第二十一話 突破口
ー前回のあらすじ
犬飼 魔虎たちは伽藍髑髏の手により分断されてしまった。
三人は華子、トルソー、インビジットに勝つことはできるのか
視界に映るのは、誰もいない音楽室。
だが、次の瞬間――鍵盤が、ひとりでに鳴り響いた。
「ひっ……!」
雫は思わず身をすくめる。
――まずい……このままじゃ……見えない敵はどうすれば……
「まだまだいくよ」
どこからともなく声が落ちてくる。
次の瞬間、雫の腹部に衝撃が走った。
見えない拳。
床を転がり、息が詰まる。
「うっ……!」
「ほらほら、止まらないよ」
今度は背中、次は肩。
上下左右、位置がまったく掴めない。
――ダメ……見えない……!
「もうそろそろいいかな」
声が、すぐ近くで囁かれる。
「お疲れ様」
再び、ピアノが鳴る。
旋律が、頭の奥に直接流れ込んでくる。
「輪廻解錠――催眠」
視界が滲む。
身体が重い。
――また……これ……
――寝たら……殺される……!
だが、意識は完全には落ちなかった。
「……?」
敵がわずかに動揺する。
――効いてない……?
雫の耳をよく見てみると、
そこには、水で作った即席の耳栓。
――音は……水で反射する……!
「……っ」
気配が揺れた。
――ピアノを弾いてるってことは……今は、そこ……!
「輪廻解錠――水蓮華!」
水の刃が、音の発生源へと走る。
だが、手応えはない。
――避けられた……でも……
雫は、両腕を広げる。
音楽室全体に、水が撒き散らされた。
「ッ……!」
宙に浮いた水滴が、不自然な輪郭を形作る。
人の形。
「やっと見つけた……そこだね」
――しまっ……
雫は視線を逸らさない。
「早く行かせてもらうよ」
水が、渦を巻いた。
理科室。
金属音と刃が擦れる音が、絶え間なく響いていた。
「止まれって言ってるだろ!」
「止まれと言われて止まるやつがいるか。大人しく手術させろ」
「どこが手術だ!絶対に手術で使わないものがあるんですが!?チェーンソーって!!」
刃が振り下ろされ、迅は机の下に滑り込む。
――死ぬ死ぬ死ぬ……!
――しかも絶対、痛ぇ死に方……!
チェーンソーが伸び、迅は身体をくの字にしてなんとか避ける。
「それ伸びんのかよ!?どんなチェーンソーだよ!」
メスが飛ぶ。
紙一重でかわす。
「メスを投げるな!命救うもんで命奪おうとすなー!」
――うるさいなこいつ
トルソーが呆れた顔をする。
――……ん?
迅は、刃物を見て思いつく。
――金属……
迅は、足を止める。
「どうした。逃げないのか?」
「逃げるのは……やめた」
「諦めたか」
「逆だよ逆」
迅は、ニヤリと笑う。
「そんな物騒なの、出しっぱなしでいいのか?」
「何が言いたい」
トルソーがそう言うと、迅が右手を前に出す。
「こうなるってことだよ!」
「輪廻解錠――磁鋼収束!」
トルソーの武器の刃物が、一斉に引き寄せられる。
「ッ……!」
「もうスプラッタは終わりだ」
暗い、水の中。
肺が、焼けるように苦しい。
――息が……できない……!
魔虎の周囲を、影が高速で泳ぎ回る。
「まだくたばらないでよ?もっと遊ぶんだから」
爪が、肩を裂いた。
――くそ……苦しい……!
「さあさあ、もっと遊びましょー!」
泡が、コポコポと口から漏れる。
――しまった……!
――クソ……
魔虎は思考を巡らす。
――水中じゃ炎は無理……
――蒼電砲は……撃てば……俺も……
だが、選択肢は一つしかなかった。
――何もしなければ……結局死ぬ……!
――輪廻解錠!
華子が、わずかに怯む。
――見出せ……俺の……!
理科室。
――俺の……!
音楽室。
――私の……!
そして三人の想いが一つになった。
――突破口を!
――蒼電砲!
「磁鋼発散!」
「水蓮華!」
水中で、蒼雷が爆ぜる。
魔虎の解き放った蒼電が、華子の身体を貫き、その奥にある核を撃ち抜いた。
理科室では、磁力が一気に反転する。
引き寄せられていた刃物すべてが、核一点へと叩き込まれ、人体模型の胸部が砕け散った。
音楽室では、水が刃となって収束する。
透明だった存在は、輪郭を保てぬまま引き裂かれ、核ごと霧散する。
校舎全体が揺れた。
核が、三箇所で同時に砕けた。
水面が割れ、魔虎が吐き出される。
「はぁ……はぁ……!」
身体はまだ、自分の電撃で痺れていた。
――痛ぇ……熱い……けど……
「……勝った……」
――早く……二人と……
壁を破壊し、進む。
崩れた通路の先――
「あ……」
角を曲がった先に、見覚えのある迅の姿。
「い……」
反対側から、同時に現れる雫の姿。
「う……?」
三人の視線が、重なった。
三人が、同時に息を呑んだ。
三人――合流。




