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遅い春の日の出来事

「春になったと思ったら、妖精メイド達が全員咲夜さんサイズになり始めたとか異変だと思うんだ」

恭夜用の湯呑みを手にしながら霊夢に訴えている。



長い冬も終わり、春になってしばらくしたある日の事。

冬の間に全ての妖精メイドは仕事を覚え、恭夜の指示を聞いてそれぞれが仕事をしっかりとこなしていた。

勤労に目覚めた妖精メイド達は子供のような自身の体躯に不満を持ったようで、いきなり成長して咲夜並の身長とスタイルに変化。

当然そうなれば着ていたメイド服や下着は破れてダメになる。

そしてほぼ全裸な少女達を間近で見てしまい、恭夜は手で押さえたが鼻からポタポタと赤い液体を溢していた。

それをストーキングして一部始終見ていたパチュリーの嫉妬による弾幕を背後からくらい、誰に襲われたのかわからないまま被弾しつつ外に逃走。

ボロボロになった恭夜は里に寄って賄賂的な物を大量に購入してから博麗神社に逃げ込んで今に到る。

なお最初に会った里の者に紙を貰い鼻に詰めていた模様。



「鼻血は止まったみたいね」


「あぁ、なんとかな……」

魔法使い候補には刺激が強すぎたようで、脳内メモリーからあの光景が消える事はまずない。


「だけど紅魔館の妖精だけが急に成長するなんて本当に異変かしら」

ずずーっとお茶を啜り、煎餅を手にしながら呟いている。


「何にせよ、すぐに帰ったりしたら変態扱いされかねんよ。……霊夢、何でもするから泊めてくれない?」

今頃は服の用意等をしているであろう紅魔館に帰るわけにもいかず、大福を手にしながら懇願していた。


財布は持っていたから、ボロボロな姿でお茶菓子や和菓子を購入してきたようだ。

霊夢があまり食べられないと嘆いていた肉等の食材も購入してきている。

そして神社に到着してからはお賽銭を入れ、それを目を輝かせて見ていた霊夢からお守りも三つ購入している。



「うーん……まぁ、いいでしょ。それじゃあ恭夜さんに境内と母屋の掃除、お昼と夕飯の準備、お風呂掃除をお願いするわ」


「それ全部って言わない? まぁ、いいけど」

そう言うと上着を脱いでベスト姿で箒を取りに行った。


「……ふぅ。今日もいい天気ね」




境内の掃除をして、お昼に親子丼を作りがっつく霊夢を見てニコニコ。

美味しそうに食べてくれるのが嬉しいようで、おかわりまで作って戻ると魔理沙に自身の食べかけを食べられていた。

それを見て溜め息を吐いたが、買ってきた食材に余裕があったから二人分を新たに作り、卓袱台の上に乗せている。


「夜は豚肉と卵を使ってしょうが焼き目玉丼だな」

漬物も小皿に乗せてきており、卓袱台の真ん中に置いた。


「卵と肉をこんなに贅沢に使ったご飯……」

一杯目はがっついていた霊夢だが、二杯目は味わうようにはむはむと食べていて少し可愛らしかった。


「おっ、そいつは夜も楽しみだぜ!」


「夜も食べていく気かよ。まぁ、俺はいいけどさ。……あ、そういや霖乃助が色々勝手に持っていくなってお前達に言っておいてくれって」


「やっぱり料理上手なやつの飯はいいなー。毎日紅魔館に通ってしまうかもしれないぜ」

最近は昼になると門番隊に混じって一緒になって食べていたりするから油断ならない。


「レミリアはいい拾い物をよくするわよね。咲夜と恭夜さんが一日交代で料理を作ってて、二人とも互いの技術を盗んでは独自に昇華させてるみたいなのよ」


「交代っていうより、俺が咲夜さんのサポートをする日と咲夜さんが俺をサポートしてくれる日がだな……いやいや、だから霖乃助が」

話を逸らそうとする二人の話に危うく乗りかけていた。


「親子丼恐るべし、だぜ」


「あー、お昼からこんな豪華なご飯なんて幸せー」


「ご飯に夢中で聞いてないんですね、わかります。……気がついたら俺の親子丼が半分ない」

溜め息を吐いて自分の丼に目を向けると、ほぼ半分何者かに食べられていた。


ひらひらと紙が落ちてきて、手にしてみると


ゆかりんとのデート一回券


とかふざけた事が書かれている。


「え、スキマから持っていったの?」


………

……


母屋の掃除を徹底的にして、夕飯の仕込みを終えると霊夢が手招きをしていた。

何だろうと思って近づいてみると霊夢の背後から二本の角が見えている。


「夕飯、一人分追加よ」

こちらをそーっと覗き込む萃香の姿に思わず笑みが浮かんでしまう。


「ああ、それならたくさん作ったから平気だよ。……で、その萃香は頭隠して角隠さず状態で大変微笑ましいんだが」

ぬいぐるみを作れるくらいに可愛いのも好きだから、今の萃香を見て持って帰りたいと思っている。


「恭夜さんとも仲良くしたいけど、あの時に自分から勝負を仕掛けて負けて逃げたのに都合良い事言えない〜って泣き言を溢してたのよ」


「れ、霊夢! 何でばらしちゃうんだよ!」

暴露されてバッ!と霊夢の背後から出てきた。


「恭夜さんなら絶対気にしてないわよ。まぁ、勘だけどね」


「霊夢の言う通りで気にしてないよ。友達百人出来るかなを幻想郷でやってるし、萃香も仲良くしよう」

そう言うと萃香に手を差し出し、和解の握手を求めている。


「……ありがと」

ギュッと手を握っているが、恥ずかしいのかそっぽを向いていた。


「……やっぱり持って帰りたいなぁ」

そんな萃香の仕草を見て思わず小声で呟いている。


「うー……ああ、もうこんなの私らしくないね! これからよろしく、恭夜!」

吹っ切るようにギューッ!と強く手を握り、ぶんぶんと力一杯振った。


「いだだだだ! ちょっ、マジかよこれぇぇぇ!!」

手が握りつぶされるんじゃないかと思う程の痛みと、激しい動きに振り回されている。



「おーおー、大人の男を軽く振り回せるとか流石鬼だな。霊夢、風呂掃除終わったぜ」

風呂掃除を終えた魔理沙が騒ぎの元に来て、振り回される恭夜を見て呟いていた。


「定期的にお賽銭が入るようになるし、ご飯は満足に食べられるしでレミリアが異変を起こしてくれてよかったわ。恭夜さんは会う度に私が作ってるお守りを勧めると三つは買ってくれるし」

×買う

○買わされる


「お賽銭入れて、更に毎回三つもお守り買わされてるなんて少し同情するぜ」

霊夢の隣に座るとお茶菓子のどら焼きを手にしている。


「お得意様って奴よ。最近はお守りの見た目を変えて飽きないようにしてるわ」


「お得意様って言うよりカモって言った方がいいような……」




楽しい夕食の時間も終わり、最後はお風呂タイム。

何故か魔理沙に萃香も泊まっていくらしく、湯加減を調整する当番になっている。

霊夢が熱く、萃香が普通、魔理沙が温めという要望にもしっかり答えていた。

最後に恭夜が入った時は三人で調整してくれたらしく、熱かったりちょうどよかったり温かったりとそれぞれの好みに左右されて落ち着かなかったようだ。

そしてようやく就寝の時間になった。


「明日は帰るの不安だなぁ……」

成長した妖精メイド達の容姿が美しく、今まで通りに出来るか不安になっている。


人間の少女サイズの時は可愛い妹のように厳しくも優しく接し、労働意欲を持たせる為に御褒美を用意したりと咲夜よりも人気があるメイド長補佐。

大人サイズになった今、思考も多少は変わると考えると迂闊に頭を撫でたりも出来ないから上手くやっていけるか不安だった。



「……まぁ、こっちが意識しなければ平気か」

伊達に美少女達と長いこと生活していない。




翌朝、朝食後に霊夢に礼を言い紅魔館に帰還。

門番隊のメンバーは少女のままでホッとしていた。


「昨日は鼻血出しながら逃げちゃったわねー。どうせ大騒ぎの原因を間近で見ちゃったんでしょ、このスケベ大魔王」

美鈴が腰に手をあて、ジト目で見ながら御褒美のように恭夜を軽く罵っている。


「見たくて見たんじゃないっての。てかまだ根に持ってるの? 俺が先に風呂に入ってて、後から入ってきたのはそっちなのに……」

理不尽にもボコボコにされたようだが、美鈴の裸を見たという時点でプラマイで言えばプラス。


「お、男に見せた事なかったんだからね!」

それまでは同僚で弟のような存在だったようだが、その日から異性として意識し始めている。


「あの時は速すぎて拳が見えなかったなぁ……」

リアル前が見えねぇ状態になり、風呂場でブラックアウトしたらしい。


「とにかく! 早く入って咲夜さんを安心させなさい。昨日は妖精メイド達の服の手配をしてから、ずっとそわそわうろうろしてたんだから」


「俺、顔見知りするタイプだから成長した妖精メイドと上手くやれるかどうか……」


「馬鹿な事言ってないでさっさと入る! 駆け足!」

武術の師でもあり、その命令は絶対である。


「はい!」

駆け足で中に入っていった。


「……ご立派だったなぁ」

ポッと頬を朱に染めてとんでもない事を呟いていた。



中に入るとキャッキャッしていた妖精メイド達が一斉にこちらを振り向き、恭夜はビクッ!と後ずさった。


「お、おはよーございまーす……」

彼女達から目を逸らし、自分の部屋に向かおうとすると……


「見てくださいメイド長補佐! 手足と身長が伸びて動きやすくなりました!」


「補佐が好きなおっぱいも大きくなったんですよ!」


「やーん、私達補佐に襲われちゃうかもー」

そう言いながらも胸を強調するようにしている。


「それは良かっ……ちょっと待て! どうして俺がおっぱい好き……じゃなくて、誰がそんなデマを振り撒いてるんだよ!」

デマではなく事実である。


「お嬢様です」


「メイド長です」


「私は美鈴さんから」


「あれ、小悪魔さんじゃなかった?」


「え、フランドール様じゃなかった?」


「私はパチュリー様からだけど」


「俺がみんなからおっぱい好きと思われていた事がこんな所で分かってしまった。これは酷い誤解……だから最近小悪魔さんが部屋に来ると胸元開けてたのか」

しっかり見てる辺り間違いではないが、本人は誤解だと言い張るつもりらしい。


昨日の早朝までは可愛かった少女達が、美しい少女達に変わり少しだけ緊張している。

慣れるまではまだまだ時間がかかりそうだった。



「ほら、貴女達は仕事をしなさい。恭夜、お嬢様がお呼びよ」

妖精メイドに囲まれてハーレムっぽくなっていると、そんな美しい少女達の中でも群を抜く咲夜が現れた。


「咲夜さん、昨日は逃げてしまい本当に申し訳ない事を……」


「ふふふ、逃げてよかったのよ。逃げてなかったら本気で追い出さないといけなかったもの」

笑ってはいるが目がマジである。


「う、うん……」


「それにパチュリー様から霊夢の所にいると教えられたから安心していたわ」

その割にはそわそわして、うろうろしていたようだが。


「……え?」

紅魔館の関係者が誰も神社を尋ねて来ていないのに、何故自分の居場所がわかったのかが分からなかった。


「あ、言ってなかったかしら? パチュリー様の提案で貴方の服には特殊な魔法がかけられているのよ。位置を把握する魔法と滅多な事じゃ破れないようにする為の強化魔法」

前者はもしもの時の為と言われてレミリアが許可したようだが、完全にパチュリーの私用の為である。


「そうだったんですか」


「ええ。それじゃあ、着替えたら妹様のお部屋の掃除をお願いするわね。……貴方以外だとまだ怖がっちゃってて入ろうとしないのよね」

仕方のない事なのかもしれないがやはり可哀想だった。


「はい。それじゃあ、咲夜さん今日もがんばりましょう」



古顔の妖精メイド達が大きくなった、そんな遅い春の日の出来事。

最新話扱いされないから見つけにくいかもしれないけど、今後もひっそりと合間合間に挟んでいく予定。

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