女性に生まれていたならば
永遠亭での生活が残り一週間を切ったある日の事。
「マジで輝夜をどうにかしてもらえない?」
「それ毎日言ってるわね」
毎日診察室で永琳に相談しているらしい。
「明日はこれね!とか言いながら紐で結ぶ下着を渡してきたりするし、仕方なくそれをつけてたらおやつの準備中にその紐を外してきたんだぞ。流石に脳天にフライパン叩きつけたけど」
「それが凄い勢いだったのか、姫は一回死んでたわね」
「もうあのド変態に容赦したら負けだと思ってる。挙げ句に捲る楽しさが減るからとか言って鈴仙に丸投げしてたし」
「あの子が選ぶのは恭子の見た目だとギャップがあるのよねぇ……そう言えば姫が生放送がどうこう言ってたわよ」
甲斐甲斐しく世話をする鈴仙だが自身の好みも反映されており、毎晩お風呂の前に用意して上は翌朝付けに来てくれている。
「あぁ……寝る前に呼ばれたからパジャマで行ったら、何か撮影してて顔とか思いっきり出されたやつね」
恭夜の妹という設定でまたも許可なく出されたらしい。
「流石に姫には勝てないけど、恭子は外の世界でもトップレベルの容姿だから大丈夫よ」
「そんなの男だから全く嬉しくないよ……しかも男の私の妹設定とか、余計な事を輝夜が言ったせいでおっぱい兄妹とか意味わからん事になってたし」
恭夜はマイスター、恭子は持っている者だからあっている。
「まぁ、残りちょっとだから我慢しなさいな」
………
……
…
「これ胸が苦しいんだけど……」
急に部屋に呼ばれサイズが小さいワイシャツを着させられ、無理矢理ボタンを留めているから苦しそうにしている。
「はい、それじゃあ胸を張ってー」
「え? でもそんな事したら」
「はい、胸を張ってー」
「やらないとダメなのね……きゃっ!!」
仕方なく言われた通りに胸を張るとボタンが三つくらい弾け飛び、それに驚いて思わず女の子らしい悲鳴が出ていた。
「わー、漫画みたい!」
「やたら小さいのを無理に着させたと思ったらこれが見たかったのかよ。それより他に何も用がないなら行くけど」
「とりあえずマッサージしてあげるから、その布団にうつ伏せになって」
「……」
凄く疑わしい目で見ながらうつ伏せになっていた。
特に何かされるでもなく普通にマッサージをされ、意外と上手く気持ち良くなってほにゃっとした顔になっている。
「うー」
「何回かしてもらってコツは掴んだのよ。私のような姫にマッサージをしてもらえるなんてかなりのレアよ」
「寧ろ姫がマッサージって言葉だけだと、卑猥な事しか想像できないけどー」
「……あの毎日ワザと怪我をしてくる男がいるじゃない。あまりにアレだからって永琳が恭子の写真を渡してたわよ」
日に日に酷くなる怪我に流石の永琳も別の意味でドクターストップをかけたらしい。
「へー。どう見ても自分で腕を切ったとしか思えない怪我とかもあったしねー」
「で、男に一目惚れされた気分は?」
「中身が男じゃなかったら嬉しかったんじゃないかなー」
マッサージで警戒心が完全になくなり、輝夜の問いに普通に答えている。
「まぁ、普通はそうなるわよね」
「あー溶けちゃうー」
「肩凝りが凄いわよ。後は腰とか脚にも疲労が蓄積してるのが分かるわ」
マッサージをしながら弱めに霊力を流して癒しており、どこに疲れが溜まっているかも流れで把握出来ている。
「永遠亭の家事を一人でやってるからねー」
「こんな嫁が里の男達は喉から手が出るほど欲しいでしょうね。よく働くし、私ほどじゃないけど美しいし、エロい身体してるし」
「誰の嫁にもならないけどねー……ぐぅ」
がんばって答えていたが限界が来たのか眠ってしまった。
「やっぱり欲しいわ。蓬莱人にして、飽きたら性別を変え続ければ……」
………
……
…
「マッサージ中に寝る前はボタンの取れたシャツとスカートだったのに、起きたら輝夜とお揃いの服になってたの」
「背が高いから姫と見間違いだけはしないわね」
「あったかいし露出少ないからこれいいなー」
既にスカートへの忌避感はないらしく、嬉しそうに美しく可愛らしい笑顔を見せていた。
「お気に入りの服を着て喜ぶなんて完全に女の子じゃないの」
「……永琳、私どうしたら!」
言われて気がついたらしく、涙目で永琳にすがりついている。
「なるようにしかならないわ」
「くっ……最近は以前のようなドジをしなくなってきたのに」
「私の考えだけど、あんなドジをしていたのは心と身体がチグハグで噛み合っていなかったからよ。今は噛み合い始めてるから、あまりドジをしなくなっていると思っているわ」
実際噛み合い始めてからは何もない所で転んだりはしなくなり、今じゃ段差で転んだり自分の脚がもつれて転ぶくらい。
「納得できちゃう自分が憎い。実際に身体の動きやすさが段違いだし」
「今の恭子は私が男だったら嫁に欲しいくらいよ。……よくよく考えたら、手に入れさえすればどちらも楽しめるのよね」
この二週間近くかなり楽が出来た事もあり、どうにかレミリアから引き離せないかと考えを巡らせていた。
「それと髪を束ねるのはいいんだけど、やっぱり邪魔だと思って髪を切った時の永琳は凄く怖かったよ」
「あんなに綺麗な髪を勝手に切ったのが悪いわよ。すぐに薬で髪を伸ばして正解だったわ」
鬼気迫る勢いで薬を飲ませたらしく、怖すぎて疑り深い恭子も素直に飲んだらしい。
「それから毎朝起きると髪を梳きにきたり、髪型を決めたりするようになったよね。ちゃんとケアしてるのに、服着たままお風呂に入ってきて洗い方とかケアの仕方までチェックするし……」
「またやらかすかもしれないから仕方ないわ」
「だからって伸ばす前は腰より上くらいまでだったのに、何で今はふくらはぎくらいまで伸ばさないといけないの?」
「私の趣味よ。いいでしょ?」
「切りたい」
「また勝手に切ったら……もう婿にも嫁にもいけないような目に遭わせるわ」
「な、何をする気なの?」
真顔で言い切った永琳を見て背筋がゾクッとして聞き返していた。
「口に出すのも憚られるような事よ。苦痛か快楽かは選ばせてあげるけど」
「怖い……」
どちらにせよ薬漬けにされる想像をして震えている。
「勝手に切らなければしないわよ。こんな綺麗な髪、姫以外で見た事がないわ」
そう言って近づくと恭子が束ねていた髪を解き、さらさらで美しい黒髪を手で梳いてうっとりとした表情を浮かべている。
ちなみに男の時でもよく髪に触れていたくらい髪フェチであり、女性になって伸びた事で理想の髪だと気がつき勝手に切るまでは密やかに楽しんでいた。
「……」
さっきの真顔が怖かったらしく、されるがままになっている。
「……いい香り」
手に髪を持ち匂いを嗅いで満足そうに呟いていた。
「……」
「ふぅ……」
堪能して満足したらしくポケットからリボンを取り出し、ポニーテールにしてただのヘアゴムは没収している。
「……やばい」
実は永琳のが輝夜よりやばいんじゃないかと思い始めていた。
「今日のお風呂も呼びに行くまで入っちゃダメよ」
「う、うん」
微笑みながら頭を撫でてくる永琳に頷くしかなかった。
そのまま見送られ、角を曲がると鈴仙の部屋まで走って向かっている。
途中脚が縺れてすっ転び、痛みで涙目になりながらも永琳から離れるのに必死だった。
「……って事があって」
さっきの永琳の件を今度は鈴仙に相談している。
「ちょっと怖いね」
「いや、凄く怖いよ。輝夜のセクハラのがまだマシなレベルで怖いの」
「姫様と師匠はどっこいどっこいだと思うけどなぁ……」
どうやらセクハラをされすぎて麻痺しているらしい。
「永琳は継続する苦痛か快楽、輝夜は一時的な性的悪戯だから」
「でも姫様に悪戯されてフライパンで倒してるよね?」
「あの時は貞操の危機だったから。本気で危ないと思ったのはあの時だけ」
「姫様が言ってたけど、恭子は男の時に行使出来た物が女になって別に振り分けられてるんじゃないかって」
「空は飛べない、力は一般女性よりやや強い程度、能力は耳掃除以外全く使えず、無効化も機能せず、運動能力は並以下……何これ泣きそう」
再確認してみたらスペックの超低下に泣きそうになっていた。
「か、代わりに運の良さと家事が凄いよ!」
「無くした物より得た物が少ないんだけど……」
「後は姫様曰く、『男女問わず惑わすフェロモンに全振りしてるわね』って」
「それ一番いらないです」
「それで恭子がスヤスヤ可愛く兎の子を抱き締めて寝てる時に話し合ったんだけどね」
「何をしたのか知らない話し合った件より、抱き締めて寝てた事を知られている事がショックなんだけど」
寒いからと一番懐いている子を内緒で連れ込んで仲良く寝ているらしい。
「それで慧音と妹紅も一緒に話し合ったんだけど、恭子は困った時の囮役がいいんじゃないかって」
「やだよ!」
「後はもし何かあった時の人質交換で行ってもらうって」
「何でそんなマイナス方面で私を役立てようとするんだよ!」
「あいつがちょっと演技して甘い言葉を囁けば堕ちるだろうって慧音が」
実際患者には自身の理想の女性像で対応しており、笑顔で優しく手を引いて診察室に案内するので老若男女問わず人気が出てきている。
「まぁ、そんな事態には絶対ならないだろうけど」
………
……
…
「ふふふ、ふんふーん……くろいダーイヤ」
おやつの準備をしながら無意識に歌を歌っている。
「全てを断ち切れ今ーってつられちゃったわ。私は普通に黄金の方が好きだけど、恭子は銀牙が好きって言ってたわね」
「二人で盛り上がってましたよね。姫様、今日はセクハラしに行かないんですか?」
いつもなら両手が塞がるタイミングで向かうのに、今日は向かわないからか不思議に思っていた。
「洗濯物を干してる時にあのスイカを堪能したから今はいいわ。永琳にやったら酷い目に遭う事も、恭子はぽんこつだから楽勝で助かるわ」
「添い寝してあげる時に自然と埋める事になるんですけど、ふかふかで気持ちいいですよね」
「えっ、何それずるい」
「いい匂いと柔らかいので寝れなくなっちゃいますけど」
朝まで匂いを堪能して寝不足になる模様。
「いいなぁ」
「姫様はセクハラしすぎですよ」
セクハラ、髪フェチ、クンカーとてゐ以外は安全とは言いにくい勢力だった。
「身体が勝手に動いちゃうのよ。寧ろ動かない方が失礼だと思うのだけれど」
「それで嫌がられたら元も子もないと思いますけど」
「魅力を引き出してるからセーフだと思うわ。女性らしさが半端ないくらい出てるでしょ」
色気もなった当初の五倍くらい出ていて、いつでも嫁に行けるレベル。
「中身も女性寄りになったせいで、里の男達の間でも話題になってます」
「顔良し、中身良し、身体良し、家事良しの四拍子だもの。まぁ、私の出す難題を解かないとあげないけど」
名実共に嫁にしたいランキングトップに君臨したとも言える。
そのまま何事もなくおやつを食べ終えると輝夜は昼寝をするのに部屋に戻り、鈴仙は再び薬の材料を探しに出ている。
「はぁ……」
「……」
洗濯物を取り込んで畳んでいるとうっとりとした表情の永琳に背後から抱き締められ、ポニーテールが解かれて顔を埋めている。
「疲れが取れるわね」
「そう……」
「姫にはこんな事は出来ないし、好き勝手させてくれるから助かるわ。……肉付きがいいのに腰も括れてるわね」
指で梳いたり香りを楽しみ、腰に触れたりしながら話していた。
「ひぅっ! ……くすぐったいし、急に腰をさわられるとビックリするからやめて」
「ふふっ、ビクッ!て身体を仰け反らせたわね」
「全く……輝夜みたいな事をするんじゃないの」
洗濯物を畳むと誰の物か分け、用意していた籠に入れている。
「中身が伴ってきて百合百合しいって早苗がちょっと興奮しながら話してたわよ」
「あいつ何言ってんの?」
「この薬が出来たら買うってノリノリだったから気を付けた方がいいわ」
守矢神社に泊まるとやたらと混入させてくる事件が起きそうだった。
「それなら売らないでよ」
「仲が良いから姫が横流しするでしょうし、それなら代金をもらった方がいいもの」
「そうだった。恐ろしく厄介な二人が仲良くなっちゃったなぁ……」
「だけど最初から女の子で時代が時代だったら傾国の美女になれたかもしれないわね。この美しい黒髪なんて最高だわ」
手で髪を梳きながら嬉しそうに語っていた。
「全く嬉しくない」
「面倒臭がる姫の影武者で出したら面白いかもしれないわね。偽物に執心するなんて滑稽な姿も見れそうだし」
「輝夜ごっこは楽しそうだなぁ。まぁ、もしもそうなったら好き勝手やらせてもらうけどね」
ひれ伏せさせて踏んだり、屈辱を与える為に足を舐めさせたりしたいらしい。
「どんな姫になるか見てみたいわね」
「私としてはドSで足を舐めなさいとか蔑むような目をして言うのがいいですね」
いつのまに現れたのか早苗が当然のように会話に混ざっている。
「早苗は本当にいつのまにか居るよね」
「ふかふかですー」
「そしてフリーダム」
正面から抱きつき自身の胸に顔を埋める早苗に呟いていた。
「母性がもうこれでもかってくらい溢れてますね」
「自分にあっても重くて肩凝るし動くと邪魔だしで全然嬉しくないよ」
「早く戻れるといいですね!」
「早苗だけだよそう言ってくれるのは。輝夜なんて『寧ろ女性のままのがヒロイン度があがっていいんじゃない?』とか言い出してるし」
名実共にメインヒロインになっている今の状態に違和感がない。
「絶対に戻ってもらわないと跡継ぎが出来ませんからね」
「生々しい事をさらっと言うのやめない? 守矢組って神奈子さん以外生々しい事を簡単に言うから困る」
「この前の諏訪子様の事ですか?」
「あれは酷い。『私が男だったら拐って結界を張って供犠にするって言って、強引にでも孕ませるのになぁ』ってニコニコしながら言って思わず距離を取ったよ……」
ヒロインと化している現状では抵抗すら出来ないので妥当である。
「大好きなお酒を呑むよりも、恭子さんのこの豊満なバストに埋まってる方がいいって言うくらいでしたね」
諏訪子は最近アレにハマっているらしく、所々で忍殺語が出てくるらしい。
「みんなおかしいんだよなぁ……同性の胸を触って楽しいとか意味がわからないよ。男が筋肉を触り合う感じと一緒なの?」
よく霖之助と褌だけになり、互いの鍛えた身体を見せて筋肉を触りあったりしている。
「筋肉を触りあっている姿を見た事がないからわからないわね。男の時に持っていた物がほぼなくなった代わりに、魅力の限界を越えているから仕方ないわ」
「成る程、この私の溢れるラブはそういう」
「早苗は男の時と同じなんだよなぁ……」
早苗は中身を好きになっているからか、男だろうが女だろうが関係ないらしい。
そんなこんなでようやく効果が切れて
「やっと戻れた」
執事服に身を通し、軽く身体を動かしながら呟いていた。
「心と身体は戻った瞬間に噛み合っていたわね」
「やっぱり何だかんだで男のがいいわね」
「昨日の夜『ほら、これ明日の朝になったら飲むようにって永琳が』って言いながら、錠剤を渡してきたのは誰なんすかね」
ビキビキしながら輝夜の顔面にアイアンクローをかましている。
「あれはちょっとしたお茶目……い、痛いわ! 骨がミシミシいってる! た、助けてえーりん!」
ジワジワと力を入れられているいるらしく、輝夜は必死になってもがいていた。
「ったく……帰ったらとりあえず美鈴と手合わせして、鈍った動きを戻さないと」
一ヶ月近くまともに動けていなかったからか、調子を戻すのに苦労すると溜め息を吐いている。
「だけど改めて見るとナイフに銃剣に鞭って統一感がないわね」
勝手に薬を持ち出した事に対して怒っており、輝夜の助けを求める声を無視して携行している武装を見ていた。
「俺もそう思う」
そのまま輝夜の顔から手を離して返事をしている。
「凄く痛かった……くっ、次に女の子になったら覚えてなさいよ!」
「完成したからもう飲まなくていいんだもんねー」
仲良しな二人は子供のようなやり取りをしていた。
………
……
…
そしてその薬は悩んでいた者達の悩みを解消するのに使われ始め、beforeとafterに恭夜と恭子の写真が使われて悩んでいない里の者達にも衝撃を与えていた。
「今まで買い物の時とかも対応が雑だった、同性愛な女性達が物凄く優しくなって怖いよ米屋のおっさん」
「七夜月の兄ちゃん、女だとえらい別嬪さんだからなー」
「男でもいい!ってある男が言い出した時はとにかく飛んで逃げたよ……」
恭子に執心して毎日怪我をしていた患者は悩んだが薬さえあればいいと考えたらしく、恭夜への間違ったアプローチをしている。
「そら逃げるわな」
「ちょっと仲良くしてたグループの面々なんて土下座して『おっぱいを触らせてください! 何でもしますから! ついでにパンツも見せてください! 何でもしますから!』って一言一句違わず声を揃えて言ってきたんだよなぁ……まぁ、気持ちはわかるけど目がマジだったから怖い」
自分達で試した結果揃いも揃ってafterが色々残念だったらしく、親しくしている恭夜を頼ったようだった。
「まぁ、七夜月の兄ちゃんが人間で手の届くかもしれない安全な存在だからだろうな」
「あー……でも美幼女美少女美女に囲まれて羨ましいって言ってくる人が多いけど、本気出されたら瞬殺されるような力の差があるから結構怖いのによく言えると思う」
力の差がありすぎてわからないだけで、恭夜からすれば命知らずにしか思えない考えである。
「七夜月の兄ちゃんも大概だけどな」
「俺なんて下から数えた方が早いから」
龍脈の力を受け入れるとガチチートになるが、普段はそこまで強くはない。
心と身体が噛み合っても運動神経は皆無な模様。
とりあえずハニートラップや人質には最適。
二年近くぶりの二週更新。