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超番外編 かなり危険な現代生活8

今回の彼女はどんな世界でも彼に関わるとこうなってしまう事が確定してる。

『早苗、一旦引きな!』


『今の早苗じゃそいつの相手は出来ないよ!』


「私がやらないで誰がやるんですか! 今、私がここから逃げても明日の夜には町に被害が出ます!」

早苗と呼ばれた冬服のセーラー服の少女がインカムから聞こえてくる声に反論している。


対峙しているのは獣の姿をした異形でかなりの大きさだが素早く、既に負傷者がかなりの数出ており早苗が殿を勤めていた。

恭夜達が所属する学園以外はどこも出てくるのは雑魚レベルが多く、今回のような強力な異形が出てくるのは滅多にない。



『くっ……! 八雲紫が送ったっていう奴は何をやっているんだ!』


『それでもダメだよ早苗! 明日の夜にみんなでかかればきっと!』


「それに今この場から逃げたら怪我をして撤退している皆さんが襲われます。……怖いし、まだ死にたくないけど命を繋ぐためなら」

覚悟を決めて身体から霊力を発し、風の力を巨大な獣に向かって叩きつけた。


しかし錬度が甘く異形はそれをひらりと避け、身がすくむ程の咆哮を上げた。

そして早苗が固まったのを見て巨大な口を開けて飛びかかり……



「ひっ……!」

ぎゅっと目を閉じると様々な光景が脳裏を過り、自分の最後の時を待った。


「毎度毎度タイミングが良すぎて、ヒーローっぽくなるから個人的に困る。こいつは……痛いぞ!」

八雲の学園が用意したコートを着て金属で出来た鞄を持った男が、飛びかかってきた獣の横っ面にその鞄を力一杯叩きつけて吹き飛ばしている。


「あ……」


「――学園広域遊撃担当13班所属、七夜月恭夜。少々事故で遅れましたが、八雲紫の命で馳せ参じました。一週間という短い期間ですがよろしくお願いします」

へたり込む早苗に挨拶をしながら手を差し伸べている。


「は、はい」


「とりあえずアレを始末してから責任者の方と話を……」

鞄を置くと蒼い霊力の槍を作り出し、倒れ起き上がろうとする獣型の異形に駆け寄ると核の部分を貫いて消滅させていた。


………

……


この世界では信仰が強い神様は自分の意思で実体化する事が出来て、尚且つそれが信仰している者にはしっかりと受け入れられている。

ここの二柱の神もその例の一つだった。


「ただ実際に見るのは初めて……あの、諏訪子様? どうして俺の胡座の上に座っておられるのですか?」


「居心地が凄くいいから」


「ごめんよ、しばらく好きにさせてやって」

着任の報告をしに来て座るように言われ、足を崩してもいいと言われた結果がこれ。


「はぁ……七夜月恭夜、ただいま着任いたしました。道中の事故でこんな時間になってしまいましたが」

仕方なくそのまま報告をしている。


車で長距離移動だったが残り20km程の場所で謎の故障で停車、申し訳なさそうにする八雲に仕える男性に気にしないように言い荷物を持って徒歩で来たらしい。

夜までには着ける計算が降雪等で狂ったが、それがタイミングよく介入できる要因にもなっていた。



「ああ、よく来てくれた。でもあんたも大変だねー。認めていない所もあるからって理由でこれからも色々行かされるんだろう?」


「まぁ、それは仕方のない事ですから。俺が居なくても過剰な戦力があるから大丈夫!とか言われて泣きそうですが」

スカーレット姉妹が全レンジ対応の恭夜に次ぐチートスペックで、リーダー不在でもごり押しで何とかなってしまっている。


「まぁ、その……がんばりな。それよりどうする? 私と諏訪子、どっちの加護が欲しい?」


「事前に聞いた話ですと神奈子様の加護は戦闘に関係ある力が倍以上になるんでしたよね」

かなりのチートスキル具合に調べているだけで欲しくなっていた。


「そうだよ、よく調べているじゃないか」


「そして諏訪子様の加護は今の力が全て半分以下になるとか」

故に誰も得ようとする者が居らず、神奈子が受けている信仰心を分けてもらって何とか実体化しているようなものだった。


「うん……」

ショボンとしながら俯いて落ち込んでいるのがよくわかる。


「それじゃあ諏訪子様でお願いします」

見た目ロリな女の子の悲しそうな姿を見て口が勝手に動いている。


「……え?」


「……えっ?」

自ら進んでデメリットのみの加護を受けようとする人間の存在に二柱の神は驚いていた。


「えっ、ダメなんですか?」


「い、いや、いいんだけど本当に? 私じゃなくて諏訪子?」

ここの学園の者は創立以来神奈子からの加護しか受けておらず、諏訪子の加護を受ける者はここ百年以上の間に一人も居ない。


「はい」

ロリには優しい漢の鑑であり、SでありMでもある。


何度か魔女二人の血を飲まされては死にかけてを繰り返した結果、現在は夏の島に居た時の倍近い霊力を得ている。

パチュリーには某漫画の戦闘民族みたいだと面白がられていた。



「ドが付くほどのMか……」


「……あっ! 神奈子、凄いよこの子。半分貰ったらそれだけで実体化維持出来るよ!」

信仰心以外でもかなりの量の霊力で実体化出来るらしく、神奈子に頼らず実体化出来て嬉しそうな笑顔を見せている。


「やっぱり半分持っていかれるとちょっと身体が重く感じますね」

それでも夏までと同じスペックにダウングレードしただけで、今の状態でも十分なチートスペックだった。


「私、君の子なら産んでもいいかも」


「めっちゃ生々しい事を言わんでください」

胡座の上に座り寄りかかりながら艶かしい声でそんな事を言う諏訪子に軽いつっこみを入れていた。


「ほら困ってるからやめな。これからは私も恭夜って呼ばせてもらうよ」


「はい。……それよりこの可愛らしいデフォルメされたカエルのバッジ的な物が服から離れないのは呪いか何かですか?」


「諏訪子の加護を受けてる証だよ。男の子にはちょっとアンバランスすぎるね。ちなみに私の加護は男の子にはこれ」


「白い蛇のブレスレットですか?」

腕に装着するとサイズが勝手に合う優れもので、女子は髪飾りだったりする。


「そうだよ。加護は与えられないけど欲しいなら」

そっと差し出してきた。


「わー、ありがとうござ……うおわっ! ……あー、びっくりした。生きてるんですかこれ」

受け取ると螺旋状だった白蛇が動きだし、左手の手首に巻き付き勝手にサイズを調整し終えると動かなくなっている。


「あー、ビックリした。私も男の子に渡すのは初めてだから動くなんて思わなかったよ」


「……え?」




それから三日が過ぎたが、こちらの学園の者達との連携は上手く出来ていない。

寝起きする場所は今は使われていない寮の管理人室を借り、朝夕の食事は隣の使われている女子寮に招かれている。


「肩身が狭すぎて辛い……」


「私達と一緒でも辛い?」


「そりゃそうだよ諏訪子」

二柱の神が気を遣って一緒に食べてくれているが、それが余計に注目を集めてしまっていた。


「到着するまでお嬢様の集まる女学園とか知りませんでしたし……帰ったら教えてくれなかった学園長にだけお菓子作らない嫌がらせしますけど」


「恭夜への指示を恥ずかしがって出せない娘が多いのが問題だよね」


「まぁ、父親以外の異性と会話や交流した事がない娘ばかりだからね。年の近い異性は気になるし、恥ずかしいんだよ」

基本的に神奈子か諏訪子と行動するしかなく、諏訪子と毎日一緒にゲームをしたりして過ごしている。


「まぁ、後四日ですから別に構わないですけど。寒い以外は快適ですし」

初日に出た獣形の異形以外はとても弱く、毎日楽で快適らしい。


「でも恭夜の戦い方は荒々しく見えるよね。体術だけで倒してるからかな?」


「まぁ、うちのお嬢様達は基本遠距離からだからねー。わざわざ危険な事をさせたくないからって八雲の所を蹴ってまでうちに来る家も多いし」


「霊力込めずに軽く蹴り入れるだけで消滅するくらい弱くて数も少ないですしね。こっちの雑魚は蹴りを入れて体勢を崩した所を追撃して仕留めないと消えませんよ」

数も多く姿も毎度違うので前衛が相手の体勢を崩し、後衛がトドメを刺すのが常識になっている。


13班の前衛は恭夜、フランの二名。

抜かれた時の為の中衛にレミリア、咲夜。

後衛には霊夢、魔理沙、鈴仙。


後衛に後一人加われば二手に別れてバランスよく戦う事も可能。


過剰戦力故に他班に誰かしらを寄越せと言われ、あまりのしつこさに紫が恭夜以外を派遣。

咲夜は指示を完全無視、レミリアとフランは指示を聞かずに好き勝手暴れ、霊夢と魔理沙は指示が遅いとダラダラ戦い、鈴仙は正確な指示がない限り勝手に撃ち抜くので危険。

ローテーションで回ったらしいがどの班も扱いきれないと根を上げて元鞘になっている。

その期間は何もせずただ大妖精と駄弁っていただけの恭夜だが、あのメンバーを制御している存在として株が上がったりもしていた。



「あー……島でもうちのお嬢様方は完全後衛で危険とは無縁だったからねぇ」


「まぁ、ここはお金持ちの女の子の逃げ場でしょうし。国からの支援も皆無、どちらかと言えば入学する女の子の家からの支援で成り立っていますよね」

戦わせたくないが箔が欲しい家の者がここに入学させ、資金援助をして後の世代の逃げ場を作っていた。


「その話はおしまいにしようよ。それで朝御飯食べたばかりだけど今日のおやつは何?」


「寒いのでシンプルにお汁粉を作ろうと思ってますよ。材料好きに使っていいと言われましたし」

雇っている厨房の者に神奈子達が口を利いてくれたらしく、二日目からは自宅同様に自炊するようになっていた。


「恭夜の作るおやつは美味しいから楽しみだよ。朝御飯も他の方がおかわりが出来なくなると辛いだろうからって私達の分だけ別に作ってくれるし」


「少し貰って美味しかったからって諏訪子が私達の分までお願いしてごめんね」


「諏訪子様は行き場のない俺に色々話をしてくださいますし、暇潰しの相手になっていただいてますから」

神奈子が学園の運営関係で頭を悩ませている間、じゃれつく諏訪子と部屋で遊んでいるだけだが。


「恭夜って凄く上手なんだよ……穴の中に入ったり出たりするの。私、もう興奮しちゃって」

頬を赤く染めてモジモジする姿は可愛らしいが、言っている事が妙に卑猥に聞こえる。


「ゲームの中で土管の中に入ったり出たりする事ですから。どうしてそんな誤解を招きそうな言い回しをするんですか……」

聞き耳を立てていた周囲のお嬢様方は恥ずかしさから顔を赤くしていた。


「……そ、そう」

神奈子も諏訪子の言葉に頬を朱に染めながら目を泳がせている。


「神奈子はウブだからねー。長く生きてるのに、私に釣り合う男が居ないだけだから!って強がっちゃってさ。今風に言うなら彼氏居ない歴が年齢なんだよ」


「それを聞かされた俺はどう反応すればいいんですか。やったー、とか言うのも違うでしょうし」

衝撃の告白にどう反応すればいいのか分からず、冷静に諏訪子に尋ねていた。


「口説いてみるとか?」


「神様を口説くとか昔話にありそうですね。痛い目を見そうですけど」


「私は口説かれるよりも口説くタイプなんだー。恭夜の子なら孕んでもいいよ?」


「毎日聞いてますが生々しくて引きますよ、それ。どちらかと言えば諏訪子様はフラン枠ですし」

膝に乗せたり抱っこしたりして愛でる為の存在であり、性的な目で見る事がまずないという枠の事。


「ムッ」

何百年か振りのお気に入りで毎日一緒に風呂に入ったり、寝たりしているのにそんな事を言われて本気を出さざるをえなくなっている。


「神奈子様は諏訪子様の孕む云々でまた赤くなってますし。興味はあるんですね」


「それはそうだよ、神奈子だって神だけど女だもん」

そんなトークに耳をすましていたお嬢様達は恥ずかしくなり、ぎこちない動作で授業に出る為に校舎へと向かい始めていた。


「そろそろ俺達は部屋に戻りましょうか」


「わ、私も学園に行かないとな」

声が裏返りチラッチラッと恭夜を見ながら、神奈子はぎこちない動作で学園に向かっていった。


「……意外と気に入ってたんだね。ま、私のだからあれだけど」


「自分達が使った食器だけ洗ってきますね」

恭夜は何かを呟く諏訪子にそう言い、三人分の食器をトレイにまとめて運んでいった。


………

……


部屋で諏訪子と携帯ゲーム機で遊んでいると部屋の扉をノックされ、二人して驚きゲーム機を落としてしまっていた。


「マガツの途中で何という……」


「お、おばけかな?」

仕方なくリタイアしてからここが二人以外居ない、使われていない寮だという事を諏訪子は思い出している。


「そういうのはやめてください、後四日も過ごすのに怖いじゃないですか」

恭夜はそんなホラー展開が苦手で、抱きついてくる諏訪子を抱き締め返しながら小声で言い返していた。


「で、でも神奈子は学園だよ? 入り口には鍵もかけたし、誰かが来るなんて……」


「神様、俺怖いですから見てきてくださいお願いします!」


「やだよ! 私だって怖いし恭夜が行ってよ!」

そんな互いに押し付けあい、小声で言い争う間も幾度かノックが繰り返されていた。


「それなら布団に入って現実逃避をしましょう」


「それしかないね」

音を立てないようにそーっと畳んである布団を連携プレイで敷き、二人は頭まで掛け布団を被り抱き合いながらガタガタ震えている。


「……」


「……」

近距離で見つめあいながらノックの恐怖に震え、早く居なくなるよう願っていた。


だが部屋の鍵をかけていたわけもなく、ドアノブを回し部屋に入ってくる気配を感じてしまった。

目を瞑り互いに強く抱き締めあい、早くどっか行けと心の底から祈っている。

しかし、願いも空しく……



「ヒィッ!」


「キャァッ!」

何者かに掛け布団を剥ぎ取られてしまった。


「……ふ、不潔です! 何をやっているんですか!!」

セーラー服の少女が何を勘違いしたのか赤面しながら抱き合う二人に怒っている。


「……お、おばけじゃない?」


「……さ、早苗?」


「そうです! それでお二人は何をなさっているんですか?」

抱き合う二人が面白くなく、笑顔だが目が笑っていない。


「「おばけだと思ったら怖くて……」」

普段異形と戦っているのに陰湿なのは怖いらしい。


「分かりましたから早く離れてください」


「諏訪子様、怒られますから離れないと」


「でもあったかいし……」

恭夜は手を離しているが抱きついたままで離れようとしない。


「よいしょ」


「蝉。……いや、これはあれだね! 頭がフットーしそうだよおっっ」

恭夜は仕方なく立ち上がったが諏訪子は離れず、両手両足を絡ませて落ちないようにしがみついていた。


「七夜月さん!!」


「いや、何で俺が怒られるんだよ!」

早苗に怒られて思わず声を上げてる。


「諏訪子様も!!」


「嫌だよ、この子は私のだもん。私の加護を受け入れてくれた唯一の子だもん」


「ず、ずるいです!」

助けられた時に一目惚れをしていて、その協力要請の為に諏訪子に会いに来たらしい。



「なんだか、美少女二人に同時に告白されているような気分だな」

あながち間違ってはいない事を小声で呟いている。



「デメリットしかないって分かってるのに、私が悲しそうな顔をしたからって私の加護を選ぶいい子なんだよ。もう子を孕むしかないよね」


「はら……不潔です!!」


「寧ろ神聖で素晴らしい事だよ! 新しい生命を育む為の営みなんだから!」


「七夜月さんが犯罪者にしか見えませんよ!」


「何で東風谷ってナチュラルに俺の心を抉ってくるかな」

二人のやり取りを聞いていて抉られていた。


「なら恭夜に聞こうよ。私と早苗のどっちが魅力的か」


「いいですよ、私はみんなとは違って七夜月さんとちゃんと会話したりしてますから」

朝の挨拶やちょっとした雑談程度だが、他のお嬢様方からは尊敬の眼差しを向けられている。


「で、どっち?」


「東風谷。見た目的に考えたらそうなるでしょう常識的に考えて。諏訪子様に魅力を感じたら俺は最低のガチペドロリコンになっちゃいますよ」


「まぁ、それは確かにそうだけど」

自分の身体に魅力を感じたら確かにそうだと納得していた。


―――――――――――――――


某世界


「今どこかで俺が盛大にディスられた気がする!」


「マスター、落ち着いてください」


「汝はたまに訳のわからない事を言い出すから妾達がビックリする。後少しでCGコンプだから静かにするように」


―――――――――――――――


「えっと……ごめんなさい、お友達から始めましょう?」


「え、何でフラれた前提で話が進んでるの? 別にまだ東風谷の事は知り合いの女の子くらいの認識で告白したつもりもなかったのに」

どちらかと言えばで早苗を選んだだけなのに、何故かフラれていた。


「ダメ、ですか?」


「いいよ、俺はフラれて友達からって事で。番号とアドレス交換とかする?」

ガラケーを取り出しながら早苗に尋ねている。


「あ、ガラケーなんですね」


「東風谷はスマホかー。俺は大体電話とメールくらいしか使ってないからガラケーで十分。スマホのゲームに興味はあるけど……えっと、これでいいのかな」

赤外線でアドレスと番号を交換し終えて、ポケットに携帯をしまっていた。


「昨日の夜にこっそり見せてもらったけど、電話帳の中身は女の子ばっかりだったね」


「まぁ、基本的にこちら側の関係者ばかりですからそうなりますよ。学園でも特別クラスという名の隔離をされてますし」

目の届かない多数の者が居る場所に置いておくより、隔離して目の届く位置に置く為の特別クラスだというのは理解していた。


「まぁ、だろうね。私が知る限り恭夜は今でも日本でも歴代トップレベルの保有霊力だし、若いからこれから更に伸びる。それに私に半分渡してケロッとしてる時点でおかしいよ」


「めっちゃ元気です。仲良くゲームするくらいに」


「お二人で何をやっていたんですか?」

早苗はプレイしていたゲームがちょい気になったらしい。


「早苗が持ってたギャルゲーを恭夜と一緒に楽しんだよ」


「俺も七年ぶりに雪の降る街で幼馴染みの従姉妹と再会してみたい」

既に全ルート攻略済みでCGも集め終わっているから侮れなかった。


「あの、引きませんでした?」


「何が?」


「女の子がこの手のゲームをやっているなんて……」

ギャルゲーを楽しんでいるのを引かれているんじゃないかと思い、許可を得ずに持っていった諏訪子に内心で恨み言をぶつけている。


「いや、悪くない寧ろいい。理解ある女子とか最高すぎるだろJK……」

咲夜と美鈴は購入段階から見ているので理解ある女子だったり。


「恭夜は中学時代にフラれてからこの手のゲームに興味あったんだって」

二次元の世界に踏み込む切っ掛けがそれで、今年に入って立派なギャルゲーマーとしてのデビューを果たしている。


「俺の心の傷を抉らないでほしいんですが……留年してるから学年は違いますけど、二年生にそいつが居て遭遇するのが怖いです」

既に好きでも何でもないが気まずくなるのが嫌で、二年の教室の方には一切近づいていなかった。


「その傷ついた心を私が身体を使って癒す為だよ!」


「そこまで言われると逆にお願いしてみようかって考えが」

諏訪子の押しに段々とガードが弱まってきている。


「それと早苗、もうそろそろ自習の時間も終わるよ? またサボったら神奈子が怒るんじゃないかなー」


「うっ……七夜月さん、色々お話したいので夕方にまた来ますから!」

怒られるのは嫌なようで慌てて部屋から飛び出し、校舎に向かって走っていってしまった。



「さ、私に身を委ねて……?」


「ごくり……」


………

……


夕方に早苗が訪ねてみるとゲッソリした恭夜と昼よりもツヤツヤして満足そうな諏訪子が居た。


「何か激しい運動でもしたんですか?」


「一方的な展開のプロレスを……」


「最後の方は恭夜も技を仕掛けてきて凄かったよ。またやりたいね!」

胡座の上に座りながら抱きついていて、早苗が来ても離れようとしない。


「よくわからないですけど、仲良しなのはいい事ですね!」


「……直接的じゃないとわからないタイプか」


「早苗も一応お嬢様だからね。ちなみに神奈子はこの手のネタで真っ赤になるよ」

おすすめ!と言いたげな笑顔で告げていた。


「あの、それで私とも仲良くしてもらえませんか?」


「オッケー」

賢者タイムなのか普段だったらドキッとするような早苗の仕草を見ても超軽かった。



そのまま三人で何故かギャルゲートークを繰り広げ、趣味があった恭夜と早苗もすっかり仲良くなり互いに名前で呼ぶのを許す程。

夕飯の席に四人目が追加され、後から来た神奈子が一緒に食卓を囲む早苗に少々驚いていた。


「スーパーまで諏訪子様と行って来たので食材を遠慮なく自由に使えて幸せでした」

スーパーで物色していて野菜や肉がごろごろ入っているカレーを食べたくなり、欲望に忠実にそれを作っている。


「わぁ、久々のカレーです!」


「お嬢様ばかりだとカレー自体があまり出てこないからねぇ」


「あーうー」

運動しすぎて空腹の諏訪子は妙な言葉を口走っていた。


「ルーは二つの会社のを混ぜて使うのが楽だし美味しいよ。お手軽だし既製品を使わないのは損だし。さぁ、召し上がれ……我慢出来ない神様も居るようだし」

お腹が減りすぎていた諏訪子は早速食べ始めており、神奈子と早苗も苦笑している。


がっついて口の回りを汚す諏訪子の口元をハンカチで拭ってあげたり、二柱と一人のおかわりを装いに行ったりと使用人気質がこちらでも発揮されている。

途中他のお嬢様方から頼まれた物等も運んできたり、その時に他所行きの笑顔で少々談笑をしてみたりして接しやすい存在だと認識され始めていた。


「デザートは買ってきたヨーグルトと缶詰を使ったフルーツヨーグルト。余計な手を加えず美味しいから俺は好きなんだ」

みかん、パイン、桃缶のシロップをよく切ってからパインと桃は食べやすいサイズに切り、そこにナタデココを加えてヨーグルトに混ぜたシンプルだけど美味しいデザートだった。


「だけど大きい器にたくさん作ったねー。お玉で好きなだけ取れるっていうのがいいよ」

それぞれにスプーンと容器が置かれ、真ん中にフルーツヨーグルトの入った大きな器と小さめのお玉が置かれてる。


「……さっきからちょこちょこ諏訪子とフレンドリーに会話してるのが気になってるんだけど」


「私が許したの。私の加護を与えてるし、お気に入りだし」


「そうしないと呪うとか言い出されまして……」

魂を震わされる程の迫力に屈し、諏訪子には敬語なしでフレンドリーに接するようになっていた。


「なら私にも諏訪子にするように話してもらおうか」


「えぇぇぇ……」


「そうしてくれたら特別に私の加護も与えようかなー?」

チラッチラッとワザとらしく言っている。


「うわぁ……神奈子必死すぎて引くわー」


「神奈子様……」

ちょっと必死な様子が諏訪子と早苗に引かれていた。


「な、何で二人が引いてるの? えっ? 私そんなに必死だった?」


「だって物で釣ろうとしてるし」


「神奈子様、恭夜さんはそんな事をしなくても普通に何度も頼めばフレンドリーに接してくれます」

実際仲良くなったが恭夜からは東風谷呼びのままで、しつこく頼み続けてようやく名前で呼ぶ事を了承させていた。


「まだ会って三日で名前呼びを強制してくる東風……早苗もあれだと俺は思うの。お嬢様ってみんなこんな感じなの?」


「いや、早苗だけだと思うよ。男の子の気持ちを理解するって名目であの手のゲーム買ってるくらいだし」


「だから私は攻略対象キャラですよ!とかさっきいきなり言い出したわけか。難易度高そうで俺だとバッドにしか行けなさそう」


「強制ハッピーエンドの可能性もない? ルート入ったら選択なしで」


「まさかの?」


「まさかの」

早苗と神奈子が話している側でこんな事をひそひそと話し合っている。


「そこ、いつまでも二人の世界を作らない」


「諏訪子様は攻略対象じゃありませんよ」


「どちらかと言えば攻略済みな気がするけど。あの最初の二択、厳しいデメリットの代わりに好感度がカンストする仕組みになっていたとしか思えない」

諏訪子がもう攻略済みなのは確定的に明らか。


「私ルートは選択肢なしの一本道でトゥルーエンドですよ?」


「やばい、まさかのだった。確かに俺達こっち側の存在は普通の恋愛は出来ないからあれだけど……まぁ、そのルートには入らないんだけどね」

そのルートに入る気はないがまさかのが当たって驚いている。


「入りましょうよ!」


「ちょっ、近い! 神奈子様助けてください、女の子に迫られてるのに嬉しさより怖さしかないですこれ!」

早苗にズイッ!と詰め寄られ思わずビビって神奈子に助けを求めていた。


「ほら、早苗は落ち着きな。……恭夜はこれで私にもフレンドリーに接する事が決まった訳だけど」


「もう、わかりましたよ」

どんだけフレンドリーに接してほしいんだと考えながら返事をしている。


「ました?」


「わかったよ……超罰当たりな事をしてる気がして仕方がない」

こんな事になるなんて、と頭を抱えていた。


「まぁ、私と神奈子にこんな風に接するのは恭夜だけだろうね。普通は敬い畏れるものだし」


「『家族以外はあまり信用できないんです』とか言ってた男とは思えないねー。……それとあんたに今ある力がなくなっても私と諏訪子は見捨てない。異常なまでに見捨てられる事を恐れているみたいだから、これだけは言っておくよ」


「むっ、お見通しすぎて怖い。期待は出来ないですが」

完全に信じるには過ごした時間が短すぎで半信半疑だった。


「ここで恭夜さんに素敵なお知らせです。よく考えたら一昨日の夜に私をあの獣の異形から助けてくれた時に私ルートに入っていました」

二柱の神と話をしている間、妙に静かだと思ったらこんな事を考えていたらしい。


「マジで!?」


「あー、それは流石に私もフォローできないよ。神奈子とも話したけど、あのタイミングの良さで助けられたら……ねぇ?」


「鞄壊れたーって嘆いてた姿に私はキュンと来たね」

その時の映像も残っていて早苗はそれをコピーしてくださいとしつこく要求している。


「恭夜さんはきっと私のルートに入る為に来てくれたんですよ。あのタイミングで私を助けてくれたんですから間違いないです!」


「いや、俺は学園長からの指示で……それにあれは事故のせいで到着が遅れて……」

だんだん早苗の妄想が激しくなってきて本気で怖くなっていた。


「おおっ、現代の一騎当千の兵を早苗が怯えさせてる」




神奈子と諏訪子が取り成してようやく落ち着き、フルーツヨーグルトを食べながら先程の事はなかったかのように談笑をしていた。


「あまり負の感情が溜まらないからか大体一日置きなんだね、こっちだと」


「まぁ、そっちと違って力の強い子は早苗くらいだからね」


「こっちは大物を倒せば数日間お休み貰えますから。うちの班、火力だけは半端ないですし。……あのそんなに見つめるのはやめてほしいっす、自分単純だから簡単に好きになっちゃうんで」

神奈子にジーッと見られて、見つめるのをやめてくれと頼んでいた。


「いい事を聞きました!」


「あーあ、迂闊な」

と言いながらも好きになる云々で神奈子もドキドキしている。


………

……


それから更に四日が経ち、本日がここで過ごす最終日となっていた。


「……よし」

使われていない寮から出て、曲がり角から顔を出して誰も居ないのを確認してから女子寮に向かっている。


「恭夜、何か変態みたいだよ」


「事あるごとに曲がり角から早苗が全力でぶつかってくればこうもなるよ!!」

お約束がやりたかったらしいが、油断していた恭夜が毎回転がって悶絶するので成功していない。


「一回早苗じゃなくて神奈子が来た時はツボに入って笑い死ぬかと思ったなー」


「ビックリして抱き止めたら恥ずかしかったのか、ぶん投げられて壁に激突とかね」


「腕の中で恭夜を見上げて、どうなってるのか理解してパニックになったんだろうね」


「柔らかかったしいい匂いでした。力は超強かったです(小並感)」

代わりに壁に勢いよく激突するという痛い目を見ているからプラマイ0だった。


「私は?」


「言わせんな恥ずかしい」


「えへへっ」


「……ハッ! は、早くご飯食べに行こう!」

可愛いなぁと考えていたら急に辺りが暗くなり、何事かと空を見上げて何かを見つけ慌てて女子寮に走っていった。




朝食は早苗が用意した物が振る舞われ、隣に座る早苗に礼を言い美味しく戴いている。


「ごちそうさまでした。ふぅ、ホームシック気味だから早く帰りたいなぁ……」

食後のお茶を飲みながら早く地元に帰りたいと溢していた。


「八雲紫に報告も兼ねた連絡をしたけど、向こうも早く帰ってきてほしいってゲッソリしながら言ってたね。明日は早朝に迎えを寄越すってさ。私がもう一週間延長をお願いしてみたら絶対無理だから!って必死になってたよ」

神奈子はそれが面白かったらしく、しばらく紫で遊んで満足そうだった。


13班の個性的すぎる面々が大人しく従っていたのも最初の二日だけで、今は統率する者が居ないせいでやりたい放題。

恭夜よりも統率するのは得意だと張り切っていた紫でも匙を投げる程で、霊夢と魔理沙以外の面々の扱いずらさを神奈子に延々と愚痴っていたらしい。



「こっちに来る直前『貴方に出来て私に出来ないはずがないわ(キリッ』とか言ってたのに……今、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?って帰ったら動き付きで聞いてやろうっと」


「追い討ちとは恭夜もなかなかえげつないねー。でもそんなに大変な事なのかい?」


「簡単に言えばスペックが今より数段上の早苗が六人居ると思ってくれれば分かりやすいかと」


「それは八雲紫もああなるわけだわ」

一瞬でその大変さを理解している。


「私が六人……恭夜さんったら、もう! えっちなんですから!」


「えっ、今のどこにやらしい所があったの? 教えて神様」

いきなり妙なレッテルを貼られて困惑し、二柱の神に教えを請うていた。


「早苗が六人→早苗に囲まれたい→早苗に密着してもらいたい→早苗に一糸纏わぬ姿で抱きついてもらいたい。って脳内変換したに一票」


「諏訪子と同じ」


「一週間前の清楚で可愛かったお嬢様フォームはどこへ消え去ったのか。早く帰りてぇ……」

どこの世界でも恭夜と関わるとこうなってしまう運命であり、これがブレる事は一切ない。


違う学園に派遣されてまったり回。

早苗は恭夜に関わると執着するようになるのがどの世界でも確定してる。

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