超番外編 かなり危険な現代生活3
色んなフラグとチート無双回。
夏休みに入っても異形との戦いは休みになるはずもなく、夏期特別合同訓練を行うと言われていた。
日本全土に存在する同じような学園の生徒達も参加するらしく、紫がやたら張り切っていたのを恭夜は覚えている。
八雲本家が所持している島に行くらしく、昼はバカンスを楽しめると言われて咲夜の水着選びに付き合わされて大変だったなぁと船の移動中に考えていた。
「夏休みなのに三泊四日とか訓練じゃないよね。ってか俺以外教師も生徒も女の子しかいないからって俺だけ離れた一軒家って酷い。他の学園の人達からもゴミを見るような目で見られて、俺のハートはズタズタです」
少し離れた位置に建てられている豪華な施設を見ながら、少し小さいが中は綺麗な家の掃除をしている。
「私もこちらに泊まるのでご安心ください。掃除が終わり次第食材と寝具を受け取りに行って参ります」
咲夜だけは味方だった。
「いや、食材と寝具だけ受け取ってきてくれたらいいよ。咲夜もあっちに泊まった方がいいだろうし」
「いえ、こちらに泊まります」
恭夜と二人きりの小さな家>>>巨大で綺麗な宿泊施設。
「まぁ、咲夜がいいなら俺はいいけどさ。今晩からこの島に引き寄せられる異形を四人一組で倒すのかー……見たいテレビあるし十二時前には終わるかな」
定期的に設備は点検されているらしく、少し掃除をすれば普通に使えるようになる。
「美鈴に録画するように言っておきましたのでご安心ください」
「マジか。咲夜超愛してる」
録画予約をするのを忘れてきたのを島に着いてから気づいたようで、抜かりなしの咲夜に軽すぎる愛の告白をしていた。
「ふふふ、ありがとうございます」
冗談だと分かっていても愛してると言われたのが嬉しいようで、ほんのり頬が赤くなっている。
掃除を終えて咲夜が二人分の寝具を運んでくる間にキッチン回りを確認し、調味料等もしっかりと確認していた。
紫の計らいで調理器具は全て新しい物が用意され、調味料も新しく揃えられている。
冷蔵庫の中にはジュースやらも詰められていて、宿泊施設に来れない恭夜へのせめてもの償いのようなものだった。
「エアコンも風呂もあるし、三日間は楽に過ごせそうだな。自宅に早く帰りたい気持ちは変わらないけど」
「旦那様、一部屋を寝室にしましょう。……あー、そうなると一緒の部屋で寝る事になりますね仕方ないですー(棒)」
咲夜はそう言って答えを聞かずにせっせと二人の荷物や寝具を運び込んでいる。
「……三日間もってくれよ、俺の理性」
自身の屋敷と違い毎日一緒にいる事になるので決壊してしまうかもしれなかった。
そのまま仲良く夕飯を作って食べている内に集合時間になり、宿泊施設の敷地内に嫌々向かっていった。
ただ一人実戦で使える男子という名目だが、所属している学園の者達以外からは所詮は男子という目で見られているから居心地が悪い。
実際に到着して霊夢や魔理沙の同級生組と話していても、好奇の目や侮蔑の目で見てきてイライラが止まらない。
「……恭夜、奴等の事を気にしたら負けだぜ。大体私達の学園が優遇されてるのが気に入らないって態度は毎年の事で、しかも今年は男子一人だけ混じってるから余計だな」
「一人だけ隔離みたいな事されているのも嫌がらせ防止だしね。恭夜ってメンタル強いようで弱めだし」
すっかり仲良しな魔理沙と霊夢はこちらを気遣ってくれて、学園に対する嫉妬の矛先が恭夜に向いたのを同情してくれていた。
「あーあ、嫌だな。お前達に指示を出すの俺だけど、それもグチグチと陰で言われそうで」
「はい、これ同じチームでつけてねー。……恭夜は私達と居残りだから付けなくていいわ」
八雲の学園組に腕章を渡していた紫が恭夜にだけは渡さず、咲夜・魔理沙・霊夢の三人に同じカラーの腕章を渡していた。
「ハブられるってキツいわ……」
本格的に落ち込んでいる。
「紫、ちょっと待ちなさいよ。誰が指揮を取るの? 私達のリーダーは恭夜のはずよ」
「そうだぜ。あの日、私達二人の力を最大限まで引き出したのは恭夜だったんだ。私はリーダーを変更するなら好きにやらせてもらうぜ」
「恭夜さんだけお留守番なら私は出ません」
三者三様に異議を申し立てていた。
「……幽々子以外が恭夜を出す事に納得しないのよ。有名所だと蓬莱山、古明地、比那名居、守矢が反対しているわ。どちらでもないのが聖白蓮、豊聡耳神子。だから恭夜は居残りなの」
和を乱すと色々と厄介らしい。
「俺は藍さんがぎゅってしてくれたら残っても……」
「わ、私が?」
紫のそばに控えていた藍はいきなり言われてびっくりしたようで、おろおろあわあわしている。
「ごほん! とにかく今日は三人でいつものように大量に排除して目に物見せてやりなさい」
恭夜抜きの三人でもトップレベルのトリオであり、紫の信頼度も高いメンバーだった。
「正直やる気出ないけどやってくるぜ」
「あーあ、本当に偉い人間ってくだらないわ」
「恭夜さん、すぐに終わらせてきますから」
指揮を出しながら皆の士気を上げる役目を負っていて、この三人は恭夜の指示があると性能が1.5倍程上がったりする。
「おー、行ってこい。討伐数トップだったら好きなケーキ焼いてやるから」
藍の可愛い所を見れて元気になったようで士気を上げる送り出しをしていた。
「よし、やる気出てきたぜ。たくさん運動して前もってカロリー消費だ!」
「やっぱりフルーツケーキがいいわ。紫が千疋屋で買ってきたのを使ったあれ」
「お菓子作りの腕は凄いですから、また学園長室で食べるのが楽しみですね」
それぞれやる気は出たらしく、それぞれの得物を取りに向かって行った。
「……人心掌握も得意だったみたいね」
「いや、あいつらが単純なだけです」
「ぎゅ、ぎゅーっ」
藍は意を決して顔を赤くしながら背後から恭夜を抱き締めている。
「あー、これはたまらんです。いい香りするし、やーらかいし」
「……恭夜、貴方は堂々と私の隣に座ってなさい。今日は藍と話してていいから」
藍にばかり構うから嫉妬しているが今回ばかりは仕方がないと納得し、隣に座るようにと伝えていた。
「学園長の隣って事は偉い人集合してる場所じゃないですかやだー!」
「モニターもあるから、あの三人に何かあった時に駆けつけられるでしょ」
設置された大きなモニターの傍らしく、いざという時は飛び出す事を許可している。
「はーい」
藍は離れて恥ずかしさから顔を両手で覆っていて、とても可愛らしかった。
………
……
…
「…………」
紫が様々な者と話す間はモニターを見ているが、やはり八雲の学園以外は練度が低く一撃で屠る事の出来る異形相手に苦戦する者も居る。
「ねぇ、貴方が紫の言ってた子?」
「……? ッ!」
声をかけられた方を見ると満面の笑みを浮かべた和服の女性が居り、物凄く近くて思わず驚き仰け反っていた。
「私は西行寺幽々子。紫の友達で隣県の学園で紫のような事をやってるのよー」
「は、はぁ……」
紫は一瞬こちらを見たが幽々子ならいいかと他の者との会話を続けている。
「でも男の子なのに凄いわー。あんな異形達を相手にして怖くない?」
画面にはゾンビのような異形が燃やされて消えていく姿が映っていた。
「もう慣れました。でも……」
『大変です! 今まで観測されていない巨大な異形が現れました!』
撮影していた者が緊急事態だとその巨大な異形を映した。
五メートル程はありそうな巨体で軽々と岩を砕き木々をへし折り、様々な学園の者達を腕を振るった衝撃だけで吹き飛ばしている。
銀色の髪の刀を手にした少女が斬りかかるも傷一つ与えられず、仕方なく距離を取って怪我人を逃がす為の囮になっていた。
傍にいた薄紫色の長い髪の少女も手にした銃で異形を狙い、銀色の髪の少女を援護しているが……
「……ダメだ、あれじゃ囮の二人は殺される」
「……え?」
真剣な顔でモニターを見ながら呟く恭夜の言葉に慌ててモニターを見た。
スタミナが切れてきたのか銀色の髪の少女の動きが緩慢になり、薄紫色の髪の少女も弾が尽きたのか石を投擲しているが反応がない。
そして……
「あ……妖夢!!」
腕で薙ぎ払われて木に叩きつけられピクリとも動かなくなった少女の名を叫んでいる。
「鈴仙、戻りなさい!」
薄紫色の髪の少女が妖夢と呼ばれた少女を救出しようと近づき、背負いながら逃げようとするがスタミナが切れてしまっていた。
「……恭夜、行って来なさい。そして全力で始末しなさい、これは命令よ」
予想外の被害の大きさに医療班が怪我人を迎える準備をする中、紫は持て余していた切り札に出撃命令をくだしている。
「御意」
周囲の生け贄にするつもり云々言う発言を無視し、紫に投げ渡された銃剣を握り締めて駆けて行った。
「相変わらず足が速いわねー」
「紫……」
身近な者が死にそうになるという事態に真っ青になった幽々子がガタガタ震えながら紫に声をかけている。
「幽々子」
『道に居る異形の首をすれ違い様に斬り捨てて……早く映して!』
二本の銃剣を構えた恭夜が怪我人が通るであろう道にいる雑魚の首をすれ違い様に斬り落とし、スピードを落とさずに突き進んでいる。
「あの動きには見覚えがあるわ……」
「一撃……?」
「あれって今出ていった男の子ですよね」
紫は見慣れた光景だから落ち着いているが、皆は見慣れぬ光景にざわついている。
「意外とヒーローっぽいのよ彼。貴女の従姉妹も絶対に助けてくれるわ」
この世界だと妖夢は幽々子の従姉妹らしい。
「神様、お願い……」
モニターを見つめ、神に祈りながら恭夜を見ていた。
二人の少女を追い回していた巨大な異形だが、とても美味そうな魂を持つ恭夜の接近に気がついて追うのをやめて身体を反転させた。
しかし気がつくのが遅かったようで、反転させた瞬間顔面に恭夜の膝が突き刺さっている。
「致死量は無理だったけど、これでしばらく動けないだろ。今の内に」
体内に無理矢理霊力を流し込んで体の自由を奪う荒業を披露してから離れて着地、そのまま二人の少女の元に向かった。
「あ、貴方は……」
薄紫色の髪の少女は気絶している少女を背負って逃げ続けていたようで息も荒い。
「絶対に俺より前に出ちゃダメだ。必ず後ろに居るように」
直線の位置に居たからすぐに始末する訳にいかず、少女達の前に出て守るようにして立っている。
「は、はい!」
何がとは言わないが吊り橋効果で一発だった。
「さて……学園長は全力でやれって言ってたし。あ、その前に言いたかった事を端折りながら……神よ、決着は私達の手でつけます。だからどうか手をお貸しにならないで」
そう言いながら右手を掲げると霊力だけで構成された蒼く巨大な槍が現れ、それをしっかりと握り締めて未だに動けずにいる敵を見据えている。
そしてゆっくりと深呼吸をし、脚に力を込めて数ヵ月前に牛頭を葬った時のように槍を投擲。
だがあの時とは込めた霊力も投げる時の力も段違いであり、槍を中心に凄まじい霊力が渦を巻いている。
周囲の木々を千切り飛ばし、大地を抉り、岩を粉砕しながら突き進み巨大な異形をも軽く消し飛ばしても止まらない。
やや斜め上に飛ばしたのが効を奏し、空にあった雲を消し飛ばした辺りでようやく消えていた。
「やっべぇ……」
想像の四倍近い威力で、投げた後のめちゃくちゃになった光景を見て顔色が青くなっている。
「……素敵」
現状何をやっても素敵に見えてしまう状態であり、すっ転んでも素敵に見える可能性も。
「と、とにかくみんなの所に帰ろう。その子は俺が運ぶから」
そう言うと背負っていた少女を受け取り、フランによくやっているお姫様抱っこで歩き始めた。
「はい」
羨ましそうにしながらその後を追っていった。
所変わって一部始終を見ていた紫達は……
「全力だとここまでの破壊力……いえ、無意識に制御してて全力じゃなかったわね。完全に制御出来て全力だったらここまで酷い事にはならないんでしょうけど」
映し出された惨劇の跡を見て冷静に判断し、これからは力の制御をしっかりさせる事にしようと紫は考えて呟いていた。
「紫、あの子って」
もう落ち着いたようで、とんでもない一撃を放った恭夜の事が気になっていた。
「私の婚約者(予定)よ」
自慢したくて仕方がなかったようで渾身のドヤ顔を決めている。
「西行寺様、一応婚約者の後には予定が付きます」
誤解されないように藍がしっかり補足していた。
「へー」
「貴女達にもあげないからね。男だからって理由で下に見て、散々彼を扱き下ろしてたし」
その紫の言葉を聞いてモニターを見ていた学園のトップ達がビクッと反応している。
「でも格好良かったわねー。『神よ、決着は私達の手でつけます。だからどうか手をお貸しにならないで』って声が聞こえた時はびっくりしちゃった」
「音声拾えたのがそこまでだったけどね。……疲れたから妖夢を医療班に預けたら直帰するってメール送ってきたわ」
疲れたというのは方便で予想以上に破壊をした事を怒られるんじゃないかとビビり、途中で合流した別方面担当の咲夜と共に帰宅していただけだった。
「もう隠してないんだし、彼なら別に私達と一緒に泊まってもらってもいいんじゃない?」
先程までLive映像を映していたモニターには恭夜の事細かな情報が映し出されている。
機を見て皆に知らせるという紫の提案を受けて国ぐるみで偽のデータを載せていて、前もって情報収集をして誤解した者も多数いる。
様々なデータが平均的な人間の基準値を遥かにオーバー、内包する霊力は計測不能と他の追随を許さないステータスに皆は無言で目を通している。
「そうなると部屋を用意しないといけないわね」
反対の声もないだろうと明日からは自分達と同じ場所で寝泊まりをさせるつもりのようだった。
「妖夢は医務室から今日は帰ってこれないでしょうし、私の部屋でもいいわよー?」
「あわよくば既成事実をって考えてる顔してるわよ」
「……だってお見合いとかもうしたくないんだもん。みんな私の家の事しか見ないし」
どこも同じ悩みを抱えているようで、幽々子も月に何度もセッティングされるお見合いで疲れている。
「それを私に言われても困るわよ」
「だから私も紫みたいに報告しちゃおーっと。選り好みする紫が気に入るくらいだから、いい子なのは間違いないってわかるもの」
そう言うと早速メールを送り始めていた。
「ちょっと!」
「言うだけならいいでしょ? 私はお見合いがなくなってくれればいいだけなの。はい、送信」
別に恭夜に興味があるとかではなく、お見合いをなくす為に報告をしている。
「絶対あげないからね!」
………
……
…
翌日の朝になりビクビクしながら朝礼に行くと、ほとんどの者達から一挙手一投足を見られて昨日より居心地が悪かった。
昨日の一撃が予想外過ぎて今後数週間は島に異形は現れないという事が話され、残り二日は完全に遊んでていいという許しが出て皆が歓喜の声を上げていた。
昨晩の別れ際にアドレスと番号の交換を迫ってきた鈴仙が笑顔で手を振ってきて、とりあえず愛想笑いと会釈をして誤魔化している。
「恭夜さん、ビーチに出たらしっかり日焼け止めを塗ってくださいね?」
「乙女の柔肌に触れてドキドキする体験。俺、青春してる」
海で女性に日焼け止めを塗るのは恭夜がやってみたかった事の一つだった。
「楽しみすぎて中に着てましたよね」
「ふふん、時間の短縮なのだぜ?」
一日遊ぶらしく何故か鉄板や幾つものクーラーボックス等のアイテムを持ってきていて、かなり重そうな状態だった。
「ふふ、子供みたいですよ。私達は隅の方で楽しみましょうね」
皆が部屋に帰って準備等をする中、二人はそのまま帰らずにビーチに向かっていった。
到着すると早速大きなピクニックシートを敷き、パラソルを立てて日陰を作っている。
咲夜とは途中で別れ、着替えが終わるまで体育座りで海を眺めて待っていた。
「お待たせしました」
「……やっぱ似合うよなぁ」
青いビキニにパレオの咲夜を見て思わず呟いている。
「旦那様の水着も似合ってます」
「黒のブーメランを反対されたからトランクスタイプだけどな。美鈴とパチュリーには好評だったのに」
二人に鍛えた肉体を見せつけていたらしく、ブーメランのチョイスが最高だと絶賛されていた。
「あれは刺激が強すぎてダメです」
「えー……」
「そんなにお気に入りなら最近近所に引っ越してきたビリーさんに」
「ごめんなさい!」
そして皆が来る前に咲夜の身体に日焼け止めを塗ったり、想像力が豊かすぎてしばらく立てなくなったりと色々あった。
「これが家だったら間違いなく俺の理性はなかった……」
「テクニシャン……」
互いにダメージが大きかったようで、仲良くピクニックシートに寝転がっている。
他の者達も少しずつ来ていて、離れていてもキャアキャア騒ぐ声が聞こえてくる。
「どうせならみんなで来たかったな」
「そうですね」
咲夜も落ち着き何をするでもなくボーッとしながら答えている。
「何でこんなビーチの隅にいるんですか?」
「あ、君は確か……誰だっけ?」
あまり覚えていないが水着姿の少女に見覚えがあった。
「鈴仙・優曇華院・イナバです」
「優曇華院さん」
寝たままじゃ悪いと身を起こしながら名前を呼んでいた。
「鈴仙でいいですよ。昨日助けてもらいましたし」
自然に寝ている恭夜の隣に座り、咲夜はムッとしながら身を起こして様子を見ている。
「鈴仙さん」
「はい。それで何でこんな隅の方に?」
「いや、だって女子だらけの中心には居られないし。ボーッとしてるだけで変態扱いされかねないから」
そうなる事を恐れて隅の方を選んでいた。
「気にしなくてもいいと思いますけど」
「女の子って視線に敏感だって言うし、俺だって男だから自然と見ちゃうから。見てほしいとか言ってた咲夜以外だと即死レベル」
咲夜は恭夜にだけガンガン見てほしいようで、気合いが入っていつもより胸が大きく見えるような気がする。
「あー、それは確かにあります。七夜月さん、さっきからチラチラ見てますよね?」
少し恥ずかしそうにしながら羽織っていたパーカーのジッパーを上げている。
「ごめんなさい。こうなるから隅っこで咲夜と二人きりで遊ぶ予定だったんだよ」
「……ふっ」
見られたいから堂々としている咲夜は、勝ち誇った顔で鈴仙を見て鼻で笑っていた。
「それなら私も混ぜてもらってもいいですか? ……昨日私だけ命令無視しちゃって、みんなと居ると気まずいんです」
「いいよ、気まずいと楽しくないよね」
「お昼の材料をたくさん持ってきて正解でしたね」
霊夢か魔理沙が来ると見越して大量に持ってきていた。
「……え? 二人は施設の食堂利用してないの?」
お昼の材料の話を聞いて敬語がなくなり目を丸くしている。
「多分君の学園のトップとか他にも幾つかの学園のトップが男は入れるな的な事言ったんじゃない? ちょっと離れた位置にある一軒家で俺達は寝泊まりしてるから自炊だよ」
男女逆にしたラブコメ展開が起きており、知ってて風呂に乱入してきたり着替え中に入ってきたりと咲夜は絶好調。
「酷い……」
「いえ、恭夜さんのご飯のが美味しいですし。私に対する愛情がこれでもかと言うくらい入っていて」
「でもちょっとだけお金持ちの食べてるご飯は食べてみたかったな。今後の参考の為に」
向上心はかなりあるらしい。
「貴女が作るんじゃないの?」
気にしていないのに気がつき敬語をやめる事にしたらしく、咲夜に尋ねていた。
「私も作りますが、基本的にキッチンは恭夜さんのテリトリーです」
「まぁ、この話はこれくらいにして遊ぼう。何をするかは波打ち際まで行って考えよう」
そう言うとシートから出て、さっさと波打ち際まで歩いていってしまった。
「……私、通ってた学園を追い出されるの」
「いきなり私に対して何を言い出すの?」
いきなり話し出した鈴仙に咲夜は驚いている。
「私、こうやって話せる友達いなくなっちゃったから。昨日の命令無視で厳しく言われたの。それだけなら私が悪いからって耐えられたけど、守ってくれた七夜月さんの事を悪く言い始めて我慢できなくなって」
「また逆らってしまった、と」
「ええ。それで男をかばうような者はいらない、荷物を纏めて学園からも出ていってもらうって」
選民思想で女尊男卑な学園になっているらしく、元々それに馴染めずにいたようだった。
蓬莱山輝夜がトップだがそれはお飾りのような物で、事実上のトップは八意永琳。
この世界では恭夜と相容れない関係になっており、下手に接触するとどちらかが消え去るまで戦う事になりかねない。
「それは……」
「昨日も医務室を借りて寝てたの。みんなの私を見る目が怖くて……」
「それなら今借りてる俺達の家に来なよ。俺のせいみたいだし、学園に関しても任せて」
あまりに二人が来ないから戻ってきて聞いていたようで、鈴仙にそう提案していた。
「あ……はい」
「爽やかな微笑み、優しい言葉、とろんとした瞳の目の前の女性……ハーレム形成に余念がありませんね」
咲夜は一瞬で察したらしい。
皆が騒ぐ中心辺りでくつろぐ水着姿の紫と藍に声をかけに行き、ビーチの隅まで移動。
これまでの経緯を話してどうにか出来ないか尋ねていた。
「おっけー☆」
「軽いなー」
無理難題を覚悟していたがあっさり了承されて気が抜けている。
「え、いいんですか?」
「だって貴女、命令を無視してまで私の友人の従妹を見捨てずに最後まで背負って逃げようとしてくれたじゃない。それに恭夜が私にお願いするなんて滅多にない事だしね」
基本的に紫からのお願いはあるが、恭夜からのお願いは一切なく少し不満だったらしい。
「仲間が増えるよ!」
「や、やったね恭ちゃん!」
「おい、やめてくれ」
自然と口に出した恭夜に咲夜が乗り、興味本意で調べてトラウマになった藍が真顔で二人に言っていた。
「恭夜のご両親とそのご両親みたいに、恭夜も優秀な者を引き寄せるのかもしれないわね。あのスカーレット姉妹にノーレッジの魔女が一緒に居た時は目が飛び出るかと思ったわ」
「こっち側で有名だったとか知らなくて俺も目が飛び出るかと思った」
何も説明されなかったようで紫から聞いて知ったらしい。
「え……えぇっ!?」
「鈴仙さんの驚き方……そこまで有名なの?」
本気で驚く鈴仙を見て不思議そうにしている。
「こちら側なら当たり前よ! 小さく愛らしい容姿で異形を貫き、焼き払う姉妹に魔力を当たり前のように使う魔女なのよ?」
鈴仙は興奮しているのか恭夜に詰め寄り説明にも熱が入っていた。
「想像できねー……レミリアとか地震にビビって頭抱えてしゃがみこんでたし、フランちゃんはマジ天使だし。パチュリーだけは家の警備にって魔法使って色々やってるから想像できた」
害意を持って侵入しようとすると骨まで燃やし尽くす炎に飲まれたりするような物だが、家族を守るためだからと押しきられて許可を出している。
「それは私のが想像できないわよ……」
資料や動画で荒ぶる姿しか見ていないからか想像が出来なかった。
「もしかしてマーガトロイドって人も有名だったりする?」
その言葉に二人のやり取りを眺めていた紫が過敏に反応している。
「ちょっと待ちなさい。逆に尋ねるけど、マーガトロイドを知っているのかしら?」
「名前までは知らないけどパチュリーみたいに元婚約者。父方の爺ちゃんとその女性の爺ちゃんが大親友だったみたいで、母方の爺ちゃんの勧めてたパチュリーとの婚約がなくなったからって。まぁ、正式に決まる前に父方の爺ちゃんも亡くなったから白紙になったから元婚約者候補かな」
最近そのお爺さんから急に手紙が来て、そちらとも手紙のやり取りをしている。
「貴方の母方の祖父がノーレッジの家、父方の祖父がマーガトロイドの家と繋がりがあった。それでご両親がスカーレットの家と繋がりがある。しかも恭夜本人は私と知り合って八雲家と繋がりが出来た……なにこれこわい」
本人の意思とは別にこちら側で有名な家と繋がりがありまくる恭夜に軽く戦慄を覚えていた。
「最後はあんたの方が接触して来た結果だろうが」
「やーん、恭夜が冷たいー」
「美人でスタイルいいんだけど何かイラッとくるぜ……ふぅ」
大きなクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して飲んで気を落ち着かせている。
「とりあえずその子と腕組んで歩き回って来なさい。男側に落ちたんだって思わせて完全に決別させる為に」
「水着姿でキャッキャッ言ってる女子の群れに俺を突っ込ませるとか……鬼!」
「が、がんばります!」
鈴仙は居心地の良い恭夜達の在籍する学園に移る為に気合いが入っている。
「こうやって話すようになって一時間ちょいしか経ってないのに腕を組むとか」
「私が反対側で両手に華、ハーレム男爆発しろ作戦で行きましょう」
咲夜はそう言うと左腕に抱きついて腕を組んでいた。
「わ、私も」
恥ずかしさで顔を赤くしながら咲夜を真似て右腕に抱きついて腕を組んだ。
そのまま女子の群れに向かって特に鈴仙の在籍している学園の者達付近で甘い言葉を吐いてみると、数人で何かを話し合っているのが分かった。
目的は達成出来たと考え、そのまま悠々と戻っている。
「ただいまー」
「おかえりなさい、あ・な・た……きゃっ、言っちゃった☆」
「この前やったゲームのキャス狐を相手にしてたザビーズはこんな気分だったのかもしれない」
何とも言えない気分になっていた。
「で、成功?」
「報告云々言ってたし完璧だろうね。最悪裏切り者には死を!とか言って襲ってくるかもしれないし、今日は俺達と泊まってもらう事にするよ。パチュリーから貰った苦しんで苦しんで死にたくても生かされ続ける警備魔法が込められた魔具使えばいいし」
恭夜は一度どんなものか試してガチ泣きした程で効果は折り紙付きである。
「うわぁ、えげつないわ」
「こうでもしないと意味がないわって言ってた。家の警備はこれ以上だとも言ってたし、パチュリーが味方でよかった」
正直勝てる気がしない相手の一人であり、寝ている隙にちょっとした契約を結ばれていたりして逆らえなかったりする。
「敵に回すと恐ろしい存在……味方なら安心できるわ」
「恭夜さん、そろそろお昼にしましょう。焼きそばにお肉、野菜もたくさんありますから」
話をしている間に咲夜がセッティングをして砂浜でもぐらつかないようにしていた。
「たまには手を抜くのもいいな。学園長、ちょっと手を洗いたいからこれお願い」
ミネラルウォーターを取り出して紫に手渡している。
「はいはい」
「……食べていくなら各々紙皿と割り箸、紙コップも出しておくように」
紫が適度に流してくれる水で手を洗い、食べていくのなら用意するようにと告げて鉄板の所に移動していた。
「テーブルと椅子は私が運んでくるよ。何もしないのは悪いからね」
そう言って藍は近くの宿泊施設に取りに戻って行った。
「咲夜と藍さんが居れば俺はどこまでも行ける気がする」
「私はいつまでもお側に居ますよ。……例え離れろと言われてもずっと」
どんな事があっても離れないと誓っており、例え自分が選ばれなくても一生仕える覚悟が咲夜にはある。
「……色々凄いのね、七夜月さんの周囲の人って」
鈴仙には咲夜の呟きが聞こえていたようで、焼きそばを作ろうとしている恭夜にそう答えていた。
「俺なんて悲しい過去がある主人公タイプだし、みんな色々凄いよ」
「えっ、悲しい過去があるって自分で言っちゃうの? そういうのって聞いてから語って、私がごめんなさい……とか言うんじゃないの?」
「別に俺の両親が事故……もとい異形に殺され魂を喰われて囚われてたくらいさっさと話すよ。気を使われたくないし」
さらっと自分の悲しい?過去を口にしている。
「今凄い事を聞いたような……」
「フランと動物ごっこをしている所をレミリアに見られた事のが悲しい過去だと思ってる。よりにもよって何で俺はひよこをチョイスしたんだ……」
物凄い悲しそうな顔になり、恥ずかしさも重なって両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。
「ぷっ」
ひよこになりきっている姿を想像して思わず吹き出している。
「あの時の恭夜さんはとても……とても可愛らしくて。フラン様扮する猫に襲いかかられるひよこのシーンに遭遇できて幸せでした」
「やめて!」
ちなみにレミリアは一部始終見ていたらしく、しばらくの間いじられ続けていたらしい。
「十六夜さん、だったよね? それもう少し詳しく」
「咲夜でいいですわ。私も貴女の事を名前で呼ばせてもらいますので」
「俺の悲しすぎる過去で意気投合するなよな!」
面白すぎる過去の間違いだった。
………
……
…
そんな楽しい時間も過ぎ去り、夕方になって皆は引き上げ始めている。
「じゃあ、咲夜と鈴仙さんはシャワー浴びて着替えたら家に帰ってきて。俺は先に帰って風呂入るから」
男用のシャワールームがなく、荷物をまとめて背負って持つと水着姿のまま戻っていった。
「すぐに戻りますのでお気をつけて」
「今日、明日とお世話になります」
去っていく恭夜の背に二人の声が届いている。
帰るとすぐに風呂に入り、さっぱりしてから後片付けを始めた。
鉄板も綺麗に洗い元あった場所に戻し、クーラーボックスも余った物を取り出したりしながら片付けていく。
その内に二人が帰宅、ひよこ事件を機に仲良くなっていて楽しそうに話しているのが印象的だった。
「あれ、咲夜の胸が…ムグッ!」
「しっ! それ以上言っちゃダメ」
恭夜が失言をしそうになったのを悟り鈴仙が恭夜の口を塞いでいる。
「私の胸、ですか? ……やだ、恭夜さんったら。今日は鈴仙も居るんですからダメですよっ」
「ぷはっ、誤解を招くような発言はマジでやめて! 今日はって何だよ! 何がダメなんだよ!」
咲夜の発言に驚き鈴仙の手を掴んで外し、必死に抗議の声を上げていた。
「大丈夫、私は七夜月さんの事を信じてるから!」
「ちょっと距離取ってる時点で信用されてねー!」
咲夜の発言を聞いて鈴仙は若干距離を取っている。
「と、このようにすると可愛い反応が見れるのよ」
「なるほどなー」
「早く、早くお家に帰りたい! この二人とあと二日も居たらからかわれすぎて死んじゃう!」
ピュアな青年には辛い二日間になりそうだった。
切り札の範囲と破壊力はダントツ。
最初は鈴仙を恭夜側に引っ張り込むつもりはなかったんだけど、話の都合上引っ張り込むしかなかった。
恭夜が見たかったテレビは孤独のグルメな模様。