特別編 上には上すぎる者がいる
「ふふふ、恭夜くーん」
「あれ、ナイア状態で来るなんて珍しい。いつもはこうラノベにありそうな可愛いアンテナ付きの見た目で来るのに」
食後のお茶を飲みながら背後から抱きついてきたナイアにそう告げている。
「今日はあの小うるさい三人娘がいないからね。ボクだって君を独占したいんだから」
「俺がかまわないからって聖書の獣と貧乏探偵の世界をいじって遊んでたくらいだもんな。テリオンの拳は超痛かったわ……」
一番迷惑をかけた存在だから地面が磨り減るんじゃないかという土下座をして、気の済むまで殴ってくれて構わないと告げると首がもげるんじゃないかという一撃をもらったらしい。
「ボクはデモンベインを遥か上空まで打ち上げる拳を受けても生きていた恭夜君に驚いたよ。というよりもあの場に居たみんなが引いていたね」
上空に吹き飛ばされ首がもげて死んだと思われていたようで、痛い痛い呟きふらふらになりながら戻ってきた恭夜にみんな引いていたようだ。
「解せぬ」
「このボクやあのマスターテリオンを引かせるなんて凄い事だよ?」
「全然嬉しくない。……確か今もアンチクロスは暗躍してるんだよね。遊びに行った時に覇道さんに拉致されて延々愚痴られたけども」
九郎達とは互いに行き来する仲で、何度目かの時に運悪く捕まってしまったらしい。
「トップが行方を眩ましたから世界征服に邁進しているよ。きっとピンチに助けに来るおいしいポジションを狙ってるに違いないとボクは睨んでる」
「いや、それはないだろ。それよりこれから何する? スマブラやる?」
三人は泊まりで出掛けているから暇すぎたらしく、二人で何をしようか考えた結果がスマブラだった。
「いい年をした男と女が二人きりなんだよ? ベッドの上の格闘技に決まっているじゃないか」
「えー……」
「今日はメイド服を持ってきたんだ」
「ほら、早く部屋行くよ」
不満そうだった顔が一瞬で変わり、抱きついているナイアを急かしていた。
「メイド服が大好きだって事は諏訪子と神奈子から聞いてたけど、まさかここまでとはね」
ちなみに世界中の神様にメイド服が好きなのを知られていて、様々な世界で四苦八苦する姿を動画形式で見られていたりと娯楽の一部になっている。
「でもどうせなら次はあのラノベ風な見た目で来てくれてもいいのよ?」
ちょっとでもロリっぽい方のが好みらしい。
………
……
…
そんな楽しい一日を過ごした翌日、若干やつれているが満足そうな顔で朝食の準備をしている。
ナイアはツヤツヤしていて、早朝に風呂に入るとすぐに帰っていった。
「眼鏡とメイド服とか最強過ぎるだろ……エセルにバレませんように」
証拠は完全に隠滅しているが、一番鋭いエセルドレーダを警戒している。
「ダンセイニは掃除と洗濯が出来る高性能ショゴス」
恭夜が洗濯して篭に入れていた物を庭で干していて、てけり・りと言う声が時折聞こえてくる。
「確か昼前には戻るって言ってたな。ルルイエ異本はまた紅魔館に篭るみたいだけど」
週五日は紅魔館に住んでいて、恭夜の家に居るのはかなりレアだった。
「マスター! 精力を増強する薬を貰ってきました!」
「早いご帰還はいいんだけど、お前は朝から何を言ってるんだ」
賢者モードで冷静に対処している。
「嬉しくてつい」
「まぁ、いいから箸とか運んで。今からエセルの分も作るから」
追加でもう一人分の朝食を用意し始めていた。
そのまま仲良く朝食を食べ終え、今日の予定を確認しながらエセルドレーダが持ってきたお茶を飲んでいる。
「リベル・レギスやデモンベインで使えるようになった輝くトラペゾヘドロンって正直言えばチートだよな」
二本所持している事になっているが本人は世界改変の詠唱が違うだけで一本だと思っている。
「世界を改変する事が出来るようになったマスターは更に素敵です」
ただし詠唱が長いので戦闘向きではなく、斬ったり突いたり振り回したりして封印した方が遥かに強い。
「荒ぶる螺旋に刻まれた、神々の原罪の果ての地で。血塗れて、磨り減り、朽ち果てた。聖者の路の果ての地で……ってまだまだ長い詠唱をしないといけないのがなー」
「それでも切り札になりますから詠唱の練習はしっかりお願いします。私と一緒に詠唱するのとアルと一緒に詠唱する二種類ありますからね」
余所の世界で厄介な存在を敵に回した時に使えるようにしようと、四人で何度も話し合った末に決めていた。
「ちょっと大変だけど任せとけ。しかしこの前行った世界は最初目玉が飛び出るかと思ったな」
デモンベインで技名を叫び始めてから中二回路がギュンギュン唸っていて、そんな詠唱も毎日楽しく練習している。
「三國志の有名な武将が女性の世界でしたね」
「魏には半人半霊でとんでもない強さの俺が居たのも予想外だったし。物理も魔術も野太刀で捌くとか超人過ぎて引いた」
某EDを迎えた後に数百年かけて到った存在だったらしく、マギウス・スタイルで三人娘から身体強化諸々を全力で掛けて貰い自身もフルパワーを出してようやく五分になるくらい。
「あれは正真正銘のラスボスです。『弱いな、手加減してやる』って言っておきながら三手先までを完全に読んで、マスターの行動を封殺していましたし」
しかも相手が手加減状態でようやく五分になっていたらしく、当たると確信した攻撃も斬り弾いたりと超チート性能だった。
「圧倒的すぎて今まであった自信とか木っ端微塵になった。呉にいた眼鏡で白衣だった俺は蓬莱人だったしなぁ」
三週目の世界から来たらしく種馬としてもしっかり働き、様々な薬も作り簡易的な手術もこなしている。
「マスターの相手をする時だけ出て来てましたね。ビルすら切り裂くバルザイの偃月刀を真剣白羽取りで止められて、ルルイエ異本のように邪神の一部を召喚しての攻撃でマスターが吹っ飛んでました」
「あれは超痛かった……」
クトゥルーの鉄拳をモロに喰らい、マギウス・スタイルが解除されてのたうち回るほどの痛みに襲われていた。
「油断と慢心がいけなかったですね。以後あの二人の相手を強制的に任されるようになりましたけど」
某三人娘に拾われて祭り上げられていたらしく、機を見て逃げる事も出来なかったらしい。
「死ぬよ!?って言ったら、ご主人様なら大丈夫!とか満面の笑みで言われて断れなくなったんだよなぁ」
「少女から未亡人にまで手を出したぐう畜なマスターですから仕方ありません。私がマスターの凄い所を少し盛って話をしておきましたし」
酷い目に遭っていた原因はエセルドレーダだったらしく、自分達を蔑ろにしていた恭夜へのお仕置きも兼ねていたらしい。
「事実だから何も言えない……てか盛ったって何を」
「世界の危機を幾度も救い、牙なき者の為にその力を振るう素晴らしい存在なのだ、と」
少しどころか物凄く盛って話していた。
「何そのヒーローみたいな人物像。手合わせをやたら申し込まれて俺が泣きそうだったのもそれが原因かよ」
本当はただの女好きなロリコン魔導師であり、身内や知り合いの安全が第一と考えている小さな世界の守護者である。
「でもマスターはなんだかんだ無敵でしたよね」
「最終的には頭の中で種が割れたような気がした。切れ味抜群のはずのバルザイの偃月刀、何度あの二人に破壊されたかわからんし」
「忘れましょう、あの二人は正に悪夢です。私とアルの魔術を刀で叩き斬るラスボスなんて忘れましょう」
結構なトラウマになっているようでエセルドレーダは必死に忘れようとしていた。
「時すら斬るような化け物の事は早く忘れよう」
………
……
…
それから数週間が経ち、嫌な事をすっかり忘れて毎日ダラダラ過ごしている。
その間は九郎と向こうのアルが遊びに来て、こちらのデモンベインを一緒に見たり、九郎の銃を見せてもらったりと充実した日々を過ごしていた。
「何だか爛れた日々を過ごしてるなぁ」
「マスターが百戦錬磨の性技の味方すぎて私達はもう離れられません」
エセルドレーダは玉座に座る恭夜の膝に乗り、胸元にすりすりしている。
「妾も今はあの世界で皆が争わなかった理由がよく分かる」
寝転がってノートPCでゲームをしながら争いが起きなかった理由をここ数日で理解していた。
「一人だと身体がもたない」
貪欲なルルイエ異本でも厳しいようだった。
「あの、お前達のニュアンス的に正義じゃないよね?」
何となく察したようだが認めたくはないらしい。
「はい、どちらかと言えばマスターは悪寄りですし」
「互いに争わせて漁夫の利を狙おう、とかナチュラルに言う汝のどこが正義なのか妾に三行で説明を頼む」
「性的な技術の性技」
三人娘はそれぞれ間髪入れずに突っ込んでいた。
「うん、知ってた」
「でも私はそんなマスターが大好きです」
「……もうエセルだけでいいような気がしてきた。ここまで愛されてるのがわかる女の子は他にはいない」
ストレートに大好きと言われて思わず抱き締めている。
「汝らは所構わずイチャイチャイチャイチャと……」
「自宅だしいいじゃないか。慧音が居るわけでもないし」
「嫉妬は見苦しいわよ?」
イチャつき具合がだんだん過激になっていた二人だが、アルの言葉に反応して返していた。
「五分交代」
「……ふむ、ならば次は妾だな」
ルルイエ異本の提案にこれ幸いと乗っかり、さりげなく次の番をキープしている。
「仕方ない、エセル交代してあげて」
「……御意」
最後に強く抱きついてから嫌々恭夜の膝から降り、ルルイエ異本の後ろに並んだ。
「よし。……妾にもだな、その、さっきのをしてほしい、というか」
膝に乗るとデレデレモジモジしながら他二人の事を忘れて甘え始めている。
「……アルは可愛いなぁ!」
そんな可愛らしい姿を見て我慢できなくなり思いっきり抱き締めていた。
「そ、それでいい……」
「エセルとはまた違ったいい匂いがするし、柔らかいし、普段ツンツンしてる分このデレデレ具合がたまらん」
ここ数年で知り尽くしたアル好みの強さで抱き締めながら囁いている。
「……はっ! ち、違うぞ! 妾は恭夜に合わせただけだ!」
そのままデレーっとしていたが視界の隅でニヤニヤするエセルドレーダとルルイエ異本を見つけ、言い訳をしながら一気に顔が赤く染まっていく。
「アル、いいのよ? マスターの甘やかせスキルは神の域だし、私も我慢できないもの」
「そろそろ五分」
「……いっそ皆で甘えるというのはどうだ? 幸いそこに取り込んだばかりの布団もある」
まだ離れたくないらしく、視界に入った布団を見て思いつきで発言している。
「敷いたわ」
「早く」
畳んであった布団を速攻で二つ敷き、掛け布団まで用意した二人が手招きをしていた。
「いや、ちょっと待て。それやると甘えるだけで止まらないだろお前達」
「今日は依頼もない、来客もない日だと汝は言っていたぞ。もう昼からでもいいではないか」
「性欲魔神という二つ名をあの半獣から与えられたマスターなら昼からでも余裕なはずです」
「性書の獣」
もう止まるに止まれなくなった三人はあの手この手で引き込もうと必死だった。
「ルルイエ異本が上手いこと言ったって顔してて可愛い。まぁ、でも据え膳食わねばなんとやらか……爛れた日常だなぁ」
………
……
…
そんな爛れた日々を過ごしていたが、過去の動画を見終えた神々の新しい珍道中が見たいと要望を受けて異世界送りにされていた。
そしてこちらの世界では一日も経たずに帰還、動画形式で新しい珍道中が編集されて神々に送られている。
「まさかあの世界でまた怪獣的なのと戦う事になるなんてなー。正直色々あって凄く怖かったが」
もう抵抗するのは諦めて違う世界を楽しむ事に決めたらしい。
「デモンベインにリベル・レギス、アイオーンまで改造されて妾達の戦力が一気に国を軽く滅ぼせるレベルになったな」
「全て元々の倍以上になりましたね。初めて見る技術に皆が目を輝かせながら改造していました」
「デモンベインが一番伸びた」
三体共フルカスタム済みらしく用途に応じて使い分ける事も可能になっていた。
「ロリコン扱いされるのも慣れたものだったぜ。怒りは敵にぶつけるもの」
特に害はなく寧ろ小さい女の子が絡まなければ超紳士で、男性陣とは仲が良かった。
「女性陣には魔力の関係で仕方がない事と分かってもらえてよかったな」
「まぁ、もう行く事もないだろ……ないよな?」
無事に戦いは終結したはずだがちょっと不安になっている。
「似たような世界は無限にある」
「マスターはこれからも似たような世界に送られるでしょうね。寧ろ私達的にはその方がマスターの戦闘データも取れますし、それに合わせた内部のカスタマイズも出来て嬉しい限りです」
「『光射す世界に、汝ら闇黒棲まう場所無し! 渇かず、飢えず、無に還れ!!』と気持ちよくノリノリで叫んでいたな」
「やめて!」
相変わらずその場の空気に呑まれやすく、真似て叫んだ事を今後悔していた。
「ふっ、アルは昇華!だけだものね。私なんてマスターと一緒に『ハイパーボリアァァァ……ゼロドライブ!』って叫べて幸せだったわ」
「もうやめよう? ね、やめよう? これ以上は俺のハートがさ」
「『アトランティス・ストライク!』って叫んでた」
ここぞとばかりに追い討ちをかけるルルイエ異本は幽香に気に入られるくらいにS。
「アーアーキコエナーイ」
両手で耳を塞ぎ声をあげて聞こえないようにしている。
「……部隊で一番の変態という称号を付けられていたのは妾達の秘密にしておこう。流石に憐れになってきた」
「マギウス・スタイルがピチピチで、私達三人によるマスターの嫁宣言で一気にとても強い変態紳士扱いをされていたわね」
「間違ってないから否定出来なかった」
とてもがんばっていたのに扱いはかなり不遇だった。
妖夢エンド数百年後の恭夜>>>(越えられない断崖絶壁)>>>三週目恭夜>魔導書持ち恭夜>>>(越えられない壁)>>>本編恭夜
・妖夢エンド後の恭夜
幽明求聞持聡明の法で分身したり、時すら斬り裂いたりと手のつけようがないくらいの超化物。
妖夢と子供と主人である幽々子が大好きで、早く帰りたいと思っているが拾われた時の恩返しと帰還方法不明の為に戦っている。
・三週目恭夜
医術や薬関係に超特化した戦う蓬莱人のお医者さん。
奥さん予定が色々とおおらかすぎて性に関しては超自由。
この世界でも手を出せる範囲には手を出しており、死なないし帰るのはいつでもいいやと楽しんでいる。
・魔導書持ち恭夜
言わずもがな特別編主人公。
拾われて祭り上げられてしまい、抵抗せず流れに身を任せていた。
好感度がカンストした皆には当然のように手を出している。
成熟した女性が好きなようだが、ロリにも躊躇なく手を出せる色んな意味で一番の危険人物。
別世界の圧倒的な自分にトラウマを植え付けられている。
エセルドレーダと語っていた世界ではこんな感じ。
上には上すぎる存在がいる。