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魔天道  作者: 外野透哉
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第二話 今の俺にできること

ー前回のあらすじ

 普通の人間として暮らしていた主人公・犬飼いぬかい 魔虎まとりの家が突然、魔戒ゲートの襲撃を受ける。すると犬飼 魔虎の目の前に鬼灯ほおずきと名乗る新たな魔戒が現れ、契約を交わすことになる。

 犬飼 魔虎の運命とはーー

 鬼灯は、天井に貼り付けられたままの魔虎を見て、愉快そうに喉を鳴らした。


「そうこないとなぁ。お前は俺の力に耐え、俺を我が物とすることができるかな……」


 その言葉が終わると同時に、鬼灯の身体が黒い霧のようにほどける。


 霧は渦を巻き、一直線に魔虎の胸へと突き刺さった。


 体内に"何か"が侵入する。


 心臓を直接掴まれたような感覚。


 次の瞬間、全身を焼き尽くすような灼熱が走る。


 骨の髄まで溶けるような熱。血液が沸騰しているかのような錯覚。


 筋肉が強制的に引き攣り、歯が鳴る。


「ぐああああああああ!!!!」


 喉が裂けるほどの絶叫が瓦礫の家に響き渡る。


 蜘蛛糸に吊られた身体が、痙攣するように激しく暴れる。


「痛い……熱い……苦しい……!!はぁ、はぁ……ま、負けるかよ!!」


 視界が白く弾け、意識が途切れかける。


 だが、奥歯を噛み締める。


 爪が掌に食い込み、血が滲む。


 胸の奥で暴れる鬼灯の力を、必死に押さえ込む。


 その瞬間――魔虎の体表を短く青い稲妻が走った。



 ちょうどその時、蜘蛛の魔戒が誠司へと腕を振り下ろそうとしていた。


 すると蜘蛛の魔戒の腕が一瞬で切断され、そのまま腕は宙を舞った。

 そう、魔虎だった。手で蜘蛛の魔戒の腕を切断した。


 そして空気を裂き、蜘蛛の魔戒を薙ぎ飛ばす。


 その腕は、契約した鬼灯のそれと同じく、青色に変色していた。


「ま、魔虎?」


 誠司の声が震える。


 魔虎は肩で息をしながら立っていた。


 体内で暴れる力は、まだ完全には馴染んでいない。


 視界の端に、鬼灯の幻影が浮かぶ。


「おめでとう、契約成立だ」


 鬼灯の軽い調子とは裏腹に、魔虎の身体は悲鳴を上げている。


 蜘蛛の魔戒が瓦礫の中から立ち上がる。


「おいおいまじかよ……この力、よりによって()()()の……」


 明らかに動揺している。


「これは流石に分が悪いな」


 切断された腕は再生し、空気が変わる。


 蜘蛛の魔戒が、赫く不気味なオーラを纏う。


輪廻解錠(りんねかいじょう)――蛛糸純赫(しゅしじゅんかく)!」


 蜘蛛の魔戒の背後に、六束の太く鋭利な赫い糸が生成される。


 それは槍のように伸び、連続で目にも止まらぬ速さで突き出される。


 魔虎は誠司を庇いながら、反射的に腕を振るう。


 だが完全には捌ききれない。


 肩を裂かれ、脇腹を抉られる。


 血が飛び散る。


「ぐっ……なんなんだよ、輪廻解錠って!」


 体内から鬼灯の声が響く。


「それが能力だ。お前はまだできないみたいだがな」


「はぁ!?ずりぃだろ!やり方教えろよ!」


「んなもん自分で感覚を掴め。ただし、魔戒を殺す唯一の方法を教えてやる。"核"を狙え。それが人間でいう心臓だ。(それ)は人間の心臓と同じ位置にある。まぁあとは頑張れ」


 それだけ言い残し、気配が消える。


「はぁ!?ざけんな!無理ゲーだろこんなの!」


 怒鳴りながらも、身体は動いている。


 契約によって動体視力と反射神経が飛躍的に増している。


 僅かに糸の軌道は見える。


 だが攻撃は重い。


 防戦一方だ。


「くそ!」


 歯を食いしばる。


「親父!立てるか!?立てるなら逃げてどっかに隠れてろ!」


「魔虎……」


「早く!」


「わ、わかった!」


 誠司は痛みを堪え、よろめきながらその場を離れる。


 魔虎は深く息を吸い込む。


 肺に血の匂いが混じる。


 覚悟を決めた目で、蜘蛛の魔戒を睨む。


「やってやる!」


 地面を蹴る。


 赫い糸を紙一重で躱しながら、懐へ潜り込む。


 核の位置を見極め、右拳を振り抜く。


――取った……!


 しかし、寸前で糸が盾のように割り込み、防がれる。


「はぁ、惜しいな」


「は……嘘だろ!?」


 蹴り飛ばされ、瓦礫に叩きつけられる。


「はぁ……はぁ……こんなやつ、勝てるかよ……」


 蜘蛛の魔戒の目が冷たく光る。


輪廻解錠(りんねかいじょう)――刻慈獄(こくじごく)


 次の瞬間、空間そのものが軋む。


 見えない糸が半径五十メートルを刻み続ける。


 皮膚が裂け、肉が切り刻まれる。


 立っているだけで体が削れていく。


 膝が震える。


 視界が暗くなる。


――やばい……死ぬ……殺される……


 意識が遠のく。


 幼い日の記憶が浮かぶ。


――親父……



 怪我をして帰った日。


 誠司が慌てて駆け寄ってきた。


「どうした魔虎!何があった!」


「いじめられてるやつがいたから、見てられなくてさ!いじめてたやつらをボコボコにしてやった!」


 誠司は少し黙り、やがて優しく問いかけた。


「なぁ魔虎、何か夢とかあるか?」


「俺、ヒーローになりたい!困ってるやつを助けたい!」


 誠司は微笑んだ。


「そうかヒーローか!きっとなれるさ!でもな魔虎、助けるためには、まず自分が助からないと助けられないぞ?」


「わかった!俺、まず自分が助かるように強くなる!!」


「ん、その粋だ!」


 誠司はまた微笑むように優しく笑った。


 あの時の笑顔。


 あの時の約束。


 現実に引き戻される。




――そうだよ……何諦めてんだよ……!助けるためには、まず自分が助からなきゃ意味ねぇだろ……!


 蜘蛛の魔戒が近づいてくる。


――やはり、契約者(アグラー)はそう簡単には死なないな。


 見えない糸に切り刻まれながら、魔虎は立ち上がる。


「歯食いしばれ……」


 腕だけでなく、脚までも青く変色する。


 靴が破け、筋肉が膨張する。


 地面を踏みしめた瞬間、コンクリートが砕ける。


 爆発的な脚力で、先程とは比べ物にならない速度で懐へ潜り込む。


「はぁ……またか」


「――ッ……!」


 蜘蛛の魔戒の表情が変わる。


 魔虎は理解していた。


 先程の敗因を。


――なんでさっき俺の攻撃が塞がれたのか、分かった気がする。"脚"だ!あのとき俺は、腕だけで殴ってた。だから軽いうえに、何よりも遅い。それじゃ届かない……!脚も使え!

 

 そう、全身を連動させていなかった。


――現実世界には主人公補正なんて無い。力を得たからって急激に強くなんかなれない!だから……!"今の俺にできること"は、()()()()()ではなく、()()()()()()()……!隙を作るな!


 魔虎は力を溜める。


 だが動きは止めない。


 隙を作らない。


 左胸に拳が触れる直前。


 全身の力を放出する。


――コイツ……!


 蜘蛛の魔戒が焦りの表情を見せる。


 そして――


 轟音。


 核が砕ける感触。


 蜘蛛の魔戒の身体が亀裂だらけになり、崩壊する。


 灰となって消滅した。



 静寂が戻る。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 全身から血が流れる。


 膝をつき、肩で息をする。


 幻影の鬼灯が現れる。


「へぇ、やるじゃねぇか」


「はぁ……どんなもんよ……」


 青く変色していた腕と脚が、元に戻る。


 その瞬間、痛覚が一斉に戻る。


「にしても……いっっっってぇぇぇ!!!」


 鬼灯が肩を竦める。


「まぁ俺と契約したんだ。そんくらいの傷ならすぐ治るから安心しろ」


 魔戒と契約すれば、魔戒ほどでは決してないが、ある程度再生能力も向上する。


「そういう問題じゃねぇ!今治って欲しいの!」


 そこへ誠司が走って戻ってくる。


「魔虎ぃーー!!!」


 勢いよく抱きしめる。


「すまねぇ、守れなくて!」


「いてててて、いてぇよ親父!」


「す、すまん」


 誠司は息子を見つめる。


「にしても、なんなんだ?あの力は」


 魔虎は空を見上げ、小さく息を吐いた。


「俺が聞きたいくらいだ……でも、無事で良かった……」



 遠くのビルの屋上。


 謎の男が一部始終を眺めていた。


 スマホを耳に当てる。


「面白い子を見つけました、()()。はい、スカウトしてきます」


 通話を切る。


 口元に笑みを浮かべる。


「さあ……君は"僕たち"について来れるかな?」

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