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第二百六十八話 乱闘


 御陵衛士の7人が、駕籠を担いだ人足を連れて四つ辻に到着した時、月が雲で陰った。


 目を見開いたままで横たわる伊東の死体を見て、三木が駆け寄る。

 「兄上・・っ!」


 「伊東さん・・」

 篠原が膝をつくと、伊東の瞼を閉じさせた。


 「早く駕籠に載せるんだ」

 感傷は後に、と言わんばかりに藤堂が声をかけると、人足が駕籠を寄せる。


 篠原と藤堂が、三木の腕から伊東の死体を引き取ろうとした時、周囲の物陰からワラワラと黒い人影が躍り出た。


 「あわわ・・」

 人足が泡を吹いて逃げ出す。


 「駕籠ほかせ!斬り込むたい!」

 叫んだ篠原が、手前の敵に突っ込んだ。


 袈裟懸けで斬って捨てると、民家を背に構え直す。

 御陵衛士の7人は、皆一様に民家を背にして構えた。


 服部の前を5~6人の新選組隊士が囲む。

 服部は「その腕は沖田をも凌ぐ」と謳われた剣豪だ。


 少し離れて、毛内の前に大石が立つ。


 そして・・


 塀の影から、永倉と原田と・・斎藤が出て来た。


 「新八っつぁん・・左之さん」

 藤堂がつぶやく。


 斎藤に目を止めると吐き捨てるように言った。

 「斎藤、てめぇ・・女に入れ込んで、金持ち逃げしてんじゃねーぞ」


 「斎藤って誰だ?」

 暗闇に、白ばっくれる声が響く。

 「人違いじゃねぇのか?オレぁ山口だぜ」


 藤堂は一瞬黙り込んだが、軽く息をつく。

 「ああ、そうかよ」


 その時、永倉の声が闇に響いた。

 「やれ」


 それを合図に・・その場にいた男達が一斉に斬り合いを始める。


 「うぉぉーっ!」

 「おりゃぁーっ!」


 奇声とも怒声ともつかぬ銅鑼声が響き渡って、あっという間に乱戦状態になった。


 居合の達人の斎藤は、刀を抜かずに背筋を伸ばして構えている。

 「いい機会だから、この際ハッキリさせようじゃねぇか。・・どっちが強ぇか」


 「斎藤・・」

 藤堂がユックリ剣を抜いた。


 八相に構えて息を整える。

 「参る」


 斬り込んだ藤堂に合わせて、斎藤が脇差を抜いた。






 キィンッ

 ザシュッ

 ズサッ

 ザンッ


 刀が切りつける音に混じって、悲鳴とうめき声が通りに響く。


 「ぐぁっ!」

 「うぐっ・・!」

 「うごっ!」

 「うぁぁ・・!」


 予想通り服部の奮戦は凄まじく、新選組の隊士達があっという間に斬られてうずくまる。

 篠原は三木に加勢しながら上手くかわしていた。


 御陵衛士が持って来た提灯が、1つだけ消えずに残っていたが、ほぼ真っ暗闇だ。


 「なにがなんだか分かんねーな」

 永倉がチッと舌打ちする。


 「お月さんが出てくれりゃなー」

 原田もブツブツとつぶやいた。


 その乱戦状態を、民家の屋根の上から見物している影があった。

 一二三と拾門である。


 一二三はしゃがみ込んで薄く笑った。

 「暗くて新選組も上手く動けないみたいだ」


 「こんだけ人数差があったら、すぐ片づけられんだろーによ」

 拾門がせせら笑う。


 一二三も拾門も夜目が効くため、暗闇でも様子がハッキリと分かる。


 一二三は立ち上がると、袖に仕込ませた小刀を取り出した。

 真っ直ぐ立って迷いなく手を上下させると、投げた小刀が加納と富山にむらがっている新選組隊士の背に突き刺さる。


 次々と繰り出す小刀は、一発必殺で隊士を倒していった。


 「報酬ははずんでもらうよ、谷さん」

 一二三が独り言のように声をもらす。


 拾門は腰に下げた袋から石を取り出し、ヒュンヒュンと投げていた。

 石は、篠原と三木を囲んでいる新選組隊士の顔面と頭部を当たっては地面に落ちる。


 「ぎゃっ!」

 「痛ぇ!」


 目や頭を押さえてうずくまった隊士を、篠原が剣で刺し貫いた。


 「あ?」

 「なんだ・・?いったいどこから」

 どこからかも分からない攻撃を受けて、永倉と原田が眉をひそめる。


 もう一方の民家の屋根で、しゃがみ込んで首を傾げた茜がつぶやく。

 「なんだ・・これじゃもう、オレの出る幕無いんじゃないのー?」







 風が吹いて雲が流されると、満月からやや欠けた月が姿を現す。

 新選組と御陵衛士が全面抗争状態になったことは、離れた場所から見ているシンにも分かった。


 「藤堂さん・・」

 歩を進めながら目を凝らす。


 すると・・


 ひときわ軽装の藤堂が、誰かと一対一で剣を交えているのが見えた。


 (あれは・・)


 藤堂と剣を交えているのは斎藤だ。


 「斎藤さん・・」

 シンが立ち止まる。


 (どうしよう・・どうすれば・・)

 シンが一人で煩悶していると、斎藤が藤堂の左脇を差して、それをかわそうとした藤堂が体勢を崩した。


 「藤堂さん!」

 シンは叫ぶと、慌てて袖に手を入れる。


 斎藤が構え直して、さらに一太刀入れようとした瞬間、シンは握りしめたショックガンを構えた。

 セーフティロックが外れたショックガンは、暗闇の中自動的に生体センサーで的を絞る。


 引き金を引くと、真っ白い閃光が夜闇を貫く。

 それが斎藤の背中に当たった。


 人形にように崩れ落ちる斎藤。

 ポカンとした顔で見ている藤堂。


 一瞬、戦闘が止んだ。


 「なんだ・・?今の」

 「雷か?」

 「火事じゃねぇのか」


 みなザワザワと周囲を見渡している。


 すると・・


 「斎藤!」

 永倉が急いで駆けよった。


 「平助」

 原田が、体勢を崩して転んだ藤堂に声をかける。


 顎を突き出し、首を脇の小路に向けて振った。

 『ここから抜けろ』という意味である。


 藤堂は立ち上がるが、目の前で倒れている斎藤を凝視したまま動かない。


 すると・・


 「うぉぉー!」

 見張りに立っていた三浦常次郎という入隊して日の浅い隊士が、いきなり藤堂の背後に斬りかかった。


 「よせ!」

 永倉の制止も聞かずに、剣を振り下ろす。


 「うっ」

 背中を斬られた藤堂が両膝をついた。


 「くそったれ・・」

 渾身の力を籠めて、返すように刀を振ると、それが三浦の左膝に当たる。


 「ぐっ」

 三浦がその場に崩れた。


 「平助!!」

 原田がすぐに駆け寄るが、藤堂の身体はユックリ地面にうつ伏せる。


 「平助!!」

 倒れた藤堂の耳元で繰り返す。


 「う・・」

 藤堂の顔が苦痛にゆがむ。


 20mほど離れた場所で、シンがショックガンを手に立ち尽くしている。

 (オレのせいだ・・)


 すると・・


 背後から声をかけられた。

 「ねぇねぇ、それなーに?」


 シンがノロノロと振り返ると、暗闇に細身の男が立っている。

 顔に・・狐のお面を着けていた。


 「面白そうなモノ持ってるねー。オレにも貸して」


 茜である。






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