今回は無事帰ってこれたようです
空を飛ぶ船の異変も終わり、恭夜は誰かに捕まる前に紅魔館にさっさと帰還。
それから一ヶ月と数週間後……
「いやー、異変が解決してすぐに帰れるなんて久しぶりだったなー」
「毎回異変の度に誰かしらに捕まって、しばらく軟禁されていたものね。地底の時はお嬢様が霊夢を派遣して捜索してもらったくらいだし」
しかも毎回フラグを立ててくるから気が気ではなく、咲夜もアプローチの仕方を変えるべきかと悩んでいる。
「今回は聖さんに危うく捕まる所だったよ。聖さんみたいな姉さんが欲しいなーって呟いたのが間違いだったのかもしれない」
命蓮寺の面々では現段階だと白蓮のみが追体験組であり、他の者達は何故恭夜に固執していたのか不思議で仕方なかったと思われる。
「恭夜はお姉さんだーい好きだものねー」
凄いジト目で見てきて心が抉られそうだった。
「いや、その、SAN値がガリガリ削られるんでもう許してください……」
霖之助からもらって巧妙に隠していた本を咲夜に見つかり、ナイフでズタズタにされた後に目が笑っていない笑顔で朝まで説教されたらしい。
「私だってどちらかといえばお姉さんタイプなのにどうして恭夜は……」
小声で呟き自分にはあまりデレない恭夜をまだジト目で見ている。
「うぅ、どうしてあの二重底がバレたんだろう……」
「……それよりも昨日落とし物がどうこう言って押し掛けてきた二人は何だったの?」
流石に引っ張りすぎると嫌われてしまうかもしれないと話題を変えていた。
「あの二人は寅丸さんとナズーリンさんだよ。また宝塔をなくして、それを俺が持ってるのが分かったから来たんだってさ」
霖之助がまた拾っていたようで、買い物に来た恭夜の品物が入った袋にそっと忍ばせておいたらしい。
「あー、成る程ね」
「それでお礼がしたいから命蓮寺まで来てくれって言われたのが怖い。身体強化した聖さん、目茶苦茶速いし……」
異変解決後にも一度宝塔を拾った事があり、それを届けた時に手合わせと称してボッコボコにされている。
「あのカラーコンタクトを無くして八雲紫に追加注文した日の事ね。美鈴が気の使い方を重点的に教え始めたのもそれくらいだったわね」
「『身体に強く気を流すから、流れを理解して自分の物にしなさい』って言われて身体に気を流された時は死んじゃうかと思ったし、殺してくれとも思ったよ。感覚としては人間の耳に兎用の耳掻きを突っ込んで、無理矢理広げるようなのが続いてたし」
美鈴の荒療治であり、気の通り道を確保しさえすれば後は上手く通すだけらしい。
「あぁ、あの絶叫はそれだったの。思わず耳を塞ぐくらい苦しそうな叫びだったわ」
「凄く苦しかったんだよ……。ちなみに今は全身に気を巡らせているのが自然な状態にしてる途中」
最近は衣玖のお陰で電気的な力も身に付け、魔理沙が持ってくるキノコを食べて魔力が増幅し始め少しずつ人間を辞め始めてきている。
咲夜とそんな話をしてから一週間が経った。
遂にチルノと大妖精の好感度が限界を越えて時々働きに来る事になっていたり、悪戯しに忍び込んだ三妖精を捕獲してただ働きさせる事になったりと妖精ハーレムが着々と完成している。
「……あー、しつこかった。最近阿求ちゃんが色々聞いてきて困る」
一年前までは幻想郷縁起に載せなくてもいいと思われていたが、様々な勢力のトップと懇意であると知ってからはしつこく色々と聞いてくるようだ。
「こう毎度しつこいと買い物も落ち着いて出来ない」
「それならお姉ちゃんも一緒に行きましょうか? 阿求ちゃんなら私が引き受けますから」
「デートですね、わかります……って誰!?」
ボーッとしながら歩いて呟いていた独り言に誰かが入ってきて、思わず周囲を見回した。
「私ですよ。星とナズーリンがお世話になったお礼をしたくて、いつも買い物に来る時間に里で待っていたんですよ」
恭夜はお姉さん系にはかなり弱く、ニコニコしている白蓮の顔を直視出来ない。
「聖さん、お礼なんていいんですよ。あれを持っていたのもたまたまだったんですから」
「白蓮って呼んでください」
名前で呼ばれずムッとした顔になり、名前で呼ぶように要求している。
「白蓮さん」
「はい!」
素敵な笑顔になった白蓮の顔を見てしまい、思わず顔が赤くなっていた。
「……綺麗で可愛いお姉さんはずるいなぁ」
恭夜の好みドストライクな白蓮に対して小声で呟いている。
「?」
その白蓮はニコニコしながら頬に手を当て不思議そうにしていた。
「えっと、申し訳ないんですがすぐにこれをお嬢様に届けないといけないので……」
残りは今日じゃなくてもよかったのを思い出し、お断りしていた。
「私服なのにですか?」
「うぐっ!」
痛い所を突かれ言葉に詰まっている。
「それと紅魔館に帰るのなら私も行きますよ。レミリアさんに呼ばれているので」
「お嬢様が……?」
白蓮がそんなに宴会に参加していた訳でもなく、接点が分からず不思議そうにしていた。
「レミリアさんとお話したいなと思っていたので、ちょうどよかったわ」
「はぁ……。それなら飛んでいきますよ」
ふわっと自然に浮き上がり、自然に空高く舞い上がっていく。
………
……
…
紅魔館に着いて入ろうとしたが美鈴に止められ、白蓮がレミリアに呼ばれている事を話して中に入っていく。
たくさんの妖精メイド達が恭夜に駆け寄り指示を仰いできた事に白蓮が背後で驚いていた。
恭夜はそれに気づかずに的確に指示を出し、よく出来た者は褒めて失敗した者には叱りながらも励ましてモチベーションを下げないようにしている。
「君達はまだ入ったばかりなんだ、失敗は俺と咲夜がフォローするから安心していいよ。よく周りを見て、注意しながら掃除はしなさい」
泣きそうな新参者の妖精メイド達をフォローし、古参の者達に面倒を見るように伝えた。
「メイド長補佐、よろしければ今晩私達の部屋に来ませんか? いいお酒が手に入ったんですよ」
「小悪魔さんばかりじゃなくて私達とも呑んでくださいよー」
「あー……時間があればな。休みだけどやる事はあるから」
古参の妖精メイドの中でも秀でた力を持った者達には個性が出てきて、それぞれ違った性格や容姿になってきている。
「わかりました。みんな、次の場所に行くわよ」
リーダー役と思われる妖精が皆を引き連れ、恭夜に指示された場所に向かっていった。
「……皆さん、恭夜の事が好きなのね。本人は気づいてないみたいだけど、あの恭夜を見る目はどう見ても」
同じ女性だから分かるらしく、妖精メイド達も要注意だと認識している。
「白蓮さん、何か言いました? すぐにお嬢様の部屋に案内しますから」
そう言って案内し始めた。
白蓮を案内して部屋に戻ると、どうやって入ったのか不可思議な羽のような物がある少女がベッドに腰かけ足をぶらぶらさせていた。
「あっ、帰ってきた」
「えっと、ぬえちゃん?」
「そうよ。約束したから遊びに来てあげたわ」
部屋の中の探索で暇潰しをしたらしく、複数のダイスを掌で転がしながらそう言ってきた。
「あはは、ありがとう。だけどTRPG用のダイス持ってどうしたの? 一応二人だけで出来るのもあるけど、複数人いた方が楽しいけど」
「TRPG?」
「うん。小悪魔さん、咲夜、美鈴とよく夜通しやってるから」
香霖堂でCoCの本を入手した事でハマってしまい、従者メンバー達と一緒にやっている。
特に恭夜は鬼畜GMと陰で三人に言われていて、序盤は大人しいが中盤から予想外のタイミングでSAN値を削りに来たり、意味深でドSな笑みを浮かべての空ダイスで恐怖のドン底に陥れている。
「ふーん……それよりこの館の中を案内してよ。窓から入って来たから中は見てないのよね」
興味なさげにダイスを引き出しに戻してから案内を要求してきた。
「まぁ、それくらいならいいよ。それじゃあ行こうか」
ぬえに館の案内をしていても、何故か咲夜達には遭遇せずスムーズに案内できていた。
そして地下を案内していると、背後から誰かが走ってくる音が聞こえてくる。
「きょ、う、やぁー!」
お待ちくださいフランドール様!という声が遠くから聞こえた瞬間、恭夜の背中に思いっきり誰かが飛びついてきた。
「ふ、フラン……ドール様?」
呼び捨てにしてしまったが慌てて様を付けている。
「フラン!」
呼び捨てにしなかった事が気に入らなかったらしく、耳元で大きな声を出していた。
「ふ、フラン、いきなり飛びついてきて何かあった?」
「えへへ、恭夜の足音が聞こえたから。……この子誰?」
嬉しそうに肩に顎を乗せた所でぬえの存在に気がついたらしい。
「ああ、彼女は封獣ぬえちゃん。ぬえちゃん、こちらがレミリア様の妹のフランドール様」
「へぇ、貴女が恭夜の心のオアシスねぇ」
「ふーん、貴女が恭夜の言ってた絶対領域が凄い妖怪なんだ」
互いに探るように見ているが、恭夜はいったいフランに何を吹き込んでいるのか。
「まぁ、仲良くしましょ」
「そうね、私はお友だちが少ないから嬉しいわ」
フランは恭夜の背から降り、ぬえはフランに近づき手を差し出している。
正体不明の正体と存在が知られていなかったUnknownな二人はシンパシーを感じるのか、何の躊躇もなく手を握り笑いあっていた。
しかもそのまま仲良さげに二人だけで行ってしまい、恭夜だけ取り残されている。
「フランに新しい友達が出来ました。……忘れられてお兄さんは寂しいです」
追いかけるのは無粋だと思い、そっとその場から離れた。
残り一回でメインの異変関係終わるから色々自由に書けるようになる。