表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/53

第二百七十話 閃光


 「あり?」

 茜が首を傾げる。


 トリガーを引こうにも、うんともすんとも動かない。

 ショックガンは生体認証されている人間しか使えない。


 「うーん・・?」

 ハテナ?という感じで首を傾げる。


 チラリとシンに目を下ろし、小さくしゃがみ込んだ。


 「もしかして・・」

 気絶しているシンに話しかける。

 「アンタしか使えないの?」


 つくづくカンが良い。


 茜はシンにショックガンを握らせる。


 すると・・


 トリガーにシンの人差し指が付いた瞬間、ショックガンが乳白色に光り、銃口に赤いセンサーが輝いた。


 「初めて見たな・・」

 もはや茜にとって、見慣れた殺し合いよりショックガンが興味深い。


 そのままシンの手を持ち上げると、四つ辻にショックガンを向けた。

 赤いセンサーの中央の円に照準を当てる。


 「やっぱ、こっちかなー」

 茜が視線を送った先は・・大石だった。


 大石は・・今まさに富山に向かって刀を振り上げている。


 「お試しっ♪」

 茜がシンの指を使ってショックガンを打った。


 真っ白い閃光が夜闇を貫く。

 富山の前で、大石が崩れ落ちた。


 ポカンとしている富山に、篠原が声をかける。

 「来い!」


 一瞬、気を取られた永倉が我に返る。

 「あ、おい!待て!!」


 新選組の隊士が手薄な箇所に向かって、篠原が走り出す。

 それに三木と富山が続いた。


 「加納!」

 篠原が振り向き様に声をかけると、手傷を負いながらも踏ん張っていた加納が脱兎のごとく走り出す。


 「追え!!」

 永倉の怒号で、閃光に驚いて動きが止まっていた新選組隊士達が慌てて駆け出す。


 現場には・・


 気絶している斎藤と大石。

 両端に立っている原田と永倉。

 足元で動かなくなった藤堂。


 そして・・無数の傷死体が残された。







 少し離れた場所で、シンがうめき声を上げる。

 「う・・」


 「面白いから、借りるね~」の捨てゼリフを残して、茜がショックガンを持ち去ってしまった。


 目が霞んで良く見えない上に、首が激痛の余り、また気を失いそうになる。

 「う・・」


 身体を起こそうとするが、動けない。


 すると・・


 頭の上で声がした。


 「てめぇで歩けよ」

 「こっちは手ぇ一杯だ」


 シンがようよう顔を上げると、両脇に永倉と原田が立っている。

 それぞれ肩に人を担いでいた。


 2人が歩き出すと、担がれている人間の顔が見える。


 (斎藤さん・・藤堂さん・・)


 永倉は斎藤を、原田は藤堂を担いでいた。


 ホッと息をついて振り返ると・・さっきの乱闘場に人間が折り重なって倒れている。

 

 (まさか・・全員死んだわけじゃないよな)

 シンは激痛を押さえて立ち上がった。


 途端に吐き気が込み上げる。

 首に、茜がお見舞いした足蹴りの痕が赤黒く残っていた。


 ヨロヨロと歩き進むと、なんとか乱闘場まで辿り着く。


 見渡すと・・篠原達が用意した駕籠に寄りかかるようにして、伊東が目をつむっている。

 死んでいると分かった。


 「う・・」

 思わず膝をつく。


 「~っ・・っ」

 知らない間に涙が流れている。


 端の方に毛内が横たわっていた。

 大石に刺された後に他の隊士達がむらがって刺し貫いたため、無残極まりない肉の塊に変わっている。


 余りの凄惨さにシンは泣く事すら静止してしまった。

 しばらくそこで身動きせずにいると、後ろから声が聞こえる。

 「ん?・・あ?」


 ビクッと振り返ると、大石が頭を振りながら半身を起していた。

 

 「うーん・・どうしたんだぁ?」

 やたら頭を振っていて、どうやら何が起きたか分かっていないようだ。


 大石が、座っているシンに目を止めた。

 「なんだ?下っ端。ここで何やってる?頭数じゃねぇだろう」


 「えっと・・」

 シンが口籠ると、返事を待つこともせず、大石が立ち上がる。

 「ったく・・勝手に帰りやがって」


 死体を踏みながら歩き出した大石を見て、今更ながら・・この時代の人間にはついていけないと思った。







 厠に続く渡り廊下の隅で、沖田が足を抱えて座っている。

 用を足して戻る時に足がもつれて転んだのだ。


 「いって・・」

 弁慶の泣き所を思いきり段差の角にぶつけて、スネが青黒く変色している。


 微熱と倦怠感で、身体が思うように動かない。

 柱に頭をつけて身体を持たせると、息をついた。


 「くそ・・」

 小声で毒を吐く。


 すると・・


 「クソなら厠でしろ。ここですんな」

 声をかけられた。


 いつの間にか土方が廊下に立っていて、思いきり不機嫌な顔でこちらに向かって来る。

 その後ろから・・肩に人を担いだ原田が続く。


 通り過ぎる時に原田が足を止めた。

 沖田の目の前には、担がれている人間の髪が揺れている。


 「平助・・」

 思わず声が出た。


 足の痛みを忘れて立ち上がる。

 真っ赤に染まった藤堂の背中に目を止めた。


 「血が止まってねんだ」

 原田が沖田の視線に答える。


 見ると・・廊下に点々と、赤い痕が続いていた。


 「総司、環を呼べ。山崎が平助の傷口を縫うから、手伝わせろ」

 土方が振り返った。

 「ついでに薫もだ。人手が足りねぇ」


 言い捨てるように歩き出すと、後ろに原田が続く。

 着物は藤堂の血が染みついてドス黒くなっていた。


 沖田が渡り廊下を戻ると、玄関前の板の間に永倉と斎藤が難しい顔で立っている。


 「・・オレが平助のこと斬ったんですか?」

 斎藤は信じられないような表情だ。


 屯所に着く前に意識を取り戻していた。


 「オメェじゃねぇよ・・新入りの見張り番だ」

 永倉が息をつく。


 「まさか・・」

 斎藤の表情がさらに険しくなった。

 新入り隊士なんぞに藤堂が斬られるわけがないと思っている。


 「よく分かんねんだよ。変な白い光に当たって、オメェが先に倒れて・・それを平助が見て、一瞬スキが出来た。そこに斬り込まれた」

 永倉は腕を組んだ。


 沖田がそばまで来ると、2人がやっと気付く。


 「お、総司。起きてて大丈夫なのか?」

 永倉が訊いてきた。


 「大丈夫ですよ・・オレなんぞより、よっぽど重傷なのがいるでしょ?」

 沖田が床の血の痕に目を落とす。


 「ああ・・ったく、あんのヤロ」

 永倉が小さく歯ぎしりする。

 藤堂に斬りかかった三浦のことが思い出された。


 沖田が目線を落としたまま訊く。

 「・・伊東さんは?」


 永倉は一瞬、無言になった。


 頭をボリボリと掻く。

 「死んだ。まぁ・・作戦成功ってこったな」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ