サブ主人公的な何かな彼女
里外れの七夜月邸では今日も様々な人や妖怪が訪れ、一人の少女に様々な教育をしていた。
「あうー」
クターっとテーブルに突っ伏している。
「怜子君、まだまだ覚える事は多い。だがそれらは時間をかけて覚えていけばいいものだから、君は少し力を抜くべきだ」
そう言いながら冷たいお茶の入ったコップを怜子の前に置いていた。
「うー、ですけどいつまでもアマちゃんに頼っていられないですよー」
今は庭で座敷わらしとボール遊びをしているらしく、楽しそうな声が聞こえてくる。
「……いや、あれはおかしいから気にしないでしばらく頼っていい。寧ろあんな犬を見つけて飼っている恭夜がおかしいんだが」
「早苗ちゃんが常識に囚われちゃダメって教えてくれましたし、こちらの犬はあれが普通だとばかり」
「あんな犬ばかりがいたら大惨事になる。尾を振るだけで物を切るなんて……他にも不思議な事が起きていたな」
「妹紅さんが恭夜さんに向かって炎を放ったら、それを見たアマちゃんが尻尾をくるりんってして炎を強風で返してましたよね」
「それを見て恭夜が大爆笑、妹紅がプッツンして大惨事だったが……君は目をキラキラさせて見ていたな」
「妹紅さんの弾幕とスペルカードが素敵でした!」
初めて見る弾幕ごっこに大興奮だったらしい。
「奴はあれから怜子くんの師匠面をして、やたら来ているみたいだな」
「仲良くなるには一緒にご飯食べたり、お風呂に入る事だって言ってほぼ毎日来てますよ!」
妹紅はどうにか師匠枠に収まろうと世話を焼いているようだった。
「無駄に気に入った相手にはべったりするタイプだったか……恭夜は男だから風呂まで一緒はなかったようだが」
「それで背中の洗いっことかしてますよー。それとここ数ヵ月で胸が大きくなったって話をしたら、どうしたら大きくなるのかを聞かれるようになりました」
「妹紅……」
「それで恭夜さんに触られてから大きくなったんですよーって教えてあげました」
死神状態で寝ている恭夜の手を取り、自ら触らせていた事は省いてしまったらしい。
「ほう……」
「おーい、今日も弾幕ごっこの練習を……あ、慧音だ」
そんな話をしていたら襖をサッと開けて妹紅が入ってきた。
「ああ。……恭夜は一緒じゃないのか?」
家主なのに大体後から入ってくる男がなかなか来ず尋ねている。
「うん。紅魔館に誘いに行ったら地下にいるって咲夜に言われて、行ってみたらフランとお昼寝してたんだよね」
「ふっ、それは兄妹のようで微笑ましいな」
「いや、あれはどっちかと言えば母娘……それで気持ち良さそうに寝てたからつい混ざっちゃってさ」
気持ち良さそうに抱き合って眠る二人に抱きついて寝てしまったらしく、早い時間に来るはずだったが遅くなってしまっていた。
「私も早く空を飛べるようになって会いに行きたいです」
「それは冒険初心者がいきなり魔王の城に乗り込むようなものだな」
「恭夜以外全員魔王みたいなものだけどね。毎日花と菜園を見に来る大魔王もいるし」
恭夜は拐われた姫的な立場がしっくり来る。
「だ、大魔王……」
「条件を満たすといつのまにか黒幕系悪女になってそうな奴も出てくるし」
「ああ……だが奴は間違いなく女として生まれていたら苦労しなかっただろうな」
妹紅の言う奴を慧音は一瞬で察していた。
「?」
「とにかく一人で行くのはもう少しみんなと仲良くなってから」
「道中も危険だから行くなら私達と一緒にな」
「はーい」
………
……
…
「色んな方に話を聞くと、自称していたようにおっぱい大好きなんだなぁって」
「それは違いますよ。今はもうそれだけじゃなくて女体が好きで、その中でもおっぱいが好きなんです」
早苗は勘違いしないように訂正していたが余計酷くなっていた。
「あ、肉食系男子!」
「いえ、肉食系の皮を何枚も被った草食系ですよ。お風呂場に全裸で突入しようとすると必死で入り口押さえて、せめて水着かタオル巻いて!って毎回言いますし」
それで着替えても無駄な奇跡を起こし、入浴中にタオルが取れたり色々と大変な事になる。
「でもあの大きな女性と下半身蛇で腕がたくさんある女性にはセクハラするって」
「『怪異ならセーフ、何か向こうも喜んでるし』って言ってみんなに怒られてますけどね」
「そう言えば一部で豊胸神って呼ばれてるのは何で?」
「恭夜さんに事故でタッチされた控えめだった人なんですけど、その人が一年でバインバインになってからそんな呼び名が付いちゃったんですよ」
偶然成長し始めただけだと思われるが、それが原因で一部から崇められ無駄に信仰が生まれて二柱の神が目を丸くする程。
「あっ……」
自分も似たような事をして普通サイズから成長しており、その呼び名に納得していた。
「『俺は人間なのにぺったん好きな者達から邪神だの悪魔の使者扱いで毛嫌いされて困る』って嘆いてましたねー」
「あはは!」
「ちなみに恭夜さんの逆鱗はレミリアさんへの侮辱ですから気を付けてくださいね。一度勘違いした外来人の方が挑発をして、九割殺しの目に遭ってますから」
その場を無事逃げたとしても闇夜に紛れて現れるので無意味である。
「それもう死んでるのと変わらないんじゃ……」
「致命傷は避けて意識を失わせず、あまりの激痛にいっそ殺してって言わせるくらいですよ。あんな絶妙な加減が出来るのは幻想郷でも恭夜さんくらいかもしれません」
それは色々な者達から様々な事を学び、生きる為に殺す事を続けて辿り着いた場所だった。
「やっぱり怖い一面もあるんだね」
「でも基本的には怒らないですよ。怒るのは自分の命を狙う者、身内と認めた者への敵対行為、レミリアさんへの侮辱……と里の子供達を傷つける存在に対してくらいです」
早苗は知らないがレミリアやフランが度を越した悪戯をすると怒り、捕まえてお尻を叩いたりもしている。
「え? 恭夜さん自身を馬鹿にされても怒らないの?」
「……ふぅ。怒りませんよ。ただ『俺はいいんだけど、はっちゃんとかんちゃんが激おこになるんだよなぁ』って悩んでますけど」
お茶を飲み、庭から聞こえてくる声に癒されながらサラッと恐ろしい事を言っていた。
「慣れてないと普通にしてても怖いのに、そんな方達が激おこ……凄い鳥肌が」
「そんな時の対処方法は今のところは恭夜さんが激おこなお二方にセクハラをするくらいですね。まず人前じゃやらないって言ってますから実質詰みですけど」
呪い殺したり物理的に被害を出すのは禁じられているが、四六時中付き纏いプレッシャーを与えるのは許されているので精神的に殺すらしい。
そんな話をして昼食を摂り、午後になると阿求が幻想郷縁起を持って訪ねてきていた。
「恭夜さんの絵、どちらがいいと思う?」
「この正座で耳掻きを手に柔らかく微笑んでるのもいいけど、この眼鏡をかけて椅子に座って脚を組んで読書してるのもいいなー」
二人はかなり仲良くなったようで、阿求も敬語ではなく普通に話すようになっている。
「小鈴は後者がいいって言ってるのよね」
「あ、そうなの?」
最近は阿求、小鈴、怜子の三人で集まる事も多く、仲良し三人組として馴染みつつある。
「色々と危ない事に首を突っ込んでは恭夜さんに助けられてるから真剣に選んでた」
「好奇心旺盛だもんね。……アマちゃん、ありがとー」
「ワン!」
お茶やお茶菓子を載せる装備をつけた天公が襖をスッと開け、こぼさないように入ってきていた。
「いつかこの子も縁起に載せる日が来そうね」
「?」
そんな天公は不思議そうに阿求を見ている。
天公は一通り撫でられるとそのまま部屋から出ていき、二人はお茶と恭夜が隠して蓄えていたはずのルマンドをお茶菓子に午後の一時を穏やかに過ごしている。
「アマちゃん、毎回これどこから見つけてくるんだろう?」
「恭夜さんの匂いでもするのかしらね」
阿求はスンスンと包装の匂いを嗅いでいた。
「阿求ちゃん、何かそれ変態っぽいよ」
「やっ、ちがっ」
「嗅ぐなら二階のお布団にくるまれた方が分かりやすいよ」
恭夜が泊まった次の日はここで暮らす三人でその布団の取り合いになっている。
「違うってば!」
「でもあれは体験するとわかるけど、全身を包まれてるような気分になって脳が蕩けるよ?」
早苗の活動でクンカーが増え続け、七夜月邸の先代の巫女に座敷わらしもいつのまにかそうなってしまっていた。
「……」
ごくりと喉を鳴らし、想像して頬を朱に染めている。
「友達の阿求ちゃんになら私の番を譲ってあげてもいいよ?」
「おねが……や、やっぱりいい!」
頼もうとしたがハッとして頭を振って拒否していた。
「えー。そう言えば阿求ちゃんってどんなタイミングで恭夜さんを意識し始めたの?」
あまりその手の事に興味がなさそうなのにと思い尋ねている。
「恥ずかしいんだけど一昨年の夏祭りの時に私、ちょっと我慢できなくてお漏らししちゃったの。その時に偶然居た恭夜さんが服が汚れるのも気にせず、誰にもバレないように私を抱えて連れ出してくれて……」
漏らした地面に買ったばかりのかき氷と酒を落として分からないよう隠滅したり、かなり紳士に対応していたらしい。
「……恭夜さんは凄いね。普通だったら汚れるのを嫌がったり、汚いって避けたりするのに」
「そんな自分が恥ずかしくて情けなくて胸の中で泣いちゃって……落ち着くまでそのまま抱えていてくれて、身内に知られたくないだろうからってそのまま紅魔館に連れていってくれたのよ」
その時の事を思い出して頬を朱に染め語る阿求は、普段のちゃらんぽらんな恭夜とのギャップで異性として意識するようになってしまったようだった。
「紅魔館……」
「もうぶっちゃけてしまうとその時には婿に来てもらう、最悪でも子だけは孕ませてもらうしかないって思ったわ」
「はら……!? ちょ、ちょっと早すぎない?」
「元からどうにか婿にって何度もお見合いをさせられていたから。お互いに乗り気じゃなかったけど、あの日から私は本気になったのよ」
ただし恭夜はまだ高いご飯が無料で食べられる日としか思っていない。
「お見合い!?」
「里としても定住させたいから、私以外にまだ小さな子からやや年上まで満遍なくお見合いさせてるの」
小さな子は甘やかし、年上には趣味や性格等が合いそうな知り合いの男達を紹介していたりする。
「えぇ……」
「……みんなこれを見ると怖いって言うんだけど、逆にそれが色んな抑止になるから定住させたがるのよ」
一時期のフランのように狂気に呑まれ凄く恐ろしい顔で笑っている写真を取り出して見せていた。
「凄い顔してる……」
「実験失敗してこうなったらしいの。何でも闇を操れるなら心の闇も操れるんじゃないか?って」
ルーミアも乗り気だったがした事のない対象への力の行使に失敗、恭夜の心が闇に呑まれて生まれた最悪な状態の姿だった。
「心の闇……」
普段からちゃらんぽらんで笑ってるイメージがあるから想像できないらしい。
「枷が外れたかのように大暴れして、色んな勢力が一丸となって止めたって眉唾な話もあるわ」
それは事実であり、普段全力を出せない・出さない者達も満足する程の暴れっぷりだった模様。
良くも悪くも龍脈の力を受け入れる事が出来るようになった出来事であり、それを巧妙に隠して暴れていたようで皆が気づくのに遅れて長期戦になってしまっていた。
最後は気の流れがおかしい事に美鈴が気がつき、そのまま気の流れを断たれ弱体化した所を皆による多重の結界で抑え込まれていた。
その隙にルーミアが心の闇をコントロールしていつもの状態に戻したようだが、能力の行使の仕方があまりに危険なので慧音がルーミアの記憶を食べて忘れさせている。
「眉唾……恭夜さんならやりかねない気がするけど」
「誰に聞いても詳しく教えてくれないから想像で補うしかないわ。ある意味異変みたいなものだし適当に縁起に書いて、(これは想像である)って注意書しておけばいいかしら」
「でも後世に残るのに適当なのは不味いんじゃ……」
「既に本人からしたら消してほしいような事も書いてるから平気だと思うわ」
ここ、と自身で書いた部分を指差しながら呟いていた。
「えっと縞縞の下着が好きで大きな胸が好き……これ書いちゃダメなやつだよ!?」
「この前の耳掃除の時に、私が縞縞の下着をつけたら嬉しいですか?って上目遣いで聞いてみたら物凄く動揺してたわ」
猫を被り妹的キャラを演じているので恭夜は素の阿求を知らないままでいる。
「黒い、阿求ちゃん黒いよ……」
「酔ったフリして脱いだ時なんて普段の余裕がなくなって、目を右往左往させながら私に上着を着せてくれたのよ?」
「何やってるの!?」
「私もある先人達に習って既成事実を作ろうと思って」
早苗と青娥は恭夜以外眼中にないのが周知の事実となっており、里の者達は何が起きてもスルーが基本になっている。
「達? 早苗ちゃんだけじゃないの?」
「もう一人はそのうち嫌でも見れると思うわ」
「ちょっと楽しみなような怖いような……」
………
……
…
「んー……! 空が広くて今日もいい天気!」
「んー……!」
「ふふ、仲良しさんね」
先代の巫女が庭で洗濯物を干しながら、仲良く伸びをする怜子と座敷わらしを見ていた。
「お姉さんと妹が出来たみたいで嬉しいですよー」
ギューっと座敷わらしを抱き締めながら答えている。
「!」
「和むわね。でも貴女の名字を私達にも使わせてもらえて嬉しいわ」
「えへへ……私達が東雲一家!」
七夜月の表札の隣に東雲の表札が付けられている。
「俺の家なのに俺だけハブられてる感がパない……」
いつのまに来たのか我らのヒロインが所在なさげに立っており、手にはお土産が詰まったバッグがさげられていた。
「ふふ、おかえりなさいませ」
「やだ、巫女さんに言われるとドキドキしちゃう……」
名前を思い出せない先代の巫女である彼女も諦めがついたらしく、東雲巫女を名乗る事にしている。
「!」
次に気配に気がついた座敷わらしが怜子から離れ、普段見せないようなダッシュで恭夜に向かっていった。
「ワン!」
尻尾を千切れんばかりに振りながらその後を天公が追い……
「で、出遅れた!」
最後に怜子が駆けていく。
「一人と一匹はめっちゃ可愛いのに、怜ちゃんはあれ反則だろ……何あの躍動するメロン、俺は夢でも見てるのかこれ」
そんな幸せな光景に恭夜の鼻の下が伸びていた。
「もう……でも重くて邪魔になるのよ?」
最近になってようやく砕けた口調で話すようになり、ますます夫婦っぽく見られる機会が増えている。
「それはもう身を持ってほぼ毎日体験してるんでわかりますけど、男の本能というかですね……オゥフッ!」
そんな言い訳をしていると腹に座敷わらしが突っ込み、妙な声を上げていた。
「クゥーンクゥーン」
足元では天公が鼻を鳴らしながら身体を脚に押し付けていた。
「はぁはぁ……」
「あー……幸せタイムが終わってしまった」
お腹にぐりぐりと顔を擦り付けている座敷わらしの頭を撫でながら、到着してしまった怜子を見てガッカリしている。
「はぁ、ふぅ……おはよう!」
「おはよう」
そして何事もなかったかのように挨拶を返していた。
「えっと、二週間ぶりくらい?」
「それくらいかな。何度か近くまでは来てたんだけど神子さんに捕まって修行させられたり、青娥に連れ去られて修行させられたり、華仙さんにめっちゃ説教されてからの修行をさせられたりで……」
仙人達にやたら絡まれてなかなか来れなかったらしい。
「うー、みんなわからない……」
「とりあえず仙人達って覚えとくといいよ。次の宴会で俺と居れば華仙さん以外には会えると思うから」
本来なら挨拶に行く立場だが、動くと見つからないだろ!という誰かの言葉で挨拶される側に回っていた。
「うん、期待しとく」
「とりあえず青娥は挨拶だけして、あまり関わっちゃダメだから。邪仙と言われるだけあるし」
呼び捨てにし始めてから更にベタベタされ、人前でも頭を抱えて胸に押し付け撫で撫でしてきたりとスキンシップが激しくなっている。
「あっ、見た目で判断するなって事だね」
「そうだよ。私が仕えるお嬢様は可愛らしく可憐でお美しいが吸血鬼……あの方からすれば人間などただの血袋、きまぐれに生かされて殺される」
手遅れなまでにレミリアを愛しており、この世の全てを敵に回しても絶対にレミリアの味方でいると言える存在になってしまっていた。
「……」
そんな恭夜にも少し恐怖を覚えたようだが、こんな一面もあるのだと受け入れている。
「怜ちゃんは大丈夫。寧ろ俺が何か失礼な事をしていないか聞きたいって言ってるから」
「それならいつも私のおっぱい見てますって話そう」
「ゆ、許してください何でもしますから」
レミリアよりも最近成長し始めたがまだ控えめな咲夜に聞かれるのを恐れており、余裕のあった表情が一気に真っ青になっていた。
「どうしよっかなー?」
ぶっちゃけ恭夜にだけは見てもらいたいとワザと強調したりしているが、何でもしてくれるというのでラッキーだと思っている。
「咲夜の地雷を踏んだばかりなんです、日本語の発音のせいで……」
咲夜に美乳だとセクハラ混じりに褒めたようだが、微乳と煽られたと思ったらしく大変な事になったらしい。
「んふふふー」
今後も極稀に彼女がメインを張る事があるかもしれない。
尚、我らが主人公は男で里に来ると大半の者達からガッカリされる模様。
ゴーストそろそろ終わるけど、御成の事しか覚えてないなぁ。