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楽しい地底生活

白玉楼と八雲家にはそれぞれ一週間滞在し、次はどこに行けばいいだろうと考えて歩いていた。

すると黒い翼を持った少女が背後から猛スピードで強襲、勢いをつけたまま背中に抱きつきそのまま持ち上げると地底に向かう穴に帰っていってしまった。


「う、うーん……」

最初の背後からの一撃で気絶してしまい、ようやく目を覚ますと間近にこいしの顔がある。


「んー……」

目を閉じていてそのままキスしようと顔を近づけてきた。


「きゃあっ!」

何故か恭夜が悲鳴をあげ、こいしの頬を両手で掴んで止めている。


「も、もう少しなのに……うぐぐ!」


「普通逆でしょこういうのって! 誰かー! 男の人呼んでー! 男の人呼んでー!」

全力でこいしの顔を押さえているが徐々に近づきつつあり、かなり焦って助けを求めていた。


「いったい何を騒いで……こいし!」

さとりが騒がしさに気づいて部屋に入ると、自分の妹が恭夜にキスしようと必死になっている姿が目に入り慌ててこいしを羽交い締めにして引き離している。


「お姉ちゃん邪魔しないで!」


「そういうのは合意の上でやりなさい! それに私が最初って言ったでしょ!」


「この姉にしてこの妹あり。危険が危ないから、足の足首の骨を骨折する前にそこの扉を右に右折して逃げよう」

言い争っている間にスタコラサッサと逃げ出していた。


………

……


「気がついたら地霊殿に居るとか怖い。背中も痛いし……」

出口に向かって館を徘徊しているが久々すぎて迷っていた。


「あ……」


「お燐ちゃん?」

向こうの曲がり角からひょこっと現れ、目を丸くしながらこちらを見ている。


そしてそのまま全力で走り出し、遠慮もせずに思いっきり飛びかかってきた。



「ちょっ……! グフッ!」

全力で走ってきたお燐が抱きつくとドムッ!という音がして呼吸困難になっていた。


「お兄さん会いたかったよー! ずっと会いに来てくれないからあたいの事が嫌いになったのかと思ったよー!」

基本的に紅魔館に引きこもっているから地底に赴く事はなく、お燐と会うのも半年以上ぶりだったりする。


「い、息が……」

苦しいらしくヒューヒューいっている。


「……あの雌猫の匂いがする」

ほぼ毎日橙に構っていたから服に染み付いているらしく、ニコニコしていたお燐の顔が怖くなっていた。


「はぁ……はぁ……ふぅ、ようやく痛みも治まった。……いだだだだ! お燐ちゃん爪、爪が貫通してる!」

気絶している内に脱がされたのか長袖のシャツだけになっており、お燐の爪が軽く貫通して皮膚に突き刺さっている。


「お兄さんがいけないんだよ……」


「血が、血が出ちゃうから!」

既にうっすらと白のシャツに血が滲み始めていた。


「……」

長袖のシャツの中にいきなり頭を突っ込み、傷つけて血が出ている部分を舐め始めた。


「ヒッ!」

ざらざらした舌の感触とお燐のいきなりな行動にビビり、固まって動けなくなっている。


「……」

お燐が舐めるピチャピチャという音だけが響く。


「よ、よーしよしよし」

恐る恐る服の上からお燐の頭を撫で始め、どうにか舐めるのを辞めさせようと必死。


「……にゃあ」

やはり直接撫でられたいらしく服から出てきて、胸元に顔を擦りつけ始めた。


「お、お燐ちゃんは可愛いなぁ!」

若干逃げ腰になりながらも片手をお燐の背に優しく置き、もう片方の手で頭を撫でている。


「お兄さん、お兄さん……」


「よしよし」



しばらく撫でていると満足したのかお燐が離れ、いつもみたいな笑顔に戻っていた。

マーキングが完了して匂いが上書き出来たというのもあり、大変ご機嫌で手を繋いで館の中を歩き始めている。


「それでお空が温泉卵にハマって、食べ過ぎだってさとり様に注意されたりしてたんだよ」


「へー」

もしかして誰かを選ぶとさっきのお燐のようになる者が出るのかな、そうだったら嫌だなぁと考えながら相槌を打っていた。


「はい、お兄さんの部屋に到着」


「あの、外に出たかったんだけど……」

さっきまでこいしに襲われていた部屋とは別の以前使っていた部屋の前に着いていた。


「ダメだよ。さとり様からお金を借りたんだから、お兄さんはしばらくここで暮らすんだよ」


「それなら仕方ないな。でも既に立派なお屋敷みたいな家が建ってたなー」

まだ中にも入っていないが既に新居が完成している。


理想の家(恭夜を除いたみんなの)を建てる為に里外れの人気のない土地を広めに購入、元巫女や現巫女や鬼や神や妖怪等が軽く二桁は集まって地鎮祭をしたりと凄くカオスだったと思われる。

そして完成してすぐに付いた名前が妖怪屋敷であり、ただでさえ人通りが少なかった場所に今は誰も来なくなっていた。



「荷物はお空と運んでおいたから安心していいよ」

扉を開けて中に入り、靴を脱いで畳に上がっていた。


「ありがとね」


「うにゅ」

部屋では既に空がごろごろしていて、テーブルにはゆで卵が積まれた笊とどこから持ってきたのか食卓塩が置かれている。


「お空ちゃんが居る……後少し、だがこれがいい」

スカートがいい感じに捲れているがギリ見えない状態になっていて、逆に見えない事に恭夜は少し興奮していた。


「お兄さん、声に出てるよ」


「……いや、今のは場を和ませようと思って」

さっと目を逸らしてお燐に言い訳をしている。


「恭夜、見たいの?」


「はい、そりゃもう! ……あ」

元気良く返事をしてから隣でお燐が蔑むような目をしているのに気がついた。


「お兄さんの変態!」


「やめて、お燐ちゃんに言われるとグサッと来るから!」

ただお燐に蔑む目をされて少し興奮しているのは秘密。


「もうお燐、恭夜がえっちじゃなかったら恭夜の皮を被った別人だよ?」


「お空ちゃん、それフォローじゃないからね!?」

フォローと言う名の追い討ちを空からくらっていた。


「……それはそうかも。いつもお空の胸見てるし」


「ちょっ、このタイミングでその嘘は信憑性出ちゃう!」

実際よく見ているから嘘じゃなく歴とした事実だが。


「そうそう」

見られている事に気づきながらも知らないフリをしてくれていたらしい。


「お兄さんって分かりやすいし、全部バレてるから大丈夫だよ」

座布団に座った恭夜に猫状態で擦り寄り、胡座の上で丸くなった。


「お空ちゃん、ごめんなさい。セクハラでさとりに言いつけないでください」


「いいよ。だってそれだけ見るって事は恭夜が私に興味があるって事だもん」

ごろごろしながら近づいてきて、そのまま膝に頭を乗っけている。


「よかった……。ねないこだれだのおばけが出てきたらどうしようかと思った」




そのままお昼まで三人でだらだらしながらゆで卵を空に食べさせたり、食べさせてもらったりしていた。

お燐(猫状態)の弱い場所を撫で回してぐったりさせてみたり、空の髪を梳いたりと充実した時間を過ごしている。


「それで二日前に外の世界から来ためっちゃ凄い人間を送り返したんだよ。名前は教えてくれなかったんだけどTって頭文字だけ教えてくれてさ。寺生まれって言ってたけど、『破ぁ!!』って叫んで手から光弾を出して妖怪を倒す姿には戦慄を覚えた」

恭夜は寺生まれのTさんを無事外の世界に送り届け、何故かお守りまで貰っている。


「えー……お兄さんの言う事だから信じたいけど、流石に信じられないよ」


「本当なんだよ。送り返す時に霊夢しか見てないせいで信じてもらえにくいのがなぁ」

慧音や白蓮にTさんの話をしても何か微笑ましいものを見るような目で見られる始末。


「寺生まれって凄い」

空は恭夜の話にびっくりしながらもぽつりと呟いた。


「だよね! だよね! いやー、お空ちゃんは信じてくれるって俺は思ってたんだ。お空ちゃんって可愛いし、おっぱい大きいし、ゆで卵好きだし、翼あるし」

何を開き直ったのか変態具合を表に出し始め、空の手を握って喜んでいる。


「えへへー」


「え、喜ぶの? お空、お兄さんが自然におっぱいって言い出してるよ?」

手を握られて蕩けるような笑顔になった空を見てお燐は若干パニックになっていた。


「……土下座して頼んだら触らせてくれないかなぁ」


「お兄さんもしっかりして! 何で急に性癖を公にしてるの!?」

地上では自制しているからか、地底では制御不能な変態具合を発揮している。


「いや、折角だから。最近事故で妖夢の胸をタッチしちゃって、直後に殺されるんじゃないかってくらいボッコボコにされたからそのリベンジ的な感じで」

容赦なくフルボッコにされたらしく、痛みと怪我の治癒の為に二日くらい寝込んだのは言うまでもない。


「でもお兄さんに怪我一つないみたいだけど……」


「怪我はすぐに治ったけど一番酷い傷痕は残ったよ。まさか木刀で袈裟斬りされて血が吹き出すとは思わなかったなぁ」

それをやった妖夢はパニック、見ていた幽々子もパニック、恭夜は出血と痛みで気絶と中々な大惨事だったようだが。


「あ、もしかしてさっき服に頭を入れた時にあった斜めの大きな傷痕?」


「そうそう。目が覚めたら妖夢にめっちゃ泣かれたし、傷物にした責任を取るって言われるわで俺がパニックになった」

美鈴につけられた細かな傷痕やらを教えて何とか収まったようだが、妖夢が一番酷い傷痕をつけた事に変わりはない。


「うわぁ……」


「そんな引いてるお燐ちゃんにもさっき爪で傷痕付けられたんだけど」

長袖のシャツを捲るとお燐にやられた爪痕が残っているのがよくわかる。


「あれはお兄さんが悪いから」

予想していたよりも美味だった血の味を思い出して軽く唇を舐めていた。


「いつか食的な意味で喰われそうで怖いです」


「あたいは食べないけど、お兄さんは美味しそうなんだから気をつけないとダメだよ」

博麗の巫女には劣るが蓄えている力が並外れており、妖怪から見たら物凄い御馳走だったりする。


「気をつけるよ。……あっ、だからか!」


「?」

何かに気がついた恭夜を見てお燐は不思議そうに小首を傾げていた。


「博麗神社から帰りたい外来人を俺が送る役目になってたのは俺のが美味しいよ!って事をアピールして、外来人を不味そうだと思わせる為だったのか」

大体道中妖怪に襲われるのは恭夜であり、それが上手く機能して外来人に被害は出ていない。


「あー、なるほどね。誰が考えたのかは知らないけど、お兄さんを餌にするって考えはいいかも」


「たまにお空ちゃんとかぬえちゃんとかも釣れるけど」

仕事が終わって地上に出てきた空が同行する事になったり、他にも力のある知り合いがよく釣れる。


「お兄さんを餌に力のある妖怪を誘き寄せて、近寄れなくするのも作戦の内なのかも」


「いや、流石にそれは無理がある。因縁深いでかい蛇とか寄ってきそうだし」

巨大蛇とは幾度となく死闘を繰り広げており、数ヵ月前にはアリスに手足を勝手に操られて戦わされた事で喰われかけてややトラウマになっている。


………

……


昼はジト目なさとりとこいしと共に取り、何か言いたげな二人を完全にスルーして何も言わずそのまま散歩をするのに外に出てきていた。

旧都を散策していると知り合いの鬼に晩の呑みに誘われたり、そっち系の鬼のアニキに身体を触られたりしている。

しかし……


「……」

後頭部に大きなたんこぶを作り、うつ伏せで倒れてピクリとも動かなくなっている。


「うわぁ……」


「生きてる? 恭夜生きてる?」


「一応息はしてるから大丈夫よ。とりあえず運ばないと邪魔になるわね……よいしょっと」

ヤマメは恭夜を軽々背負うと邪魔にならないように自宅へと連れ帰っていく。



そのまま自宅に着くとヤマメが恭夜をうつ伏せにし、後頭部を冷やし始めた。


「キスメ、嬉しいからって慌てて降りると危ないよ。人間は脆いんだから下手したら頭潰れてたかもしれないし」


「恭夜の新居に井戸作るって聞いたから嬉しくって……」


「……うっ」

ひんやりした心地の良い感覚でようやく意識を取り戻した。


「起きたら謝らないとね」


「う、うん」

キスメは許してもらえるか不安で心臓がバクバクしているようで、胸に手をあてて深呼吸を繰り返している。


「うぅ、後頭部が痛い……」


「だって大きなたんこぶ出来てるもの」


「黒谷さん? 確か俺は旧都を歩いてて……」

身体を起こしてヤマメを見て、自分の身に何が起きたのかを考え始めた。


「ごめんなさい! 私が頭にぶつかったの!」

キスメは普段は全く出さないような大きめの声で頭にぶつかった事を謝っている。


「あー、キスメちゃんが頭にヒットしたからかー……」

桶に入っているキスメにおもむろに近づき……


「ごめんなさい! ……ひゃあぁっ!!」

脇に手を入れて桶から抱っこの要領で引っ張り出した。


「わー、やらかい」

そのままキスメを子供を抱くようにして抱き締めている。


「あばばばばば」

抱き締められた事でパニックになり、女の子が出しちゃいけないような声を出し始めた。


「キスメにしたら天国と地獄が同時に来たって感じかな?」


「……あの、離そうとしてるのに両手足でがっちりホールドされてしまったんですが」

流石にキスメの錯乱具合にビビって離そうとしているが、がっちりホールドされてしまい離れさせる事が出来なくなっていた。


「あはは、キスメったら蝉みたい」


「いや、笑ってないで助けて。ちょっ、キスメちゃん息がくすぐったいよ!」


「はぁはぁ、よく考えたらこれはチャンスだよね。スーハースーハー」

類は友を呼ぶ典型的なパターンだったらしく、キスメは密着して深呼吸を繰り返している。


「黒谷さん! キスメちゃん何かブツブツ言ってて俺凄く怖いよ!」


「平気平気。それよりお饅頭食べる?」

ヤマメはビビっている恭夜に平気だと告げて三人分のお茶を湯呑みに注ぎ、饅頭を食べるかどうか尋ねてきた。


「いただきます……キスメちゃんの髪のいい香りと柔らかさで俺の理性は爆発寸前」

キスメアーマーを装備するとバーサーク状態になる呪いがかかっているらしい。


「うへへへへ」

普段の大人しさはカムフラージュだったようで、素の状態だと恭夜に匹敵する変態具合だった。


「それで恭夜はどうしてまた地底に?」

興味津々なヤマメは山盛りの饅頭と共に戻ってきていた。


「それが地上を歩いてたら急に意識がなくなって、気がついたら地霊殿に居たんだよ。まぁ、折角だからしばらく滞在する事にね。黒谷さんにもまた厄介に」


「ヤマメでいいよ、友達なんだから」

名字で呼ばれなれていないのか、名前呼びでいいとの許しが出た。


「でも女の子の名前を呼び捨てにするのってドキドキしちゃう」

見た目が自分に近いと特に緊張してしまうらしく、呼び捨てにするのに物凄く勇気が必要だったりする。


「男の子してるねー」


「友達に噂されると恥ずかしいし……男友達が霖之助しかいないから別に恥ずかしくないや。金爆の真似してガチュピンとムックーの格好して里を闊歩した時のがまだ恥ずかしかったな」

実はそんなに恥ずかしくなかったりするようだが。


緑と赤の新手の妖怪か!と目を見開いていた慧音にあっさり正体を看破され、どこまでも追いかけ回されたらしい。

逃げ足だけは速い二人はそのまま香霖堂に戻り着替えてメイクを落とし、何食わぬ顔で将棋に勤しみ始めた所で慧音襲来。

ツカツカと恭夜に近づき手加減なしの頭突きをくらわせ、霖之助には恭夜の甘言に乗ってはいけないと説教がなされていた。



「が、がちゅ?」


「気にしないで、あれは俺の黒歴史だから。……妖怪だから疲れないの? そうやってスリスリする小動物的な姿が凄く可愛くてたまらんのですが」

キスメは全く離れる気配がなく、匂いを堪能したからか今度は胸元に顔をスリスリし始めていた。


「……」

可愛いと言われて緩む頬を隠すようにしてスリスリしている。


「うーん……それ私がやっても可愛いと思う?」


「まずその想像ができない。ヤマメ……さんは甘えるより甘えさせるタイプのイメージが先行してるわ」

名前の呼び捨てをしようとしたが恥ずかしくなって敬称をつけ、甘えるより甘えさせるイメージが強い事を告げていた。


「むっ、私だって甘えたい時はあるのよ。キスメが満足したら私の番ね」


「たまに甘えたくなる気持ちは分かるけど、その順番みたいなのはおかしい。てか年頃の女性がやっちゃいけません」


「私はキスメも年頃だと思うんだけどなー」


「いや、見た目的な意味でね? キスメちゃんはギリセーフだけど、ヤマメさんは確実にアウト。今のキスメちゃんみたいな事をされたら俺の心の臓が破裂するわ」

それにそんな事をされたら一瞬で好きになってしまうくらいに単純な男である。


「残念」


………

……


結局キスメが満足して離れた隙にヤマメに抱きつかれ、甘えられて好きになってしまい目も合わせられなくなっていた。

満足して離れたヤマメにそわそわしながらそろそろ行く事を告げ、ギクシャクした動きで家から出ていった。


「柔らかいし、いい匂いしたしでドキドキがキスメちゃんの時よりヤバイ。連続で女の子に抱きつかれるとかマジでションテンがガリアーしてる」

夕飯の時間まで旧都を歩き回っている。


「……誰に抱きつかれたの? というよりションテンがガリアーって何?」


「キスメちゃんとヤマメさんに抱きつかれてテンションが上がるって意味。正直好きにな……誰だ!」

独り言に入ってきた者の方を振り向いた。


「私」


「そのぺろぺろしたくなる耳と金色の髪は……パルスィさんじゃないですか」

地底に来ると自分を解放しやすいらしく、パルスィの耳をぺろぺろしたいという本音を漏らしている。


「相変わらず妬ましいくらい自由ね。……また私と夫婦になってくれるならいくらでもぺろぺろさせてあげるけど」

モジモジしながらチラッチラッと伺ってくる姿はとても可愛らしく、正直このまま頷いてしまいたくなる。


「俺まだ弱いから無理です」


「……まぁ、確かに。私の知っているあの人の半分以下って所ね。若い頃のあの人は強力な結界を簡単に壊したり、鬼からの一撃を倍返しにしたりやりたい放題だったわ」

パルスィの知っている彼は今の倍以上の強さらしく、破天荒さもずば抜けていたらしい。


「信じられねー……」

強力な結界を張られたら解いてもらえるまで待つしかなく、鬼の一撃でほぼ再起不能になる自分がそんな強かったとは到底信じられなかった。


「まぁ、それも老いと共に弱くなっていったんだけど。……正直言わせてもらえば今の恭夜は死の間際のあの人以下よ」


「でしょうね」

生活に便利な方面にしか魔法等を使わず、体術以外を疎かにしている恭夜ではまず勝てるはずがない。


「強くなりなさい、そしてまた私を強引に奪ってみなさいな」


「なにそれこわい」

俺って犯罪者だったの?とガチで悩み始めている。




それから少しの間だけ会話を楽しみ、用事があるからと立ち去るパルスィを見送っていた。

そのまま旧都を歩いていると突然誰かの家の入り口が開き、暗闇から腕が伸び服の襟を掴まれそのまま中に引きずり込まれてしまった。


「……死ぬわ!」


「ごめんごめん。坊やなかなか遊びに来ないし、見かけたからつい」

宴会で知り合い朝まで呑まされた鬼の女性がケラケラ笑いながら謝っている。


「まったく……それで何用?」


「いや、特に何もないけど。あ、お姉さんとにゃんにゃんしてく?」

チラッと胸元を見えるようにしながらそんな事を言い始めた。


「後ろ髪を鷲掴みにされて引かれるけどいいです……誰かに刺されて死んじゃうかもしれないし」

だらしないが綺麗な女性である事に変わりはなく、未練たらたらだが死にたくないので諦めている。


「あんたには勇儀の姐さんも目をかけてるもんね。鬼の四天王相手に真正面から突っ込むあんたの姿、あれは正直死んだなってあの場に居た皆は思ってたよ。そのまま抱きついた時は目が飛び出るかと思ったけど」

鬼の間でも色んな意味で伝説の男になっており、その奮闘具合に感心した鬼達に宴会によく誘われるようになっていた。


「人じゃないから噂が七十五日過ぎても消えないのか……」


「無理無理。あれは最高の娯楽だったし、今後百年くらいはなくならないよ」


「……一旦ションテンがガリサーだからお茶ください」

百年間も恥を晒す事が確定して一気にションテンがガリサーしていた。


「お酒でもいい?」


「もう何でもいいっす」

酒を飲んで嫌な事を忘れる気満々である。

地底だと恭夜は欲望に素直になってしまうようです。

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