運が良い事に彼女もそうだったようです
「恭夜、本当に私に仕える気はないの? 私と一緒なのよ?」
恭夜の手を両手で握りながら仕えてくれないのかと懇願している。
「風見さん、流石にそれは無理ですよ。あの花の異変の帰り道に閃光に呑まれて一週間、お嬢様に手紙を送ったとはいえそろそろ帰らないと……」
幽香に撃墜された事には気がついていない。
ちなみに異変解決後に遺恨を残さない為に医療担当として今後も随伴する事を決められてしまい、異変の度に死ぬような思いで付いていかなくてはいけなくなっていたりする。
それは咲夜が行かなくても恭夜だけは付いていかないといけないわけで。
しかも執事風な服の上に永遠亭から支給される白衣を着用という、何ともチグハグな格好をさせられるのもいただけない。
「でも、でも」
どうにか引き留めようとしているが思い浮かばないらしい。
撃墜された恭夜が目を覚ますと、噂の妖怪と思われる女性に保護されていてかなりビビっていた。
だが実際は怪我の手当てを優しくしてくれて、何人かの女性達のように恭夜の過去を知っていてホッとしたのは言うまでもない。
「また遊びに来ますから」
「絶対よ? 絶対だからね? もし来なかったら紅魔館まで行っちゃうからね」
見た夢では依存に近い関係だったようで、幽香は完全に同調してしまい今のような可愛らしい感じになっている。
「そ、それじゃあ、帰りますね。また今度」
花の種の入った袋を持つと幽香の家を出た。
心地好い春の日差しを浴びて伸びをしていると、付いてきていた幽香がクスクス笑っていた。
恥ずかしくなり宙に浮かび飛び去ろうとしたが、幽香に振り向き深々と礼をしてから飛び去っていった。
「早くみんなに会いたい、特にフランに癒されたい」
帰ってきた翌日に異変解決に付いていく事になり、解決後には幽香に保護されていたので早く紅魔館に帰りたくてかなりスピードを出していた。
それから数日が経った。
三ヶ月ほど居なかったからか新米メイドが増え、代わりにそんなに親しくなかった古参のメイドが数人居なくなっていたりと把握するのが大変。
皆はそれぞれ定期的に耳掃除をしていたようだが、幽香の所から帰ってきた恭夜のテクニックがさらなる進化を遂げていて、もう彼なしでは満足できない身体にされている。
「今日もいい天気。美鈴の手伝いで庭の手入れをしないと」
レミリアにとっては最悪な快晴であり、咲夜はかなりの量の洗濯物を妖精メイド達と干している。
ちなみに恭夜は女性物が多いからという理由で一度も洗濯担当にはされていない。
「き、恭夜! ちょっと!」
庭に着くと服がボロボロになった美鈴が慌てて駆け寄ってきた。
「あれ、どうしたの美鈴。朝ごはんの時はそんな大胆な服だったっけ? それに今日は花の手入れをして、新しい種を蒔くって言ってたのに」
「え? ……きゃっ! わ、私はいいから、あれ、あれを見なさい! あんなにニコニコしてるけど、とんでもない力を持った妖怪が恭夜を訪ねて来たの! しばらく通せないって説得してたら、いきなり魔理沙のマスタースパークみたいなあれが……この前の異変で何やらかしてきたのよ!」
自分の服の現状を見て慌てた美鈴が、誤魔化すように指差す先を見ると優雅に佇む女性の姿が見える。
しっかり手入れされた庭と花壇の花達を見ている、日傘をさした見覚えのある女性。
門の方で大騒ぎしている声も聞こえてきて、どうしたものかと考えている。
こちらの視線に気がついたのか、女性がこちらを振り向いた。
「うん、あれは風見幽香さんだな。噂だと強大な力の持ち主で機嫌を損なうと滅ぼしにかかってくるとか……まぁ、実際は優しい女性だったけど」
「本当に優しかったら私にこんな事するわけないでしょー!?」
「でもすぐに俺を呼べばそうならなかったんじゃない? 敵意はなかったんでしょ」
上着を脱ぎ、刺激的な状態の美鈴にかけながら正論をぶつけていた。
「う……あ、恭夜の匂いがする。えへへ」
言葉に詰まりながら袖に手を通していたが、恭夜の付けている香水の香りで安心している。
「もうあの上着は帰ってこない気がする。それよりも」
小悪魔、咲夜、パチュリーとそれぞれの部屋にお邪魔した時に脱がされて、忘れて翌日に取りに行くとどう見ても新品の上着を手渡されたから慣れているようだ。
極上の笑顔で手招きをする幽香の姿は美しいが、同時に物凄く恐ろしく感じる。
恭夜が恐る恐る近づいていくと日傘を放り投げ、思いっきり抱きついてきた。
「約束したのに五日も来てくれないんだもの、監禁でもされているんじゃないかって心配したのよ?」
何かもう依存度が半端なかった。
「俺にも仕事があるんで一ヶ月に一回行けるかどうかなんですよ。それと抱きつくのやめてもらいたいんですが……」
「嫌、恭夜分を補給してるんだもの。……毎週一回は来てよ。来ないの? 来るよね? 来てって言ったよね? 来なくちゃおかしい。来ないなんて言わせない。あなたは来るべきよ。来なさい。来て。き・て」
耳元で囁かれて背筋がゾワーッとし、危険の意味のベクトルが変わっている。
「……夕方以降でいいなら」
何かのスイッチが入った幽香が凄く怖くて、恭夜は自身の時間を潰してでも妥協案を出すしかなかった。
「うーん……そうね、やっぱりお仕事があるのに来てもらうのも悪いわ」
「わかってもらえて嬉しいですよ」
夜に出歩くと厄介な事になるからホッとしている。
「だからこの花壇の様子を見る為に私が足を運べばいいのよ。そうすれば毎日会えるもの」
最近は妖精メイドががんばっているからか、美鈴に教わりながら庭の手入れをしていたりする。
「いやー、さすがにそれはお嬢様が許さないと……」
「貴女が風見幽香、ね……いいわよ。ただし美鈴の言う事を聞いてしっかり庭の手入れをする、許可なく暴れないの二つをしっかり守れるのならだけど」
日傘をさしたレミリアがいつのまにか傍に居り、二つの条件を守るなら来てもよいと許可を出していた。
「それでいいのなら。ダメと言われたら毎日門を壊さないといけない所だったわ」
少し離れた場所で話を聞いていた美鈴がヒィッ!と悲鳴を上げている。
「それと早く恭夜を離しなさい。パチェがさっきから貴女を睨み付けてて不安なのよ……」
館の陰からパチュリーが覗いており、凄くイライラしているのが見るだけでわかる。
「そうね、十分堪能したし今日はもう帰るわ。また明日ね?」
恭夜から離れると放り投げた日傘を拾い、そのまま壊れた門の方にまで行ってしまった。
「あ、はい。また明日です」
幽香が離れた事で自由になったが、ちょっと残念そうな顔をしている。
「……少し焦ったわ。庭の手入れが終わり次第、恭夜は私の部屋に来なさい」
それだけ言うとレミリアは館の中に入っていった。
「わかりました、お嬢様」
恭しく礼をしてレミリアを見送り仕事を再開した。
着替えてきた美鈴から真新しい上着を受け取ると庭の手入れを始め、花壇に新しく花の種を蒔き始めた。
その他の庭師としての仕事は今後仕込むらしく、今は花に関する事を優先しているようだ。
「風見さん、夏には向日葵の種をくれるって言ってたよ。たんぽぽが好きって言ったら、やっぱりねって返されたのが不思議だったなー」
この世界に札が存在しなくても、例え見えなくなってしまっても、彼はいつでも恭夜の傍に居続けている。
「明日から一緒に手入れをするの、気が重いわよ……」
「仕方ないね。そう言えば異変の時に四季様に死神にならないかって意味の分からないスカウトされたよ。まず肉の器を一度捨てて、死神として生まれ変わらないといけないって言われてお断りしたけども」
触れる亡霊状態から死神にするつもりのようで、肉体と魂を断ち切るつもりのようだった。
「死んでからもあたいと一緒に居たいって言ってたのにねぇ……」
「あ、こまっちゃんだ。またサボり?」
しゃがんで作業をする二人の背後から声が聞こえ、振り向くと死神の女性が頬に手をついて二人を観察していた。
「異変の度に知り合いが増えるのね。で、今度は何者? 門が壊れてるからって勝手に入ってきてもらっちゃ困るんだけど?」
「あたいは小野塚小町、そうカリカリしないでほしいよ。恭夜が死神になる心変わりをしてないか見に来ただけなんだからさ。それとサボってない、今日のノルマを終わらせてから来たんだ」
どうだ!とばかりに胸を張り揺れる揺れる。
「おぉ、ご立派な双子山が……じゃなくて。ごめんね、俺はこまっちゃんの知ってる俺じゃないから死神にはなれないよ」
自制していても思わず目を奪われるらしく、隣に美鈴が居るのも忘れて凝視していた。
「やっぱりダメなんだねぇ。……わかったよ、それなら今日からまた仲良くやろう。どうせ思い出せないなら、またそう思わせてみせりゃいいんだ」
サバサバしていてとってもポジティブだから、別世界の彼も小町に惹かれたのかもしれない。
「美鈴が残りは一人で出来る量だから、話をしてていいって脇腹をつねって少しツンとしながら行っちゃった」
来客過多で時間を削られてイライラしたようだが、気を使って二人きりにしてくれたらしい。
「映姫様も恭夜が来るの楽しみにしてるし、今度三人で呑もう。……まぁ、死神になるとしても死後に地獄でキッチリと罪を清算してからだからねぇ」
人間の寿命から罪の清算が終わるまで待てる種族故の余裕であり、蓬莱人等にされない限りはいつか必ず死ぬから楽しみが増えて仕事も捗るようになっている。
「四季様が俺に執着する理由が分からないんだけど。マンツーマンでお説教四時間とか泣きそうだった」
映姫は慧音達と同じ世界を見たらしく、皆が牽制しあっていないのなら死後の勧誘をするチャンスだと考えていたり。
「あたいもお説教されるのは嫌だよ……」
しばらく二人であのお説教の長さについて話し合っていたが、小町が帰ると言うので門跡地まで見送っていた。
知り合いが二人も訪ねてくるなんて一年前だったら想像も出来ないな、と思いながらレミリアの元に向かっていた。
レミリアの部屋に入ると鍵をかけるよう指示され、鍵をかけてレミリアの前で跪いた。
「……咲夜もフランもいないわね」
「はい、お嬢様」
片膝をつき頭を垂れて跪いており、レミリアに忠誠を誓っているのが分かる。
「それなら早く来なさい。咲夜とフランには秘密なんだから、早くしないとバレちゃうわ」
椅子から立ち上がりベッドに腰を下ろすと、恭夜を急かし始めた。
「はい。失礼致します」
言われるがままに立ち上がり、レミリアの隣に腰を下ろした。
上着とベストを脱ぎ、ネクタイを外してからワイシャツのボタンを外して首元を露出させている。
「咲夜にウイングカラーシャツも用意させないといけないわね。普段はワイシャツでもいいけれど」
その作業が終わったのを確認すると恭夜の膝に座り、首に両腕を回して体勢を整えながら呟いていた。
「お嬢様」
背中にそっと手を回して、その身体を支えている。
「他の人間の血がいつか飲めなくなりそう……」
レミリアの熱い吐息が首にかかり、直後に皮膚を貫く痛みが身体に走った。
「うっ!」
何度されても慣れぬ感覚に少々を顔を歪めている。
いつからかは分からないが、レミリアの気まぐれで血を吸われてからこんな関係になっていた。
咲夜やフランに秘密なのも、二人だけの秘密を共有する事で仲良くなりたいという思いから。
「じゅる……ず……じゅ……」
「う、あ……」
レミリアに血を吸われる度に目の前がチカチカとしてきて、理性が弾けそうになるのを必死に堪えている。
「……御馳走様。血液型とか関係なく、こんなに美味しいのは絶対恭夜だけよ」
牙の刺さった痕から溢れ出た血液を舐め取り、ポケットから絆創膏を取り出して貼り付けた。
「あ、ありがとうございます……」
身体がダルいのかノロノロしているが、服装をしっかりと整えている。
「さてと、貴方は急に倒れた事にするから眠っていなさい。……これで本で見た看病イベントってやつになるわよね」
立ち上がろうとする恭夜の肩を押して自身のベッドに寝かせ、部屋の鍵を開けて咲夜を呼んでいた。
依存度高めな幽香が味方になって、恭夜がある意味爆弾みたいになってる気がする。
これの前に三話くらい間に挟む予定で先にこれを投稿。
挟むのは主に外の世界で何をやっていたのかについて。
神様と運命革命のパラドクス面白いなー。
承認を受けた時の姿でサモンナイト3の抜剣覚醒を思い出した。
デジモンはようやくエンジェモンの辺りだけど、ガブモンが技の消費やらで不遇な気がする。
アグモンは強くて本当に頼りになるわ。