超番外編 かなり危険な現代生活18
本編そのままな種族の者もいます。
六月に入り本格的に暑くなり始めたある日、学園を休まされフル装備でどこかの山に連れていかれている。
未開の地のような場所まで車で来ると下ろされ、紫と藍に華仙と結構な数の護衛が付いて山を登り始めていた。
永琳とその医療班も居り、恭夜は嫌な予感が止まらなくなっている。
皆が無言で歩を進めていると巨大な門が見え始め、恭夜以外の面々は真剣な表情でそこに向かっていく。
「よくぞ参られた」
「星熊勇儀、伊吹萃香に会わせてもらいたいの」
「……」
恭夜は頭から角が生えた坊主頭の筋肉が凄い門番を見て、とても嫌な予感を覚えていた。
「お主等一族も懲りんな。我々の力を借りたいと先代の者も言っていたが、結局あのお方達を満足させる事ができなかった」
「今回は大丈夫よ。寧ろ貴方達鬼の一族が自ら付いていきたいと言うかもしれないわよ?」
チラッと背後にいる恭夜を見て自信ありげに言い切っている。
………
……
…
「確かに折られるとは思ったけど……」
新旧機械槍は早々に折られ、機械剣も刃が通らず既に投げ捨てている。
「はっはっはっ! いいじゃないか今回の相手は!!」
一本角の鬼の女性が愉快そうに笑うと拳を握り、久しぶりに楽しめそうだと口角が上がっていた。
「紫、あんなのどこで見つけてきたの?」
「何て言うか……十一年前には見つかっていたけど、芽を出したのは去年というか」
二本角で酒を呑んでいる幼女がビックリした表情で紫に尋ねていた。
「勇儀を前にして怯えたりしないで、しかもおっぱいばかり見てたって正直に答えたり……色んな意味で規格外だよアレ。何であんな綺麗に貰ったのに立ってるの?」
勇儀の一撃を腹に貰ったのに平然と立ち、今も向かい合っている姿が信じられないらしい。
「フンッ!」
「おおっ! やるねぇ!」
突っ込んできて振るわれた拳にハンマーを叩き込み、その反動を利用して距離を取っている。
「そりゃどうも」
「まだまだ隠し玉がありそうだ」
「正直怖くて漏らしそうなんですが……」
綺麗に入った一撃が地味に効いており、あんな重い攻撃を連続で受ける事に恐怖を抱いていた。
「うちの若い奴等ならあの一撃で上から下から色んなのを漏らしてるよ」
「恭夜の耐久力は若い鬼以上なのね」
「寧ろ本当に人間なの? 人間があの力の入れ方で胃袋の辺りを殴られたら、内臓が破裂するか三日くらい何も食べられなくなるくらいの痛みがあるはずなんだけど」
「改造人間じゃないのは確かよ」
「ダメだ、全力でいかないとジリ貧だこれ……あの世界の神(笑)より遥かに強い」
慢心している所を容赦なく叩いて滅ぼしたらしく、大して強くはなかったようだが。
「そりゃそうさ、人と鬼で地力の差もある。それに加えて私達鬼の伝承、それから生まれる人々の畏怖で強くなってるんだよ」
神々と同じようなもので人々の畏怖の念で強くなっているらしく、正直に言えば現段階では勝ち目は全くと言っていい程なかった。
「ならせめて一矢報いるくらいはしたい」
青娥に貰い防御力を上げる為につけていた紅いマントはボロボロになっており、仕方がないと邪魔な部分を破り捨て何ちゃってマフラーにして装いを新たにしている。
「それでも折れず真っ直ぐに向かってくるか」
「まぁ、格好つけたいですし」
更に身に付けていたハンドガンや銃剣のラック等も全て投げ捨てて身軽になっていた。
「……げほっ!」
「ふっ!」
形振り構ってはいられないと素早さに全てを賭けて突っ込み、速度を維持したまま勇儀の胸部を蹴り抜いている。
インパクトの瞬間だけ素早さではなく力に全てを注いだ事で咳き込ませるくらいの威力はあり、そのまま吹き飛ぶ勇儀に更に追撃をし始めた。
反撃されないようにとにかく蹴り飛ばし続け、最高加速がついた所で地面に向けて蹴り落としている。
その衝撃でクレーターが出来、多々傷が出来フラついた勇儀が立ち上がろうとした所を真上から加速しながら強烈な蹴りで急襲。
更にクレーターの規模を広げた事で大小様々な岩が空高くに舞い上がっている。
「身体が…痛い……!」
人間を越えた動きに全身が痛み、そう呟きながらも目を見開いている勇儀を真上に蹴り飛ばしていた。
そしてそのまま宙に浮いて落ちてくる岩を蹴り移りながら勇儀に幾度も蹴りを叩き込み蹴り上げ、最高高度に勇儀よりも速く上がると右脚を高く上げキッと睨み付けた。
「これが、今出せる俺の……全力だ!!」
霊力と魔力を解放すると爆発的な推進力が生まれ、その勢いで勇儀の腹に蹴りを叩き込み共に地面に突っ込んでいった。
………
……
…
「こうするしか勝てる方法はないと思って……」
鬼達の村にある立派な旅館に運び込まれ、永琳が連れてきた医療班の霊的な治療で急速に癒されて既に普通に歩く事も出来る。
「馬鹿ねぇ。でもお陰で恭夜が生きている間は鬼の一族が力を貸してくれるわ」
「身体がバラバラになるんじゃないかって思った。映像が残ってたら早苗喜んだだろうなぁ」
破れたマントで急造した赤いマフラーに人間を越えた動きで大興奮待ったなし。
「それよりも大人気よ、鬼の四天王の一人を相手に相討ちって奇跡を起こした人間って」
「全霊力と魔力を込めて加速した蹴りと、あの高さから落下して受け身を取れずに地面に叩きつけられれば気絶もするでしょ。俺も耐えられなくて気絶したし」
大きなクレーターを再び作った所で様々な負担が一気に来てブラックアウトしたらしい。
「あれでも大ダメージなだけで致命傷になってなかったのよねぇ……」
「さっき普通に笑いながら俺の背中をバシバシ叩きながら肩を組まれたから知ってる。回復速すぎんよー」
「鬼と人のハーフってどうなのかしら……」
勇儀との闘いを見ていた鬼の女性達の恭夜に向ける熱い視線に気づいていたらしく、あわよくば子作りの候補に入れようとしていた。
「まず子供が出来ないんじゃないの? 種族が違うし」
「今まで交流がなくて、子を孕んでもいいってくらい気に入る人間が居なかったってだけよ。鬼も男の出生率は下がっているみたいだし、いても既婚者ばかりみたいだしね」
どこも似たような状態で強い男の需要はとても高い。
「既婚者じゃない鬼の男性にネットリした目で見られたんですが。後、一緒に風呂に行ってサウナに入らないかって」
「誘われても絶対に付いていかないように。混浴もあるって言ってたし、藍か永琳と一緒に行くように」
「なんと」
混浴と聞いて妙に元気になっている。
「自分の危機に気づいてないのかしら……」
………
……
…
「鬼の女将さんの色っぽさがやばい」
紫が温泉に入りに出ていった後、挨拶がしたいと尋ねてきてそれに応じたらしい。
「旦那さんとは百年以上前に死に別れたとか、子供は居なくてとか、隣に座って手を重ねながら言われたし……紫達が帰ってくるリスクがなかったらダメだっただろうなぁ。自制心が完全に壊れてなくてよかった」
鬼達の間では古参の存在で再婚は鬼の男女比から無理だと悟り、強く逞しく若い恭夜をガチで狙ってきていた。
「黒髪と金髪の鬼が居たけど、女将さんは綺麗な黒髪だったなぁ……」
「……」
今までの呟きは襖を隔てた向こうで気配を消した女将が全て聞いており、嬉しそうに笑みを浮かべながら気づかれないよう出ていった。
宴会場で夕飯を食べているが同年代の者が居らず、華仙の隣で大人しくしている。
話題の中心になる事が必然的に多くなり、親睦を兼ねて参加している鬼達からも話題に出されていた。
「あんな動きするからみんな恭夜の話ばかりしてる」
「俺は恥ずかしいよ……」
褒められ慣れてないらしく、恥ずかしさと居心地の悪さでモジモジしている。
「基本的に身内だけで固まっているし、何をやっても紫からの言葉はご苦労様くらいだものね」
「華仙姉さんが褒めてくれるくらいかなぁ」
出来て当然を求められすぎて麻痺しているが、時代が時代ならお伽噺になって後世に伝えられてもおかしくないレベルの事を既に幾つもしている。
「それよりも私はどうやってあの堅物で有名な慧音をたらしこんだのか気になるんだけど」
「説明しにくいんだよなぁ……まぁ、家に先生が居るから勉強が捗るからいいんだけど」
しばらく二人で話をしていたが華仙が紫に呼ばれて一人になってしまい、手持ち無沙汰で塩焼きにされた川魚を食べている。
鬼も驚く食べっぷりだが、あの動きをした後なら仕方ないと納得されていた。
「何か鬼の方々が色々くれる」
山菜やら余っているお櫃のご飯やらをくれるらしく、美味しくいただいている。
「お酒はダメよ」
「何故か女将さんが隣に座ってお酒を勧めてくる方々を窘めてくれたり、色々持ってきてくれる……」
味噌汁のおかわりを持ってきてくれたり、鰻やすっぽん鍋といった本来出ない物まで運んで来られて困惑していた。
紫は既に許可を出したらしく、見て見ぬフリをして勇儀や萃香等の鬼と話をしている。
これも鬼と人の子を産ませる事で繋がりを強め、恭夜や紫達の死後も鬼達が子や孫達に力を貸し続けるようにする為の布石だった。
「みんなの気持ちだから、遠慮しないで食べてね」
鰻やすっぽんといった食材も、あの闘いを見ていた鬼達が恭夜に食べさせてあげてくれと持ってきたものだった。
「はい」
精の付く物ばかりなのは、最後に気絶して運ばれるのを見たからなのかなと思いながら食べている。
「温泉も一人で入れるように手配しておくから、安心して入ってね」
「そんな何から何までしていただいて」
………
……
…
そんな翌日の早朝
「いやもう自分でもビックリするくらい簡単に引っ掛かった」
「すぅ……」
「死にかけると種を残そうとするからね、仕方ないね。……冷静になると色々やばい」
温泉で背中を流され、話がしたいと言われてホイホイ女将の部屋まで付いていき流されるまま一夜を共にしていた。
「くぅ……」
「満足させて倒したという意味では鬼退治をした事に……ならないよなぁ」
腕の中ですやすや眠る女将の顔を見ながら呟いている。
それから少しして起きた女将と温泉に入りに行き、まだ早く誰もいないからとそこで再び色々としていた。
そして二人して何食わぬ顔で過ごしているが、昨晩よりも距離が近く献身的に恭夜の世話をする女将がやたらツヤツヤしている事に八割くらいの者達は察している。
華仙は溜め息を吐きながらも理解はしており、紫に関しては計画通りといった悪い顔をしていた。
勇儀や萃香はよくわかっていないようで、皆から生暖かく見守られている。
「何か妙に力が漲るような」
「ん? 恭夜、私以外に強い鬼を倒したのかい?」
「え? いえ、それはないと思いますけど」
空いていた隣の席に勇儀が座り、いきなりそんな事を言い出して戸惑っている。
「寝惚けて倒した可能性は?」
「そんな事出来ませんよ」
「それなら……こ、これは関係ないな、うん」
「?」
頬を赤らめながら何か否定している勇儀を不思議そうに見ていた。
強い鬼を複数倒して鬼達からの畏怖を集めるか、心や肉体で深く繋がる事で鬼のような力と強靭さの一端を与えられる。
それはあくまで切っ掛けであり、強い相手と闘い続ければ人の身でありながら鬼のような強さを得る事も可能。
「と、とにかく下地は出来たみたいだから、これからは私も鍛えてあげるよ」
「えっ、でもこの場所から離れたら不味いんじゃ……」
「八雲紫から家の裏が私有地で森のようになっているって聞いたよ」
「まぁ、あの一帯はそうなってますね」
パチュリーが恭夜名義で一帯の土地を空き家ごと買い取っており、近くに新しく家を建てたりされる事もない。
「そこにちょっとした移動用の門を作らせてほしい」
「鬼の門で……鬼門?」
「まぁ、そうなるね。出入りするのにちょうどいいだろうし、そこなら一々角を隠さなくてもいいからね」
「便利なんだなぁ……」
ちょうど森のように鬱蒼とした場所が本来の意味で鬼門なのも、何かの縁なのかもしれない。
「今日帰る時に何人か連れていくから、少しの間だけお世話になるよ」
「まぁ、それはいいですよ」
「食費代わりに山の幸と保存してある猪と熊の肉を持っていくから安心していいよ」
大体自給自足でなんとかなっているが、よく町に買い物に行ったりもしているらしい。
「腕が鳴るなー」
「本当に多芸だねぇ。酔った八雲紫が延々と自慢していて鬱陶しかったよ」
「あはは……」
「お前さんはまだまだ磨けば光るよ」
「自分で磨くにも限度があるんですよね」
後は誰かに磨き方を教わるか、磨いてもらうしかないくらいに成長している。
「ワクワクするよ。自分の手で私が本気を出しても耐えて反撃できるくらいに育てる事が出来るなんてね」
「これは死ぬかもしれん」
かなり手加減されていたのは分かっていたが、本気がどれくらいか分からず少し顔色が悪くなっていた。
………
……
…
また来る事を鬼達と約束し、門を通るのに必要な通行手形にお土産をたくさん貰って下山している。
「女将さんが次は一人で来てねって。その時は無料でいいって」
「それならこっちで修行する時に恭夜は宿が使えるんだね。やりやすくなるわけだ」
勇儀はもう鍛える為のプランを考えているようだった。
「お、お手柔らかに……」
嬉しそうに言う勇儀に少し怯えている。
「本当私の婚約者は幸運を呼ぶ存在ね」
微笑みながら勇儀の相手をしている恭夜を見ていた。
恭夜のお陰で色々プラスになっている事が多く、紫は歴代最高の当主として八雲家に名を刻む程。
「今まで何かにつけて文句を言っていた者達も口を閉ざすしかなくなる程です」
「それはそうよねー。恭夜を確保しただけでも何も言えなくなったのに、その恭夜が更に超有能で詳しく調べたら血筋も垂涎物だったんだから」
「恭夜君のどちらの祖父も途絶えた一族の血筋でしたからね。本人に話してもふーんで済まされましたが」
「服に霊力を誤魔化す細工を出来るわけよね。やや高い程度にしていたんだもの、実際見るまで分からないわよ」
こちら側に関わらせず幸せな一生を過ごさせようという考えだったようだが、その時点では既に手遅れだった。
「弓の名手と近接戦闘特化の祖母、そして人たらしの両親。総て受け継いだようで」
まだまだ知らない彼の両親に惚れ込んでいた者達が世界中に居り、スカーレット夫妻のように積極的に接触してこないが恭夜の事はしっかり見守っているらしい。
「どんな子を誰が最初に産むのかしらね。男の子で霊力が高ければ完全に種馬になりそうだけど」
家の血筋を絶やさない為に嫁に行けず、子供だけでもという名家からの打診が最近は増えていた。
混血の子は強いかもしれないからね、仕方ないね。
真4Fの追加アプリに故意に事故を起こすのがないとかね。
一番欲しかったアプリがないし、事故でしか作れない悪魔がたくさんいるのに困る。