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魔天道  作者: 外野透哉
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第二十五話 やるぜ筋トレ!

ー前回のあらすじ

 援護部隊副隊長、うら 真也しんやに、護衛部隊の役割を教わった。

 そして犬飼 魔虎は、イケメンで強い一ノ瀬 千弥に嫉妬していた…

 まだ空が白みきる前、寮の自室は静寂が支配していた。


 ベッドに横たわる魔虎の意識は、深い眠りの底に沈んでいる。


「――虎」


「魔虎」


 低く、しかし確実に耳に届く声。


 次の瞬間、魔虎の両目が一気に開いた。


「修行だろ?」


 鬼灯は一瞬、言葉を失った。


「なんで分かった!?」


 魔虎は枕元の時計に視線を投げる。


「見ろよ。6時だぞ。お前がこんな早ぇ時間に起こす時は、だいたいそれだろ」


 鬼灯の肩が露骨に落ちる。


――読み切られた……


「はぁ……行くぞ」


 魔虎はそう言ってベッドから起き上がり、慣れた手つきで動きやすい服に着替える。



 寮を出てから、校内をひたすら歩く。


 視界いっぱいに広がる平原エリアは、朝靄に包まれていた。


「本当、広すぎだろ……なんで校内移動に3キロも歩かなきゃいけねぇんだよ」


「全長約6キロあるからな」


 鬼灯は平然と返す。


「さて、早速始めるぞ」


「待て待て。今日は何すりゃいい」


「あれだよ」


「どれだよ!」


 鬼灯は少しだけ真面目な表情になる。


「これから先、今以上の強敵と戦う可能性が高い。だから新技習得より、まずは基礎体力の底上げだ」


 嫌な予感が、魔虎の背筋を走る。


「最初は腕立て伏せ1000回。次に腹筋1200回。2分休憩を挟んでスクワット1000回」


 魔虎が口を開く前に、鬼灯は続けた。


「もちろん回数をこなすだけじゃ意味がない。一回一回、しっかり負荷をかけろ」


 そして、追い打ち。


「5分休憩のあと、校内ランニング3周だ」


 魔虎の顔から血の気が引く。


「……スクワット1000回の後に、約18キロ走れって?」


「そうだ」


 鬼灯は胸を張る。


「俺とお前は一心同体。お前の身体を見て判断した。これがギリギリだ」


「いやいや、ギリギリどころか限界超えてるだろ!」


「自覚がないだけだ。お前ならできる」


「ほんとかよ……」


「授業開始は9時20分。寮と学校は隣だが、ここまで来るのに30分。往復で1時間」


 鬼灯は淡々と計算する。


「帰りは疲労を考慮して40分。つまり、8時40分までに全部終わらせろ」


 魔虎の喉が鳴る。


「今は6時40分。制限時間は2時間だ」


 絶望が、はっきりと形を持った。


「……2時間……」


「こうしてる間にも時間は過ぎてるぞ?」


 魔虎は歯を食いしばる。


「やってやる!やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」


――――――――――


 地面に手をつき、腕立て伏せが始まる。


「うりゃあぁー!!」


 呼吸を荒げながら、身体を上下させる。


 500回。


「うぅぅりゃぁー!」


 腕が震え始める。


 900回。


「どうだあぁぁ!!」


 1000回。


 鬼灯は間髪入れずに言う。


「はい次、腹筋」


「鬼!」


「うん」


――あ、鬼だったわ……


 鬼を前にしては「鬼!」というツッコミも無力だった。


「ふんっ!!」


 腹筋500回。


「ふんぬうぅっ!!」


 1000回。


「どりゃぁぁ!!!」


 1200回。


「2分休憩」


 魔虎はその場に倒れ込む。


「はぁ……はぁ……」


 短い休憩が、残酷なほど早く終わる。


「休憩終了。スクワット1000回」


「もう……?」


 立ち上がる脚が、すでに重い。


「しんどい……」


 500回。


「はぁ……はぁ……」


 900回。


「ラストスパートォ!!」


 1000回。


「おつかれ。5分休憩」


「疲れたぁ……」


 地面に仰向けになり、空を見上げる。


 だが、それも束の間だった。


「よし、ランニングだ」


「ちょ、ちょっと待て……」


「いいけど、残り時間は1時間10分だぞ」


「クソ!」


 走り出す。


 1周目。


「きちぃ……はぁ……!」


 半周を過ぎたあたりで、校舎の窓から視線を感じる。


 迅が腕を組んでこちらを見ていた。


「何やってんだ?あいつ」


 2周目。


「あと……2周……」


「がんばれー。あと40分だぞー」


「はぁ!?」


 魔虎は歯を食いしばり、ペースを上げる。


「うおぉぉ!!!」


 そして、最後の一周。


「間に合えー!!!」


 脚が限界を訴える中、意地だけで走り切る。


 18キロ、完走。


「よっっしゃぁぁー!!!!」


――おいおいマジかよ……


 鬼灯の目が、驚きに見開かれる。


――ほんとにやりやがった……!!


――こいつは化けるな……


「お疲れ」


「もう……立てねぇ……」


「早く戻らないと遅れるぞ」


「しんど……すぎる……」


――――――――――


 学校へ戻ると、迅が声をかけてくる。


「窓から見てたけど、めっちゃ走ってなかったか!?」


「あぁ……契約者アグラーは筋肉疲労くらいすぐ治るらしくてな」


 魔虎は力なく笑う。


「週一でやるってよ……」


「マジかよ……」


――――――――――


 それから三週間。


 地獄のような修行の日々の中、援護部隊から一本の連絡が入る。


 熊本県の山中に、魔戒出現。


 推定階級は最上戒。


 加えて、上戒二体、中戒一体。


 出動メンバーの名が告げられる。


 犬飼 魔虎。


 梶 才牙。


 凩 摩稀。


 二階堂 千智。


 斑目 瞬。


 催音 美穂。



 山に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


「……禍々しいな」


 魔虎は周囲を見渡す。


「ここが、アゾネ山」


「今回は先生が二人ついてる。大丈夫だ」


 瞬が言う。


「それ、完全にフラグにしか聞こえねぇんだが……」


 視線の先。

 強力な魔戒の気配が、確かにそこにあった。


 果たして、太刀打ちできるのか――


 戦いは、もう始まっている。

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