特別編 ガチペドロリコンへの道2
魔導の精霊と一体の妖怪と共に暮らす恭夜、今日はそんな彼のとある日の一日をお見せしよう。
「……やばい事に気がついた。もしかして俺はみんなにロリコンだと思われてるんじゃないか?」
読んでいた文々。新聞を置き、唐突に呟いている。
「何をそんな今更な事に驚いておる。汝は妾達が来る前からロリコンだったとアリスが言っておったぞ。何でもあの館の妖精メイドを片っ端からてごめにしていたとか」
寝転がりながら煎餅をくわえ、DSで遊んでいたアルが顔を上げてトドメを刺しにきていた。
「……アル=アジフ、マスターはロリコンじゃないわ。ただ愛情を注ぐ対象の容姿がたまたま幼かっただけ」
お茶を飲みながら寄り添っていたエセルドレーダがフォローと言う名の追撃に走っていた。
「ナコト写本、それをロリコンと言うんじゃ……?」
「お前達さ、この数年で精神が鍛えられてなかったら俺普通に泣いてるよ? それとアル、さっきからパンツが丸見えで……あっつい! それより顔が超痛い!!」
余計な事を言ったせいで、顔を赤くしたアルに思いっきり湯飲みを投げつけられていた。
「この変態! 覗き魔! ロリコン魔術師!」
バッ!と正座になり、思いつく限りの罵倒を繰り出している。
「マスター、あんな駄本のなんて見ないでも私のならいつでもどこでも……」
ぽっ、と微かに頬を朱に染めながらエセルドレーダが大胆な発言をしていた。
十分程罵倒して満足したのか、アルはようやく落ち着いたらしい。
「アルも来た当初は逆に見せてくるくらいの痴女みたいな感じだったのに……」
エセルドレーダはせっせと着替えを準備し、湯飲みが当たった部分を魔力で癒していた。
「くっ……」
その来た当初の自身がした、恥ずかしい挑発等を思い出して顔が赤くなっている。
「まぁ、今のが恥じらいとかがあっていいけどさ。顔赤くして恥ずかしそうにしてる方が可愛い」
「か、かわっ!?」
普段なら絶対に言われない予想外の言葉にさらに赤くなり、目が泳いでいる。
「エセルドレーダ、ありがとう。もう痛みはないから」
癒してくれていたエセルドレーダに礼を言い、隣の座布団をぽんぽんして座るように促している。
「はい」
指示通りにちょこんと座布団に座り、何かを期待するように恭夜の横顔を見つめ始めた。
「……」
そんなエセルドレーダの頭を無言のまま軽く撫で、少し照れているのをチラ見してから本日のお仕事内容の確認を始めた。
紅魔館を出てしばらくの間は慧音を頼って教師の真似事をしていたが、様々な事情から現在は里の何でも屋をやっていたりする。
子守りから妖怪退治まで様々な事を引き受けており、最近ようやく安定した収入を得られるようになっていた。
それまでは地底でさとりに雇われたり、守矢神社で神職に関する様々な事を叩き込まれたり、永遠亭で治験をしたり、命蓮寺でご飯を食べさせてもらうかわりにお手伝いをしたりと大変だったらしい。
そして本日は珍しく日を跨いでの連続した依頼もなく、依頼者待ちの日である。
「……そういやしばらく野菜ばかりだったせいか、今じゃダンセイニもすっかり菜食になったよなぁ。アルがどこかから連れてきた時はどうしようかと思ったが」
手帳を閉じ、今じゃすっかり家を守る不可思議生物に思いを馳せていた。
アルがペット兼ベッドとして連れてきた時は頭を抱えていたが、ダンセイニが励ますように触手を伸ばして肩をポンポンした事で色々と諦めたらしい。
昼寝中にタオルケットをかけてくれたり、愚痴をこぼすのを真剣に聞いてくれたりと居る事に違和感がなくなっていた。
基本的に生きている価値がないと判断した者は助けない恭夜。
もはや助からないと思われる怪我を妖怪に負わされた辺りでようやく介入し、絶命後にダンセイニに喰わせたりと紅魔館にいた頃と変わらない部分もあった。
手の届く範囲で自分の大切な人達を守る為に、時には切り捨てるのも大切な事だと紅魔館で学んでいる。
「き、恭夜! 今日は仕事もないようだし、妾と里をだな」
可愛いと思われていた事を知って少しデレたらしく、お誘いの言葉をかけてきていた。
「マスター、お仕事がないのでしたら私と先日の続きを」
頬に両手をあて、うっとりとした表情のエセルドレーダも熱い眼差しを送りながら誘っていた。
誘うタイミングが被ってしまい、ハッとした顔になった二人がにらみ合いを始めてしまった。
「しかし、あの二人は体操服なんてどこで見つけてきたんだろうね。やっぱりナイスブルマと言えばいいのかな」
それが恭夜の趣味だと思われている事を知らない幸せ。
マギウス・スタイルの特訓時、何故か二人して体操服姿だったのが不思議で仕方なかったようだ。
ある・あじふ、えせるどれーだ、とそれぞれの胸の部分に書かれていて少しだけ萌えたのはトップシークレットらしい。
今でも大掃除等の時に着用しており、意外と重宝している。
「……何かこうしてると凄い犯罪の匂いがするわけだが」
和の家に似合わない玉座に腰かけさせられ、エセルドレーダが恭夜の膝に乗って首に手を回している。
そのエセルドレーダの腰に手を回して安定させており、第三者が居たらどう見てもアウトな光景。
もうロリコンでもいいかもしれないと、この玉座に座る度に考えさせられていたりする。
ちなみにこの玉座はエセルドレーダに支払った初めてのお給料で買ってくれたプレゼント。
「妾もそう思う。ナコト写本がこちらにする勝ち誇った顔にイラッとするが」
優先的に可愛がられるエセルドレーダに内心嫉妬しているが、いつも素直になれないでいる。
「ふっ」
エセルドレーダはそんなアルを横目で見て鼻で笑い、再び愛しいマスターに密着して幸せな一時を堪能していた。
「くっ!」
カチンと来たが何も言えないらしく、ただ二人を睨み付けている。
「うーん、性欲を持て余す」
そんな二人の水面下の争いに気づくわけもなく、美少女にくっつかれている現状に思わず本音を口走っていた。
「ナチュラルに何を言っておるこの変態!」
基本的に騒がしい三人である。
数日後
「毎朝起きるとエセルドレーダが布団の中に忍び込んでるからリアルに困る」
パジャマを買うお金が勿体ないからと恭夜の使い古したワイシャツをパジャマ代わりに使っており、第三者に見られたら確実にやばい光景パート2。
ぼんやりとエセルドレーダを眺め、そのさらさらな髪を手で梳き始めた。
普段あまり見せない安心しきった顔を見て、この子の幸せは絶対に守ろうと心の中で誓っている。
「……」
しばらくしてふと頭上を見てみると、朝日を背後に腕を組みながら二人を無言で見下ろすアルがいた。
「お、おはよう……」
びくっ!としながらも朝の挨拶、即ちおはようという言葉を贈っている。
「……今日から妾もこの部屋で寝る」
アルは二人に仲間はずれにされたと思ったのか少しいじけていた。
「何というハーレム、これは勝った。……冗談はさておき、まだ起きるのにも早いしアルも一緒に寝よう?」
掛け布団を捲り、隣をぽんぽんと叩いている。
「……」
エセルドレーダと同じようにワイシャツ一枚のアルが無言のまま隣に横になった。
『てけり・り』
既に朝の掃除をしているショゴスのダンセイニの声が廊下から聞こえてくる。
数時間後
朝食を終えて部屋に引っ込んでいたアルがノートPCを持って居間に戻ってきた。
「ふむ……汝が召喚されたらキャスターになるのだろうな」
恭夜が外の世界で購入したノートPCで普通にゲームをしている。
「朝っぱらからエロゲとか完全にこっちの世界に馴染んでるな、おい。俺はランサーとアーチャーの適性もありそうだけどな。その赤い服着たツインテールに呼び出されそうで怖いわ」
やる事もないので隣でお茶を飲みながらディスプレイを覗いていた。
レミリアからは槍の使い方を肉体言語で教えられており、威力は格段に落ちるがグングニルを物真似する事も可能。
永琳からは弓を手取り足取りねっとりと嫌がってもしっかり教えられ、最終的に射程の長さと破壊力の高い霊力の矢を扱うようになっている。
「……」
エセルドレーダはそんな恭夜の隣に座り、一生懸命家計簿をつけている。
「……今の二人を見て魔導書の精霊だって言ったら誰が信じるかね」
二人とも戦闘力なら成人男子を軽く超越しているが、家計簿をつけたりゲームをしたりと普通の女の子にしか見えない。
「きょ・う・や・さーん! 貴方の愛しい恋人、早苗が来ましたよー! 同居している凹凸のない二人よりも愛されている私ですよー!」
ガラッ!と玄関が開き、そんな声と共にバタバタとこちらに近づいてくる音がする。
その声を聞いたアルとエセルドレーダが互いに顔を見合わせて頷き、スッと立ち上がり何かを仕掛け始めた。
二人とも早苗の発言を聞いた事で額に青筋を浮かばせ、即席だが凶悪なトラップをハイペースで作成している。
「何で早苗はいつもアル達の地雷を平気で踏み抜くんだろう。……まぁ、無駄に奇跡起こして今日も突破してくるんだろうなぁ。そして何故か被害が全部俺に来るんですね、わかります」
これから起こるだろうとばっちりに溜め息を吐きながら、トラップを作る二人を眺めていた。
おしまい。
こんな三人組でも居たら役に立つから里の治安は良くなってるはず。
そろそろ手を出して取り返しのつかない段階に行ってしまうかもしれない。