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色々やっていたようです

あれから数週間が経ち、秋も終わりに近づいて季節はすっかり冬になり始めていた。

弾幕は張れないが空を飛ぶことは可能になっており、高い場所の掃除も一人でこなす事が可能になっている。

そんな訳で高い場所を黙々と楽しそうに掃除していると、下で誰かが見ているのに気がついた。


「これはお久しぶりでございます、霊夢様」

巫女服と言っていいのかわからないが、紅白の服を着た少女の前に降りて恭しく礼をしている。


「あー、もう咲夜みたいに霊夢って呼び捨てでいいってば。あの日、恭夜さんが提案してくれたからこうやってご飯も食べに来れるんだし」


「いえ、霊夢様はお嬢様のお客様ですから。今案内の者を呼びますので」

里や外で会う時以外はお客様だからと失礼のないように接しており、様付けを決してやめようとしない。


ベルを鳴らして案内の者を呼ぶ恭夜の背中を見て、霊夢は紅い霧の異変に関する事を少しだけ思い出していた。

異変での恭夜は地下で負傷した妖精メイド達の治療をしていたらしく、出会ったのはレミリアとの弾幕ごっこの決着がついた後だが服が少し焦げていたのが印象的だった。

里の責任者に今から何日後の何時頃から異変が起きる事を内密に伝える為の文を送り、里の被害を押さえたのも目の前の男だったと知ったのは異変解決後。



「……だけど飛べるようになるとは思ってなかったわ」

飛びながら掃除している姿を見て、内心驚いていたらしい。


「霊夢様、この者にお嬢様の元まで案内させますのでご安心ください。それでは私はこれで」

妖精メイドにレミリアの元に案内するように指示を出し、一礼するとどこかに行ってしまった。


「相変わらず忙しいのね。それじゃあ貴女、案内を頼むわ」




妖精メイドに案内されて辿り着いた部屋の扉をノックして、中の人物のどうぞ、という声を聞いてから部屋の中に入った。

優雅に紅茶を楽しんでいたレミリアが霊夢の姿を見て目を丸くしている。


「あら、霊夢じゃない。……あー、成程。何かやらかさないか監視する名目でご飯を食べに来たのね」


「ええ、そうよ」

椅子に座るといつのまにか紅茶が用意され、お茶菓子まで出てきていた。


「そう堂々とされると嫌味を言う気にもなれないわ……。それより恭夜はどうだった? 空を飛べるようになって、外壁の掃除も出来るって嬉々として働いてくれてるのよ」


「私を様付けで呼ぶのをやめるように言ってもらいたいわ。そうね、悪戯する妖精を撃退するくらいの弾幕なら張れるんじゃない? 私は弾幕ごっこには向いていませんからって言ってたけど」

クッキーを手に取りながらレミリアにそう答えている。


「恭夜ったら妖精メイドを指揮して弾幕を張っているのに何を言っているのかしら。スペルカードはないから確かに決め手には欠けるけど、あの数の妖精メイドを使う指揮能力は見事なものよ。あ、それとフランに関して不思議な事もあるの」


「フランってレミリアの妹の? 魔理沙が何か色々言ってたけど」

霊夢はレミリアの妹に関してあまり興味がなかったからか、詳しくは聞かなかったようだ。


「ええ。フランドール・スカーレット、私の妹よ。事情があって地下に幽閉していたんだけど、私が異変を起こした次の日から様子が少しおかしくて……」


「ふーん」

とりあえず相づちを打ち、ながら話を聞いている。


「前みたいに無闇に何でも破壊しないし、精神的にも落ち着いているし、それに何故か恭夜の事をサマナーって呼ぶのよね。自身の能力もある程度コントロール出来て、初対面のはずの恭夜に物凄く懐いているし。『……世界…………絶対……離さな……』って意味深な事を呟いていたのも気になっているわ」

恭夜はそんな主の妹に懐かれ、どう対応するべきなのか困っていたりする。


「全部良い方向に向いてるし、気にしなくてもいいんじゃない? いっその事、恭夜さんを貴女の妹の専属従者にしてしまうとか」


「それはダメね。未来の事を考えると、咲夜と離れさせる訳にはいかないのよ」


「どうして? 恭夜さんは能力ないけど空を飛べるし、妖精への指示出しが出来るから咲夜の負担も減った〜とか言ってたじゃない」

何で二人を離さないのかわからず小首を傾げていた。


「咲夜と恭夜が人間だから出来るだけ一緒にしているのよ。今のように働けるのもきっと残り四十年くらいしかないわ。だから私は毎日考えに考えて閃いたのよ、年を取るのなら取らせちゃえばいいさって。そしてそんな二人に子作りをさせて、その子供達を二人の後継者にさせればいいんだってね。男なら十六夜、女なら七夜月って今回とは男女逆の名字にするのも考えてるわ」

そう言うと完璧な作戦でしょ?って顔で霊夢を見て、渾身のどや顔を決めていた。


「それって互いに好きあってなかったら破綻する計画じゃないの」

そんな感情を二人が互いに向けあっているのを見た事がなく、計画の隙を突くように指摘している。


「やれやれ、博麗の巫女は私の能力を忘れたのかしら? 運命を操るくらいわけないわ」

これだから寒くなってきたのに腋を出している巫女は、と呟き溜め息を吐いていた。


「……でも恭夜さんには能力が効かないとか泣き言を溢してなかった?」

そんなレミリアの言葉にイラッとしていたがスルーしている。


「そんなの咲夜の運命を操ればいいだけの話よ。……まぁ、私が何もしなくても咲夜の片想いになりつつあるんだけど」


「へぇ」


「でも咲夜以外に他にも何人か……恭夜はいつかきっと刺されるわね。本人がその手の事にネガティブ過ぎるのもいただけないわ」

本当に困っているようで、軽く目を閉じて溜め息を吐いていた。


「……ふぅ。で、誰に刺されるって言うのよ」

紅茶を飲んで口の中を潤し、続きを促している。


「パチェ、かしらね。瞳の奥に闇が見える時があるのよ……。しかも最近図書館にあまり居ないし、気づかれないように魔法を使って恭夜に付いて回ってるし。恭夜の部屋の鍵を複製してるのを見ちゃった時は思わず見なかった事にした」

見たことがない類の笑みを浮かべる親友が凄く怖かったのを思い出し、落ち着こうとして持ったティーカップが震えている。


「流石に楽園の素敵な巫女である私でもそれは引くわ。魔理沙が『なんだか知らんが、パチュリーが居ないから本借り放題だぜ!』とか言ってたけど」

パチュリーの行動が予想以上に重く、霊夢はドン引きしていた。


「実はそれ、魔理沙にワザと本を持っていかせてるのよ。それを恭夜が取り返しに行って、取り戻した本を図書館に持って来て必ず会えるからって」

それを嬉々として語るパチュリーに引くも、親友だからと生暖かい目で見守る事にしている。


「……命に危険が迫ったら解雇してでも人里に逃がしてあげなさいよ」


「そうね……」




紅魔館のトップと博麗の巫女が話し合っている間、渦中の人物は地下に馳せ参じていた。

鳴らされた鈴の音の元に疾駆する姿は、通常の人間の身体能力を軽く凌駕している。

厳重に閉じられた扉の前に着き、その扉の両脇に立つ見張りのメイド二人に挨拶をし、しっかりと手順を踏んでから中に入っていった。


「あ、来た来た。サマナー、今日も思い出すか試すからね」

ベッドの上に立ち腰に手をあてた金色の髪をした幼女がそんな事を呟いている。


「フランドール様」


「いいから早く来なさい。……いい子ね、素直な子は好きよ。貴方の本当の名前は間違いなく鉄恭司、こことは違う世界の幻想郷に居たのよ」

ベッドの前の椅子に腰かけるよう促し、それから衝撃的な事を言い出した。


「……そう言われましても、全く覚えがないです。今の私は七夜月恭夜、紅魔館の主に仕えるただの従者です」

本当の名前と言われても何も心に引っ掛からず、その名前で呼ばれても違和感しかなくなっている。


「記憶は完全になし、美鈴と話してる時のサマナーは夢で見た世界のサマナーと一緒……ね」

ベッドから降り、べたべたと身体を触りながら呟いていた。


とある日に楽しい生活を送る長い長い夢を見たフラン。

そんな楽しい夢から目を覚ますと、心に巣食っていたはずの狂気が夢の中のように綺麗に払拭されていた。

楽しかった記憶も継承しており、現実とのギャップがとても辛かったと思われる。

地下の部屋に幽閉されている間は大人しくしており、あの人間が現実にもいればいいのにと毎日嘆きながら過ごしていたらしい。

レミリアが異変を起こした日まで幽閉されていて、夢の人物とそっくりな恭夜の存在は知らなかったようだ。



「フランドール様、一体何を……」


「二人きりの時はフランって呼び捨てにして、堅苦しい言葉はやめて。私が許すし、この事はお姉様にも話しておくわ」

所属が紅魔館になるとこうも変わってしまうのかと心で嘆きながら、夢の中のように振る舞ってほしいので従者に厳しい要求を突きつけている。


「ですがフランドール様、流石にそれは」



「お願い、これからずっといい子になるからぁ……」

正面からぎゅっと抱きつき、潤んだ紅い瞳で見上げながら弱々しい声で懇願していた。


「う……」


「恭夜ぁ……」

今まで呼ばれなかった名前で呼ばれ、ポロっと涙が流れるのを見てしまった。


「……ああ、もう! わかりました、わかりましたから泣かないでください」

流石に恭夜も折れたようで、ポケットからハンカチを取り出して流れた涙を優しく拭っている。


「……うふふ」

上手く事が運び、恭夜に見えないように悪い顔で笑っていた。


「あ、あー……ふ、フラン」

若干声が上擦っているが約束通りに呼び捨てにしている。


「あ……うん!」

夢でのように呼び捨てにされて嬉しくなり、より強く抱きついた。


「フランは本当に甘えん坊だな。……甘えん坊?」

身体が勝手に動き、フランの頭を撫でながら呟いた言葉に疑問を持っている。


「やっぱりあれはただの夢じゃない……。」

あれは夢ではなく極めて近く、限りなく遠い世界で本当にあった出来事で、その世界の自分の視点で追体験をしていたのだとフランは心で理解した。


「……まぁ、いいか。プライベートの言葉遣いのがしっくりくるから不思議」

完全に開き直ったようで、普通に話ながら頭を撫で続けている。


ただ強い力で抱きつかれ続けているわけで、骨がミシミシと軋む音と痛みが襲いかかっていた。




そんなフランとの出来事から数時間が経ち、現在恭夜は図書館で司書の仕事の手伝いをしている。

空を飛びながら天井付近の本を整理していると、誰かが下の方を歩いているのに気がついた。

よく見てみると箒を手にした魔法使いがキョロキョロしながら本を何冊か抜き出している。


「魔理沙」

呆れながらも背後に音も立てずに降りて声をかけた。


「ヒッ! ……って何だ恭夜か。びっくりさせるんじゃないぜ」

ビクッ!と身体を震わせ、恐る恐る振り返りホッとしている。


「もう敬語もいらないと判断させてもらった。懲りずにまたパチュリー様の本を盗もうとしてるのかお前は」

小悪魔にプレゼントされた滑らかな手触りのよくわからない生き物の革で作られた手帳を開き、持っていかれた本目録をチェックしながら指摘した。


「盗むなんてとんでもない! 死ぬまで借りているだけだぜ。それにお前が取り返しに来るから、使わない本を返す手間が省けていいんだけどな」


「代わりにキノコ狩りやら家の掃除を押し付けてくるのはどうかと思うがな」

魔理沙が手にしている本のタイトルを新たに手帳に書き込み、溜め息を吐きながら手帳を閉じてしまっている。


「それは私が返す準備をする為の手間賃だぜ」


「そんな、世界の中心は私なんだぜ?みたいな顔で言われても困ります……っとパチュリー様、騒いでしまって申し訳ありません。今すぐにこの魔法使いを連れていきますので」

いつのまにか本棚の陰からこちらをジーッと覗くパチュリーを発見し、騒いだ事を謝りながら魔理沙を小脇に抱えた。


「こ、こら! 私はまだ探してる本があるんだって!」


「……」

パチュリーは何かをぶつぶつと呟いているが、魔理沙が騒いでいるから聞き取れない。


「し、失礼します」

いつかのように騒いだせいで魔法を使われる事を恐れ、魔理沙を抱えたまま静かに素早く出入り口まで駆けて行った。




玄関ホールまで止まらずに走り抜け、魔理沙を降ろして箒を手渡している。


「後でパチュリー様に謝る時、これも全て霧雨魔理沙が悪いんですって言っておくからな」


「それくらいで済むなら幾らでも私のせいにしてもらって構わないぜ! それじゃあ……あばよ!」

そう言って箒に跨がると、開いた扉から外に向かって飛び出していく。


「……はぁ、気が重い。パチュリー様に拘束されて変な薬を飲まされませんように」

魔理沙を見送ってから図書館に向かっているが、足取りはやたら重かった。

ひっそりと更新、タイトル未だに思いつかず。


この作品の七夜月さんは絶賛放置中の正史な世界の彼ではなく、派生したどこかの世界の彼です。

記憶は戻すにしても、ほんの一部だけしか戻さないのは確定しております。


それと各勢力毎に何人かはフランちゃん的な感じになる予定。

前作を見てくれていた方々へのファンサービスと、面倒な仲良くなるフラグやらを簡単に済ませられる一石二鳥作戦とも言うけど。


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