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花見と器のお話

リリーが一番最初に恭夜に対して春を告げ、紅魔館から出ていって数日が経った。

幻想郷もすっかり春になり、皆が活発に行動を始めていた。


「恭夜、今日はお姉ちゃんの所にお泊まりですよ。レミリアさん、恭夜を一日お借りしますね」


「う、うん」

白蓮が嬉しそうに気絶した恭夜を抱える姿に狂気を感じ、レミリアはもう頷いて見送る事しか出来なかった。



そしてまたある日の事。


「うにゅ、さとり様からです。恭夜、行こ」


「何でこんな事に……」

空がレミリアに手紙を渡し、恭夜を後ろから抱き締めて逃げられないよう拘束していた。


「わかったわ……ってもう居ないじゃない!」

渋々だが手紙を見て了承したが空は我慢できなかったらしく、既にその場から居なくなっている。



そして……


「借りていくわねー」


それから毎日誰かしらが来て


「姫様が恭夜を連れてこいと駄々をこねてしまって……」


様々な理由で


「恭夜さん、貴方の早苗が来ましたよ! レミリアさん、お借りしていきますね!」


恭夜を連れていってしまう日々が続いた。


「こうも毎日毎日……うー!」




博麗神社で盛大に花見をするという連絡を受けて皆で準備をし、恭夜の部下枠として三月精にチルノと大妖精も参加する事が決まっていた。

幽香が一緒に参加する事は当たり前の事になっていて、咲夜がチェックした持っていく酒の準備を手伝っている。


レミリアは花見が楽しみすぎて部屋でうーうー言いながらごろごろしていて使い物にならず、仕方なくパッシブスキルであるカリスマ(小)を活用して恭夜が紅魔館の運営を含め宴会の準備の指示をしている。

レミリアが初期に考えていた空いた穴を埋める執事というコンセプトが今になって活き、まさかここまで出来るとは思っていなかった咲夜達は驚いていた。

普段はレミリアを立てる為に脇に徹しているのを知っている小悪魔と妖精メイド達はそんな咲夜達を不思議そうに見ている。

レミリアがカリスマブレイクしたまま花見当日の朝になり、皆の準備が完了した辺りでようやく元に戻り恭夜も咲夜の補佐の立場へと戻っていった。


「朝から晩、下手したら翌日の朝まで宴会をするなんて久々で楽しみだわ」

レミリアはキリッとした顔でそう呟き、皆が荷物を大量に持っているのを見て日傘を自分で持った。


「留守はパチュリー様が呼び出した簡易的な使い魔達、ツパイ、恭夜がちゃんとした手順を踏んで呼び出した大量の夜鬼が勤めますので」

紅魔館の鉄壁とも言える守りで留守も安心である。


「ふっ、完璧ね。それじゃあ、行くわよ」


………

……


霊夢に挨拶を済ませてから、咲夜の能力で敷地を広くして妖精メイド達にシートを敷かせたりござを敷かせたりしている。

そして皆が続々と集まり霊夢の号令で楽しい宴が始まった。


「レミリア、恭夜を借りて行ってもいいかしら? 藍がそわそわチラチラしてるのよ」


「レミリアさん、恭夜を借りてもいいでしょうか? 星がそわそわして気にしているので」


「ダメ! ずっと言おうと思ってたけど、恭夜は私の従者なのよ! それなのに貴女達は毎日毎日貸してくれだの借りていくだの……」

紫と白蓮以外にも集まってきた者達に溜まった鬱憤を吐き出している。


「だって仕方ないじゃない。去年ずっとこんな感じで借りたりしてたんだから」


「レミリアさんから離れてまた里で暮らしてもらえるとお姉ちゃんも助かるの」


「やはりあれはお嬢様の悪手でしたね」

咲夜はライバルがかなり増えた事でそこそこレミリアに辛辣だったりする。


「恭夜! ……あ、あれ?」

さっきまで側にいた恭夜にレミリアは助けを求めようとしたが、いつのまにか居なくなっている。



「急に誘いましたけど迷惑じゃなかったですか?」


「いえ、この子も貴方に会いたがっていましたのでお誘いしていただけて嬉しい限りですよ」

座敷わらしと先代の博麗の巫女の所で談笑していて、恭夜の胡座の上に陣取り満足そうな顔の座敷わらしが可愛らしかった。


「恭夜、この子は誰?」

永琳から太陽の下でも活動出来るようになる塗り薬を塗ってもらっていたフランが現れ、いつもの自分の定位置にいる座敷わらしを不思議そうに見ている。


「座敷わらしだよ。去年一緒に暮らしてたんだ」


「へー。それじゃあ私とも仲良くしてね」

恥ずかしいのか頷きながら恭夜の膝から降り、先代の巫女の膝に逃げていってしまった。


「相変わらず照れ屋さんだなー」

とても和やかな空気を出している。



「お嬢様、私も行って参ります」


「あら、直接行ってくるわ」


「それが早そうですね」


「ダメだったら!」

レミリアを含めた各勢力の勧誘担当達がそんな恭夜の元に向かっていった。



背中に張り付くフランを含めて和やかな空気で過ごしていたがいきなり皆に囲まれ、フラン含めた三人が察して霊夢達が騒いでいる方へ離脱していった。


「いつのまにか逃げ場がないでござる……」

皆がタイミングを計っているようで無言になっていて、恭夜は妙なプレッシャーで杯を持つ手がぷるぷるしている。


そのまま皆に見られながらレミリアの元に移動し、何が起きているのかを尋ねている。


「恭夜が色んな所で色々やってきた成果」


「ですよね」

一年間で色々な場所でサポートし、レミリアに尽くすようそれぞれの勢力に尽くしていたのを覚えていた。


「恭夜、ほら藍が待ってるから行きましょ」


「お姉ちゃんと一緒に星の所に行きましょう?」


「恭夜、さとり様の所にいこ?」


「姫様が呼んできてって」


「恭夜さん、神奈子様達がお呼びですよ!」


「旦那様、あちらで私達と飲みませんか?」



「怖い怖い怖い」

一人一人は大した事ないが一斉に詰め寄られると怖いらしく、思わずレミリアの背後に隠れてしまった。


「貴女達がそんなに詰め寄るから恭夜が怖がってるでしょ。私の従者を怖がらせないでちょうだい」


「じゃんけんで順番決めて連れていきましょうか。レミリアがやらかした事を土下座で謝りながら何でもするって前に恭夜は言ってたから拒否権もないし」

キリッとした顔で言うレミリアを無視して紫は皆に提案をしていた。


「そうですね、時間はありますし皆で順番を決めましょう」



「……あの、恭夜? 私が他所で迷惑をかけたりした後に土下座してるの?」


「はい。それでお嬢様を許していただけるのなら何でもすると」

差し出せる物がお菓子か我が身しかなく、最初はお菓子でどうにかなっていたがその内に自身を差し出す事になってしまっていた。


「うっ」

身に覚えがありすぎてどれだか分からないが、険悪にならなかった理由に気がついている。


「お嬢様の為ならばこの身を捧げます」

臓器が必要と言われれば胸を裂き全部渡すくらいの事は間違いなくする。


「まさか今まで好き勝手やってきた私の行動が仇になるなんて……」

そんな話を聞かされて他勢力からのレンタル要請を断る事が出来なくなっていた。


「お嬢様、ツケが回って来てしまいましたね。だから私が普段から自重するように進言しておりましたのに」


「こ、これからは自重するわ」


「それじゃあ、私が一番だから借りていくわねー」

紫がレミリアの所に来ると何とも言えない表情をしていた恭夜の首根っこをガシッと掴んで宙に投げ、落ちてきた所を妖怪らしい腕力で強制お姫様抱っこをして連れ去っていった。


「お嬢様、お嬢様ぁぁぁ……いやぁぁぁぁ!」

宴会を楽しむ皆の好奇の目に晒され、その恥ずかしさのあまりに両手で顔を隠してヒロイン度を上げている。



「恭夜の男としてのプライドを一瞬にして木っ端微塵にするなんて……」


「あれが八雲紫の恐ろしさ……」

咲夜とレミリアはそんな二人を見送りながら、紫の恐ろしさを再認識していた。




そのまま藍と橙の待つ場所まで運ばれ、恥ずかしさから顔を真っ赤にしながら紫と藍にお酌をしている。

橙にはまだ酒は早いからと、ワインを作る時に拝借したぶどうで作ったジュースを注いでいた。


「ほら、恭夜も呑むんだ」


「そうよ、美人のお姉さん二人にお酌してもらってるんだから」


「は、はい……」

グイグイの二人が杯に日本酒を注いできて、ちびちび呑んでいる。


「恭夜兄ちゃんの作ったご飯は美味しいなぁ」

橙は恭夜が酒より食べ物の人の為に大量に作ってきた筍ご飯を食べ、絡まれないよう空気と同化しようとしていた。


「紫ー」


「あら、幽々子じゃない」

藍に抱きつかれ首筋をクンカクンカされている恭夜から離れ、訪ねてきた幽々子の対応をしている。


「貸し」


「まだダメに決まってるじゃないの」


「けちー。恭ちゃんは私の所に来たいよねー?」

紫ではダメだと思ったらしく、シャツのボタンを外され首筋をペロペロされている恭夜に矛先を変えていた。


「悪い意味でゾクゾクしてき……え? あ、はい!」

幽々子に見られているのに気がつき慌てて返事をしているが、藍がぺろぺろしていたからよく分かっていない。


「ほら紫!」


「完全に不意打ちだからダメに決まってるじゃない。藍に意識が集中してて話を聞いてなかったもの……ちょ、ちょっと藍! それ以上はやめなさい!」


「んんんーっ! ……げほっ! ごほっ!」


「ん……紫様、あまりに呑まないので口移しで呑ませているだけです。ちょっと間違えて舌が入ってしまったくらいで」

後者がメインなのは確定的に明らかで、ぺろりと唇を舐める仕草がとても色っぽかった。


「あぁ、凄かった……役得役得」

頭がボーッとしていて本音がこぼれている。


………

……


それから色々な場所で暴走しないギリギリの量の酒を呑まされていた。


「これでもがんばってはいるんですよ? でも俺は役立たずなんですよぉ……」

青娥の肩に腕を回しながら普段は言えない愚痴をこぼしている。


「旦那様は役立たずなんかじゃありませんよ」

寄り添いながら愚痴をしっかりと聞き、周囲に対する優越感にも浸っている。


「だって俺が少し強くなるとみんなも少し強くなるし、俺はどうしたらいいのかわからないんだよ……」


「……」

理由を教えたいが紫に口止めされているので言えず、肩に回された手に自分の手を重ねている。


器の男と友好的な関係を築くと縁が生まれ、その縁が強ければ強い程恭夜は相手の能力を使えるようになっていくチート仕様。

そして縁が生まれた相手は恭夜が強くなればその分だけ少し強くなるので、恭夜が相手に追い付くには今の何倍もがんばらなければいけない。

切れる事のない縁を結べば自身の種族すら書き換える事も可能ではあるが、それには時間制限もありかかる負担もとんでもないので紫は秘密にしている。



「強くなりたいなぁ……」


「最近私の加減してない砲撃に耐えてる時点でおかしいくらいに強いわよ。しかも冗談で作ったみたいだけど、あの格闘用スペルカードが地味に洒落にならないわ」

話を聞いていた幽香が隣に座り、十分強いと教えていた。


「ああ、粉砕『徹甲弾』ね。でもあれ美鈴に使っても避けられてフルボッコに……最近は八極拳を文字通り叩き込まれるし。そしてその一撃でこまっちゃん達の所に行って、即追い返される俺」

ただ宣言して全力でぶん殴るだけのスペルカード(物理)だが、怪力を手に入れているので洒落にならない破壊力を有している。


「妖怪相手にフルボッコにされて生きてる人間のどこが弱いのか聞きたいんだけど?」

最近は打たれ強さが格段に上がった事で手加減をやめており、侵入者等にするような鋭い一撃を与え続けるようになっている。


「旦那様はちゃんと自信を持たないといけませんね」


「耳掃除だけなら勝てるんだけどなー。ただみんな矯声を上げるから、こう、あれだけど」

更にアルコールが回り始めたのかケラケラ笑い始め、更に青娥を抱き寄せていた。


それとなく見ていた者達はバレないように恭夜の回りの酒をノンアルコールの物と入れ替え始め、完全暴走を知らない者達は何をしているのかという顔で見ている。



「ほら、そろそろレミリア達の所に戻るわよ。いつまでもこの仙人に絡んでるんじゃないの」


「でも青娥さん、凄くいい匂いするしー」

肩に手を回すだけではなく思いっきり抱き締め、クンカクンカし始めた姿は正しく変態である。


「うふふ、旦那様もいい匂いですよ」


「……ほらセクハラするなら私にしなさい」

ちょっと青娥が羨ましくなったらしく無理矢理引き剥がし、そのまま抱き上げていた。


「ちょ、ちょっと風見さん! 私と旦那様の至福の時間を」


「しっしっ! 私達の恭夜を独占しようとする仙人はあっち行きなさい」

文句を言っている青娥を無視し、そのままレミリアの元へと帰っていく。



ケラケラ笑いながら幽香に抱えられる恭夜の姿に皆がギョッ!とした顔をしたが、そのまま何事もなかったように酒を飲み色んな話に花を咲かせていた。

そして連れ戻された彼は


「咲夜ー咲夜ー」


「ふふ」

ニコニコする咲夜の膝に頭を乗せ、咲夜の名を呼びニコニコしていた。



「……えっ、なにこれ? 私が知らない内に咲夜と恭夜ってこんな仲良くなってたの?」


「お嬢様、恭夜に膝枕をしたりされたりするのは普通の事ですよ?」


「……ああ、そう言えばレミィだけは来てないんだったわね」

美鈴とパチュリーは慣れたもので、パチュリーはまだ仲間外れなレミリアを憐れみの目で見ている。


「お姉様情報がふるーい」


「私だけ仲間外れにされてる気がする……」

幽香は霊夢達の所に行ってしまい、孤立無援のレミリアは何となく察していた。



「咲夜さん、交代しましょう。次は私の番です」

そわそわした小悪魔が膝をぽんぽんしながら交代を希望している。


「いいけど恭夜が私の膝から離れたくないって」


「……ほらー、恭夜さんの大好きなおっぱいですよー」

腕を組んで胸を強調しながら咲夜の膝に頭を乗せる恭夜に話しかけている。


「ちょ、ちょっとそれは反則でしょ!」


「私が一番最初に好きになったんですからこれは当然の権利なんです!」


「うへへへへ」

酔いに酔って普段の紳士さがなくなり、まんまと策にかかって小悪魔の膝に移ろうとしていた。




「あれにパチェは混ざらないのかしら? 恭夜に物凄く執着してたじゃない。日常的に付きまとったり」


「今日くらいはいいわ。毎日抱き締めてもらっているもの」

毎日呼びつけては椅子に座らせてその膝に乗り、落ちないようにと抱き締めさせる形を取っている。


「そ、そうなの……」

親友がキリッとした顔で言い切るのを見て納得せざるをえなかった。



「ほら、私の方に来ましたよ!」


「……くっ! き、恭夜ー。ほら、貴方の好きなふとももよ」

咲夜はメイド服のスカートを捲り、白く瑞々しいふとももを見せていた。


「それは反則です!」


「貴女だって似たような事をやってたじゃない!」


「いひひひ」

今度は咲夜の方へと戻り始めている。



「暴走手前まで酔うと恭夜も一人の男になるのね」


「死なない為に毎日が我慢大会だもの、お酒で酔った時くらいは大目に見ないとね」

普段その我慢大会で一番迷惑をかけているパチュリーが呟いていた。



「はい、恭夜おいでー」


「うん」

醜い争いを繰り広げる二人を尻目に美鈴が膝をポンポンすると、何の迷いもなくその膝に頭を乗せている。


「美鈴さん!」


「美鈴、それは漁夫の利のつもりかしら?」


「普段からお昼休みに膝枕をしている私にお二人が勝てるとでも思っているんですか?」

酔っていても美鈴が膝をポンポンすると膝枕の合図というのが染み込んでおり、ここに来て美鈴が圧倒的な正妻力を発揮している。


「あら、言うようになったじゃない美鈴」


「私だっていつまでも咲夜さんに負けませんからね」


「私だけ蚊帳の外じゃないですかやだー!」

一触即発な二人だが、小悪魔だけは完全に居なかったもののようになっている。



「……恭夜ですが、二人の空気が最悪です」

殺気にも近い空気に酔いも覚めたらしく、咲夜と美鈴の間に流れる空気の悪さに思わず呟いていた。


「……久々に弾幕ごっこで全力が出せそうね」


「私も恭夜と一緒に成長していますからね。……ごめんね、咲夜さんを倒したらまた膝枕してあげるから」


「あ、はい」

そっと膝を抜く美鈴にこう答えるしかなかった。


そのまま二人は神社から少し離れた場所に飛んでいき、なんだなんだと集まってきた者達は始まった二人の弾幕ごっこを肴に酒を飲み始めている。



「てかあれだよね、異変起こす妖怪とか可哀想」


「二人が争っている内がチャンスですね」

小悪魔は今がチャンスとそっと恭夜の頭を持ち上げて膝に乗せていた。


「……あのさ、これ俺がド変態扱いされると思うの」

小悪魔は当たり前のようにスカートを捲りその中に恭夜の頭を入れており、第三者からしたらどう見てもド変態である。


「でもいつも恭夜さんの部屋でやってる事ですし」


「いや、部屋ではいいよ? 二人きりだし……ッ!!!」

小悪魔が白とかたまらないなーと考えていると何者かの気配を感じ、次の瞬間殺してくれと言いたくなる程の激痛が走り声にならない悲鳴を上げている。


「れ、霊夢さん、いけません! 男性の急所に陰陽玉をぶつけるなんて貴女は鬼なんですか!?」

小悪魔の声が聞こえてきて下手人の正体は判明したが、小悪魔のふとももの上で股間を押さえながら悶えるしかなかった。


「いや、だって神聖な神社にド変態がいたから」


「い、いっそ一思いに殺してくれぇ……」

スカートの中から震える声で殺してくれと懇願している。


「鬼! 悪魔! 霊夢!」


「鬼はあっちにいるし、悪魔はあんたでしょ」


「今度の眠りは……少し……長く……」

二人が言い合っている内にガチで死にかけていた。


「わー! ダメですダメです! 今回の死因は酷すぎますよ! ほら、撫で撫でしてあげますから戻ってきてください!」

スカートを捲って死にかけている恭夜の頭をおろし、慌てて撫で撫でし始めている。


「いや、それはやめて……腰をとんとんして……」

orzの状態になり小悪魔に腰をとんとんしてくれるように頼んでいた。


「霊夢、あれは二度とやっちゃダメよ」


「後でちゃんと私が診察するから部屋を借りないといけないわね」

成り行きを見守っていた紫が霊夢に真剣な顔で注意し、妙にウキウキしている永琳が診察するから部屋を貸せと言っている。


「お前、後でその腋を容赦なくくすぐるからな……」

まだ四つん這いでとんとんされており迫力が全くない。


「……」

そう言われて霊夢はポッと頬を赤らめている。


………

……


「でもビリヤードみたいに玉がなくならなくてよかったですね!」


「小悪魔、ドヤ顔は可愛いけどセクハラだからなそれ。……いつも部屋でセクハラしてる俺が言っていいかは分からないけど」

ようやく元気になったようで胡座で落ち着いている。


主にスキンシップだと言い切り合意の上でキスをしたり、胸に触れたりと小悪魔との仲は他の誰よりも一歩先を行っていた。

咲夜への好意は一方通行だと思っており、逆に小悪魔とは両想いだと分かっているからセクハラを行っているようだが。

このままだと間違いなく一線を越えるのも時間の問題のような……



「咲夜と美鈴、スペルカードのぶつかり合いになってるわよ」


「露骨な話題逸らし乙。すげー……俺のスペルカード(物理)は使い物にならないから羨ましい」

もう一つはまだ隠しているので、ただ殴るだけのスペルカードしかなかった。


「里で暴れた外来人に使ったやつ? 制裁『徹甲弾』だっけ?」


「あ、粉砕よりそれのが格好いいからそうしよう。あれは普通に蹴っただけ」

真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすだけなので簡単に回避可能だが、それもこの世界の霊夢達弾幕ごっこをする者達だけである。


死なない為に常時身体強化を施し、急に拐いに来る文達対策に空気の抵抗等を防ぐ霊力のバリアのような物も恭夜は常に纏っている。

そしてたった今改名した制裁『徹甲弾』、本人は気がついていないがこれを使う時は音の壁を簡単に越えソニックブームを引き起こしている。

これが回避出来るのは恭夜を越えている少女達か霊夢以上に勘が優れている者のみだった。



「……」

そう話すのを聞きながら、霊夢は紫に知らされた恭夜の器の事を考えていた。


いずれ訪れる可能性のある外の世界からの侵略。

そんな事が起きてもこの世界の住人は完全に一致団結なんてまず出来ないでしょと言われ、思わず頷いてしまっていた。

そしてそんな本来ならば嵌まるはずのない全てのピースを繋げるのが恭夜なのだと言い、紫は器について全て語っていた。


総てを繋ぐ最高の触媒であり、最弱であるからこそ皆を押し上げる存在。

霊夢はそれを聞いた時にまともに修行をしていないのに強くなっている自分に気がつき、この事もそれに関係しているのかを問いただしていた。

紫はそれに頷き、縁が出来て仲間だと思っている者は恭夜が強くなればなるほど比例して強くなるのだと答えている。

霊夢は皆に追いつこうと努力する恭夜に同情しつつ、楽して強くなれる事にありがたさを覚えていたようだが。



「どうしたの霊夢?」


「……何でもないわ。これが私達を繋げる存在、ねぇ」

目の前で小悪魔を抱えるように膝に乗せる男を見て呟いている。


「何で俺は憐れみの目で見られてるの?」


「きっといつか胃が痛くなるんだろうなって」

自分を含めて超個性的すぎる面々を繋げ、統率する事になるだろう恭夜に同情と憐れみの目を向けていた。


「意味が分からないよ」

メインヒロインで主人公ではあるがヒーローになるには遠い男である。


「これからもがんばって強くなる努力は惜しまないようにね」

私の為に、という言葉を飲み込み肩をポンと叩いた。


「わかってるよ、俺も死にたくないし」


「……ぐすっ」

あまりにも不憫で思わず涙が溢れている。


「お前、情緒不安定すぎるだろ……」

そう言いながらハンカチを取り出していきなり泣き出した霊夢に手渡していた。


「今度からお守り八割引にしてあげるからね」

涙を拭いながら八割引にする事を心に決めている。


「まだ買わせようとする霊夢ェ……あー、やばい落ち着く」

小悪魔をぎゅっと抱き締め、いつものように目の前の髪をクンカクンカしている。


「〜♪」

小悪魔は小悪魔でご機嫌になっていて鼻唄が聞こえてくる。


「……やっぱりこの変態に任せるのは不安だわ」


強くなろうとすればするほど皆も強くなってしまうシステム。

恭夜が10強くなると皆が7くらい強くなるから、てこ入れしない限りはいたちごっこ。




入院中の集中できない自由時間にちまちま書いていたこれを、今日やっと退院したから投稿。

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