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第二百六十九話 狐


 シンは思わず後ずさりした。

 (なんだ、こいつ・・)


 狐のお面のせいなのか、この世の者でないように見える。


 一瞬、視界が揺れるような錯覚に襲われると、いきなり至近距離に狐が現れた。

 「もーらい♪」


 どうゆう技を使ったのか、触れられた感触も全く無いのに、いつの間にかショックガンはシンの手から茜の手の中に移っている。


 「初めて触る感じだぁ」

 茜が呑気な声を出すと、シンが声を上げた。

 「返せ!」


 しかし、シンが茜の手から奪おうとする一瞬前に、茜がスイと身体を引くため、シンはショックガンに触れることも出来ない。


 「くっ!」

 何度目かの空振りの後に、シンが脇差に手をかける。


 「返せ・・アンタが持ってても意味がないモンなんだよ」

 シンの言葉に、茜が首を傾げる。

 「それ、どーゆー意味?」


 クスクス笑いが闇に響く。


 シンが刀を抜いて足を踏み出すと、振った刀が空を切った。

 そこにいたはずの茜の姿はない。


 慌てて見渡すが・・誰もいない。


 「え・・?」

 シンのつぶやきに応えるように、真後ろで声がする。

 「ここ、ここ♪」


 ギョッとして振り返ると、至近距離にまた狐のお面がある。

 ニィーッと狐が笑ったような気がした。


 「うわわっ」

 シンがよろけると、腕を掴まれた。

 「大丈夫ー?」


 「放せ!!」

 振りほどくと同時に、お面に手を伸ばす。

 「くそっ」


 だが・・


 茜の姿は遠のいている。


 「アンタ誰だよ」

 シンは乾いた声で訊いた。


 「そっちこそ、誰さ。新選組みたいだけど、違う・・匂いがしない」

 茜が首を傾げる。


 (匂い?)

 シンは息を吸い込んだ。


 「そのフザけた面、取れよ」

 刀を構え直す。

 「敵なのか?」


 言いながら、一歩前に進んだ。

 「それとも、ただの野次馬か」


 茜がクスクス笑い出す。

 「いいのー?」


 「え?」

 吐く息が白い。


 「オレの顔見たら・・死んじゃうよ?」

 凍った夜気に茜の声が高く響き渡る。


 シンが真顔になった瞬間、茜が地面を蹴って飛んだ。


 「ぐっ」

 シンが崩折れる。


 茜はシンの真後ろに着地していた。

 足蹴りがシンの首に入ったのだ。


 振り返った茜が笑う。

 「骨は折ってないよー」







 藤堂に膝を斬られた三浦が、左足を抱え込むようにして転がっている。


 その側には・・うつ伏せて動かなくなった藤堂がいた。

 背中から染み出した血溜りが出来ている。


 そして・・


 ショックガンの閃光を見ても、気に留めずに戦闘を継続した隊士がいた。

 大石である。


 上段から大石が刀を振り下ろすと、毛内の額から顎にかけてザックリと割れた。

 「ぐぁぁっ!!」


 ドゥっと倒れた毛内の腹に、跨った大石が刀を突き差してえぐる。


 「うっ」

 断末魔の声とともに毛内が死んだ。


 その声に触発され、また乱闘が再開される。

 服部に向かった隊士が斬り返され、ヨロヨロと数歩下がると、うつ伏せている藤堂の身体につまづいた。


 「おっと!」

 倒れかかった隊士の身体を原田が抱き留める。

 藤堂が下敷きにならないようにだ。


 斬られた隊士の身体を藤堂の隣りに横たえると、槍を構え直す。

 「チャッチャと片付けねぇと・・仏さんが増えるだけだな」


 原田は数歩踏み出すと、少し離れた路上からダッシュした。


 「うぉぉーっ」

 咆哮と共に、真っ直ぐに服部に向かって突っ込む。


 「原田・・こいやぁ!」

 服部が刀を構えると同時に、原田が身体を沈めた。


 そのまま下から串刺すように服部の喉元に槍を突き刺す。

 服部が声を上げずに目を見開いたままで一歩前に出る。


 原田が立ち上がった。

 「あばよ」


 服部の巨体が原田の脇をすり抜けるようにドォッと倒れた。


 原田は息をついて振り返る。

 「そっちもさっさと片付けろよ」


 振り返った先で、永倉と篠原が構えあっていた。

 「うるせー、左之」







 キンッ・・キィン・・・


 何度か永倉と篠原の刀が交わってから、鍔迫り合いになった。


 「きしゃんら・・ねまっとーよ」

 篠原のつぶやきに、永倉が眉をひそめる。

 「あ?」


 「こげな・・ちゃっちゃくちゃら」

 篠原のつぶやきに応えるように、永倉が刀を弾いた。


 「あい変わらず・・なに言ってっか分かんねーな」

 永倉が吐き捨てる。


 すると・・


 キィン・・


 永倉が刀を振った。

 どこからか飛んできた小刀を弾いたのだ。


 「・・助っ人頼んだみてぇだな。おめぇら」

 弾かれた小刀が地面に刺さっている。


 さらに飛んできた石をヒョイとかわした。


 「あっこか・・?」

 永倉が見上げた先は・・民家の屋根の上だ。


 「おりゃあ!」

 斬りかかってきた篠原の刀を受け止めると、そのまま力較べになった。


 ぐぐぐ・・


 永倉が少しずつ刀を上げていく。


 「どうやら・・力はオレの方が強ぇみてぇだな」

 永倉がつぶやくと、篠原が突如、刀を振り上げた。

 「しゃーしかぁ!!」


 キィン・・キン、キン、キンッ!


 そのまま激しい斬り合いになった。


 その様を・・20mほど離れた場所から眺めているのは茜だ。

 足元には、シンが転がっている。


 茜はやや首を伸ばしてつぶやいた。

 「斎藤は死んでないなー」


 おもむろに、手の中のショックガンに目を落とす。

 「ってことは・・」


 寝転がってるシンに話しかけるように声を出した。

 「このヘンなの・・鉄砲じゃないってこと?」


 もちろんシンから返事は無い。


 「ふぅん・・気絶させるだけってことか」

 茜はカンが良い。


 ショックガンのトリガーガードに人差し指を入れてクルクルと回す。


 「ふーん・・」

 面白そうにつぶやきながら、引き金に指を当てて真っ直ぐに構えた。


 その的は・・永倉である。






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