だらだら過ごす冬の一日
十二月に入り里外れの屋敷での生活も一ヶ月を切っていた。
河童達の技術で魔力や霊力を変換して電気を使えるようになり、ホットカーペットと炬燵の二段構えになっている。
「みかん食べる? ほら、あーん」
「……ねぇ、私にも」
炬燵で恭夜の隣にいる座敷わらしがみかんを食べさせてもらっているの見て、向かい側に居るはたてが食べさせてくれと要求していた。
「はいはい、後でね」
「約束だからね……はー、だけど気持ちよすぎて炬燵から出られないわ」
テーブルには書いている途中の記事や二人の携帯、みかんの入った籠や書きかけのキャラシート等が置かれている。
「その出られない代償に俺の魔力と霊力が吸い取られ続けてる。霊夢か魔理沙が来れば交代して貰えるんだけど、霊夢は一度来ると冬季休業中だからって二週間は居座るからなー」
「ご用の方は里の七夜月邸までって立札まで置いてきてたらしいしね」
「その霊夢を説教しに来た華仙さんに何故か俺まで説教された意味がわからなかった」
引きずり出されて説教をされる霊夢を横目に、炬燵でキャラシートを書きながら呑気にみかんをパクついていたせいだと思われる。
「間が悪かったのよ」
「説教してる側でみかん食べてダイス振ってたら俺でも説教するかもしれないしなー」
「引きずり出された時に寒かったのか思わず抱きついてビンタもされてたわよね」
無理矢理引きずり出されて寒すぎたらしく、華仙に抱きついてビンタされたらしい。
「凄く柔らかくていい匂いだった。ビンタは首がもげるかと思った……」
「私、初めて人がビンタで空を飛ぶのを見たわ。凄い回転してたしピクピクしてたし」
「それでサボってたこまっちゃんと一緒に映姫様にお説教されたんだぜ? 起きたら起きたで一ミリくらい心配してくれた華仙さんに説教されるし」
死にかけすぎだと映姫に説教されてから目を覚ますと、今度は華仙に説教をされるという悲劇。
恭夜に寿命以外で死なれると地球の全生命がヤバイという判断が下されており、何がなんでも追い返せという指示が映姫や死神達に出ていたりする。
肉体がグロい事になっていた場合は無理なので終焉を受け入れるしかない。
「死にすぎよ……と思ったけど、恭夜って人間の中じゃ異常な強さだけど人外だと下の上くらいなのよね。そりゃあんなビンタされたら死ぬわ」
「弱いからって文の新聞で幻想郷で嫁にしたい存在の第一位にランクインしていたのはおかしいだろ。里の人にも調査しましたとか書かれてたが……俺が嫁にしたい存在なら咲夜、衣玖さん、白蓮さんの選出安定」
咲夜とは両想いだが互いに片想いだと思っているので進展はなく、いつの日か誰かが背中を押さない限りどうにもならない。
「私は?」
「家事が出来るようになってから言おうね」
仕事は出来るが料理以外ダメなはたては恭夜を娶る側だった。
「それは恭夜担当だもの。私が稼いで貴方が家庭の事をする、バッチリじゃない」
「何ではたての家で料理すると酒持ってお前の天狗の友人達が集まってくるのか。みんな女の子だしアウェイだし、毎回超肩身狭いんですけど」
美味しいご飯と人間の男を見に毎度訪れるらしく、部屋の隅っこで大人しくしているようだった。
「一応私ってエリートだし? 慕ってくれる後輩とか友人が居るわけよ」
「お前に付きまとうなって言って男の天狗に襲撃された事もあるな。しばらく逃げ惑ってたらそいつが飛んできた文にフルボッコにされて、俺が必死に止めたんだけども。男の急所をああも容赦なく……」
その凄惨な光景を思い出して気分が悪くなっている。
「私が慌てて駆けつけたら足をガクガクさせながら文を羽交い締めにしてたわね。口から泡吹いて倒れてる相手に文は蹴りを入れ続けてたけど」
「誰かー! 男の人呼んでー!って叫んだのに、駆けつけた男の天狗はみんな内股で首を横に振ってて近づいてこないし」
いともたやすく行われている、えげつない文の行為に男の天狗達は思わず内股になってしまう程だった。
「あの被害にあった天狗は女性恐怖症になって、男としての機能も」
「それ以上はいけない」
その事件を思い出すだけで足が震えるので、普段はあまり思い出さないようしている。
「その後は文と私で両手に華だったわよね」
「生きろよ坊主ってすれ違い様に男の天狗に囁かれて涙が出そうになった」
妖怪玉砕きと化した文、エリートでストーカー気質のはたてに挟まれ萎縮した恭夜を羨ましいと思う天狗は居なかったらしい。
「あの日は楽しかったわねー」
「お前達が俺の両腕を離さないから、駆け寄ってきた椛に顔をペロペロされるって悲劇を体験したんですが。犬かよ!って言ったら、狼です!って元気良く返されて何も言えなかった」
まさか嬉しそうに言い返してくるとは思わなかったらしく、言葉が詰まり何も言えなくなったらしい。
「椛の白狼天狗の仲間達もキャーキャー言ってたわね。私も舐めたーいとか」
「絶対に嫌だわ。これがご褒美とか思ってる奴は顔がベトベトになる不快感を知らないだけ。……あの尻尾をめっちゃモフモフさせてくれるなら考えないでもないけど」
自分にもあんな尻尾が欲しいといつも思っている。
………
……
…
「寒いぜ寒いぜ寒くて死ぬぜ!」
「雪払ってから入ってこいよ魔理沙ァ!」
上着を投げ捨て炬燵に飛び込んできた魔理沙にそう告げると仕方なく炬燵から出て、魔理沙の上着と帽子をハンガーにかけて下に文の新聞を何枚も敷いている。
「はぁ……この家はちょうどいい位置にあるから助かるなー」
「ちょっと魔理沙!」
雪を払っていたのかアリスがコートを脱いで手に持って部屋に入ってきた。
「ほら、アリスも入ったらどうだ? 私達の霊力やら魔力やらで暖かくなってるんだから、入らないと勿体ないぜ」
「アリス、コートなら掛けておくから」
ハンガーを手にしながらアリスにコートを渡せと手を差し出している。
「それならお言葉に甘えて……」
アリスは恭夜にコートを渡すと炬燵に入り、上海はテーブルにちょこんと座ってコートを掛ける恭夜を見ていた。
「……寒いっ」
掛け終わると即炬燵に戻っている。
「里外れは不便とか思ってたけど、正直かなり助かるな。まぁ、それも今月で終わりだけど」
「どうにか紅魔館とこの家を繋ぐゲートでも作れれば、恭夜がここに来れるから助かるのにね」
「先代の博麗の巫女さんに管理任せてるし、いつでも来れば? 最近寒いから心配だって無理言ってもうこっちに住んで貰ってるし、お前達も挨拶とかしてるだろ」
若干の下心もあり早目に住んでもらっていて、座敷わらしが懐いているので色々助かっていた。
「いや、恭夜が居ないとつまらないだろ。からかえないし」
「そうよねー……」
基本いじると楽しい反応をするから来ているようだった。
「アリスはマジで洒落にならんわ。魔力の糸を俺にくっつけて身体を操るとか超怖かったんだからな!」
正に生き人形状態で意識はあるのに身体を勝手に動かされ、物凄い恐怖に襲われたらしい。
「あれビックリするくらい簡単に出来たわよね。魔理沙にやった時は上手く馴染まなくて簡単に糸切れたのに」
「上手くやればアリスと恭夜で合体技が出来るんじゃないか?」
「貴女と合体したい……」
「わかってたけど堂々とセクハラ発言してきたわね。合体技ね……多少無茶していいならいけるかもしれないわ」
夢の中で見た彼にも同じような事をしていたらしく、それを再現出来れば合体技を名乗れる気がしている。
「あーあ、恭夜死んじゃうかもな。多少って絶対少なくないし」
「不安になるような事を言うなよ……」
魔理沙の発言で更に怖くなっていた。
「力を抜いて私に身体を完全に預けてもらうから、信用して信頼してもらわないと出来ないわ」
「俺が信用して信頼出来るのは紅魔館の人達だけだからなぁ……」
裏切られたりするのが怖くて身内以外を信じられず、親しくなっても完全に踏み込ませようとしない。
「まぁ、私は世界が敵に回ろうと恭夜の味方でいるけどね。付き合いも長いし、世界を敵に回すのにも理由があるって分かるもの」
「……」
そこまで言われて照れてしまいアリスを直視出来ず、無言でみかんを剥き始めていた。
「おっ、照れてる照れてる……むぐっ!」
「魔理沙うっさいわ」
剥き終わったみかんを丸ごと魔理沙の口に押し込み、また新しくみかんを剥き始めている。
「……」
上海もみかんを剥いており、白いのまで綺麗に取ってアリスの前に一つずつバラバラにして置いている。
「そう言えば人里を恭夜と歩いてたら、外来人の女の子に二股されてますよとか言われたわね」
「私も言われたぜ」
「誰ともお付き合いしてないのに、外来人の女の子から最低な男のレッテルを張られてマジ困る。阿求ちゃん→白蓮さん→慧音→妹紅→鈴仙→早苗→青娥さんと毎日違う女の子と歩いてたからって聞いたけど……」
里の者や長く住んでいる外来人は逆に大変だなと労いの言葉をかけてくれるらしい。
「私の時は前日に紫と歩いてたって聞いたが」
「私は霊夢と食べ歩きして奢ってたって」
「いつもの事すぎてどうしようもないわ。出掛けたら誰かしら居るし、声掛けると大体一緒に行動する事になるのに」
無視すると泣かれそうになったり、自然にストーキングしてきたり、向こうから声を掛けてきたりとどうしようもない。
「端から見たら毎日女の子を取っ替え引っ替えしてる最低男にしか見えないわけね。この前は酔って私にも変なこと頼んでくるし」
「アリスに言われるとグサッとくるなぁ……変な事って?」
まだ酒虫を体内に宿らせていないので、強い酒や大量の酒で簡単に酔っぱらってしまう。
「私のふとももをペロペロしたいとか、そのふとももで顔を挟まれたいとか」
「へ、変態だー!!」
「ばっ、酔っぱらってた時だから俺は知らねーよ! 俺は悪くねぇ!」
ドン引きしながら叫ぶ魔理沙に慌てて反論している。
「パチュリーは勝手に挟んでくるから困るって信憑性高い事を言い始めた時はどうしようかと思ったわ」
「恭夜に執着してるパチュリーならやりかねないぜ……」
「多分それはいきなり肩車しろって言われた時の事だと思う。『嬉しいでしょ? 嬉しいんでしょ? 全く恭夜は私のふとももが好きで仕方ないんだから』とか早口で捲し立ててきたからマジ困る。首絞まって死ぬかと思ったし」
興奮したパチュリーの脚が綺麗に首を絞めたらしく、小悪魔が助けなければ大惨事だった。
「そうやって餌をやるからパチュリーが調子に乗るんだぜ? まぁ、その隙に本を持っていけるから私としてはいいんだが」
「恭夜に新しい性癖が加わる所だったわね」
「紅魔館の中では俺=おっぱい大好きっていうのが定着してるし、これ以上変なイメージを付けられたくないわ」
そのお陰で成長した妖精メイド達が抱きついてきたりするから、ある意味ラッキーだったり。
「手遅れだと思うわよ。帰ったらやたらふとももを強調した咲夜とか美鈴がお出迎えしてくれるかもね」
「鍛えられて引き締まってる美鈴のふともも、白くてスラッとしてる咲夜のふとももか……胸が熱くなるな」
そんな二人を想像して早く見てみたくなっている。
「やっぱりただの変態だったわ」
「霊夢の腋におもむろに手を突っ込んでくすぐり始めた時点で私はわかってたんだぜ。弾幕に飲まれてズタボロにされたのに、気絶する前の一言が『凄くスベスベでした……』だったし」
「それはお前がキノコ集めで俺が負けたからやれって言ったやつだろ! こうやって俺に対する誤解が広がるのかよ……上海だけだよ、俺の味方は」
上海用のミニクッションに座り、剥いたみかんを差し出してくる上海の頭を優しく撫でながら呟いていた。
「恭夜に関する事だけは上海勝手に動くのよね……色んな神様に名前が知られ始めてるとか言ってたし、上海に愛を注いでいる事がヴィーナスに知れたら人間の女の子になってしまう可能性があるわ」
「いや、それはないだろ……って言い切れないのが恭夜なんだよなぁ。何を考えているのか分かりやすいようで分かりにくいし。紫も恭夜を無理矢理レンタルすると霊夢の異変解決のモチベーションが上がるから助かるわ、とか言ってて流石の私も涙が止まらなかった」
上海にみかんを食べさせてもらっている恭夜に少しだけ憐れみの目を向け、二人はひそひそと話し合っていた。
「ちょっ、アリス! 上海がおかしくなってるから助けて! ジーッと見つめあってたらいきなり服を脱ぎ始めて」
脱ごうとする上海の手を押さえて必死にアリスに助けを求めている。
「魔理沙逆だったわ!」
「上海から恭夜への愛だった!」
「いいからはよ助けろ! もう完全に全自動人形だろ上海!」
今日もとても慌ただしい恭夜宅だった。
上海や座敷わらしに愛を注ぐ恭夜はきっと紳士。
死にかけて説教→起きてからも説教のコンボは食らいたくない。