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長すぎた冬も終わったある日の事

長い長い冬も異変も終わり、ようやく幻想郷にも春がきた。

季節が春になろうとも我らの主人公である七夜月恭夜は、いつもとほとんど変わらぬ作業に従事していた。


「ついこの前の異変の時は正直死ぬかと思ったなぁ……」

当時の事を思い出すだけで身震いしている。


「恭夜を連れていったのはお嬢様の指示だから仕方ないわ」


「お嬢様に指示された咲夜さんが自作のマフラーを嬉々として俺に巻いて、そのまま玄関ホールまで連れていかれた時はどうしようかと思った。お嬢様も物凄く素敵な笑顔で見送りに来てくださったし」

救急箱やら応急処置セットの入ったリュックをレミリアに背負わされ、途中で博麗の巫女と白黒の魔法使いと合流したらしい。


「結局治療したのは私達が蹴散らした妖怪とか魔法使いだけだったわね。あの人形遣いと友人になっていたみたいだけど、治療の時に何かあったのかしら?」


「アリスの治療をしていたら、フランドール様と同じように俺を違う名前で呼んで来たんですよ。軽く説明したら何か考え込んで、いきなり呼び捨てにされましたけど」

恭夜もアリスと呼び捨てにしているのでおあいこである。


「そう、特に害はないならそれでいいのだけど。冥界の主、西行寺幽々子は油断ならない存在だったわね」

戦ったのは霊夢だったようだが、能力や張られた弾幕を見てかなりの強敵であったと認識していた。


「いやあ…西行寺幽々子は強敵でしたね」

異変解決に向かった自分を除く三人と、立ち向かってくる相手の次元が違う弾幕ごっこを見て一生勝てない事が改めてわかったようだ。


「後は最近恭夜をストーキングしてるあの大妖怪。真実の愛とか言ってたけど、大丈夫? 何もされてない?」

色々と無事なのか物凄く心配している。


「平気といえば平気ですよ。あの八雲紫さんも俺の事を知っていましたけど、同じく俺を知っていた八雲藍さんとは色々と情報が食い違っていました」

過去の自分の事が知りたくなり詳しく聞いたが、詳しく聞いた事をちょっと後悔していたりする。


特定の者だけがパラレルな世界を夢で体験し、その記憶や感情すらも引き継いでいる。

ただ皆が同じ世界の夢を見ている訳ではない。


紫が言う恭夜の過去は、紫と愛し合い、人である事を捨てて幻想郷を共に見守り続けていたという事。


藍が言う恭夜の過去は、幼少の頃に出会い、十数年後に幻想郷にて再会して誰もが羨む程に愛し合ったという事。


途中までは全く同じ事を言っていたが、最終的には互いに自分が幸せになっている世界を体験しているらしい。

記憶がないのをいい事に二人が嘘を吐いている可能性も否定できないが……。



「何かあったら言いなさいね? 大切な部下を守るのもメイド長である私の役目なんだから」

積極的にアプローチをする藍、毎日ちょっかいを出す紫に咲夜は少し焦っている。


「はい、頼りにしています。でもあのお二方は優しいですよ? 無理に思い出さなくてもいい、今の君は恭夜なんだからって言ってくれましたし」

過去の自分を知っていても、今の自分を肯定してくれる二人に好感を持っていた。


「それでも八雲紫には気をつけなさい。貴方はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレット様の従者なのだから」

人懐っこい笑顔を見せて話す恭夜に、キリッとした美しい表情で注意をしていた。


「はい。……あ、そう言えば俺がお嬢様に捨てられたら、拾ってくれるとも言ってました。あはは、もしもの時の再就職先ですね」

八雲の二人はいつか思い出すかもしれないし、思い出さなくても自身の手元に置いておきたいと考えていた。


ちなみに境界、死を操る二つの能力も効かなかったらしく、強力すぎる能力だけ無効にしているのではと藍に言われていた。

それを聞いた恭夜は、死を操る能力!?とパニックになり顔が真っ青になったのは言うまでもない。

紫の方は空の器に魅せられ、どうやったら満たす事が出来るのかを考えていたりする。



「捨てられる事なんてありえないから安心なさい。もしお嬢様が恭夜を捨てるなんて言ったら、妹様が大暴れして紅魔館がなくなるわよ。最近増えた姉妹喧嘩の原因は貴方なんだから」

クールに振る舞っているが、恭夜が捨てられたらどうしようと内心不安なようだった。


姉妹喧嘩の原因は恭夜を専属の従者にして欲しいフランとそれを断固拒否するレミリア。

当初はハードな姉妹喧嘩で館も壊れたりして大変だったが、今はバトルドーム等の玩具で平和的に争っている。

負けそうになるとレミリアがバトルドーム等をがちゃーん!して、ずるい!と涙目で喚くフランを恭夜が慰めるというような流れがほぼ毎日。



「そいつはよかった。でもこう言っちゃなんですが、フランドール様に対するお嬢様は大人気ないような……」


「それはまぁ……。そろそろ働きましょうか。最近になって妖精メイド達が仕事を覚え始めて、休憩時間が多目に取れるようになったのはいいわね」

その妖精メイド達のお陰で負担がかなり減り、咲夜も能力をそんなに使わずに済むようになっている。


「俺がみんなに指示を出している所を見たアリスに、何故かロリコン扱いされてショックなんですけどね」


「ふふふ、それじゃあまた後でね?」

そう言うと可愛くウインクをして咲夜は一人で歩いて行った。



「本当に仕草まで可愛いよなぁ。高嶺の花とは言ったもんだ。普段のクールな所もいいけど、二人きりになると柔らかい笑顔を見せてくれて……あんな笑顔を見せられたら、俺の事が好きなんじゃないかって勘違いしそう」

上司と部下で同じ人間だから優しくしてくれているんだろうと、勘違いしてしまわないように気を引き締めた。


「あら、恭夜はあの娘みたいなのが好みなのかしら?」

スッと目の前の空間が横に裂け、美しい金色の髪をした美女が上半身だけで現れた。


「好みというか可愛い人で……紫さん、こんにちわ。今日もお綺麗ですね」

異変が解決した日から毎日似たような事をされて慣れたらしく、特に驚きもせず当たり障りのない挨拶をしている。


「うふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。さ、行きましょう?」

スキマから完全に出てくると、胡散臭い笑顔で手を差し伸べてきた。


「え?」


「レミリアから許可は貰ってるから平気よ。さぁ、ごあんなーい♪」

なかなか手を出さない恭夜に痺れを切らし、手にした扇子でスッと恭夜の足元にスキマを開いてそのまま落とそうとしている。


「ま、待って、タイム! ……ちょっ、踏まないで! いやぁっ! そんな属性俺にはないからぁ! あ、そんなに顔を近づけられると照れ…アァァァァァァァ……」

両腕を床について腕力だけで耐えていたが、紫に頭をグリグリと踏まれたり、吐息がかかるくらいに至近距離で見つめられたりしている内に限界が来て落ちていった。



スキマの中のたくさんの目に見つめられながらどれだけ落下したのか、唐突に下の方から光が溢れ……


「……ァァァァッ! 〜〜〜ッ!!」

ドスッ!という良く響く音と共に畳に顔面から着地していた。


あまりの痛みに声も出せず、両手で顔を覆いながらごろごろと転がり回っている。

顔面から着地した事で鼻血が出ているようで血が滴り、畳を汚してしまっていた。



「あらあら、いきなり出てきたと思ったら悶えちゃって大丈夫ー?」

聞き覚えのある声が心配そうに話しかけてくるが、正直それ所ではない。


「鼻血が止まらないのと痛いの以外は何とか……」

転がるのを止めて立ち上がるも鼻血が止まらず、鼻を押さえていた左手が血まみれになっている。


「はい、これどうぞ」

綺麗なハンカチを目の前に差し出され、その人が誰なのかを確認しようとチラッと目だけを向けてた。


「貴女は西行寺幽々子……さんでしたか」

ほにゃっとした笑顔の桃色の髪の女性、西行寺幽々子その人?が立っていた。


「ほらほら、まずは血を止めましょう? 話はそれからそれから」


「い、いや、俺の血で汚してしまいますから……あ、ちょっ! ふがっ!」

汚したら悪いと断ったのだが、いきなり目を細めてグイグイと押し付けて血を拭い始めた。


「幽々子様、紫様はもう少しで帰ってくるそうで……き、貴様は七夜月恭夜! ……幽々子様を見て鼻血を出し、それを幽々子様に拭わせて喜んでいるんだな!」

いきなり部屋に入ってきた銀髪黒リボンの少女が現在の状況だけで、何が起きているのかを判断して誤解しまくっている。


「いきなり入ってきて俺を変態みたいに言うな! 宴会の席で半霊をほんのちょっと触っただけでいつまで怒ってんだよ!」


「あれがちょっと!? 私の身体を蹂躙するかのように隅々まで触っておいてちょっと!?」

その時の感覚を思い出したのか、頬を赤く染めブルッと身を震わせている。


「えっ、半霊と感覚リンクしてんの?」


「しっかり共有している!」

キッ!と睨み付けながら、白楼剣を手にしてジリジリと近づいてきていた。



「うふふ、妖夢ったらあんなにはしゃいじゃって」

幽々子は血まみれのハンカチを手に、いつのまにか離れたようで二人の事を見守っている。



「お、お前だけ武器ありとか反則だろ!」

ジリジリと後退しながらも妖夢から目を離さないようにしている。


「あの宴会の時のようにナイフ二本で防いだらいいだろう」

目が据わった妖夢が鞘から抜いた白楼剣は嫌になるくらい綺麗に研ぎ澄まされていた。


「咲夜さんいないから借りれないし、あれは運よく防げただけで……」

本気で斬るつもりだと気がついたが、対抗手段が何もなくて泣きそうだった。


咲夜のナイフを借りて受け止める事が出来たのも妖夢が少し酔っていたからで、現在のように意識がハッキリして確実に刈り取りに来ている時点で詰んでいる。



「人前であんな事をされてお嫁にいけなくされた恨み……って何で勝手に!」

後少しで射程距離に入るって所で半霊が勝手に恭夜の所に突っ込んでいってしまった。


「そのサムライソードZが囮なんて卑きょ……ゴフゥッ!」

予想よりも半霊が速く、避ける間もなく腹にめり込んでいた。


「なんだかわからないけど、よくやった! とどめは私が……ヒッ!」

半霊のアシストに喜んでいたが、背筋に走る妙な快感に手にした白楼剣を落としている。


「……相変わらず不思議な感触してるなー。ちょっと赤くなってるのは照れてるのかな」

腹を押さえて蹲っていたのは苦しかったからではなく、半霊を逃がさないように捕まえておく為だったようだ。


「や、やめてっ!」

さっきまでのキリッとした態度が消し飛び、すっかり普通の女の子のようになっている。


「ちょっとひんやりしてる」

丁寧に撫でながら妖夢の方をチラ見している。


「あっ! ダメッ! そこは……いやぁっ!」

すると妖夢は身体を丸め、容姿に見合わぬ艶やかな声を上げていた。


「なにこれエロい」

半霊を弄ぶテクニシャンなようで、半霊の方は完全に恭夜のテクニックに堕ちていた。


「も、もう斬らないから許してぇ!」

そして半霊に与えられる快感が妖夢にフィードバックして、とてもエロい事になっていた。


「……んー、それならいいか」

腕の中の半霊を解放し、妖夢の様子を窺っている。


半霊は顔と思われる一部を赤くしたまま恭夜の回りをふよふよ飛んでおり、妖夢の元に戻ろうとしない。

そんな戦いを眺めていた幽々子は、妖夢をからかうネタが出来たのが嬉しいようで凄くいい笑顔をしている。



「はぁっ、はぁ……参り、ましたぁ……」

ようやく与えられる快感から解放され、くたーっと伸びてしまった。


「意図せずに魂魄の弱点を掌握してしまった」




妖夢が落ち着くのを待ち、座布団に座って向かい合った。

そして始まる謝罪合戦


「この度は貴方の言い分を聞かずに問答無用で斬りかかろうとしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


「こちらこそ無礼にも貴女の半霊の事を詳しく知らずに好き勝手触ってしまい、誠に申し訳ありませんでした」

二人して座布団から降りて土下座をしており、物凄くシュールな光景だった。


「……それじゃあ、お互いにこの件は水に流すという事で」


「そうしよう」

互いに水に流す事に決めると、土下座を止めて座布団に座り直した。


「今までずっと貴方を恨み続けていましたし、仕切り直しをしましょう。これから改めてよろしくお願いします、七夜月さん」


「これからよろしくお願いします、魂魄さん」

ようやく和解して何故か互いに敬語になっているが、これから仲良くなれそうな二人だった。


「二人が仲良くなってよかったわー。恭ちゃんがいつ妖夢に斬られるんじゃないかーって心配してたのよ?」

大事にはならないだろうと成り行きを見守っていた幽々子が、妖夢の隣に腰をおろしている。


「魂魄さんの半霊が突撃してこなかったら上半身と下半身に分離していたかもしれないですねー。……あの、恭ちゃんって誰の事ですか?」


「貴方、下の名前は恭夜でしょう? だから恭ちゃん」

ぱぁっと凄く嬉しそうな笑顔である。


「は、はぁ。西行寺さんの好きに呼んでもらっていいですけど、その呼ばれ方はちょっと照れちゃいますね」

美人さんの笑顔と親しみを込めた呼び方に照れ、照れ隠しに頭を軽く掻いていた。


「相手に対する呼び方も仲良くなる為に大事よ? だから貴方も私を西行寺さん、なんて呼ばないで幽々子って呼んでね」


「え、でもいきなり西行寺さんの事を名前で呼び捨てには……」


「幽々子」


「あの、西行寺さん?」


「幽々子」


「で、ですから西行寺さ……」


「ゆーゆーこー!」

ぷくーっと可愛らしく頬を膨らませ、名前で呼べと自身の名を連呼している。


「ゆ、幽々子さん……」

目を逸らしながら名前をぼそりと呟いていた。


異変の時に苛烈で凛々しく美しく恐ろしい姿を見ている為、現在のほわほわした可愛らしさとのギャップにやられかけている。



「それじゃあ、私の事はゆかりんって呼んでね」

唐突にスキマから現れ、背中から前に手を回しぎゅーっと強く抱きついてきた。


「紫さん、藍さんは?」

ここが紫の家だと理解しているから無視して尋ねている。


「藍ならお昼の準備をしてるわ。はい、これレミリアからの手紙」

抱きつくのをやめてから手紙を手渡し、そのまま幽々子の隣に行ってしまった。


「お嬢様からの手紙……」

急いで封を開けて中を確認し始めた。


『恭夜へ。貴方のスキルアップの為、八雲紫に今日と明日の二日間だけ仕えなさい。その間に最近貴方が部屋にいる時に感じる視線の主も探しておくから。それじゃあ、がんばりなさいね』


「……七夜月恭夜、粉骨砕身の覚悟で八雲紫様に仕えさせていただきます」

手紙を読み終えて紫の前に行き、主にするように跪いて二日間限定の忠誠を誓っている。


「……何かしら、背筋がゾクゾクするわね。ふふふ、まずは私の肩を揉みなさい」

名前に様をつけられた事で妙な興奮を覚え、紫は期間限定の従者相手に調子に乗り始めていた。


「はい、我が主」

いつも咲夜や美鈴にするように、紫の後ろに回り肩を揉み始めた。


「あ、紫いいなー」

その隣で幽々子が指をくわえて見ており、何かを期待するような目で紫を見ている。


「な、にこれ……すご……」

凝った肩を少しずつ程よい力でほぐしていき、そこに暖かな人間の気が送られて血行を良くしていく。


冬の暇な時期にパチュリーに頼んでマッサージの本を借り、美鈴に協力してもらってかなり上手くなっている。

その時に簡単な気の使い方も習ったようで、マッサージの時にだけ有効に使うようになっていた。

ちなみに常連さんは咲夜、美鈴、小悪魔の従者仲間達だけである。



「少し弱いですが気を使えるんですね」

気を送る為にぼんやりと光る手を見て、妖夢が関心したように呟いていた。


「……ん、もういいわ。ご苦労様、続きは夜にでも頼むわね」

軽くなった肩に乗せられている手に触れて労っている。


「わかりました。……?」

紫の肩から手を離して立ち上がろうとすると、袖をクイクイと軽く引っ張られた。


引っ張られた方に顔を向けると、にこにこした表情の幽々子が何かを期待するかのようにじーっと見つめてくる。



「あの、私で良ければ」


「はい、ダメー。してもらいたいなら幽々子もレミリアに頼んで恭夜を借りなさいな」

マッサージをしましょうか?という幽々子に対する提案を遮り、期間限定従者を自分だけで独占し始めた。


「もう、紫のケチー。私も肩凝って大変なのにー」


「ふふん、今は私の従者だもの。そうだ恭夜、一人称は俺にしなさい。私だと少し堅苦しいわ。それと口調もあの門番と話す時のようにしなさい」

様々な命令をして、自分好みの従者にカスタマイズしていく。


「わかりまし……わかったよ、紫さん」

まだ袖を掴まれていて立つことが出来ず、中腰のまま二人のやり取りを聞いている。



しばらく二人のやり取りを聞いていたが、延々と話がループしており中腰がいい加減キツくなってきている。

そこで妖夢に助けを求めようと目を向けると、サッと素早く目を逸らされてしまった。


「紫様、昼食の準備が出来たので恭夜を借りたいのですが」

ここぞとばかりに九本の尻尾を持った美しい女性が部屋に入ってきた。


「わかったわ。恭夜は藍に付いていって運ぶのを手伝いなさい」


「わかった」

また捕まったら敵わんと藍の元に素早く移動して、そのまま二人で部屋を出て屋敷の廊下を歩いていった。




部屋から少し離れ、廊下の角を曲がった瞬間いきなり藍に抱き寄せられていた。


「あぁ、やはりいい匂いがする」

背は恭夜のが高いから、そのまま胸元に顔を埋めてクンカクンカしている。


「えっと、汗くさいだけだと思うよ?」

クンカクンカする藍が離れないかなと思って聞いている。


普段ならば紳士の身だしなみとして香水を軽くつけているのだが、生憎切らしており今日は何もつけていなかった。

休みのはずだった明日に買いに行く予定だったらしい。



「いや、これがいいんだ。濃い雄の匂いが……」

後半は聞こえないように呟き、また匂いをクンカクンカし始めた。


藍は違う世界を体験したとか全く関係なく、異変の時に完全に心を奪われたらしい。

異変が解決した日の夜に主従揃って追体験したらしく、愛しさやら切なさやらが大変な事になって今に到る。



「俺も藍さんみたいな尻尾があったらなぁ」

モフモフがとても羨ましいらしく、そんな尻尾が欲しいらしい。


「私が恭夜の器を満たせばお揃いの尻尾が出てくるかもしれないな」


「器?」

聞き慣れぬ単語を出されて思わず聞き返している。


「いや、なんでもないんだ」

藍はまだ言うなと言われていたのを思い出し、気にしないでくれとようやく離れて軽く流した。


「う、うん」

そのまま先を歩いていく藍の後について行った。



二日目に続く。

咲夜さんは恭夜視点から見ると高嶺の花。

八雲の二人はそれぞれが辿った結末の世界を追体験。

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