酔えば酔うほど酷くなる
博麗神社の倒壊から始まった異変も終わり、ようやく再建した博麗神社で久々の大宴会を行うというので皆がぞくぞくと集まっていた。
恭夜が参加すると魔理沙から聞いた霖之助までおり、レミリアが許可を出したので二人で楽しくちびちび飲んでいる。
「だけど恭夜は毎回大変だね。僕だったらきっと逃げ出しているよ」
「慣れ、かなぁ。最近は異変の度にどんな綺麗な女性と会えるんだろうって現実逃避してるし」
互いのコップに酒を注ぎ合いながら話し合っていた。
「さっきから恭夜に熱い視線を向けるあの女性達とかかい? ……まぁ、僕達の友情に割って入る事は不可能だけどね。ふっ」
恭夜が大好きでサシで呑めるのが嬉しくて、周囲を煽るような発言をして勝ち誇った笑みを浮かべている。
「まぁ、休日は大体霖之助の所にいるもんな」
女の子達の所ではなく、霖之助が収集してくる商品を見に行く事のが多い。
「そういえば新商品を入荷したんだ。……恭夜が大好きなお姉さんものを」
恭夜以外に聞かれないよう、最後は囁くように呟いた。
「それなら今度の休みに見に行くわ。……マジで?」
後ろめたいからか声が小さくなり、ヒソヒソと話している。
「あの二人、よからぬ事を考えている気がします。特に恭夜さんをいけない道に引き込もうとする眼鏡の方のさっきの勝ち誇った笑顔にイラッとしました。……私なんて恭夜さんがお風呂に入ってる時に間違えて入ってしまったり、着替え中に部屋に入ってしまっても笑って許してもらえる仲なんですからね!」
早苗がヒソヒソ話す二人を観察し、訳の分からない事で張り合っていた。
「恭夜ー! 何か芸をやりなさーい!」
「かしこまりました、お嬢様! 霖之助、それじゃあ呼ばれたし俺はもう行くわ」
遠くから恭夜を呼ぶレミリアの呼ぶ声に反応し、霖之助に断ってから皆の中心に向かった。
皆の期待する視線を受けながらレミリアの元に着くと、レミリア直々に大きい羽織を渡されそれを見た恭夜の顔が引き攣った。
参加希望者を募っていたようで、紫が凄くいい笑顔で近づいてきた。
「すっげぇ嫌な予感しかしない。……よし、俺が後ろになる」
紫の笑顔を見て凄く怖くなっている。
「貴方は前よ。私は後ろだから……やーん、恭夜ったらラッキーボーイ。ゆかりん、密着するの恥ずかしー☆」
「それならこれはなかった事に……」
グツグツいってるおでん鍋が運ばれてきて逃げたくて仕方がない。
「いいからいいから」
大きめの羽織を着ていそいそと恭夜の後ろに入り、逃げられないように前をしっかり結んでいる。
「いい匂いがして背中が柔らかいのに、目の前に恐ろしい物があってそれ所じゃない……」
「それじゃあ、まずは熱々のスープからにしましょう。私も慣れないといけないし」
背後からそんな声が聞こえ、手探りでお玉をなんとか取った。
皆は酒の入ったコップやらを手に何が起きるのかとわくわくしながら見ている。
文はカメラを構えていて、恭夜が酷い目にあうのを楽しみにする嫌な笑顔をしているのが分かる。
「いきなりそれとかレベル高すぎるだろ!? やめて! ちょっ……あっつい!! そこ口じゃなくて首だってばぁぁぁ! 熱っ! 全部入っ……熱いぃぃぃ!!」
顔の位置が把握できなかったようで、首元から熱々のおでんの汁が全部身体にかかって涙目になって叫んでいた。
酔いも回り恭夜のリアクションで皆が爆笑する中、紫はお玉で卵を掬って口許に寄せ始めた。
上手く恭夜の口許に誘導出来ており、皆はおぉっ!と感心している。
「……無理無理、さっきのでもう無理! 熱いし、がんばったよ! もうやめよう? ……ごほっ! 水! 霊夢、水!」
無理だと悟り卵を口に入れたが我慢できず、ぽんっ!と飛び出していった。
勢いよく飛び出た卵に驚きキャーッ!という声と共に皆が避けていた。
そして九つの尻尾を持った人物が何かに気づいてハッとし、卵を回収しようと追いかけている。
途中普段素早く動く姿を見たことがない図書館の魔女と鉢合わせ、互いに皿に乗せようと卵を奪い合う小さな争いが起きていた。
「はいはい、お水。リアクション、もうちょっと上手くなればいいかもしれないわね」
散々笑っていた癖に意外と厳しい巫女である。
「水……ブハッ! 酒じゃねぇか!」
水だと信じてごくごくと飲み、喉元を過ぎた頃に酒だと気がついて思いきり吹き出している。
「キャアァァァッ! ……もう怒ったわ。紫、変わりなさい。私が恭夜に本当のリアクションをさせてあげるわ」
吹き出した酒を浴びて可愛らしい悲鳴を上げ、顔にかかったのを拭うと凄く怖い顔になっていた。
「あ……やば……」
アルコール度数の高い酒だったようで、一気にたくさん飲んでしまい目の前が明滅して皆の声もくぐもって聞こえてきている。
紫に代われと騒ぐ霊夢が様子のおかしい恭夜に気づいた時にはぐったりとしており、離れた場所で呑んでいた永琳を慌てて呼んでいた。
寝かされた恭夜を皆が遠巻きに眺め、永琳は慌てずしっかり診ている。
「……意識を失っただけみたいね、急性アルコール中毒じゃないわ。……貴女達、お酒が苦手な人に無理矢理たくさん呑ませると最悪死に到るのよ? 特に! 恭夜は弱いみたいだから、ペースは恭夜に任せてあげて」
怒り心頭と言った感じでお説教をする永琳の背後で、恭夜がむくりと上半身だけを起こした。
「あ」
皆は気づいたが背を向けている永琳だけは気づいておらず、何故話を聞かずに後ろを見ているのかがわからない。
「貴女達はいったい何を見て……んんっ! やっ、こんな場所で! んーっ!!」
振り向くと同時に強く抱き締められ、思いっきりなんの躊躇もなく唇を奪っていた。
口内を蹂躙される様を見て皆がごくりと唾を飲み込んだ所で永琳が解放され、恭夜はさらに近くにいた幽々子をロックオンしている。
しかし不穏な空気を感じた妖夢が幽々子の前に立ち、白楼剣と楼観剣を抜き放っていた。
「何て破廉恥な……。幽々子様、お逃げください! 私が彼を止めている間に!」
「大丈夫よー」
「……」
足取りは確かで、ロックオンした幽々子に一直線に向かっている。
「……可哀想ですが、少し痛い目にあってもらいます!」
確実にやれる範囲に入った瞬間強烈な一撃を叩き込もうと踏み込んだ。
「……」
理性と自制心のリミッターが外れて釣られるように肉体のリミッターも外れており、普段なら妖夢の斬撃を避ける事も出来ないはずだが容易に避けて懐に潜り込んだ。
「しまっ……んんーっ!?」
まさか避けられるとは思わず、驚愕の表情を浮かべる妖夢をきつく抱き締めながら強引に唇を奪った。
ジタバタと抵抗していたが力が抜けて両手から剣を落とし、口内を蹂躙されていく内に両手を恭夜の背に回している。
たっぷり五分楽しむと妖夢を離し、当初の目的の幽々子に迫っていった。
………
……
…
あれから一時間、側に居た者達は餌食になっている。
幽々子の抵抗を軽くあしらい唇を荒々しく貪った恭夜にビビりスキマに逃げた紫だが、どうやったのかスキマから引きずり出されたりと大惨事。
止めようとしたレミリアと咲夜の主従コンビを凌駕したり、今回の異変の黒幕である天人達も巻き込まれていた。
ただの人間程度なら止められるという過信が招いた悲劇である。
そして黒い髪の妖精に手を出し終わった所で急に倒れ、気持ち良さそうにすーすーという寝息をたてている。
「……恭夜さんに無理に呑ませるのはやめましょう」
「霊夢、見てたか? スキマを無理矢理こじ開けて紫を引きずり出したの」
霊夢と魔理沙はさっさと退避していたようで、大惨事を遠巻きに見ていたらしい。
「ええ、見てたわよ。……みんな息も絶え絶えなのに一人だけ気持ち良さそうに寝てるわね」
「意識がなくなるくらい呑ませるとキス魔ってやつになるんだな。小悪魔が霊夢にニヤニヤしながら水を渡したのもこれを狙ったんだろうな。……こいつらも運が悪いんだぜ」
サニー、ルナ、スターといつのまにか混ざっていた妖精達も餌食になっている。
「さ、恭夜さんは別室に寝かせて宴会の続きよ。そろそろみんなも落ち着くだろうし」
別室に敷かれた布団の中ですやすや眠る恭夜を見に一人の女性、永江衣玖が入ってきた。
布団の側に座ると懐かしそうに恭夜の頭を撫で始めた。
「……あなた、また会えるなんて本当に夢のようです。私の記憶がなくて名前が違っていても嬉しいんです」
頬に触れてしっかりここにいるのを確認している。
「本当は人である事を辞めて、私と一緒に生きてほしかったんですよ? あなたと私の子はあなたが不安に思っていた通り、総領娘様の婿にされてしまいました。相思相愛なのが救いって所ですね」
クスクス笑いながらそんな言葉を吐露していた。
「……この世界ではあなたが私にしてくれたように、私からあなたにアプローチをさせてもらいますから」
一目惚れでもしたのか熱烈なアプローチで衣玖を射止めたようだった。
衣玖さんは結ばれて天寿を全うした世界から。
没になった始まりその1
「半人半霊……って何ですか?」
ぼんやりした黒髪黒目の青年が不思議そうに尋ねている。
「貴方とか妖夢みたいな種族の事よ。……どうも貴方は後天的な半人半霊みたいだけど」
「えっ、幽々子様そうなんですか?」
脇に待機していた少女は後天的な〜という言葉に驚いていた。
「ええ、そうよ。でも日常的な記憶以外は真っ白みたいだし、妖夢の部下にして様子をみましょ。いざという時に対処も出来るでしょうし」
笑顔ではあるが妖夢に向けた目は真剣なもので、いざとなったら斬り捨てる事を案に許可している。
「……わかりました」
っていう白玉楼スタート物。
没理由としては出不精具合が紅魔館よりもマッハで、基本この二人+八雲家くらいしか出番がなくなるから。
没になった始まりその2
「蓬莱人……ってなんですか?」
腹の部分に大きな穴が空いた服を着た青年が正座をして尋ねている。
「貴方の事よ。記憶がないみたいだし、どんな経緯でなったのかはわからないけど」
「永琳、私もびっくりしたのよ。名前も考えてあるし、新しいペットにするわ」
美しい女性と息を呑む程の美しさを持つ少女の会話をぼんやりと聞いていた。
「ちゃんと面倒見るのよ。鈴仙は世話をするの嫌がるだろうし」
「わかってるわよ、顔真っ赤にして出て行くくらいに嫌ってるんだもの。……この子はいずれ永遠亭の家事を担う最強の主夫として君臨する未来が見える気がする」
男の頬に手をあて微笑んで見せたが不思議そうにするだけで、今までの男達とは全く違うタイプだった。
「あんなに顔赤くして怒らなくてもいいのにって私は思ったわ。家事、この子が出来たら色々捗るようになるわね」
ちなみに鈴仙は一目惚れをして真っ赤になっていただけで、怒っていたわけではない。
「とにかく私の部屋の近くの空き部屋に置くから」
そう言うと男の手を掴んで部屋から出ていってしまった。
永遠亭スタート物。
没理由は異変前に鈴仙幸せエンド一本道で発展性がないから。