その力を逆手に取って
「俺のお宝達が小悪魔に発掘されて、パチュリーを筆頭にみんなに目の前で焼かれたって悲劇がありましたね……」
巧妙に隠して数年間見つからなかった物がバレてしまい、笑顔のみんなに拘束されて目の前で処分されたらしい。
「あんなのじゃなくて私と一緒にお勉強しましょうよー」
部屋でミストさんのような空気を出しながら独り言を呟いていると、当然のように小悪魔が背後から抱きついてきた。
「そんな風に言ってるけど本当は乙女だもんね、お勉強しないとダメだよね。仕方ないね」
「私がパチュリー様に喚ばれる前に故郷でいつか遠い未来で出会うおかしな人間の男と結ばれるって、それまで貞操を守って暮らしなさいって近所の占いのオバちゃんが言ってたんですよ。その占いがよく当たって守れば絶対幸せになれるって評判で」
だから幸せになる為に、今までしっかり守り通して生きてきたようだ。
「間違いなく俺じゃないじゃん。人間の男って部分しかあってないし」
「どこからどう見てもおかしな人間の男って条件にピッタリですよ?」
「なにそれひどい。でもそう言われても今の俺にはどうしようもないのであった」
力が足りないのでバッドエンド直行ルートに入る事になる。
「強くなってまとめて面倒を見れるようになるまでは、でしたっけ?」
「そうならないと誰か選んだりしたら死ぬって衣玖さんが言ってた」
色んな相手の心に自然と踏み込み仲良くなる為の行動を繰り返した結果である。
「あー、パチュリー様は呪いをかけそうですね」
「てか俺がちょっと強くなるとみんなもちょっと強くなるから、終わらないマラソンみたいになってる気がする」
何故かいつも一歩先を行かれてしまい追い越す事が出来ない。
そのまま小悪魔にセクハラをして喜ばれたり、キョトンとしているリリーにセクハラして罪悪感を募らせたりと自室でやりたい放題だった。
しばらくすると名残惜しそうに小悪魔が去り、かわりに咲夜がパジャマ姿で入ってきた。
「今日は咲夜なんだ。そういやこの前の異変で知り合ったわかさぎ姫、昼頃に湖から手を振ってたよ。振り返したら振り返してきて無限に続くかと思った」
やめ時がわからなくなり、そんなアホをじっくりと観察していた美鈴が止めるまで手を振っていたらしい。
「ああ、あの……無駄に胸がある淡水人魚の」
ちょっと気にしているのか目からハイライトが消えていて少し怖い。
「あ、あはは……今度満月の会を開くって慧音が嬉しそうに言ってたから参加してくるね。影狼さんと俺が加わって嬉しいんだって」
満月の夜にハクタク、狼、吸血鬼という謎のトリオが集まる光景は一度見てみたいが、その会は普通の日にやるようだった。
「私も行くわ」
「咲夜なら慧音も許してくれるかな。多分竹林の妹紅の家でやるだろうし、お土産多目に持ってこうか」
「あの狼の恭夜を見る目が怪しいのよね……」
そんな事を小声で呟いており、二人がいい雰囲気にならないよう妨害も兼ねて付いて行きたかったようだ。
「一緒に何持っていくか考えようか」
「そうね。お菓子とかなら喜ぶんじゃないかしら、一応あの三人も女の子だし」
「一応とか咲夜もなかなか酷いなー。だけどみんな女の子だから甘いお菓子にしよう」
基本的に咲夜の言う事には必ず従うので、恭夜を思い通りに使うには咲夜と仲良くなる方が実は早かったりする。
「一緒に作りましょうね」
「うん」
最近は更に咲夜と仲良くなり、三秒間だけなら時を停止させてもデメリットがなくなっていたり。
「今更だけど恭夜を一年放逐したお嬢様の考えは失敗だったと思うわ。里の外れにあんなお屋敷を建てるなんて予想外の事をしたみたいだし、ないでしょうけど追い出された後の行き場が出来てしまったし」
「あ、そう言えばそうだね。食べていくのも魔法があるから何とかなるし、後は今まで通りに何でも屋やればいいし」
「だからって辞めたらダメよ?」
真ん中ですやすや眠るリリーの隣に寄り添いながら、辞めないようにと忠告している。
「辞めないよ。お嬢様が居て咲夜やみんなが居る、ここが俺の帰る場所だし」
魔法で明るくしていた室内を暗くし、咲夜の反対側でリリーを挟むようにして寄り添い寝る姿勢に入った。
「ふふ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そのままゆっくりと意識を落としていった。
………
……
…
「神社なう」
「朝一番に来たと思ったら変な事を呟くし」
休みだからと霊夢の様子を見に来たらしく、お賽銭を入れて呟いていたら音に釣られたのか霊夢が現れていた。
「よう、異変の時ぶり。あの天の邪鬼の相手をしろとか言われた時は死ぬかと思ったよ」
「だってティン!と来たんだもの。でも弾幕を全て最小限の動きで避け、反撃には鋭い一撃で返して余裕の笑みを浮かべる……って演技をしっかりしといてよく言うわね」
内心は怖くて仕方がなかったようだが、逆らう事は出来ず異変では初の弾幕ごっこをさせられたらしい。
「あいつの能力をその鋭い勘で予想して利用するとか霊夢さん凄かったっす、マジリスペクトっす」
「徐々に追い詰めてくる恭夜の弾幕ごっこの腕をひっくり返したのが運の尽きだったのよね。『何でもいい! 奴にトドメを刺すチャンスだ!』とか言いながら初見じゃ避けられないような弾幕で倒してたし」
尚、所持している唯一のスペルカードは使わなかった模様。
「下から数えた方が早い弾幕ごっこの腕が、上から数えた方が早い腕にひっくり返って気持ちよかったです」
弾幕ごっこが上手くない恭夜だから出来た事であり、次からは使えない一度限りの手だった。
「今は元通りよね」
「残念ながらなー。今はちまちまと特訓してる」
エリートな妖精メイド達を指揮して戦った方が強いのは言うまでもない。
「やっぱり恭夜はヒロイン枠なんだからそうじゃないとダメよ」
「ですよね。黙ってればキリッとしてて格好いいのにって里では言われてたんだけど……よく考えたら馬鹿にされてるな俺」
黙っているとクールで近寄り難い兄ちゃんだが、喋り出すと面白い変な兄ちゃんで接しやすく結構人気があった。
若くて超緩い妖怪首おいてけだの、緩い感情豊かな森次だのと一部外来人には言われている。
「外来人の女の子達からは超多股男で女の敵扱いなんだからまだいいじゃない」
「誰ともそんなんじゃないのになぁ……早苗、青娥さんに混じって紫さんまで嫁だとか云々言い始めたから超困る」
紫への好感度が高いと呼び捨てになり、下がるとさん付けになるから第三者からしたら分かりやすかった。
「あんたは基本的に普通じゃない存在に好かれるのよねー。友人も普通なのいないし」
「そんな事……やばい、それはマジで否定できない。よく考えたら誰一人として普通じゃなかった」
子供以外の純粋な力のない人間に好意を持たれた事がないのに気がついていた。
「ほらね」
「その俺の普通じゃない友人に自分が含まれている事にお気づきになられているのだろうか?」
「恭夜が一番普通じゃないけどね。一年間で三途の川を二桁近く渡りそうになったって小町から聞いたわよ」
「寿命以外で死ぬなって追い返されるようになったよ」
世界が滅ぶトリガーになってしまっているので寿命以外で死ぬ事を完全に拒否されている。
「それとあの厄神が恭夜を監禁したいってほっぺに両手を当ててハァハァしながら言ってたわ」
「雛さんどうしちゃったんだろう……」
恭夜に関する事以外は普通だから余計に手が負えず、害もないので放置されていた。
「一度試しに監禁されてみたら?」
「それでダメ男っぷりを発揮したら一週間で解放してくれそう」
「いえ、あの感じからそれはなさそうよ。寧ろ依存する素振りを見せたら畳み掛けてくるわね」
恭夜一人を養うくらいは余裕であり、自分の事だけを考えてくれるなら願ったり叶ったりだったりする。
「てか監禁されたりしたら二日目に幽香さんが勇者のように乗り込んできそうだわ」
「あー……幽香もご執心だったわね。恭夜は私に次いで幻想郷から出たらダメな存在になってるじゃない」
「フラン、こいしちゃん、ぬえちゃん、諏訪子さん、こころちゃんが何故か俺の部屋に集合した時はちょっと死ぬんじゃないかと思った」
よく遭遇する仮面少女を餌付けしていたら懐かれたらしく、急に訪ねて来たりするようになっていた。
「見た目が幼い子を集めるとか犯罪ね」
「最初に膝の上の取り合い、次にどれだけかまってもらえているかの自慢、最後に誰が一番愛されているかの討論……物凄い針の筵だった」
「うわぁ……」
それを聞き霊夢は普通に引いていた。
「お前そんなに引いてるけど、霊夢、咲夜、鈴仙、早苗、妖夢がいきなり突入してきた時よりは遥かにマシだったからな」
「言っておくけど鍵を開けたのは咲夜だからね。しかも騒ぎながら入ったのにスヤスヤと気持ち良さそうに寝てたし」
「妖夢の半霊がパジャマの裾から入ってきて、それにビックリして起きたわ。ひんやりしているようでしていない、少しひんやりしている半霊のせいで」
「それに続いて当然のように咲夜が潜り込んで行った時は何が起きたのか理解できなかったわ」
「俺なんて寝起きで何が起きてるのか分からないし、掛け布団の中を何かが這い上がってくる恐怖だけは感じたけど」
半霊により起こされたがまだ完全には覚醒しておらず、布団の中を這い寄ってくる見えない誰かに怯えていたらしい。
「寝ぼけて二度寝しようとする恭夜を引っ張り出して、私達が見てる状態でパジャマ脱がして着替えさせてたわね。咲夜の手並みが鮮やかすぎて止められなかったわ」
「よくわからないけどあの時の咲夜のドヤ顔は可愛かったなぁ……」
あっという間にいつもの執事スタイルに着替えさせ、おまけに放置気味の伊達眼鏡まで装着させていた。
「それ私達に対する優越感からのドヤ顔よ」
「またいつか見たいなー」
………
……
…
恭夜を厄介だと思っている一部の里の者は赤い悪魔の犬と呼んでいる。
こちら側に来て少しだけ力を持った外来人にある事ない事吹き込み、義憤に駆られた者を上手く使って襲わせたりと手口も陰湿。
「出てこなければ、やられなかったのにな」
手にした銃剣の血を払いながらそう呟き、地に倒れ伏す虫の息の男を見ている。
「ぁ……ぅ……」
無惨にも片足を切り落とされ、その痛みから来る叫び声がうるさいと首を切り裂かれていた。
見た目がそこそこなこの男は例に漏れず義憤に駆られて恭夜を奇襲、しかし外来人で人間で自身の敵に対して恭夜は容赦をしなかった。
既に足と首からの出血が酷く、どう足掻いても助からない状態になっている。
そしてその血の匂いに誘われて様々な低級の妖怪が集まって来て、今か今かと恭夜が立ち去るのを待っていた。
「また来世」
そう言い残して空に飛び、低級妖怪達が群がるのを確認してから紅魔館へと帰っていった。
こうやって襲われて何人も始末しています。
このまま満月同盟が結成されそう。




