると
「はじめまして、勇者様。」
急に後ろから声をかけられて、後ろをふりかえった。
あれ、デジャブ?
振り返った先には、パールグレーの髪を腰あたりまで伸ばした美しい女性が立っていた。白いドレスに、頭には黄金のティアラ。
まるでおとぎ話に出てくるお姫様のような、そんな女性。
「誰?」
創造神アルティナのときの失敗を踏まえて、早めに正体を知っておこうと思った僕は、そう質問してみた。
「私はガルド王国の王女エリス・R・ハスタットです。どうかエルとおよびください、勇者様」
そういって彼女―――エルはスカートの端をもって優雅にお辞儀をしてきた。
うん、予想はしていたよ。勇者召喚する人って大体王女様とか貴族とか身分の高い人だもん。
でもさ、いざ目の前に王女様がいた場合どうしたらいいかわからなくなるよね。
とりあえず、
「僕はあら―――カイト・アライです。とりあえず、顔をあげてください。」
日本名で答えようとしてすぐに言い直した。たぶんこっちでは日本名では通じないと思ったからだ。
エルは顔をあげると、にっこりとした。うっ、か、可愛い。
…じゃなくて、まずは状況を確認しなくちゃ。
「ここは、いったいどこなの?」
「ここは、ガルド王国領にある大教会の地下にある召喚の間です。」
「僕はこれからどうしたらいい?」
「まずは、私の父であるガルド国王に会ってください。そこで勇者様の質問にお応えします」
ふむ、どうやら国王が僕を呼んだ張本人のようだ。だったらしっかりと説明してもらわないとね。
「それじゃあ案内してもらってもいいかな?」
そう言うとエルは、すまなそうな顔をした。
「申し訳ありません。私はこれから別の仕事がございまして、案内ができません。かわりにこの娘が案内します」
そういうとエルは、後ろに控えていた女の子を前に来るように言った。
言われた女の子は、慌てて僕の前に来ると、
「は、はじめまして勇者様。わたしはフィーといいます。どうか、よ、よろしくおねがいしましゅ」
若干かみながらフィーはそう言った。うん、めっちゃ可愛い。めっちゃ可愛い。大事なことだから二回言った。
…今日の僕、ものすごくハイテンションな気がする。
◆◆◆◆◆◆
「それじゃあ、案内してもらってもいいかな?」
「はい、よろこんで♪」
エルが仕事に行くのを見送った僕らはさっそく国王のところへ向かうことにした。
教会を出ると、目の前には中世ヨーロッパを彷彿とさせる石造りのお洒落な建物が立ち並んでいた。車などは走っておらず、かわりに馬車が道行く人を避けながら走っていた。
道中、フィーにいくつか質問をしてみた。僕はこの世界のことをぜんぜん知らないからね。
質問の答えから、僕はこの世界のことを少し掴むことができた。
まず、ここはモスカルという世界で竜人族や妖精、エルフなどの様々な種族がいるということ。
次に魔法が普通に存在していて、家庭でも魔道具などが使われているという。逆に科学的な文明は発達していないらしい。
通貨は、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨。価値は鉄貨1枚で1円と同等。鉄貨100枚で銅貨1枚、つまり100円。
銅貨100枚で銀貨1枚、1万円。銀貨100枚で金貨1枚、100万円ということらしい。金貨よりさらに上の価値の水晶貨というものもあって価値は金貨100枚分、1億円という話だが水晶貨はめったに使われないとかなんとか。
そしてこの世界では、まだ身分制度があるようだ。公爵などの上級貴族と子爵家などの下級貴族。農民や商人は一般市民とされている。
奴隷制度は廃止されたらしいが、裏ではまだまだ盛んらしい。王国も相手が貴族ばかりなので処罰しにくく、対処方法に頭を悩ませているという。
◆◆◆◆◆◆
フィーと話しているうちに、いつの間にか城の中の謁見の間の前まで来ていた。
「わたしはメイドなのでここまでしか付き添えません。申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるフィーが、僕には不自然な気がして堪らなかった。
「いやいや、謝ることじゃないよ。むしろここまで案内してくれたし、ちょっとした常識も教えてくれて本当に助かったんだからさ」
「勇者様はお優しいのですね」
「そんなんじゃないよ。それじゃあ王様に会ってくるよ。ここまで案内してくれて本当にありがとう」
「!」
お礼を言ったらなぜか真っ赤になって座り込んでしまったフィーをちょっと心配しつつ、僕は謁見の間に入っていった。
後ろから「勇者様~」と熱っぽい声が聞こえてきたけど、たぶん気のせいだろう。
~謁見の間~
「おお、そなたが勇者殿か。聞いていたとおりじゃな」
「はい、カイト・アライと申します」
目の前の玉座に座っている王様らしき人に挨拶をする。
表面上では平静を保っているけど、内心では
(王様めっちゃ若い!)
と叫びまくっていた。そりゃそうでしょ。だって王様っていったら白髪でヒゲふさふさってイメージだったのに、目の前にいるのはどうみたって20代前半の金髪イケメンなんだもん。
「ん、そんなに叫んでどうした。わしはこうみえても70代じゃぞ」
70代って、そんなわけないだろ。ていうか僕また口に出してたのか。
まずい、本当に恥ずかしい。恥ずかしすぎて死にそう…
「まあ、あまりかしこまらんでくれ。かたっくるしいのは苦手での」
「あ、じゃあお言葉にあまえて」
というやり取りをしていた僕らをみて、まわりの大臣らしき人たちが唖然としていたが気にしない。
「それじゃあ本題に入るとするかの。ここにおぬしを召喚したのは他でもない。おぬしには魔王の討伐をしてもらいたいと思っている」
いよいよきたか。改めて聞くと「これってかなり重要な話なんじゃ?」と思ったりもした。
そこでふと、気になった事を聞いてみた。
「ねえ、その魔王っていつまでに倒せばいいの?」
そう、討伐までの期限だ。これによって今後の行動内容が変わるからしっかり確認しておかないと。1年だと厳しいから2年くらいは欲しいな…
「そうじゃなー。とりあえず20年~30年後くらいまでには倒してほしいのぉ」
ふむふむ、20年~30年後くらいまでにね。
………
…は?
「いやいやいやいや、それはさすがに掛かりすぎじゃない!?」
「そうかのぅ?まぁなんにせよ、そこまで焦らなくても大丈夫じゃ。」
それでも、もうちょっとくらい焦ろうよ…
「それで、受けてくれるかのう」
それでも、どっちみち困っているのだから受けたほうがいいだろう。
だけど、このままはいそうですかと受けるのはちょっと早計かも。
一つ、賭けてみようかな。
「そのまえに、いくつか僕の頼みを聞いてくれないかな」
ここはいくつか条件を提示しておこう。
「まず、僕に家を一軒用意してほしい」
何をするにしろ活動の拠点となる場所は欲しいからね。
「そしてもう一つ。僕は今後、一市民や下級貴族・奴隷などの人たちのために公爵家などの貴族を潰すことがあるだろうけどそれに対する処罰をなくしてほしい。もちろん、王国を巻き込むことはないよ。僕一人でなんとかする。」
これは、上級貴族などの圧力で苦しんでる人たちを解放するためだ。
この発言に対して、大臣たちがどよめいた。
無理もない。僕のさっきの発言はつまり、「変なことをしたらあなたたちを潰しますよ?」と言っていたのと同じだからだ。
しかし、この条件は絶対に通したい。でないとなにかやったときに、この国も潰さなくてはならないからだ。僕としてはそれだけ避けたかったのだ。
この2つの条件に対して、王様はどう出る?
「うむ。いいだろう」
即答だった。
まわりの大臣が「えっ!?」って顔してるよ。そりゃそうだよね。
僕も、まさかここまであっさりいけるとは思っていなかったので、正直なところ、かなり驚いている。
「ただし、潰す前に一度わしにそのことを伝えておくれ。これだけは守ってほしい、頼む」
それだけでいいのか…王様、本当にそんなんでこの国を治められるの?
「願いはそれだけかの?」
果てにはそんな風に返されてしまった。
「あ、はい。これだけです」
今の僕では、これしか言い返せなかった。
◆◆◆◆◆◆
~謁見の間 扉前~
「勇者様ー!」
謁見の間を出ると、フィーが走ってきたので、ギリギリ抱きとめた。フィーの頭が鳩尾にめり込んで痛い…
「ど、どうしたのかなフィー。そんなに慌てて」
鳩尾の痛みを顔にださないようにしながら言う。というかこの娘、チート強化された僕になんでダメージ与えられるの?
「ゆ、勇者様にお伝えしておきたいことがありまして!」
なんだろういったい?まさか魔王が攻めてきたとか。それとも―――
「わたし、フィー・クルーガーは本日より勇者様専属メイドになりました!どうかよろしくお願いします!!」
内容は僕の予想とは大きく違い、とても平和的で可愛いものだった。
ついに3話目です。少しずつですが今後も続けていく予定ですので、読んでもらえるとうれしいです。
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