リハビリとはなんだったのか
リハビリの名目で永遠亭に閉じ込められて五日目。
お目付け役なのか鈴仙が片時も離れずに付いてきて、いつも一緒にいるからか好きになってきていた。
ただその類の事には心底ネガティブであり、傷つきたくないという思いから友人として一緒に居られればそれでいいと考えている。
そして現在、恭夜は……
「この部屋にいると妙に落ち着くから困る。帰りたくなくなるくらいにここに居るのが当然というか」
宛がわれた部屋で座布団に座り、紅魔館の自室以上にくつろいでいた。
「……ねぇ、今日も甘えていい?」
隣に座っていた鈴仙が上目遣いでクイクイと服の裾を引っ張っている。
「いいけど、あまり見つめないでもらえると嬉しい。その赤くて綺麗な瞳に見つめられると照れるっていうか」
相変わらず狂気の瞳の影響を受けず、唯一鈴仙と見つめ合う事が出来る。
「だーめ。ちょっとだけでも私の事を思い出していたのを隠してたんだから」
そのまま寄り掛かり、肩に頭を乗せながらそう呟いた。
リハビリと称したてゐのトラップ回避、それで盥の三連コンボと水の入った桶が頭に直撃。
そのショックで新たにてゐを加えた永遠亭の者達に関する記憶だけがさらに呼び覚まされていた。
これにより頭に衝撃を与えると思い出す説が濃厚になってしまい、輝夜が曲がり角で待ち受けていたりしていて危ない。
「いや、隠してたわけじゃなくてね? ちょっとだけ思い出しただけだから、言わなくてもいいかなーって」
それぞれと仲良くしてたなーくらいで、慧音と妹紅のように名前を呼び捨てするのに照れがなくなった程度のものだった。
「そのちょっとでも嬉しかったの。てゐに対して何の躊躇もなく四の字固めをかける姿でピンと来た師匠は凄いと思った」
「あいつにはあれくらいやっても許されるはず。二日前から、俺には禍福があっさり来るからって部屋から出ると背中にぶら下がってくるんだよなぁ……」
幸せな事が起きると、すぐに不幸までやってくるから楽しいらしい。
例としては
鈴仙のスカートが風で捲れる所に遭遇して思わずガン見→照れた鈴仙の手加減のない弾幕の餌食に
足が縺れ永琳の胸元にダイブして抱き留められる→ちょうどよかったわとそのまま新薬の試薬に付き合わされる
等々。
幸運3で不運7くらいな割合な気がする。
「だからちょっと目を離すと肩車してたり、おんぶしたりしてたんだ……」
さりげなく恭夜の膝に頭を乗せながら呟いている。
「もう諦めたよ。不運の前の幸運だけ楽しむ事にした」
鈴仙の頭を軽く撫でたり、髪を手で梳いたりしながら話を続けていた。
「でも毎日パンツを見られるのは困る、かな? 可愛いのばかりじゃないし……」
恥ずかしそうにしながらそんな事を言う姿も可愛らしいが言ってることが大胆すぎる。
見られる事が嫌なんじゃなく、お気に入り以外のを見られるのが嫌らしい。
そんな事を鈴仙に言わせるなんて、二人がどんな関係だったのかが凄く気になるところ。
「いや、なんかその、ごめん」
「その罰として毎日部屋にいる間は甘えさせてもらうからね。目を見るのとは別で」
手を伸ばして恭夜の顔に触れながら、自分の要求を口にしていた。
「まぁ、君がそれで許してくれるのなら」
「でも恭夜は鉄……というより鋼のような自制心だよね。デレデレしたりはするけど、決して手は出さないし」
「いや、それは当たり前だと思うけど。手を出したら間違いなくただの変態だろ。……まぁ、それ以前に手を出したらころころされちゃうわ」
酒をたくさん飲むとその自制心が弾け飛び、近くにいる者に手当たり次第にキスをする危険すぎる大魔王が降臨してしまう。
何か凄くいい雰囲気でイチャイチャしていた二人だが、永琳の指示で鈴仙は里に薬を売りに行く事になってしまった。
名残惜しそうに何度も振り返っていたが、恭夜が永遠亭の入り口で手を振り見送る姿を見て走って行った。
「これ絶対ただの雑用だよね? リハビリとはなんだったのか」
女の子と楽しく過ごした事で元気になり、庭の雑草を抜いたりとリハビリ名目の雑用をこなしている。
「ぶつぶつ言ってないでキビキビ働く。この私、因幡てゐ様が恭夜の見張りなんだから」
てゐが見張りと称して側にいるからサボれず、さらに人の姿になった妖怪兎の少女達が周りで跳ね回っていて集中できない。
「はいはい」
たまに覗き込んでくる子にびっくりするが我慢して雑草だけを抜いている。
「やる気ないねー。折角人間のような姿になれる子達連れてきてあげたのに。みんな懐いてるし、男の夢であるハーレムだよ?」
「見た目がロリっ娘のハーレムとか犯罪すぎるだろ。みんな俺より年上なんだろうけどさ」
そう言いながら抜いた雑草をまとめている。
「チッ、もしも誰かに手を出したら鈴仙にチクってやろうと思ったのに」
「お前、見た目は可愛いのにやろうとする事がえげつないよね。ほら散った散った、これから俺は永琳の所で嫌々新薬を試すんだから」
目的の薬がなかなか作れないようで、人間離れした人間の恭夜が手伝うことになっていた。
その新薬を試すという言葉を聞き、兎に戻って皆逃げ出している。
てゐは我先にと逃げていて既にその場にはいなかった。
そのまま永琳の元に向かうと、ビーカーに入ったままの不思議な色をしている液体の薬を手渡された。
飲まなければ妖怪兎の少女達に押さえつけられて無理矢理飲まされるのは目に見えており、目を閉じて一気に飲み干した。
味は凄く苦いが変化は何も訪れずホッとしている。
「また失敗ね。あの時みたいに女の子にしてしまう薬が作れないのが痛いわ」
「俺を女にしても誰も得しないだろ常識的に考えて」
今回は髪の毛が途中から銀色のグラデーションになるという奇妙な結果になっているが、鏡がないので気がついていない。
「そうね。……一人居るけど」
眼鏡を掛けた恭夜さんのお友だちですね、わかります。
「でも今回は特に変化がなくてよかった。前回は気絶してたから何が起きたかわからないけど」
だんだん銀色になっていた部分も黒に戻っていき、いつもの恭夜になっていた。
「あの日は……あ、そう言えば。手足に違和感はない?」
椅子に座り何かを記入していたが、急に思い出して振り返って尋ねている。
「違和感は全くないよ。逆にああなる前より調子がいいくらい」
「それならいいのよ、あなた……じゃなくて恭夜」
夏だがちょっとだけ涼しい穏やかな午後、思わずそう呼んでしまい照れている。
「?」
何故照れているのかわからず、どうしたんだろうと首を傾げていた。
お昼を食べ終え、縁側に腰かけてぼんやり庭を眺めている。
いつ来たのか隣に腰かける輝夜も無言で庭を眺めている。
「……ねぇ、うちに来る気はないの?」
「お世話になってて悪いけど、それはないよ。もう忠誠を誓った主が俺にはいるから」
どんな風になってもレミリアに忠誠を誓っており、我が身を捨ててでも守る決意は変わらず。
「そう……。いつでも遊びに来なさいね、これ渡しておくから。これがあれば竹林で迷わずに永遠亭まで来れるわ」
高そうな綺麗な竹細工の櫛を手渡している。
「ありがとう。みんなに会いたいし、また遊びに来るよ。中途半端だけど思い出したし」
櫛を受け取ると大切そうに懐にしまった。
そんな心地の良い雰囲気の中、二人でいつまでもボーッとしている。
関係ないけど作者はベジータが好きです。