特別編 色々際どいライン
「とりあえず汝は一度モゲた方がいい」
「『てーとくぅー!』なんて言われて抱きつかれたりしている姿を見て、私は驚きました。しかもあんなにデレデレして」
「……ド変態」
魔導書三人娘はそれぞれそんな事を言いながら恭夜を囲んで座っている。
「それはお前達が俺があの世界でどれだけ苦労したか分からないから言えるんだわ。てかルルイエ異本、ド変態ってなんだよ」
今回も例に漏れず異世界にご招待されたらしく、疲れた表情で呟いていた。
「うむ、恭夜から聞いた話だと確か……」
「到着と同時に何故か海へダイブ。私達は覚えていませんが、私達が強制的に魔導書の状態に戻されいずこかに流されたと」
「そうだよ。謎の耐水加工されてたみたいでよかったけど。アルとエセルは何かいつのまにか水没したのか居なくなってるし、ルルイエ異本は肌が凄い白い小さな女の子が嬉しそうに持っていっちゃうし……」
色々と大変だったらしく、思い出すだけで少し泣きそうだった。
「色々あって最初に見つけて回収できたのがルルイエ異本だったわけだな」
「変な女の子に襲われるわ、味方のはずの深きものどもにも襲われるわ……なんやかんやあって妙な場所で提督とか呼ばれながら、個人でお前達の捜索してたんだからな」
人手が足りないらしく、成り行きで指揮を取ったのが原因だったりする。
「更に聞いた話だと汝は話を聞く気のある敵には口先だけで丸め込み、味方に引き入れていたとか」
「それはよくやった。そして引き入れるのに成功する度にみんなからナンパ師扱いされるわで……まぁ、そのお陰でルルイエ異本は返ってきたんだけどな」
アル達を見ていないか聞く意味も兼ねていたらしく、話をして引き抜けそうな者は出来るだけ引き抜いていた。
「最後は別れたくないとワガママを言われた汝が来たい者を募って、結局全員こちらに連れてくる事になっていたな。八雲紫にグチグチ言われていたが」
「HEY! ていと……むぐ!」
「悪い、この世界だとお前はオフィシャル的な時には出たら不味いんだ」
急に入ってきた少女の口を塞ぎ、恭夜と少女はそのまま外に出ていってしまった。
「また訳の分からない事を言って連れ出したな」
「長い間一緒に居たみたいだし、マスターも情が移ったのよ」
『んん! ぷはっ……もー。触ってもいいけどさー、時間と場所をわきまえなヨー』
『色々言いたいけどまだ喋っちゃダメだってば』
そんなやり取りが玄関の方から聞こえてくる。
『あっ! 皆さん、やはりこちらに来ていましたよ。勝手は榛……むぐっ!』
『お前もダメだってば……ちょっ、手のひらを舐めるんじゃない!』
………
……
…
「久しいな、七夜月恭夜……いや、弟よ」
「久しいわね、こっちの私」
「チャイムも声も掛けずに入ってくるなよ……しかも弟ってなんだよテリオン」
「マナーがなってないわよ、そっちの私」
暇でゴロゴロしていた恭夜と家計簿をつけていたエセルドレーダが出迎えていた。
「私達は玄関前で掃除をしていた者に声をかけて入ってきたわ」
「嫁だ妻だと騒いでいたな。最初は警戒していたが、余が七夜月恭夜の兄だと名乗ったら疑いもなく通れたが」
「あいつら、髪の色も容姿も全く似てないのに通すのかよ……」
「嬉しそうに餅を持った白い娘が余にも分けてくれたが」
「よかったな。それよりも急に訪ねてきてどうした? 色んな世界で食べ歩きしてたんじゃ?」
ちょくちょく土産を貰ったりしているが、大体一年に一度春頃に来るのがお馴染みだったりする。
「余のエセルドレーダが弟の野菜料理を食べたいと言い出したからな。それで余も久しぶりに食べたくなった」
「いつまで弟扱いなんだよ……」
「一生よ。そっちの私は私より年下だから私の妹。だからそっちの私のマスターである貴方は、私のマスターの義理の弟になるわ」
めちゃくちゃなとんでも理論を言い出していた。
「ページが幾つか抜けてるのかな?」
「さぁ、弟よ。余の事はお兄ちゃんと呼ぶがいい」
「こっちは魔力が足りないのかな?」
「「さぁ!」」
「に、兄さんで勘弁してくだしあ……」
真顔のままの二人にズイッ!と詰め寄られてビビり屈していた。
「弟よ」
「に、兄さん」
「……弟よ!」
「……兄さん!」
「うむ、大の男二人がほんのり頬を朱色に染めて言い合う姿は本当に気色悪く気持ち悪いな。無駄に容姿がいいのも問題がある」
離れて見ていたアルは本音を漏らしている。
そのまま荒ぶる巨大生物が跋扈して人類が危機を迎えている世界にエセルドレーダ×2とそのマスターズが向かっていた。
二機のリベル・レギスでの合体技の練習の為に数多の巨大生物達が生け贄になっており、その影響で徐々に世界が平和になっている。
『『ハイパーボリアァァァ!!』』
『『ゼロドライブ!!』』
二体のリベル・レギスの絶対零度の手刀が巨大生物の身体をXに切り裂き、そのまま昇華して消え去っていく。
見える範囲で居なくなったのを確認すると二体は空中で止まり、そのまま忽然と姿を消している。
そして再び恭夜邸。
「聖弓ウィリアム・テルの使い方がアレね。これはもうアレしかありませんね、マスター」
「そうだな、アレだ……仕方がない。余がこれからしばらくアドバイスをして、立派な弟にしてやろう」
「もう正直に資金が尽きたんでしばらく居候させてくださいって言えよ。一ヶ月俺の手伝いをしてくれたら一年分の旅費代わりの金塊とか渡すから」
恭夜が神々からふんだくっているらしく、金銀や宝石の原石等が屋敷には物凄い量保管されている。
「「よろしくお願いします」」
色々と世話を焼かれて完全に恭夜に頭が上がらず、キャラ崩壊もなんのそので二人していい角度で頭を下げている。
「この姿を見ると、元は簡単に世界征服が出来そうな組織の頭だったとは思えないよなぁ……」
………
……
…
「紫から俺達だけでもう一つ里を作れって言われて半年も経ったでござる」
「結構離れた場所にすぐに作った汝もアレだが」
「あの世界の基地的な建物も全部そのまま持ってきたから、それを基盤に里作りして色々大変だったけど」
「里を作れと言われたから様々な種族が暮らせる里を作ったと言った時の八雲紫の顔……鳩がマシンガンを撃たれたかのような顔をしていましたね」
最近妙に広くなった感がある幻想郷、その人里からかなり離れており空を飛べない者は行き来に一日はかかる。
「凄い文句言ってた癖に、こっちの里に入り浸ってるんだよなぁ……」
家等は鬼械神で全て移しており、一応壁も作って出入り口は東西南北の門を使うようにしている。
「楽しそうにカレーを食べていたな」
「更にドクターウェストが適当に建てた家に普通に住んでた時は鼻水出たわ。表札に西ってあったから、西さんだと思ってたから余計になー」
「寧ろご近所付き合いを普通にしていた事に妾は驚きだったが」
一般人と呼べる存在は一人も居ない里らしい。
「そのお隣さんは何かカプセルに入った幼女と共に俺の真上に落ちてきた、何か凄い色っぽい女性だったな。病気みたいだったから二人とも永琳のとこに連れていって正解だったわ」
そして無事に二人とも治ったらしく、退院後は挨拶とお礼をしに来ていた。
「確か逆のお隣さんも濃かったはずだな」
「金髪オールバックと茶髪天パの二人組な……ぶっちゃけ違う世界で共に戦った見知った顔の見知らぬ人達で、あのテキーン!てなるあれなんだけどさ」
こちらの里の中限定で河童の技術を流入しており、整備や統率をするのにその二人は動いてくれている。
「謎の強制力で深く踏み込めないのが恐ろしいな」
「それにあいつらがいつまでも俺を提督と呼ぶせいで、住んでる人達からも提督と呼ばれるようになって困る……」
それがこの里の長の呼び方なのだろうと皆が思っており、里を歩くとそう呼ばれてしまう。
「あの謎の大爆発と共に現れて、バラバラになった鉄の塊から弾き出されて落ちてきた少女も今じゃすっかり元気になっているな」
「当初はこちら側に来た時の事と二度と帰れない事を知って、精神的に追い詰められてて見ていられないくらいだったもんなぁ……。今じゃ間宮……じゃなかった食事処で笑顔で働くくらい元気になって」
「汝があやつらに任せたからだろうな」
「任せてよかったわ。いつのまにか里で店を構えてた銀髪で赤いコートを着てる外人も食事処の常連みたいだしなぁ……ピザとストロベリーサンデーばっか食べてるらしいけど」
「汝も人の事は言えないがな。毎度外食すると鯖の味噌煮定食に日本酒、デザートにあんみつではないか。しかもあまりに頼みすぎて提督セットという名で定番のメニュー入りしていたぞ」
未成年の者が頼むと酒がジュースに変わるらしい。
「だって美味いんだもの。その鯖に関しては里に作った不思議な池から釣れるし」
普通に池を作ったはずが様々な魚が釣れる池になっていて、日替わりで海と川の魚が釣れる仕様。
「……もう何でもありすぎて流石の妾でも何も言えなくなる」
「幻想郷は何でも受け入れるからね、仕方ないね」
「そうね、仕方ないわね。とりあえず後で十発くらい殴るけど」
スキマからニコニコ顔の紫が現れ物騒な事を言っている。
「何でだよ!」
「好き勝手しすぎなのよ!」
「相談したら『キャー! 海の幸がたくさん食べられるわー! 恭夜大好きー!』って歓喜の声を上げてたのは誰だよ!」
「ゆ、幽々子……」
「お前だよ!」
目を泳がせながら責任転嫁をしようとする紫を指差していた。
「だ、大体こっちの里はなんなの!? 普通の人間が一人もいないじゃないの!」
「みんな一般人だよ?」
自分も含めて一般人だと信じて疑っていない。
「……一般人とはどういう意味ですか?」
「一般人という意味です」
シレッとした顔で即答している。
「そ……そんなわけないでしょー!?」
「うっせー!」
「なっ……バーカ! バーカ! 大きなおっぱいが大好きだって言いふらしてやるー!」
「やめろォ!! あいつらの一部が暴走して巻き込まれて大変な事になるだるォ!」
そう言って逃げ出そうとする紫に必死になって抱きつき、逃げられないようにしている。
二人とも長く生きているからなのか最近では小学生の喧嘩みたいになる事が多く、それを少し楽しんでいる節があった。
「精神年齢が私より年上になったのに子供みたいな事を……!」
「なら年上の言う事は聞こうな……!」
恭夜は肉体年齢が止まる様々な他所の世界で既に四桁年以上過ごしており、精神年齢だけなら幻想郷でも上の方になっている。
「あの二人はいつもいつも飽きないでよくやる」
アルは部屋に設置された今晩の晩御飯用の水槽にいる伊勢海老を見ながら呟いていた。
おいでよ!七夜月の里
ギリセーフなラインと思われる所を果敢に攻めていくスタイル。