次に倒れるのは彼かもしれない
白玉楼で幽々子とイチャつき、妖夢にボコられる日々を過ごしていたある日の事。
「……妖夢、寝坊かな」
昨晩幽々子にたまには洋食が食べてみたいと言われ、手際よく朝食の準備を終わらせている。
そしていつもならこの時間には起きて隣に立っているはずの妖夢が現れず、少し心配になったので部屋まで行ってみる事にしていた。
部屋の前で声をかけても反応がなく、そっと開けて部屋の中を見てみると着替え途中の妖夢が倒れ伏していて慌てて部屋の中に入った。
「妖夢! ……うわっ、凄い熱! 治ったらいくらでもボコボコにしてもらっていいから許してくれ!」
額に手を当ててあまりの熱さに驚いたが苦しそうにハァハァ言っている妖夢の服を脱がし、脱いだばかりと思われるパジャマを着せて布団を敷いて寝かせている。
「ハァ……ハァ……」
「俺に色々教えたり慣れない仕事が増えて疲れが溜まってたんだろうな……とりあえず」
部屋から走り去り看病用の道具を探しに行った。
………
……
…
恭夜が起こしに来ず若干不機嫌だった幽々子に事情を説明し、朝食は用意してありますからと言って色々持って妖夢の部屋に向かっていった。
「不謹慎だけど妖夢いいなぁ」
用意されていた朝食を食べながら恭夜の必死な様子を思い出し、あんな風に看病をされたいと考えている。
妖夢の部屋に戻ると、にとりとチルノとの縁を深めた事で使用できるようになった水と氷で水枕を作っていた。
水枕は外の世界に居た時に購入しておいた物でしっかり出来た事を確認し、枕と水枕を入れ換えそっと妖夢の頭を乗せている。
「空いたペットボトルを残しておいてよかった。これにスポーツドリンクの素を適量入れて……」
粉を入れてから中を水で満たし、蓋を閉めてよく振って混ぜ始めた。
それを何本か作ると持ってきた桶の中に水と氷を満たしてペットボトルを入れて冷やし、外で気に入って大量に購入していた冷却シートを妖夢の額に貼りつけている。
そしてにとりが作ってくれた恭夜専用の薬箱を開け、半人半霊用の風邪薬を取り出して枕元に置いた。
「起きたら消化にいいお粥を作って、それを食べてもらってから薬を飲ませないと」
少しずれていた掛け布団をしっかりと掛け、少し穏やかになった妖夢の寝息にホッとしながら今後の事を考えている。
しばらくは寝ているだろうとお粥を作りに行き、作り終えるととっておきの保温魔法でお粥の温かさをキープ。
幽々子に今日の妖夢の仕事を引き受けるから妖夢の様子を見ていてほしいと伝え、お粥と薬等を用意している事も話してから遅めの朝食を食べ始めた。
「ごちそうさまでした。……えっと、水枕の中身を変えたい時は呼んでください」
食器を重ねながら幽々子に言うとそのまま炊事場に運んでいった。
「はーい。……やっぱり死後はどうにかしてここに来てもらいたいわねー。今からちゃんと考えておかないと」
しっかり罪を清算してから死神にならないかと勧誘されていたりと死後も引く手数多だった。
掃除と庭の手入れを手際よく行い、流石に女性物の洗濯物が含まれるので洗濯は他の幽霊に任せている。
人外に好かれる性質を利用して幽霊達に効率良く指示を出し、普段掃除しない場所までピカピカにしていた。
「妖夢は夜まで起きないかもなぁ」
何度か見に行ったが深い眠りに落ちていて起きる気配がなく、幽々子に礼を言って看るのを変わっている。
………
……
…
深夜になり皆が眠り静かになった頃、妖夢が目を開けると座布団に座ってウトウトしている恭夜が目に入った。
身を起こすと身体がダルいなと感じ、周囲の暗さと額に感じるひんやりした何かに水枕で自分が倒れた事を察していた。
くぅとお腹が鳴り何かを食べようと立ち上がろうとしたが、枕元にお盆に乗った小さめの鍋が置かれているのが目に入る。
「あ、お粥だ。……なんで暖かいんだろう?」
お盆を手に取り蓋を開けると程良い暖かさの湯気が出ていて、何故なのかと不思議そうな顔をしている。
「……いただきます」
レンゲを手にして少しずつ食べ始めた。
妖夢好みの控えめな塩味が付いていて食が進み、あっさりと平らげてしまった。
自分の好みと風邪の時の味覚を考慮して作ったであろう目の前の人物を見て、居る間の料理を任せようと思わず考えている。
「家事に関しては本当に万能ですね」
桶に入ったペットボトルから水だけの物を手にし、お盆の隅に乗せられていた薬を飲み始めた。
「か、輝夜、そこはインド人を右に……はっ!」
どんな夢を見ていたのか分からないが目が覚めたらしく、目を擦っている。
「おはようございます」
蓋を閉めてから桶に入れ、目覚めの挨拶をしていた。
「お、おはよう。あ、そうだお粥……と薬は飲んだみたいだね。後はもう暖かくして寝た方がいいよ」
「そうします」
寝ていたのを必死になかった事にしようとする姿にクスッと笑い、再び掛け布団を被って目を閉じた。
「おやすみ、妖夢」
妖夢にそう告げるとお盆を持って部屋から出ていった。
「おやすみなさい」
容態が急変した時の為に妖夢の部屋で寝ずの番をするつもりだったようだが、明け方にはうっかり眠ってしまっていた。
ハッと目を覚ました時には妖夢はおらず、座ったまま寝てバキバキになった身体をほぐしながら台所に向かった。
「おはようございます」
そのまま台所に到着すると、すっかり元気になった妖夢が割烹着姿で味噌汁を作っている。
「おはよう。流石八意印、効き目が半端ないな」
壁にかけていたエプロンをつけて妖夢の隣に並んだ。
「あ……でもあの薬って高いんじゃ」
凄まじい効き目でダルさもなく、逆に力が有り余って仕方がないくらいに回復している。
「病み上がりでそんな事を気にしなくていいから」
知り合いには優しく、身内認定した者には激甘な恭夜らしく答えていた。
「でも」
「薬を使わないままダメになるのなら、使って妖夢が元気になってくれた方が俺はいいから」
年に数回薬を総入れ換えしており、使っていない薬は永琳が処分するから基本的にほとんどが使われずに破棄される。
「は、はい!」
「……そして俺に絡み付いてくる半霊を何とかしてほしい」
半霊が物凄くまとわりついており、包丁を手に取るのも大変なレベル。
「あ、こら! 離れなさい!」
「流石妖夢だ、なんともないぜ!」
半霊が妖夢の一声であっさり離れたので思わず声に出していた。
「最近恭夜さん相手に自由すぎて……あ、早く朝御飯を作りましょう。幽々子様も楽しみにしているでしょうから」
「うん」
包丁を手に取り野菜を切り始めた。
………
……
…
「ぬわあぁぁぁぁっ!」
味噌汁を運び終えてからお櫃を取りに戻る最中に足元にスキマが開き、下半身が飲み込まれて上半身だけ床から生えてる状態になっていた。
「ちょっ、恭夜さん!!」
慌てて片腕を掴んで引っ張っている。
「ゆ、紫ー! ご飯も食べてないんだからまだダメだってばー!」
のほほんとしていた幽々子ももう片方の腕を掴み引っ張っている。
「だってー……」
そして必死な三人の前にひょっこりと紫は現れた。
「食べ終わったら行きますから! マジでマジで!」
丁寧にスキマから出してもらった覚えがなく、これに呑まれるくらいなら自分から行くと必死に宣言している。
「本当?」
「紫、お願いだから早く出してあげてー!」
自然とイチャつく仲な幽々子も引っ張りながらお願いしている。
「わかったから幽々子と妖夢は一度離れて」
二人が離れたのを確認すると恭夜を完全にスキマに押し込み、座布団の上にスキマを作り優しく落下させた。
「何で朝からこんな目に……」
あまり寝ておらず、さらに予想外の一騒動にぐったりしている。
「あのね、ゆかりんは恭夜にお願いがあって」
「何ですか……」
幽々子と妖夢には先に食べるように促しながら紫の話を聞き始めた。
「さっき藍が倒れたから看病をお願いしようかと思って」
「そんな大切な事はもっと早く言えよ!」
まさかの爆弾発言に思わず敬語がなくなるくらいびっくりし、白米に味噌汁をかけて流し込み始めた。
恭夜の分のおかずを幽々子と妖夢に差し出し、急いで流し込んでいる。
一瞬敬語じゃなくなったのに紫は驚いていたが、何か心の琴線に触れたのかうっとりとした表情になっていた。
普段は二人きりの時か藍が居る時にしかタメ口を使わない。
「うー、妖夢の作った卵焼き食べたかったんだけど……準備したらすぐ行きますからね!」
未練タラタラのまま部屋に戻り、薬箱や妖夢が飲まなかった分のスポーツドリンクを鞄に詰め込み始めた。
「……藍さんは恭夜さんに好かれてるんですね」
妖夢は藍が恭夜に介抱される姿を想像して何かチクッと来たらしい。
「あら、妖夢だって好かれてるわよ。昨日妖夢が倒れた時も必死にバタバタ動き回ってたもの。……いいなー、私も倒れたら恭夜は看病してくれるかしら?」
「心配かけるだけだから羨ましがるのはダメ。あの子は本当に優しいから悲しむわよ」
ただし自分が傷ついたり倒れても心配させまいと平気なフリをするから、紅魔館に居た時はよく咲夜に怒られていたりする。
「それはダメねー。恭ちゃんの悲しむ姿は見たくないもの」
「それが一番よ。さてと、それじゃあ借りていくわね」
スキマを開いて中に入り、部屋で看病用の荷物を纏めている恭夜の元に向かった。
そのままスキマから八雲家に向かい、部屋で寝ている藍の元に急いでいる。
部屋に入るとフラフラしながら着替えようとしている藍がおり、慌てて布団に横にさせていた。
「大人しくしてなさい」
スポーツドリンクを何本か枕元に並べ、薬箱から妖狐用の薬を取り出している。
「わかった、その言葉に甘えさせてもらうよ……」
「弱ってる藍の色気がしゃんぱない。はい、体温計」
「ああ……」
受け取るとパジャマのボタンを幾つかはずし始めた。
「……」
見ないように後ろを向いて薬箱の整理を始めた。
ピピっという音がして藍から体温計を受け取り、熱があるのを確認してから水枕を昨日と同じように作り始めた。
水枕を作り藍が頭を乗せたのを確認し、額には冷却シートを張り付けた。
「食欲ないだろうけどお昼にはお粥を作るから」
「ああ……」
「しばらくは看てるからゆっくりおやすみ」
前に落ち着くと言われたから頭を優しく撫でて寝かしつけ始めた。
「おやすみ……」
目を閉じてすぐにすーすーと穏やかな寝息をたてている。
「眠い……」
頭を振って眠気を飛ばしたりしている。
藍が深い眠りに落ちたのを確認してから部屋を出て台所に向かった。
昨日のようにお粥を作り、居間でぼんやりとしている。
頼まれてはいないが無意識に紫と自分の昼御飯の仕込みもしており、もしかしたら意識が飛んだ状態でも身体は勝手に動くかもしれない。
いつのまにか膝に頭を乗せた紫がおり、ボーッとしながらその頭を撫で始めた。
「……」
心地よいらしく紫は目を閉じてされるがままになっている。
「やばい、凄く眠い」
紫から漂ってくる甘い香りと疲れでウトウトし始めていた。
「寝てもいいけど、藍にお粥を食べさせてあげてからね」
「ふぁい……」
「それと永遠亭のお姫様が貴方がゲームしてる動画をアップしてたわよ」
「それは別にいつもの事……」
レトロゲームを一緒にプレイして実況風な動画を録画してアップしており、別に不自然な事は何もなかった。
「いえ、ゲームをプレイしている貴方を撮影した動画をアップしてるの」
「……は?」
「あまりに再生数が伸びないから、恭夜を撮影してアップしたって。楽しそうにプレイしてたから私はマイリスに入れたけど」
「それはプライバシーの……まぁ、いいや。別に外の世界に行かないし、俺をアップした程度で再生数なんて伸びないし」
幻想郷大好き人間だからいくら便利でも外の世界には行きたがらず、顔を出されても全く困らなかった。
「残念なイケメンタグ付いてたわよ。昨日私が見た時には八万再生だったけど」
容姿は外の世界でもダントツなレベルではあるのだが、いつものように声のみの録画だと油断しておっぱいについて熱く語ったのが残念な原因だと思われる。
「残念って……。輝夜とダラダラ実況したゼルダが八百再生だったはずなのに」
「その容姿でおっぱいについて熱く語ってたからじゃないかしら? とりあえず恭夜は全部好きらしいわね」
「おっぱいに貴賤はないだろJK。顔晒して語ってる俺をアップした輝夜は今度大変な目に遭わせるけども」
赤い瞳が輝いているように見えて少し怖くなっている。
「恭夜はレミリアに仕えてる時と黙ってる時はキリッとしたイケメンなんだけどねぇ。浅い付き合いだと中身の緩さが明らかになってガッカリされるし、深く親交をもたないと良さがわからないから人間にはモテないのかもね」
容姿の良さにだけ惹かれた者はガッカリするが、中身に惹かれた者は仲良くなればなるほどドツボにハマっていく蟻地獄のような男。
「勝手なイメージで期待されて勝手にガッカリされても」
「まぁ、人間は大体が見た目で判断するから仕方ないわね」
「咲夜と妖精メイドも勘違いした外来人相手にする時は大変そうだもんなぁ。折角助かる予定だったのに咲夜達に迫ったりして、その日の内に解体した事もあったっけ。……あ、そろそろ藍にお粥持っていくから」
紫と話をしている内に眠気もなくなり、お粥を持っていく時間になっていたらしい。
「はい、がんばって」
紫も膝に乗せていた頭をおろして見送りの体勢になっている。
「それじゃあ、また後で」
台所で色々とお盆に乗せて藍の部屋に向かっていった。
部屋から出ていく恭夜の背を見送りながら紫はポツリと呟いた。
「人間以外にはびっくりするくらいモテるから厄介なのよねぇ……」
この話の途中から派生する妖夢ENDも書いていたり。
討鬼伝、欲しいミタマが全然出なくて発狂しそう。
一週間もアメノカガトリにインカルラと連戦してたらおかしくなるわ。
清少納言が可愛い。
島津は誰もいないし、信長に与一がいるんだから豊久を出してほしかった。
組み合わせスキル・漂流者