第十七話 買い物に行こう!
ー前回のあらすじ
突如、学校に羅墜と名乗る魔戒が襲来した。
そして、魔戒の正体が明らかになる。それは、元人間だった。そのことを知り騒然とする犬飼 魔虎たち。
犬飼 魔虎たちは、魔戒の元凶・霊閻を倒すことができるのか。
翌朝。
下戒の魔戒が出現したという報告が入り、犬飼魔虎たちは現場へ向かった。
現地に到着し、魔戒を視界に捉えた瞬間――
昨日聞かされた“真実”が、全員の脳裏をよぎる。
元は、人間。
その事実が、刃となって心に突き刺さる。
「……殺せねぇ……」
魔虎の声は、かすれていた。
「無理だよ……」
水無瀬雫も、視線を逸らす。
「あんな話を聞かされた直後に……」
辛島迅が歯を噛みしめる。
「流石に……ね……」
二階堂千智も、判断を迷っていた。
「……どうすればいいんだ……」
凩摩稀の呟きが、重く落ちる。
その中で、一人だけ違った。
「輪廻解錠 紅血刃」
梶才牙は、一切の躊躇なく踏み出した。
血で形作られた刃が閃き、下戒の魔戒の動きが止まる。
そして――
命は、断たれた。
「……お前……」
魔虎が声をかける。
「なんだ」
才牙は、振り返りもしない。
魔虎は、それ以上何も言えなかった。
才牙の行動が"正しい"と、分かってしまっているからだ。
「……いや……なんでもない……」
「帰るぞ」
「……お、おう……」
そのまま、一行は寮へと戻った。
今日は土曜日。授業はない。
犬飼魔虎の自室。
ベッドに腰を下ろしていた魔虎の耳に、ノック音が響く。
ガチャ。
ドアを開けると、そこに立っていたのは水無瀬雫だった。
「あぁ……水無瀬か」
「犬飼くん……大丈夫?」
心配そうな視線が、真っ直ぐ向けられる。
「あぁ……悪いな。心配かけて」
「その……すごく辛そうだったから……。あんな話を聞かされたら、そりゃ辛いよね……」
「……悪いな。とりあえず、入っていいぞ」
雫は部屋に入り、ベッドに腰掛ける。
魔虎はその隣に座った。
「はぁ……」
深いため息。
頭に浮かんだのは、最初に戦った蜘蛛の魔戒だった。
――あいつも元は人間……。
家族とか……大切な人が、いたのかな……
雫は、その表情を見て、静かに言葉を紡ぐ。
「私たちが倒してきた魔戒は、元人間だったかもしれない。でも……」
一拍置いて。
「それと同時に、犬飼くんが守った命も、確かにあるよ」
魔虎は、はっと目を見開いた。
――親父……
脳裏に浮かぶ、犬飼誠司の姿。
「……水無瀬。確かに……そうかもな。ありがとう」
雫は少し考え込んだ後、ぱっと顔を上げた。
「あ、そうだ! 一緒に買い物行かない?」
「……え?」
こうして二人は、外へ出ることになった。
――これって、まるで……
魔虎は、顔が少し熱くなるのを感じた。
「どうしたの?」
「な、なんでもねぇ!」
「そっか!」
いくつもの店を回り、昼食も一緒に取る。
気がつけば、手には買い物袋が増えていた。
「いやぁ、いっぱい買っちゃったねぇ〜」
帰り際、雫はショーウィンドウ越しに足を止める。
さくらピンク色のマフラー。
――可愛い……
そう思いながらも、その日はそのまま帰路についた。
「今日は……ありがとな」
「え?」
「俺のために……誘ってくれたんだろ?」
雫は、優しく微笑んだ。
「全然いいよ。私も楽しかった!」
寮に戻ると、凩 摩稀が声をかけてくる。
「おやおや〜? 二人でお買い物ですか〜?」
ニヤリと笑い、からかうように続ける。
「まさか、デートですか〜?」
「ち、ちちちがうよ! そそそんなんじゃない!」
「そ、そうだぞ! 俺らはそんなんじゃねぇ!」
「ははーん。まあ別に、青い春に口出ししたりしないけどさ〜」
「ちょ、勘違いすんな!」
「それに〜雫。朝、犬飼の部屋行ってたよね〜?」
顔を近づけ、楽しそうに囁く。
「二人きりの部屋で、何してたの〜?」
二人の顔が、さらに赤く染まる。
「ちちちちちがう! 絶対に! 本当に!」
「ふ〜ん。あ、私お邪魔だね。今日は休みだし、あとは二人でごゆっくり〜」
「もう! 違うってばー!」
摩稀は満足そうに、自分の部屋へ戻っていった。
「……買ったもの、それぞれ部屋に持っていくか」
「そ、そうだね!」
まだ動揺したまま、雫の部屋へ向かう。
「入っていいよ!」
「お、おう」
初めて入る雫の部屋。
ドクン、ドクン。
ーーこれが……水無瀬の部屋……
「それ、そこ置いといていいよ!」
「あ、うん」
荷物を置き、魔虎は自分の部屋へ戻った。
「はぁ……帰ってから一気に疲れたわ……」
ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
――にしても、水無瀬って……すげぇいいやつだな……
心の奥に溜まっていた重さが、少しずつ溶けていく。
これからも、数え切れない問題に直面するだろう。
そして、"別の問題"にぶつかることになるのは――まだ、先のお話。




