特別編 某スーパーな世界の後で
「俺は悪くない!」
「いや、間違いなく汝が悪いのは確定的に明らかなのだが」
「どうして梅酒の梅だけを先に食べてしまったんですか!」
腕を組んで仁王立ちをした二人を前に必死で俺は悪くないを連呼していた。
ちなみにルルイエ異本は人間の言語を勉強する為に紅魔館に逗留していて不在。
恭夜は送っていった時に咲夜と美鈴、小悪魔に誘惑されてホイホイ付いていくという誤算も生じていたが今後何が起きても完全な自己責任である。
フランに全部見られているが知らぬは本人達だけ。
「食べ始めたら止まらなかったです」
「ぐぬぬ……!」
「私は毎年マスターが頬張った梅を口移しで食べさせてもらうのが楽しみでした……」
「そんな事してないのにマジでしてたかのように言うのはやめて! アルが物凄い目をしてるからぁ!」
エセルドレーダが真剣な顔で嘘を吐き、アルが嫉妬を込めた凄い目で見てきてビビっている。
「わ、妾も二人きりになると恭夜から口移しで素麺をだな!」
「アルも変な所で張り合わないでいいから! しかもなんでそんなバレやすい嘘つくんだよ!」
勿論そんな事をしたはずもなくアルの嘘なのだが……
「め、麺類……」
orzな状態になっていた。
「なんで麺類にショックを受け……今日は黒か」
そんなエセルドレーダの背後からスッと覗き込んで口に出している。
「汝、最近ナチュラルに口にするようになったな。このド変態魔導師!」
「男が変態で何が悪い!」
恭夜は ひらきなおる を覚えた!
………
……
…
「しかしクロウって名前の男は貧乏なのが多いのかねー」
「? ……ああ、そう言えばあの男もクロウという名だったな。アーカムにいるあの男と名が同じとは」
「でもあの世界のアフリカ大陸にデモンベインが埋まっていたのは予想外でしたね」
某世界にお邪魔する事態になって必死に働いたり、怪獣みたいなのと戦ったりと本当に色々あったらしい。
「あれは本気で驚いたよ。動力部が反応なくてどうしようもないから、最終的にルルイエ異本に頼んで彼女の鬼械神(仮)って事にして納めてもらったんだよな。今は河童達が嬉々として調べまくってるんだよな、半年過ぎて連絡もろくにないって事は動力部分がダメなのかもね」
バラさない事だけ約束して河童達に任せていて、その場に時折緑色の髪の白衣を着た人間が混ざっているようだが……?
「あの世界に居る間は何故か四人乗りだとお得、という言葉が頭に浮かびました」
「妾もそうだった」
「俺は天狼星の弓とかの武装を使う時に他の人達に影響されてノリノリになった事を後悔してる……」
めっちゃテンション高く叫んだりしてきたようで、思い出すと顔を隠してジタバタし始めるくらい後悔している。
「確か……『アルゲンティウムアストルム。天狼星の弓、放て』」
その時の恭夜の表情と口調をアルが真似し始めた。
「イエス、マスター。我は闇、我は蛇、我は弓、我は星」
エセルドレーダもノリノリで再現してくれていた。
「『悪神セト、蹂躙せよ。犯せ、冒せ、侵せ!』……だったな。あれはどう見ても妾達が悪者にしか見えなかったが」
「ッ!」
顔をクッションに埋めて耳を塞いで悶えている。
「あぁ、マスター耳まで真っ赤にされて……」
エセルドレーダは恥ずかしさに悶える恭夜を見てうっとりとした表情になっていた。
「照れるくらいなら武装の名前だけ叫べばよいものを」
「もし河童の科学力でデモンベインの動力が修復された場合、マスターがまたノリノリになるのは確実だからいいのよ。クールに叫ぶマスター、熱く叫ぶマスター、後で後悔して照れるマスターが見れるのが楽しみね」
「……よし、そうなったら仕方がないから妾が恭夜と共に叫ぶとしよう」
実は恭夜とエセルドレーダが叫ぶのを見ていて、アルもちょっとは叫びたくなっていたらしい。
「俺もう叫びたくない……」
「とか言っておいて何だかんだ叫ぶのが目に見えるぞ」
膝を抱える恭夜にアルは言い切っていた。
コツを掴んだのか河童が動力の完全修復に成功させたのがそれからたったの一ヶ月。
妙な白衣の男のお陰だとにとりから聞かされたが、修復後は姿を見せないらしくお礼を言う事が出来ないと嘆いていた。
「使う日が来ませんように」
虚数展開カタパルトもその内に作るつもりのようで、普段は統率の取れていない河童達だが今は一致団結している。
「それで白衣の人間が置いていったんだけど、盟友はどうしたい?」
にとりから手渡された設計図にはリボルバーとオートマチックの銃が描かれている。
オートマチックの方にはクトゥグア、リボルバーの方にはイタクァという文字も書かれている。
「?」
「普通に制御出来ないだろうからこれで制御するべきだって言ってたよ」
「クトゥグアとイタクァの事かな……アイオーンで使ってる銃じゃ無理?」
デモンベインを見上げているアルに制御に関しての事とアイオーンの銃じゃ無理なのかを尋ねようと目を向けると、にとりと恭夜の話を聞いていたようでどちらの事にも頷いていた。
「無理みたいだね。この地下部分に虚数展開カタパルトが完成次第取りかかるよ」
「何か凄いことになっておりますけども」
「うむ、妾達が誰でも呼び出せる用にするのはいいかもしれないな」
「どうにかカスタムして四人乗りにしましょう。お得ですし」
四人乗りのスーパーロボットは凄くお得なのは確定的に明らか。
「いや、出来るなら呼び出す用な事件が起きない方が……」
好戦的な二人と違い、基本的に戦いたくない恭夜は引いている。
「恭夜、いい加減に覚悟を決めよ。これは辛い非日常がある世界に迷い込んだ時の自衛の為でもあるのだからな」
「あれは迷い込むんじゃなくてニャルちゃんが暇潰しに俺達を連れていって放置、そのまま観察して楽しんでるだけだからね? ……まぁ、でも自衛に関してはしっかりしようと思う」
紫と霊夢に土下座して定期的に鬼械神に乗る事の許可を貰うつもりで腹を括っている。
それから数日後。
「ルルイエ異本は右! アルは左! エセルはそのまま直進!」
里の上を飛びインカムから指示を出し、何かを追い詰めている。
「おい、つめた」
「もう逃げ道はないぞ!」
「その首、頂戴します」
四人で一人の男を里の外れに追い詰めていた。
「里の子供を二人、夫婦を一組を私欲の為に殺したな。お前みたいな奴の首はいらん」
追い詰められて壁をよじ登ろうって逃げようとした男を恭夜が蹴り落とし、頭を踏みつけて力を入れ始めている。
「うるさいからと声帯を先に潰して正解でしたね」
「ああ。俺達に仕事を回してくれた里長には感謝だな」
バタバタ暴れて口をパクパクして命乞いをしているようだが、恭夜は足に入れた力を抜かずにそのまま踏み抜いた。
「さて後は妖怪達に処理をさせなければな」
「うへぇ、首はいらないけどいつもみたいにバルザイの偃月刀で首を斬り落とせばよかった。肉片がジーンズについちゃったよー」
血溜まりの中心で恭夜が足を振って肉片を払っている。
「ちょっ、足を振るな! 妾に付くだろうが!」
アルは慌てて飛び退いて距離を取っていた。
「……ばっちい」
「マスター、ばっちいです」
ルルイエ異本とエセルドレーダは踏み潰す前に距離を取っており、被害はないが恭夜に近づこうとしない。
「露骨に距離を取られると予想以上に傷つくな……」
肉片を払い終えると死体の足を掴んで引き摺って里の外に運び始め、残った三人は血等の後片付けを始めた。
「自業自得だ馬鹿者」
土や砂を血に被せながら肉片を魔術で消滅させている。
「この手の依頼だとマスターは昂っているのよね……今夜は獣のように貪られるわ」
「……」
エセルドレーダの言葉を聞いてポッと頬を朱に染めながら片付けていた。
「まぁ、それはいつもの事だとして……妾が許せないのは這い寄る混沌の誘いにホイホイ乗った事だ」
「あの無駄な脂肪の塊をつけたナイアの状態で来た時の事ね」
「……」
ビキビキしながらアルの意見に同意している。
「妾達がレミリアの誘いを断ってさえいれば……!」
「いえ、早苗がマスターはおっぱいが大好きだって言ってたから遅かれ早かれあの脂肪の塊にやられていたわ」
「……」
あまり喋りたくないらしく頷いて同意している。
「『成熟した大人の女性って素敵やん?』とか訳のわからない事も言う始末だ」
「マスターの弱点である眼鏡なんていう卑怯なアイテムまで使ってたわ」
眼鏡萌えだからドストライクだったようてホイホイ付いていったらしい。
「これでメイド服を着てこられたらやばいぞ。恭夜は完全に籠絡される!」
「そ、そんな……!」
「……!」
アルの言葉にエセルドレーダは愕然とし、ルルイエ異本はイヤイヤと首を横に振っている。
「やめてね、誰も居なくても誰が聞いてるかわからないんだから」
処理を終えて帰ってきていたようで、夢中になって自分の性癖を話す三人にやめるように伝えていた。
「ならば帰ったら家族会議だ。あの日は誤魔化されたが、妾はやはり納得がいかん」
「私もです」
「……」
実はもう流暢に喋れるんじゃないかと恭夜に疑われているルルイエ異本がこくこくと頷いていた。
「えー……それとルルイエ異本は手を出してないのに参加すると申すか」
「いずれ手を出すのだろう? 今から家族会議に参加してもいいと妾は思う」
「アルと同意見です」
手を出すのが確定だと思っているらしく、生々しい家族会議への参加を二人は認めている。
「いや、出さないからね。とにかく話の続きは報酬もらって帰ってからな」
そう言うとアル達に背を向けて歩いていった。
「むっ、妾は久しぶりに夕飯に肉を所望するぞ! 帰ってきてからは八雲紫から大量に貰った素麺ばかり、流石の妾も流し素麺と野菜の天麩羅ばかりは辛い!」
「私は八ツ目鰻が食べたいです!」
「……からあげ」
素麺ばかりで肉やら魚やらに飢えた三人娘は、それぞれの食べたい物を言いながらその背を追っていった。
某スーパーな世界に行って帰ってきた後のお話でした。
現在は邪神、神、悪魔、精霊、人間、妖怪に手を出しています。