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限定で人間辞めてました

皆に惜しまれながらも一年が経過した事で紅魔館に帰還。

先代の博麗の巫女に家を任せ、いやいやと服の裾を掴んで離さない懐き度MAXの座敷わらしを説得するのに骨が折れていた。

そして


「はぁ……落ち着くけど咲夜と美鈴のふともも強調がなかった。代わりにすれ違う度にみんなに思いっきり抱き締められて幸せだったけど」

部屋に戻り久々の執事服に袖を通し、キリッとした表情を作っている。


「お洋服は洗濯に出しますからねー」


「おわっ!? ちょっ!」

いきなり現れた小悪魔が今まで着ていた服を抱き締めるようにして持ち、声をかける間もなく走り去って行ってしまった。



一年ぶりでも変わらない紅魔館の内部を眺めながらレミリアの部屋に行き、ノックをして返事が聞こえてから失礼しますと言い中に入った。

紅茶を飲んでいたレミリアは恭夜を見るとパァッと嬉しそうな笑顔を浮かべたが、ハッとして顔を引き締めている。


「お嬢様、ただ今帰り」


「んっ……鍵をかけてこっちに来なさい」

軽く身震いをしてから何かを話そうとする恭夜にそう告げてカップを置いた。



言われた通りに鍵をかけ、改めて帰還の報告をしにレミリアに近づき……


「かなり成長したわね……あぁ、もう我慢の限界」


「えっ? うわっ!」

いきなり飛びかかってきたレミリアを抱き止めたが勢いは止められず、そのまま床に倒れ込んでしまった。


「たまらないわ……一年前よりいい香り。不味い血を少量だけ飲んで一年過ごしていたから」

首筋に顔を埋めゴクリと喉を鳴らし、ハァハァと今すぐに血を飲みたいという欲求を押さえつけている。


「お嬢様、ただいま帰りました。どうぞお飲みください」

片手でシャツのボタンを外して首筋に噛みつき安くしていた。


「おかえりなさい。それといただきます」


「うっ!」

一年ぶりの吸血で皮膚が牙に突き破られる感覚にビクッと反応し、無意識に片手でレミリアの背を撫でている。


「んっ……じゅる……ごく……」


「お姉様開けて! 恭夜がいるんでしょ!」

ドンドンドン!と激しいノックと可愛らしい声が部屋の外から聞こえてきたが、レミリアは一年前の倍以上の美味さになっている血に夢中で聞こえていなかった。


「お、お嬢様、フランドール様がお呼びで……」


「んんっ!」

夢中になって吸っており恭夜の言葉も耳に入っておらず、お腹いっぱいになるまで離れず噛みついている。


「やはりお嬢様はとても可愛らしいです」

二人きりの時に許可されている頭撫で撫でをして、心地良さそうにするレミリアを見て呟いていた。


「……ぷはっ。二人きりの時は敬語をやめなさいって前に言ったわよね?」

満足したのか吸血するのをやめ、ジト目で押し倒したままの恭夜を見ている。


「申し訳……ごめん。でもやっぱりお嬢……レミリアとこうやって普通に話すのは畏れ多いというか」


「甘えさせてくれるって言ったじゃない。だからフランにするように接して」

毎日毎日抱きついていたり、お姫様抱っこしてもらっていたりと甘やかされるフランが羨ましかったらしい。


「それはそうだけど……あれ、ドアを叩く音が止まってるような?」


「え?」


「見ーちゃったー見ーちゃったー♪ お姉様が恭夜に甘えてるところ見ーちゃったー♪」

どうやって入ってきたのかフランは部屋の椅子に座りながら、ご機嫌そうに恭夜を押し倒すレミリアを見てニヤニヤしていた。


「フラン、違うわ。これはね」


「ちゃんと鍵を掛けたのにどうやって」


「パチュリーからピッキングってやつを教えてもらったから楽勝だったよ」

最近は無駄に壊さなくなった代わりに犯罪的な技術を身に付け始めていたらしい。


「教えるのはやめてってパチェに言っておいたのに……きゃっ!」


「はい、お姉様どーん! よいしょっと。……一年間会えなくて寂しかったよー、いただきまーす」

恭夜の上に陣取るレミリアを突き飛ばし、今度は自分が寝ている恭夜に跨がりそのまま身体を密着させてレミリアが噛みついた方とは逆の首筋に噛みついた。


「ピンクと白の縞縞……うっ! 帰ってきて即首が穴だらけに」

跨がる時に見えたらしく口に出したがロリコンではないので心のメモリーにしまい、吸血を始めたフランの背に両手を回して抱き締める体勢になっている。


「フラン! いきなり何するの!」


「んーっ」

じゅるじゅるとこちらも吸血に夢中になり、レミリアの言葉が頭に入らなくなっていた。


「……恭夜! これからはみんながいる前でもフランにするように私に接しなさい!」

そんなフランを抱き締めてボーッとしているのを見て嫉妬したのか、もう形振り構わなくなっている。


「他の面々は良くても咲夜が認めませんよ」


「咲夜には私から言っておくわ。……ふふっ、これでフランみたいに抱えられながら移動したり出来るわね」

日常的に恭夜が居ると抱っこしてもらって移動するフランが羨ましかったらしい。


………

……


あの後すぐに咲夜や新入り含めた妖精メイド達と合流、一緒に様々な場所を掃除して回っていた。

手に入れた怪力でベッドを片手で持ち上げて咲夜を驚かせている。


「そう言えばさっき俺の部屋で春っぽい妖精がくつろいでたんだけど。無視して着替えてたら指の隙間からガン見してて引いた」

窓を拭きながらそんな事を隣で床を掃除している咲夜に話しかけていた。


「四月頃にお嬢様に言われて捕まえたのよ。今年はおしまいだからって無抵抗で、他に空きがなかったから恭夜の部屋に押し込んでいたのを忘れてたわ」


「まぁ、妖精だからいいんだけどさ。暖かい湯たんぽ的なの確保できてよかった」

どうやら今晩から抱き枕代わりに使うつもりらしい。


「でも一年ぶりだとやっぱり照れるわね……色々経験して更に男前になってるもの」


「俺自身はそんな変わったように思えないんだけどな」

一年前よりも雰囲気が柔らかくなっていて、様々な体験で自信が付いたからか本来の魅力も底上げされている。


「まぁ、そういうのは本人には分からないものよ」


「血はかなり美味くなったって絶賛されたけど」


「ここ一ヶ月は禁血液されてたから余計に美味しいんでしょうね。血がー血がーって禁断症状がたまに出ていたわ。簀巻きにして部屋に放り込んで放置してたけど」

恭夜を強制的に追い出した事でレミリアに対する態度がやや辛辣になっていた。


「……咲夜、お嬢様にちょっと辛辣になってない?」


「そんな事はないわよ?」


「いや、でも」


「この一年はみんな酷かったのよ。恭夜が飼い慣らしてた五人の妖精はパッタリと来なくなって音沙汰もないし、私とお嬢様含めてみんな恭夜が居た時の半分くらいのやる気になってたし」

レミリアは何度呼び戻す為の手紙を書いたか分からない程で、書き終わるとハッとして破り捨てるを週に何度か繰り返していた。


「嬉しい反面みんな何やってんだよって気持ちが凄いんだが。俺なんて妙な仮面少女や宗教的な方々のせいで異変に巻き込まれて入院したりしてたのに」


「凄かったって霊夢から聞いたわ。格上の猛者達を色んな手段を用いて倒して行ったとか」


「らしいね。仮面少女……こころちゃんの能力の影響で暴走、気がついたら永遠亭のいつもの部屋に寝かされて全身激痛って酷い目に……」

毎回兎少女達と鈴仙に看病されていて、入院する部屋の入り口には常連記念に恭夜の部屋というネームプレートが付けられている。


「後は天狗や様々な妖怪達と個人で友好関係を築いたとか。お嬢様が文とはたての新聞を見て紅茶を吹き出してたわよ。恭夜がにこやかに天狗の長と握手してる写真が使われてて」

文とはたてとは新聞を購読する代わりに恭夜の情報を貰っている内に仲良くなり、名前で呼び合うようになっているようだった。


「邪神の愛し子とか書かれてたけど、俺めっちゃ悪い奴みたいに思われてそうで困るよ……」


「紅魔館に更なる箔が付くってお嬢様はご機嫌だったわよ。それとフランドール様にするようにお嬢様に接する事になったみたいだけど」


「拒否したのにごり押しされて……」


「お客様が居ない時だけにしてね? 幽香はお客様じゃないからいいけど」

一年で幽香も呼び捨てにするくらい仲良くなったらしく、主要メンバー+幽香でガールズトーク等をする程。


「うん。……ちんまい新入りの妖精メイドが可愛いなぁ」

ベテランの成長した妖精メイドに教わる姿が可愛らしく、四苦八苦しているのを見て癒されていた。


「……多分その愛が彼女達を成長させるんでしょうね。私達だけじゃ成長させられなかったもの」

新入り以外に春頃に入った者達もいるが、未だに小さく成長していない。


「さっきめっちゃ期待の眼差しを向けてきた子達か。てか別段特別な事はしてないんだけど」


「あの恭夜お気に入りの究極完全体妖精メイドとかにコツを聞くと、必ず『メイド長補佐の愛のお陰です』って言われるって」


「うーん、愛……? ご褒美システムの事かな」

その日一番がんばった子には望む物を与え、他の子達には不満が出ないように手作りのお菓子を与えるだけのシステムである。


「それも試してみたけどダメだったの」


「マジか。後はお嬢様に言われてる女性の口説き方の練習に付き合ってもらってるくらいだけど」

いつか咲夜を口説く時の為に身に付けさせようとレミリアが命令しており、妖精メイド達にその練習に付き合ってもらっていたらしい。


「そ、それなら私が付き合うけど?」


「いや、咲夜が相手だと照れちゃって上手く出来ないだろうから……」


「あ、そ、そう……?」



そのまま沈黙してしまったがいい雰囲気で目が合うと逸らし、また目が合うと今度はジーッと見つめ合い……


「はい、メイド長補佐はこっち来てくださいねー」


「メイド長は私達と客室のお掃除ですよー」

いい雰囲気になり始めた時に二人の妖精メイドが現れ、一人は恭夜の腕を掴んで引っ張っていき一人は咲夜の背を押して連れていってしまった。


………

……


「あのまま邪魔されなかったらキスくらいまでなら行けたんじゃ……」


「はいはい、引きずらない引きずらない。メイド長補佐はこれからこの子達の面倒を私と見るんですから」

そう言って指差した先には新参者の少女達がそわそわしながら待っていた。


「ちくしょう、世話焼きお姉さんタイプになるように教育したのが間違いだったか……」

好みの性格になるよう教育した結果が彼女であり、まるで恭夜の願望が叶うかのようにスタイルまで良く成長している。


「メイド長補佐は私で実験したから邪魔されても仕方ないですね。まぁ、今の私を自分でも気に入ってるからいいんですけど……ね?」

そう言いながらさりげなく恭夜の腕に自身の腕を絡め、豊満な胸を押し付けるようにして密着していた。


「そうだった、愛情を注ぎすぎるとこうなるから気を付けないといけないんだった。魔理沙を撃退した時の他四人も個人差はあれどこうなってるんだよなぁ……」

当時は今ほど穏和ではなく実験も兼ねて適当に飴ばかり与え、鞭は少量と愛ばかりを注ぎ込んでこうなったらしい。


「分かりやすく私達を第一世代としますと、メイド長補佐の愛情をこれでもかという程受けたのが第一世代で皆が紅魔館に残っています」


「お前達五人と三十人くらいだったな」

五つの班に分けて教育を施したから今でも覚えていて、皆がレミリアではなく恭夜へ忠誠を誓っているエリート達だった。


「はい。第二世代はメイド長補佐が飴と鞭を上手く使い始め、基本的な教育を私達が教え始めた世代です。現在も八割は残っていますね」


「第三世代から俺はあまり手を貸さずに教育を任せてたら最終的に残ったのがまさかの一人。第四世代は俺抜きで一年使って一人も成長しない代わりに誰も辞めず、そして第五世代に混じって今目の前でおろおろしてると。……久々にがんばろう」

結局妖精をちゃんと育成できるのは恭夜だけであり、鞭よりも飴が多い方がより優秀な存在へと昇華する事がハッキリしていた。


「はい、注目! ……貴女達、ありがたく思いなさい」


「絶滅タイムだ」

静まり返って気まずくなり思わず口に出している。


「メイド長補佐が直々に貴女達へ教育をしてくれます。厳しいと感じる事もあると思いますが、それを乗り越えた先に見える光があるのでがんばってください」

恭夜の呟きを完全にスルーして話をするように促してきていた。


「がんばろうね。久々に一人前になるまで俺が見るから……うん、元気でいいね」

カンストしたフェアリーキラーのスキルがここぞとばかりに発揮され、発する言葉が甘い言葉に勝手に変換され妖精メイド達の脳髄に浸透していき元気良く返事をしてしまう。


「メイド長補佐はやはり妖精の天敵ですね。敵に回すと恐ろしいですし、味方にすると離れられなくなりますし」

朱に染めた頬に両手をあてて熱い吐息を漏らし、目の前で新米達に語る恭夜の背を見て小声で呟いていた。




午後になるとパチュリーに呼ばれて地下図書館に赴いている。

レミリアが話を聞こうとしないので、パチュリーがこの一年の出来事の話をする相手になっていた。


「なるほどね。怪力、自分のお屋敷、魔力の増強が一年で手に入れた物なのね」


「魔力の通り道の拡張と流れる魔力の量を増やす方法は死んじゃうかと思った……」

他人の強い魔力が一日中身体を回り続ける不快感で体調も激しく悪くなり、定期的に白蓮が魔力を注ぎに来るから慣れるまでに時間がかかっていた。


「……レミィには悪いけどここまで成長したのなら捨食、捨虫の魔法をこれから教えていくわ」

本気で魔法使いにしようと考えていてボソッと危険な事を呟いている。


「パチュリー?」


「貴方にはこれから毎日私直々に魔法を教えてあげるから。戦う魔法執事って新しいジャンルに挑戦しましょう」


「いや、魔法執事って誰得」


「私得」

好きな相手の師匠になる事で無茶を通せる事にもなるからか、妙にやる気になっている。


「マジかよ。……それと関係ないとは思うんだけど、異変で暴走してから満月の夜によくわからない衝動に襲われて苦しいんだ」


「……満月の夜?」


「うん。身体が熱くなって意識が朦朧として」


「……明後日が満月ね。その日の夜に調べてみましょう」

小悪魔に満月に関する資料を集めてくるように指示を出し、今まで読んでいた本に栞を挟んで閉じていた。


「ありがとう。……邪魔すると悪いし、俺はもう行くから」

そう言い残して図書館から立ち去っていった。


「……やっぱり生で見るのが一番ね。水晶を使って毎日見ていたけれど」

毎日恭夜の動向を覗いていたらしく、大体の事は把握していたが満月の夜の時はレミリアが騒ぐので見ていられなかったようだ。




図書館を去って昼の用意をしてから門番隊の元に赴き、美鈴に食べる前に軽く運動をしようと手合わせをする事になっていた。

久々に見る光景に門番隊はワクワクしながら観戦しており、美鈴もやる気が十分だった。


始まってすぐに美鈴が穿つような拳を繰り出してくるがそれを冷静に避け、お返しとばかりに鋭い蹴りとその速度で生まれた真空波を叩き込んでいる。

咄嗟に蹴りを蹴りで相殺していたが、速度が出ず真空波までは相殺出来なかったらしく美鈴の帽子が吹き飛ばされていた。


「……木くらいなら軽く切断出来る威力はあるはずなのに帽子が吹き飛ぶだけって。よし貰った!って思ったのに」


「甘いわ。あの蹴りでも真空波くらいは弱く出来るのよ?」

基礎スペックの差がここでも効いており、決まったと思っていた真空波もほぼ相殺されてしまっていた。


「テンション下がるわー……」


「ほらほら、まだまだ行くわよ!」


「ねぇ、何でテンション上がってんの?」

一ヶ月に及ぶ白蓮との特訓でラッシュに慣れたらしく、軽く捌きながら話しかけている。


「!?」

一年前なら回避に必死で喋る事も出来なかったのに自身の攻撃を全て捌き、それでいて息を切らせず話しかけてきた事にかなり驚いていた。


「足ばー……らい!」

その隙を見逃さずに素早く足払いを決め……


「きゃっ! ……ちょっ、離しなさい!」


「イヒヒ、いつもしてやられてばっかだったし恥ずか死しそうになってもらおうか……フゥーハハハハハ!」

転んで尻餅をついた美鈴をさっとお姫様抱っこで抱え上げ、そのまま走っていってしまった。



「……メイド長補佐と美鈴さん居なくなっちゃったし、先に食べちゃう?」


「そうしよっか」


………

……


そんな事があって美鈴に首がもげるんじゃないかというビンタをされ、それからはやけにボディタッチ等のスキンシップが増え始めていた。


そして満月の夜、皆が談話室に自然と集まり紅茶やお喋りを楽しんでいる。

そんな中、パチュリーに言われて来た恭夜はソファで横に寝かされ様子を見られていた。


「うぅっ……」

臓器等ではなく身体の中が痛いというどうしようもない感覚が襲い、苦しさで息も荒くパチュリーの側にいる小悪魔も心配そうに見ている。


「伊吹萃香、あの月から放たれている魔力を恭夜に萃めて。私の考えが正しければ……」


「はいはい、お酒も貰ってるしやるよー」

そう言うとワインをらっぱ飲みしながら、満月から発せられている濃い魔力を恭夜を対象にして萃め始めた。


「ごふっ……!」


「んくっ……えっ、ちょっ、これ平気なの!?」

目を見開き身体を弓のように反らし、涎がツーっと口の端から垂れている恭夜を見て萃香は慌てて隣に立つパチュリーに尋ねている。


「ええ、後もう少し」

どうにかする為には心を鬼にしなければいけないと本物の鬼の隣で考えていた。


雑談をしていたレミリアやフラン達も何事かと集まり、廃人のようになった恭夜を見てギョッとしている。

しばらくすると目を閉じ身体を静かに横にして落ち着いていた。

そして……


「……」

ムクッと身を起こすと真っ赤な瞳を輝かせ、パチュリーの元に近づいてくる。


「……レミィ、フラン、美鈴は戦闘準備をして。正気に戻るまでボッコボコにするのよ」

白目まで赤くなっていてかなり不気味で、近接戦闘がこなせる三人に助けを求めていた。


「この部屋でやったら咲夜に怒られるわ」


「恭夜と戦うの?」


「パチュリー様、説明をしていただかないと訳がわからないんですが」


「ちょっと面白そうだし私も混ざるよ。耳掃除で負けた分も取り戻したいし」

それぞれが言いたい事を言いながらも近づいてくる恭夜を警戒し、目を離さないようにしながら戦闘体勢に入った。




館の壁には大きな穴が開けられパラパラと細かな破片が落ちており、空ではフランが恭夜に対してレーヴァテインを振り回している。

レミリアはタイミングを図ってグングニルを投擲し、フランに接近できないように牽制していた。

美鈴は油断をして強烈な一撃を貰い現在治療中で、萃香はパチュリーが狙われないようにパチュリーの側に立っている。


「気分が凄まじくいい、これが最高にハイってやつか」


「前までならもう当たってるのに……!」

フランは容赦なく手加減なしで相手をしているが、掠りはしても直撃はせず逆に距離を詰められる始末。



「これはレミィとフランが原因よ。去年、二人してお菓子を頬張りすぎて口の中切ったとか言ってたのに血を吸ったでしょう?」


「吸った……けど!」

距離を詰める恭夜にグングニルを投げて撃墜しようとしたが軽く避けられている。


「その吸血痕からレミィとフランの血が少量だけど入って、一年かけて恭夜の身体に馴染んだのよ。本来なら少量だし問題はなかった……けど」


「けど?」


「移植されたレミィの目と二人の血の相性は抜群だったんでしょうね。異変で暴走してからは満月の夜に不完全な吸血鬼化ってデメリットのみを背負った状態に変化するようになったのよ」

採血やら何やらで推測した事をさも当然の事のように話している。


強い刺激が外部から与えられた事で身体に馴染んだ血と移植された目の繋がりが強固になり、強い魔力を帯びる満月の夜に不完全な吸血鬼化をするようになってしまっていた。

意識は人間のままだから血を飲む等考えた事もなく、血を飲まないから体調は絶不調で本能的に血を求めていて苦しくなる。



「まさか」


「月の魔力を無理矢理恭夜に集めて、強制的に不完全な状態を押し上げたから今は完全な吸血鬼状態になっているわ。本人も言ってたけどハイってやつで調子に乗ってるみたいだし、今なら全力でやっても平気よ」


「……そうね。咲夜、終わった後に恭夜にお説教するから紅茶の用意をしてちょうだい。それと恭夜の分は紅茶に見せかけた血ね」

満月の時だけ同族になれると聞いて少しテンションが上がり、久々に出す全力とフランとの共闘にスーパーハイテンションになっていた。


………

……


「……力に溺れるって気持ちが理解できてよかったです」

ボロボロな服のまま椅子に座り、同じように座っているレミリア、フラン、パチュリーにそう言っていた。


咲夜は四人の前に紅茶を置くとレミリアに寝ていいと言われて退出、美鈴は明日も早いからと既に就寝している。

萃香は更にワインを上乗せしてもらいご機嫌で帰っていった。



「でも恭夜凄かったよ! お姉様と私が本気出したのに五分も耐えたんだもん!」


「確かにあれは驚いたわね。最後は私達姉妹の超連撃に対応出来なくなって気絶してたけど」

ちゃんと手足を切ったりしても再生するのを気絶中にパチュリーと共に確認している。


「私が確認した限りの恭夜の保持スキルを書くとこうなったわ」

何かを書いていたパチュリーがテーブルの中心に紙をそっと置いた。


カリスマ小

強能力無効

怪力

魔法・魔術適正

料理

フェアリーキラー

邪神招喚

耳掃除をする程度の能力

満月の夜に吸血鬼化 NEW!



「こう見ると最強に見えるのに実際は種族人間だからなぁ……これでも強さは中の下くらいで悲しくなる」

ちょっと本気を出されるとあっさり負けてしまうからどうしようもない。


「来た当初は下の下で人間やそこらの妖精よりは強いけど、力のある者達の中じゃ底辺だったじゃない。それが中の下まで来てるんだもの大出世ね」


「刺されないように強くならないと……」

強くならないと誰ともお付き合いが出来ず、咲夜に当たって砕ける告白も出来ない。


「それよりもあの蒼いグングニルを振り回している姿は格好良かったわね。私の紅いグングニルとぶつかり合うのはバトル物の漫画みたいで最高だったわ……」

レミリアは理想としていた戦いが出来て満足だったらしく、先程の戦いを思い返していた。


「そろそろ解散しましょうか。恭夜も満月の夜に久々にぐっすり眠れるでしょうし」

パチュリーがそう言うと夜勤の妖精メイド達が空のカップ等を下げ始めている。


「はーい」


「恭夜、久々に一緒に寝よ!」


「微笑ましいわね」

恭夜はフランをおんぶしてそのまま部屋を出ていき、パチュリーは兄妹のような二人を微笑ましく思いながら見送っていた。


「ふふふ……恭夜、それは残像よ」

一方レミリアはまだ妄想の世界から帰ってきていなかった。

満月の夜限定で自ら吸血しない吸血鬼になってしまうようになりました。

力に溺れるとこうなる典型的なパターン。

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