何か恨みでもありました?
ちょっと、ループに挑戦してみました。
本当は、長編でと思うのですが、そこまでの気力は、もうないのです。
第二王子殿下が事務室に怒鳴り込んだ時、わざわざ事務長が出迎えた。
側近たちと共に勢いよく要件を告げる声を静かに聞き、頷いたその平民の事務長は、件の女子生徒から言伝を頼まれたと申し出た。
きれいな別れの言葉を予想し、いや、こんな別れは許さないと先走る一同に、男の平坦な声が告げる。
「私がどのような粗相をしたのかは知りませんが、もう小目汚しすることはありませんので、どうか他の特待生まで巻き込まないでください、だそうです」
唖然とした王子に、事務長は微笑んで首を傾げた。
「私も、この機会にお尋ねしたいのですが。あの女子生徒に、何か恨みでもありましたか?」
そんなはずはない。
側近たちも王子も、愕然として首を振ったのだった。
「いや、しかしですね、あなた方の行動はどうしても、彼女の死活問題にまで及ぶものでした。恨んでいなければ、あそこまで徹底した妨害は、行わないでしょう」
事務長の言葉は、あくまでもやんわりとしている。
だから、三人の側近を控えさせている王子は、強気で否定した。
「妨害したのは、他の誰かだろうっ。恐らくは、私の婚約者たちだ」
「いやいや、報告は上がっていますよ。学費確保の妨害をしていることは、この学園でも有名でございました」
「は?」
そんなこと、した覚えはない。
そう主張する生徒たちに、事務長は溜息を吐いて見せた。
「特待生は、他の平民たちとは違い、学費の半分ほどは国から支給されます。これは、特待生の多くが孤児で、将来有望な者が家族がいないことを理由に、学問を受けられないという悲劇を生まないためです」
残りは、あくまでも借金だった。
「なっ」
この学園は、平民であってもバイトは禁止されている。
返済の機会がない特待生は、別な方法で相殺できるような仕組みになっていた。
「学業の合間と放課後に、教師や学園内の周りへの奉仕を、義務付けられているのです」
そう、あくまでも、教師とそのほか、だ。
「王子殿下のご機嫌取りは、その条件には当てはまりません」
「……」
「あの生徒は、再三申し上げていたはずです。きちんと理由も告げて、あなた方の誘いを断っていたはずです。なのに、先月からは、授業終了と共に教室の出入り口をふさいで、待ち伏せしていたそうですね?」
これでは、休み時間だけでもと考えていた女子生徒が、諦めるのは仕方がなかった。
「彼女は、他の学校へと編入することになりました」
平民だけの、普通の学校だ。
そこならば、バイトも許可しているし、何よりも貴族とのかかわりもない。
「今後、このようなことをされるようでしたら、貴族が通う学園とはいえ、秩序を乱す王家の方がいては、示しがつきませんので、城に教師でもお呼びしてはどうかと進言すると、会議で決まりましたので、そのおつもりで」
衝撃を受けたままの生徒たちを、笑顔のままで廊下に追い出し、事務長は盛大に鼻を鳴らしてしまった。
最初から、こうすればよかったのかと、今までの苦労を思って呟いてしまった。
一度目の人生は、女子生徒からの真剣な相談を真に受けず、結果国が亡びるまでに事は大きくなってしまった。
何度も同じ人生を辿っていると訴えた女子生徒は、第二王子に付きまとわれ、勝手に相思相愛と決めつけられ、最後は王族を誑かした罪で処刑されてしまった。
第二王子の方は、断種された上で国外へ捨てられたのだが、国外の修道院の修道女に懸想し、狼藉を働いたうえに死なせてしまったことで、その国との間に亀裂が入ってしまった。
第二王子の元婚約者が、修道女の兄と婚姻することでその場は防いだが、修道女が第二王子の魔の手に堕ちる前、止めに入った神父が王子の手にかかってしまったことが、この地の人間たち全ての運命を、破滅へと導いてしまうことになった。
前の人生で、女子生徒、元婚約者、修道女がそれぞれ、何度も国を守ろうと努力していたのを、身近にいた事務長、修道女の兄、神父は彼女たちの告白で知った。
女たちはもう変えられないと、完全に諦めていた前の人生で、彼らは訴えを軽く受け流していた自分を責めた。
そして、神に祈ったのだ。
真っ白な毛綿を持つ、赤い瞳のこの地の守護神に。
すると、それぞれが命の灯火を消した瞬間、数年前に巻き戻った。
事務長は、自分が事務長へと昇進した年だった。
修道女の兄も神父も、同じ頃だったと後に聞いた。
そして、今回の人生では、女子生徒も、王子の元婚約者も、修道女も、前回以前の記憶はないようだった。
ならば、自分たちで起こる可能性のあることは、全て阻止しよう。
そう決めた。
結果。
第二王子はこの後、忠告していたにもかかわらず、他の特待生にも近づいたため、王室に進言した。
その時、大袈裟な話にしたのが良かったのか、第二王子は断種とパイプカットを施され、不毛の大地にに追放された。
やりすぎじゃね? 王家?
と思ったら、王室の国王陛下も王太子殿下も、ついでにその配下の宰相も、自分たちと同じように前回の記憶があったらしい。
「……前回までは、王妃殿下と王太子妃が、記憶を所持していたのだ」
いや、多過ぎね?
はい、これも、うちのキャラがらみです。
でも、楽しんでいただければ、嬉しいです。
話の経緯
元養い子が書いた物語を読み、女が不憫な最期を遂げるのを、変えたいと願う兎一匹→女子生徒に記憶を残したまま、ループ→ほぼ変わらず→プラス王子の婚約者の記憶を残す→全く変わらず→プラス修道女の……以下同文→何故か、全く変わらず、ブチ切れ→やけくそに女たちは記憶を戻さず、男全員の記憶を残してループ→成功……何故だ?




