第二十四話 援護部隊の役割
ー前回のあらすじ
犬飼 魔虎、辛島 迅、水無瀬 雫は上戒の魔戒、伽藍髑髏に無事勝利した。
上戒に初勝利を収めてから一夜が明けた。
いつもと変わらない朝のチャイムが鳴り、教室にはざわついた空気が残っている。だがその視線の中心にいるのは、間違いなく魔虎たち三人だった。
「まずは犬飼くん、辛島くん、水無瀬さん、お疲れ様〜!!」
脩は教壇の前で大きく両手を広げ、やけに明るい声を張り上げる。
「信じてましたよ。勝つって」
「雫〜!頑張ったね!」
「ありがとう!」
教室のあちこちから声が飛び、拍手まで起こる。
――このノリきちぃ……
――あと疲労で全然入ってこねぇ……
魔虎は机に肘をつき、半目のまま前を見ていた。
「さ、それじゃあ授業に入ろっか!」
脩は空気を切り替えるように手を叩く。
「今日はスペシャルゲストが来てくれてるよっ!」
――スペシャルゲスト?
魔虎がわずかに顔を上げた、その瞬間。
「どうぞ!」
教室の扉が開く。
スーツ姿の男が一人、落ち着いた足取りで中へ入ってきた。年齢は脩より少し上に見える。
「初めまして。援護部隊副隊長、浦 真也です」
「副隊長!?」
一斉にどよめきが走る。
「援護部隊や医療部隊とかは戦闘部隊みたいに表に出るわけじゃないから、僕のことは知らないよね」
真也は穏やかな表情で教室を見渡す。
「今回はみんなに、援護部隊は何をするのかを知ってもらおうと思ってね!」
脩は笑顔でそう言った。
「援護部隊の主な目的は、当然サポート。指示を出したり、配置を決めたり。まあ、裏方だね」
真也は少し肩をすくめた。
「だからいつも『ただの指示役』とか『戦わず安全圏から見てる』とか揶揄されてる。けど、それでもいい」
その声に、冗談めいた軽さはない。
「僕らがなんと言われようと、みんなが生きて帰ってこられるならそれで」
真也の視線が、自然と後列の魔虎たちに向く。
「そのために僕たちがいる。"みんなを勝利に導く"。それが僕たち、援護部隊の仕事」
「おー!!!!」
教室が一気に沸いた。
「泣ける……泣けるぜ!」
「勉強になります」
拍手の中、真也は軽く照れたように笑う。
「あ、ちなみに、隊長はこの学校の副校長、西園寺 千洋さんだよ」
………
一瞬、教室の音が消えた。
「えーー!!?」
「そ、そうだったんだ……」
すると才牙がボソッと呟く。
「確かにあの能力は援護部隊向きか」
「ちなみに、戦闘部隊の隊長は誰か知ってる?」
真也は間を置いてから言った。
「ここの校長、峨門 秀明さんだ」
「またまたえーー!!?」
一度話したことがあった魔虎は、校長の圧倒的なオーラで、強いってことは察していた。
――確かに、あの威圧感は異常だった
――戦闘部隊隊長……そりゃ納得だ
「強いよ、あの人は」
ーーまぁ、そりゃそうだろうな
――――――――――
放課後。
魔虎は職員室前で足を止め、声をかけた。
「永瀬先生」
「ん?どうした?」
「結局一ノ瀬が契約者最強なんだよな?でも、先生の能力なら……とか思うんだけど、一ノ瀬と先生、どっちが強ぇの?」
脩は一瞬きょとんとした顔をしたあと、吹き出した。
「え?僕が一ノ瀬くんより?」
「ないない!そんなの!」
手を振って即答する。
「僕は彼には到底敵わない。だって、僕の能力は彼には効かないもん」
一瞬の沈黙。
「え?マジ?」
「マジ」
「本当は?」
「マジ」
「と見せかけての?」
「マジ」
「本当の本当は」
「マジ」
「………」
「マジなんだ」
「マジ」
「うん、だからマジって言ってんじゃん」
「ごめんごめん、もう一回くらい来ると思って構えてた!」
脩は腹を抱えて笑った。
「でも、なんで効かないんだ?」
「それは、一ノ瀬くんも僕と"ほぼ同じ領域に入れる"からなんだ」
脩の表情が少しだけ真剣になる。
「彼はベクトルとエネルギーの大きさもいじれる。だから、僕が光速で動いて相対的に時間を止めたとしても、一ノ瀬くんも自身の速度のベクトルと大きさをいじって、実質的に追いつけてしまう」
「じゃあ先生が先に発動すれば、一ノ瀬は発動する間もないんじゃねぇのか?」
「そもそも攻撃が当たらないんだ」
脩は淡々と続ける。
「戦闘になると、彼は反射のベクトル身体中に纏わせてる。そして、不意打ちだったとしても無理だろうね。勘が良すぎる。攻撃しようとしたら一瞬で感知して反射のベクトルを纏う」
「本当あいつチートじゃねぇか……」
「いや本当だよね!一ノ瀬くんは、強すぎる」
「犬飼くん、保健室の瀬名 癒希先生に治してもらったとはいえ、体力に関しては昨日の戦いで疲れてるでしょ。寮に戻って休みな!」
――――――――――
魔虎は寮の自室に戻り、ベッドにダイブし、仰向けになる。
「一ノ瀬 千弥……つえぇし顔もいいし、あぁクソムカつく!!」
天井を睨みながら吐き捨てる。
一ノ瀬 千弥に嫉妬する、魔虎であった……。




