キメラ的な何かになりつつある
とある満月の日、約束しましたからと嬉々とした顔で早苗が小瓶に入った血を持ってきていた。
レミリアがそれを面白そうに見ながら泊まっていく許可を出し、早苗は当たり前のように恭夜の部屋に隠していたお泊まりセットを取り出している。
「俺の部屋なのに女性物の服とか下着とかあるっておかしいよね。毎回俺の着替えを出そうとしてそわそわしちゃうんだけど」
霖之助に安く譲ってもらったお気に入りの箪笥を持ち込んだのが仇になり、自身が使っている部分以外は既に皆の下着やらが入っている。
「最初は私だけだったのに……」
美鈴や小悪魔、パチュリーまで置いていくようになった事で咲夜は少々不満そうだった。
「みなさんのお陰でクローゼットにこっそり混ぜておいてもバレませんでした。小さいメイド服の詳細が知りたいですね」
早苗以外にも隠している者がいるようだが、勝手に触れない紳士の部分があるからか気がついていない。
「ルナ、サニー、スター、チルノ、大ちゃんのやつだよ」
好感度が振り切り始めた頃から置いていくようになり、自分に断ってからだし別にいいかと放置している。
「私も置いていきますね」
「別にいいけど、俺が早苗の服に顔を埋めたりするとか考えないの?」
やらないけど、と心で付け加えて尋ねていた。
「寧ろそれをしてほしくて置いていきます」
「匂いフェチで最近は脚フェチにもなった恭夜にはご褒美なのかしら……」
「な、何故バレたし」
咲夜の地道なアピールやらで脚もいいなと思い始めた事がバレていて思いっきり動揺している。
「だからこの前泊まりに来てくれた時に私のふとももをこう、やらしく撫で回して」
「早苗は地味にリアルな嘘吐くなよ!」
「そうよ、恭夜はしても頬擦りくらいしかしないわ」
「誤解を招くから咲夜もやめて!」
一度寝ぼけて枕にするように咲夜のふとももに頬擦りをしたらしい。
「綱渡りなのに恭夜はちゃんと安全な道を進むのよねー。パチェが変態になっちゃったのも恭夜が原因なんだけど」
「あらレミィったら失礼ね。私は愛に素直に生きているだけよ」
「恭夜を一番風呂に入らせて、次に小さな瓶を幾つも持って入っていく姿を見たらこうもなるわよ」
もう手の施しようがないくらい突き抜けているらしく、レミリアも生暖かい目で見る事しか出来なくなっている。
「恭夜またあれやってくれないかしら……」
「あの外のお笑い芸人の真似? 果実酒をガンガン飲んで酔って滑るの承知でやって、ちょっと争いが起きたアレ?」
「『みなさん。恭夜のここ、あいてますよ』ってやったから行こうとしたのに、あの半獣が当然のように納まって……」
慧音もなかなか強かで、何をするのか察して近くで待機していたらしい。
「あの勝ち誇った顔は皆の闘争心に火をつけたわね。恭夜は巻き込まれないように妖精達が引っ張っていってたし」
「やっぱり今晩にでもやってもらおうかしら」
………
……
…
「フラン、最近の恭夜はどんな感じ?」
「あ、それ私も気になる」
「いつも通りだよ。満月の夜にお姉様と私を相手にしても恭/夜になる回数は減ってきたけど」
ぬえとこいしが泊まりで遊びに来ており、ダラダラと過ごしていて唐突に話を振られて答えていた。
「恭夜ったら最近遊びに来ないから気になってたんだよね」
「私も。お空も連れてこようとして、いっつもお菓子と茹で玉子で誤魔化されて帰ってきちゃうし……」
空の扱いに慣れたらしく、愛でるように構ってあげると満足して帰っていくようになっていた。
「恭夜は基本的にインドア派だから仕方ないよ」
大体フランの為に紅魔館に居る事が多く、探すとすぐ見つかるからフランは安心して生活が出来ている。
「いつものように恭夜に付いていった時に里で見たけど、仙人トライアングルの中心にいた時は顔色悪かったなぁ」
こいしは恭夜が華仙、青娥、神子に囲まれて誰の元で修行をするかで窮地に立たされていた所を見ていたらしい。
「私はあれだね、山で厄神に捕まって一緒に回ってたの見たよ。あの恭夜がちょっと泣いててビックリしたなー」
気持ち悪くなっても止めてくれず、ちょっと泣きながら懇願している所にぬえは遭遇したらしい。
「私は恭夜が外に行きたくないってよく呟いてる理由が分かった気がする」
そしてそれからすぐ満月が空に浮かび……
「それじゃあ、早苗達の血をいただくから」
吸血鬼化して昂っているのを抑えながら、早苗に渡された小瓶の蓋を開けている。
三柱の神の混ざった神聖な血だからか嫌な予感がし、そわそわしながら飲むのを躊躇っていた。
早苗の期待する目を見て覚悟を決め、一気に小瓶の血を飲み下していた。
「何かピリピリする……」
「逆にピリピリするってだけなのが凄いわよ。私だったらあんな清らかな血は苦しくてバッタンバッタンのたうち回ると思うわ」
「神と悪魔と人間の血を取り込んで、血だけならキメラね」
レミリアとパチュリーが紅茶を飲んでいる。
「……うへへへ」
「早苗、乙女のしていい顔と笑い方じゃないわよ」
恭夜が自身の血を取り込んだ姿を見てにへらーっとする早苗に咲夜が突っ込んでいる。
「お嬢様、今までより風を上手く使えるような気がします!」
手のひらに小さな竜巻のような物を生み出して見せていた。
「パチェ、力までキメラみたいになってるじゃない。私の恭夜が少しずつ謎パワーを得ているわ」
「今度は私と咲夜以外にも魔理沙とアリスとあの住職の血を混ぜて飲ませてみましょう。もしかしたら魔法も上手くなるかもしれないわ」
パチュリーはどうしても試してみたくて仕方がないらしい。
「やっぱり私の血が恭夜さんと一つになったと考えると興奮しますね!」
「ちょっと引くわ」
咲夜はそんな早苗に慣れてはいるが、目の前で堂々と言われて引いてしまっている。
「またまたー。咲夜さんだって恭夜さんが今まで自分の血を飲む姿を見て、内心興奮していたはずです!」
「……はっ!」
そう言われて考えてみたらちょっと興奮し、目の前でニヤニヤする早苗を見て正気に戻った。
「やっぱり!」
「ふふっ、レミィあの二人が言ってる事は私が一番最初に通過した場所よ」
「パチェの開き直り具合がもう清々しいわね……恭夜が来た当初の『私には関係ないし全く興味ないわ』とかクールに言っていたのが嘘みたい」
ファサッと髪をやりながら言っていたらしく、当時のレミリアはそれも仕方ないかと納得していたようだが。
「それからも私は冷たい対応をしていたのを今になって後悔してるわ。小悪魔を遣いに出していたから自分で本を探しに行った時に喘息の発作が起きて、このまま死ぬんじゃないかって時に駆けつけてくれて……それからは忙しいし自分の物を買いたいでしょうに、私の為に高価な果物を買ってきてくれたり」
「あの広い中でパチェを素早く見つけた恭夜は凄いと思ったわ」
「あの時は不思議だったけど、今ならハッキリ言えるわ。あれは恭夜が私に対して持っている愛の力だったのよ」
脳内がお花畑になっているパチュリーは自分にとって凄く都合のいい解釈をしている。
「あの時の恭夜は咲夜と美鈴と小悪魔だけ見てたと思ったけど……」
「そんな事はないわ。いつも私が欲しいと思うタイミングで紅茶を持ってきてくれたり、眠りそうになった時は声をかけてくれて部屋まで連れていってくれたもの」
「へー」
一時的にパチュリー担当にしていた事は黙っておくべきかと考え、何も言わずにその言い分を聞いている。
「その日の夜には恭夜の部屋の合鍵を作って、小悪魔の部屋に乗り込んであの子が集めていた情報を貰ったりしたわ」
夜中にこっそり合鍵を作る作業をしていたらしく、小悪魔には情報と引き換えにもう一つ合鍵を作って渡していた。
「それは知りたくなかったわ……恭夜がフランと遊んでいてよかったわね」
紅魔館から少し離れた場所から何かがぶつかり合う衝撃音が聞こえてきている。
「別に聞かれても困らないもの。咲夜と一緒に働いている時間、ドキドキしながら初めて部屋に入った時の事は今でも思い出せるわ……」
「……」
恋する乙女の顔でそう語るパチュリーにドン引きしていた。
「入ったら内側から鍵をかけてから殺風景な部屋を見て回って、それからベッドに入ったの」
「でしょうね」
何でこんな話を聞かされているんだろうと思いながら頷いている。
「聞いてはいましたけど、凄い戦いですね……」
フランと高速でぶつかり合っている姿を見て早苗は呟いていた。
氷の剣、炎の槍、風の盾と使い分けているがレーヴァテインで軽く薙ぎ払われている。
致命傷になりえる一撃だけは時を止めて回避し、サニーとチルノとの縁を深めて会得した複合技の見えない氷柱を飛ばして反撃している。
「それよりいい機会だから聞きたいんだけど、恭夜が外の世界に居た時の事を詳しく知りたいの」
「いいですよ。あれはですね……」
………
……
…
居候させてもらう事になって数日、早苗よりも早起きをして博麗神社でするように境内の掃除を始めていた。
「いつ見えてる事を東風谷さんに話そう」
ここ数日は深夜に諏訪子が布団に入り込んでくるらしく、毎朝神奈子が無理矢理引き剥がして連れ帰っている。
『あーうー』
寒そうにしながら恭夜を探しに出てきていた。
『あー、実体がないのに寒いったらないよ』
「……」
背を向けて丁寧に掃除をして聞こえないフリをしている。
『いい子なのに惜しいなぁ……』
『それでも早苗の婿になるには最低でも私達が見えないとダメだよ。……まぁ、今時には珍しい妥協してもいいくらいの力はあるけど』
「……」
『でも時々私達の動きを目で追ってる時があるような気がする』
『それはあるね。廊下ですれ違う時に向こうから避けたりしてくるよ』
「……」
無意識に避けたり、動きを目で追ったりしていたらしい。
『それに互いに触れるって事は見えてないとおかしいよね』
『諏訪子が触れるくらいだもんね』
そう言いながら挟むようにして立ち、掃除をしてポーカーフェイスをしている恭夜を至近距離で見始めた。
「今日から迎えに来てほしい……か。学校まで行くのはいいけど不審者と思われたら嫌だなぁ」
『あっ……(察し)』
『早苗も自慢したいんだろうね。友達が彼氏自慢してきて、あの子にはいないのにいるって言っちゃったって騒いでたし』
色々とタイミングもよかったらしい。
「調べてみたら学校の近くに美味しい洋菓子屋があるみたいだし、再現の為に色々買ってみようかな」
『ケーキ!?』
『どうせなら私はプリンがいいな』
「そろそろ東風谷さんが起きてくる頃か」
掃いていたゴミを塵取りで集めながら呟いていた。
夕方まで町を散策したりして過ごし、学校が終わる時間に早苗に教えられた場所まで来ている。
帰る生徒達の邪魔にならないように少し離れた場所の壁に寄りかかり、パーカーのポケットに手を入れてボーッとしていた。
前を通りすぎる女生徒達がチラッと自分を見てはキャアキャア言いながら去っていくのが落ち着かなく、そわそわしながら早苗が出てくるのを待っている。
「あ」
友達なのか何人かの女生徒と共に早苗が出てくる姿が見え、軽く手を振ってここにいるアピールをしていた。
早苗も恭夜に気がついたらしく嬉しそうに手を振り返している。
周りの友人達は驚いたような顔をしながら、早苗に何かを問い質していた。
時折「嘘!?」だの「羨ましい!」だの聞こえてくるが、何を説明しているのかは全く聞こえてこなかった。
「お待たせしました」
「いや、いいよ。……でもいいの? 友達と帰らなくても」
「はい!」
まだ何か騒いでいる早苗の友人達に頭を下げ、そのまま二人で帰り始めた。
気になっていた洋菓子店に早苗と入り、テイクアウト用にプリンとケーキを四つずつ購入。
お茶が出来るスペースがあるのを見てケーキセットを二つ注文して支払い、早苗と共に先に席へ着いていた。
「あー、あったかい。神様へのお土産にはちょいとあれかもしれないけど」
「大丈夫ですよ。寧ろ喜ぶと思います」
「まぁ、それならいいんだけど」
その後は早苗の話を聞きながら相槌を打ち、それぞれ違ったケーキが届けられて自然に食べさせあったりと端から見ればカップルその物だった。
恭夜にとっては笑みを浮かべながら行う自然な事だが、早苗にとっては全てが初体験で嬉しさや恥ずかしさで顔を赤くしていた。
思わず砂糖を吐きそうな姿である。
そのままぎこちなくなった早苗と会話を楽しみ、暗くなり始めた頃に店を出て家路に着いた。
神社への階段を並んで上っていると、上から神様二人がこちらを見ている姿が目に入る。
いつもより遅かったのを心配したらしく、ホッとした表情で二人を見ていた。
出迎えようと諏訪子が足を踏み出したが何かに躓いたらしく、思いきり階段に身を投げ出す形で飛び出してしまっていた。
神奈子が慌てて掴もうとしたが手遅れで、雑談をしながら上がってくる二人も勢いよく落ちてくる諏訪子に驚いている。
咄嗟の判断で恭夜は早苗にケーキやプリンの入った箱を渡し、そのまま駆け上がり諏訪子が階段にぶつかる前に抱き止め。
落ちてきた諏訪子の勢いを殺す為に抱えたまま大きく後ろに飛び、常人ではありえない身体能力を発揮して階段の一番下に着地していた。
「……セーフ」
『……』
「だ、大丈夫でしたか!?」
一部始終を見ていた早苗は慌てて駆け降り、二人に怪我がないかを確認していた。
「大丈夫。それより焦ったなぁ……」
『見えてるの? ねぇ、見えてるの?』
「ええ、最初から見えてます」
腕の中で頻りに聞いてくる諏訪子に答えている。
『……あーうー!!』
色々やらかしていた事を思い出して妙な声を上げていた。
………
……
…
神社内なら実体化出来るとの事なので改めて二人は実体化し、諏訪子は当然のように恭夜の胡座の上に座っている。
「東風谷さんが何も言わなかったし、俺だけに見えているんじゃないかと思いまして」
「何となく見えてるんじゃないかと思ってはいたけど……私が見えてないと思ってした恥ずかしい姿を見てたんだね」
諏訪子は後頭部をグリグリと恭夜の胸板に押し付けていた。
「しかし早苗は見る目があるねぇ」
「うーん……ただの一目惚れだっただけなんです。あっ、もうこの人意外考えられないって感じはしましたけど」
「早苗には見抜く力でもあるのかもしれないね。……あそこまで自然に一般人に擬態出来るような奴だし」
諏訪子がフィットしている恭夜を見て呟いていた。
その後すぐに色々試したいと二柱の神に言われ、結界を張った境内に出ている。
「ビリビリ来てますけど」
「……ビリビリ来るだけ?」
「本当に人間?」
全盛期からかなり劣っているとはいえ二柱の神から放たれる神気をまともに受けて、ただビリビリ来てるとだけ言う恭夜に神奈子は本当に人間なのかを疑っていた。
「やっぱり素敵です」
恋する乙女は無敵で盲目である。
「うーん……」
幽々子を初めて見た時に死を間近で感じた経験からか、並大抵の事では呑まれなくなっていた。
それから毎日早苗を迎えに行く事になり、待っている間に何度か女生徒に話しかけられたりしている。
遊びに誘われたりした時は紳士的に対応してやんわりと断り、早苗が来ると仲良く買い物をしたりしながら帰っていた。
………
……
…
「って感じでしたよ。ゲームセンターで遊んだり、たくさんデートしましたし」
ムフーっと満足げに語り終えている。
「恭夜が楽しんでいたのならよかったわ。寂しかったけど、よくしてくれた人がいたって言ってたのよ」
その渦中の存在は遠くでフランに蹴り飛ばされて地面に叩きつけられていた。
そして勢いをつけて落下してきたフランの鋭い一撃を腹に受け、恭夜を中心に軽くクレーターが出来ている。
「うわぁ……でもフランも楽しそうだし、破壊衝動をここぞとばかりに解消できているし、これでいいのかしら?」
「痛みに強くなった訳じゃないから毎回苦しいって私に、私『だけ』に言っているわ」
レミリアとパチュリーはそんな光景を見ながら話し合っていた。
「でも外に居た時は私に好意を抱いてくれていたはずなんですよね。ちょっと記憶を弄ったって紫さんが言ってましたけど、お別れの時以外はそのままって話ですし……それなのに何かちょっと好意が下がった気がします」
「当たり前だと思うわ」
「生着替えとか男の人は嬉しいって聞いたんですけどね……」
「そういう所がダメなのよ。ここぞという時にチラッと見えるくらいにしないと」
咲夜はそういうテクニックを持っているらしく、恭夜には見られた方が嬉しいと思っているが恥じらう姿を見せて意識させている。
「うーん……」
「それに恭夜があの店主に言っていたけど、『全裸には萌えがない』らしいわよ」
こっそり付いていって立ち聞きしていたらしい。
「それは聞いた事があります。ですから恭夜さんが入っているお風呂に間違えて入っちゃう時は水着ですし」
「何で間違えて入るなんて事があるのよ。寧ろ何で水着まで着て入るのかしら?」
「私が入っている時には絶対入ってきてくれないですし……」
「そんなのは当たり前でしょ」
「ちょっとえっちなラブコメを私は期待してるんです! メインヒロインは事故で覗かれたり、押し倒されたりするんです!」
「えぇぇぇぇ……」
流石の咲夜もそんな早苗に引いている。
「鈴仙さんや咲夜さんみたいなアドバンテージは私にはないですからね。グイグイ行かないと」
「それで引かれてたら意味ないわよ」
「私の圧倒的ヒロイン力が強すぎてちょっとアレでしたか」
「私の話が通じていないのかしら……」
「でもこんな話をしている間に恭夜さん、フランさんにボッコボコにされてますね」
早苗が双眼鏡で二人を見てみると、ちょうどフランブリーカーを喰らって恭/夜になっている所だった。
グロテスクな光景だがいい加減見慣れたらしく、痛そーとだけ呟いている。
「フランドール様はお優しいから、恭夜をくっつけてあげているわね」
恭夜のAパーツとBパーツをくっつけ、大人しく再生するのを待っていた。
「あ、ちょっとだけ血を舐めてますね」
「あの頼りになる護衛も見てるわね。相変わらず大きいわ」
八尺様も離れた所から見ているらしく、咲夜はすぐに見つけている。
「ちなみに大きくて柔らかくてひんやりしてて、たまらないらしいですよ。ソースは恭夜さん」
「どこの話なのかしらね」
「膝枕してもらいながら言ってました」
「あら、そうなの」
何故か咲夜はホッとしていた。
「あ、気絶した」
「空気だった美鈴は恭夜を回収して私の部屋に運んで、ベッドに寝かせておいてちょうだい。私は壊れたり、壊した所を直しておくから」
パチュリーは無言で二人の戦いを見ていた美鈴に声をかけ、そのままクレーター等を直しに向かっていった。
………
……
…
「え? 早苗に関して?」
「ええ。今は妖精メイド達が見ているから安心していいわ」
パチュリーの部屋でメンタル面を癒され、風呂に入ろうと部屋に戻った時に咲夜に呼び止められていた。
「咲夜は早苗の何を聞きたいの?」
「今と外にいた時の違いかしら」
「恥じらいがあって後輩属性だったのがなくなったくらいかなぁ……」
あのままで押していれば間違いなく恭夜は落ちていたが、早苗はそれを知らない。
「なるほど」
「後は肉付きがよくなったくらいかな」
パチュリーのように恭夜好みの体型を目指したらしく、程よく肉をつける努力をして維持しているようだった。
「セクハラになるから本人に言うのはやめなさいね」
「寧ろ向こうから『どうですか?』って聞いてくるからなぁ……」
そんな会話を繰り広げている二人とは別室で、早苗は小悪魔に美鈴とお茶をしながら話をしていた。
「私と魔界に行っていた時は欲望に忠実でしたよ」
「珍しいわね。死闘をほぼ毎日繰り返したって話は聞いていたけど」
「悪魔の女王三人に振り回されたって話は私も聞いてますよ」
最初の一週間くらいしか聞いていないが、残りも想像がつくような話だった。
「小さな女の子……って言っても恭夜さんより年上なんですけど、その子の手術代+入院費+移動費分以上の額をポンと出したりしてたんですよ。後は売れ残ってたセクシーな女悪魔の食玩を箱買いして、何十箱に一個しかないほぼ全裸のフィギュアを手に入れていたり」
食玩は一箱だけ試しに買ったようで、恭夜が欲しかったのはメイド服を着た女悪魔のフィギュアだったようだが。
「前半はただ何も考えないで出しただけでしょうね」
「後半はきっとメイド服を着た悪魔のフィギュアが欲しかったんですね。部屋に飾ってありましたし」
それ以外は袋に入ったまま適当な引き出しに入れてあったりする。
「……恭夜さんの欲望って何なんでしょうか」
「食? 最近魔界の謎果物を育てているし」
「全裸には萌えがないって言ってますし、女の子がコスプレしてるのを見る事ですかね?」
外に居た時に着ていたセーラー服を着て見せると、普段しないような動揺をしたのを見て確信したらしい。
「後は睡眠ですね。三大欲求を見事にカバーしているのは流石と言うべきなんでしょうか」
小悪魔と一線を越える手前までの行為はしていたりするが、二人だけの秘密で誰もそれを知らないからバレたら色々と危うい。
………
……
…
「恭夜と一緒にお風呂入るの久しぶりだよねー」
「フランの羽が俺に刺さりそうだし、位置取りが大切すぎる」
上手いこと一緒に湯船に入っており、地肌に刺さらないようにしている。
「恭夜も吸血鬼化した時に羽が生えればいいのにね」
「フランとお嬢様の血が混ざってるから、アンバランスな羽が生えてきそう」
「それなら私の血が多くなればお揃いになるかな? お姉様のより私のが綺麗だよ」
「あまり取り込みすぎると怒られちゃうから。一定量の血が失われると人間に戻るようになるのが永遠亭調べで分かったけど、正直かなりのデメリットだなぁ……下手に腹とかに穴が開いてる時に人間に戻ったら死んじゃうし」
満月の時は多少戻りにくくなってはいるが、加減してもらわないとあっさり人間に戻って死んでしまいそうで怖くなっていた。
「その時は私の血でまた吸血鬼になればいいんだよ。今度は私の血だけだから、きっと今より強くなるよ!」
名案でしょ!と言いたげな笑顔で言い切っている。
「完全に吸血鬼になっちゃうかもしれないからそれはダメかな」
「えーっ!」
「フランがボンキュッボンのセクシー吸血鬼になったらこっちからお願いすると思うけど」
冗談半分でそんな事を言い出していた。
「むー……約束だからね」
「はいはい」
自分が生きている間には絶対無理だろうと思っている。
外の世界仕様のままだったらヒロインだった。