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破壊治癒者(ブレイクヒーラー)は回復で全てをぶん殴る!



勘違いしている冒険者は多いが、ヒーラーは心優しいPTの癒しではない

「勇猛で強い俺を支えてくれる心優しいかわゆい女の子☆」などと認識している脳筋戦闘職は残念ながらとても多い

だが歴戦の勇者ほどヒーラーのなんたるかを痛感している


脳筋なのは戦士でもなければ格闘家でもないし、ましてや魔法使いなどでもない

PTで一番タフで脳筋なのはヒーラーだ、解体新書にもそう書かれている


今回冒険者ギルドで組んだ仲間は

この僕、格闘家のケルナ・グレイ

幼馴染の魔法使いトナ・エール

ギルドから紹介してもらったヒーラーのケア・ルカさん

共に同じシルバーランクの冒険者だ


ケア・ルカさんは中堅に位置するシルバーランクの冒険者であり、生粋のヒーラー

戦闘職や補助職についたこともないそうだ



そしてもう一人、なんとプラチナランクの有名冒険者である

「剛腕」の二つ名をギルドから賜っている伝説級の戦士

バル・セルクさんだ



セルクさんの伝説は戦闘職ならだれでも聞いたことがある

龍の巣に眠る戦斧「バハムートアックス」に認められたとか

魔王軍幹部である「ジェネラルキングゴブリン」と単身でやりあい引き分けたとか


とにかくそんなすごい戦士が今回のクエストに参加してくれるらしい!



噂に聞くとすごく豪快でちょっと乱暴な人らしい

少し怖いけど、胸を借りるつもりで頑張るぞ!



「あ、どうも……はじめまして……バル・セルクです セルクと呼んでください」

すごい物腰低くない?

「はじめまして……ケルナ・グレイです グレイと呼んでください」

「これはこれはご丁寧に……PT戦はすごく久しぶりなのでご迷惑をおかけしたらすいません」


「はじめまして、トナ・エールと言います、炎系魔法を得意と……アッ」

うっかりエールがコップを床に落とし、大きな音が立つ

「ひゃあ! あっコップが落ちただけかぁ……びっくりしたぁ」

ビビッて身をちぢめるセルクさん、小動物かな?


「皆さんはじめまして、ヒーラーのケア・ルカです ルカとお呼びください」

そしていかにもヒーラー!って感じのルカさん

サラリとなびく黒髪ロングに白と青でデザインされたローブがとても美しい女性だ

ちょっと見とれてるとエールに肘打ちされる


「ゴホン 今回はト=ナーリ地方のマウン=テン山に住み着いたゴブリンの討伐です

 最近村の作物を狙ってくるようになったので討伐依頼がでたようです、数もそんなに多くないので

 サクッとやっちゃいましょう!」


説明を聞き終わるとセルクさんが成人男性一人が入りそうなくらいのでかいバックをドガンと机に置いた

「あの、なんですかそれ?」

「あ、薬草です ちゃんと入ってるか不安で……」

成人男性がスッポリおさまるくらいのバッグに薬草がミッシリ詰め込まれていた


それを無表情で見つめるルカさん

そうかと思うと突然どこから取り出したのかわからないダンベルで筋トレを始めた

「失礼、日課のダンベルカールの時間なので 話は聞いておりますので問題ございません」


すごい、俺もうPTを組んだことを後悔し始めている!






多少の不安を感じつつもクエストが始まり、僕らはマウン・テン山に向かう

道中、モンスターに襲われる ワイルドボアだ

魔力で狂暴化した魔獣の一種、強くはないが危険なことに変わりはない


でも大丈夫!こっちにはセルクさんがいる!

セルクさんが盾役をしている間に退治するぜ


ワイルドボアの突進がセルクさんに直撃するも、さすがのセルクさん微動だにしない!

「いたああああああいいいいいいいいやあああああやくそうおおおおおおおお」

敵の攻撃を受けた瞬間半べそかきながら薬草モシャモシャ

ワイルドボアの身動きは封じているけど、目の前でモシャモシャされてるから攻撃の邪魔!

エールも魔法が撃てなくて困ってる


「あぁ、突き指だ!痛いよう」

なんだこのおっさん!伝説の戦士じゃないのかよ!?


攻めあぐねていると横からスッとルカさんが走ってくる

危ない!ヒーラーが前線にくるなんて危険だ!


「ヒーリング・ナックル!」


腰の入った力強いルカさんのパンチがワイルドボアの急所である鼻の下に直撃

悲鳴を上げてのけぞるボアの喉元めがけて上空に飛んでいたルカさんが急降下


「ヒーリング・キック!」


カモシカの様な美しい足が槍の様に突き刺さり、ワイルドボアは絶命した

えええ……僕より蹴り足綺麗……


よく見たらルカさんの拳は骨が見えそうなほどに砕けており、足首が曲がっちゃいけない方向に曲がっている

「ルカさん!大丈夫ですか?」


「大丈夫です、回復するからノーカンです 痛いですがノーカンです」

即座に自分で回復するルカさん、傷は治ったけど裂けて血で染まっているグローブが痛々しい


「役立たずですいません……痛くてつい……」

申し訳なさそうなセルクさん ボアの攻撃にびくともしなかったのはさすがなんだけどなぁ

背中のバハムートアックス、よく見たら蜘蛛の巣ついてるじゃねえか



それから行軍を続けて夜

夜中の前進は危険なので野営することに

僕らが粗末なテントをたててる間に身の丈の倍くらいのバリケートを設置するセルクさん

一個中隊くらいなら余裕で収容できる広さの安全地帯が森のど真ん中に爆誕

墨俣一夜城かなんか?


「せまくてすいません……でもこれくらいの広さがないと敵に襲われたとき逃げ場がなくなりそうで不安で……」

いや、この規模の野営地に攻め込んでくるモンスターいないだろ




なんだかんだで腰を落として休んでいるとガシャガシャと音がする

ルカさんがどこから出したかわからないダンベルを持ち出してまた筋トレをしている、熱心だなぁ


「ヒーラーはタフでないと務まりませんから」

ガシャガシャと筋トレをしながら会話、すごいなーとみていると

負荷がかかっているであろう筋線維が赤黒くなり、裂けて血が噴き出す

「血が出ちゃってますよ!やりすぎ!」


裂けた筋線維が回復魔法で治癒されるが、筋トレは続行されているので再度出血


ポワーンという癒しのエフェクト音とブシュッという破裂音がリズミカルに鳴りひびく


「もう!もうむりですって!」


「大丈夫です、回復筋の鍛錬は裂けてからが本番です」


回復筋ってなんだよ、そんな筋肉聞いたことねぇよ

エールはあきれて寝ちゃってるし

セルクさんはこれだけでかい野営地建てておいて物音にビビッて眠れてねぇし


翌朝、ちょっと寝不足の僕とでかいクマをこしらえたセルクさん、爆睡してたエール

そしてあれだけのことをしといてまるで疲労を感じさせないルカさん





というわけでゴブリンの巣にきたわけだが

ここのゴブリン、ザコかと思ったら結構大きな巣になっていて

ゴブリンソルジャーだけではなくゴブリンメイジ、ゴブリンナイトなど

戦闘力の高い連中だったのだ



「痛いのやだあああ」

セルクさんが必死に敵の攻撃を受けるけど、腰が引けてでかい盾を構えるので精いっぱい

エールと僕で前線を崩すけど、敵からの攻撃を処理しながらだと攻撃に集中できない!


「セルクさん!敵をひきつけてください!その間に敵の数を減らしますから!」

「いたぁい!いたぁい!」薬草モシャモシャ

ダメだこのおっさん!バハムートアックスがトカゲみたいに背中に張り付いてる!



セルクの背中をゴブリンナイトが飛び越え、魔法を詠唱しているエールに迫る

しまった!フォローが間に合わない!エールじゃナイトの攻撃に耐えられない!


ズバッ


ナイトの刃がエールを切り裂き、鮮血が噴き出す

力なくエールが倒れ……倒れてない きょどるエール

ナイトがエールと剣を交互に見る、若干慌てながらもう一回斬りかかる!


凄腕マジシャンみたいに刃だけが体を通り抜け、エールは無傷

わけわからなくなってるゴブリンとエールの間に、ルカさんが割って入る




突如現れるルカにびびりつつもゴブリンナイトは襲い掛かる

やられる!と思った瞬間、その刃はルカさんの肩に食い込み剣が止まる

ぎ!ぎぎ!?とパニックになるゴブリンナイト


「ヒーリング・バルク!」


ルカさんの筋肉が瞬間的に風船のように肥大化し、食い込んだ剣ごとゴブリンが吹き飛ばされる

如何にもヒーラーと言った感じの美しい白と青のローブが肥大化した筋肉に耐え切れずちぎれとんだ


肥大化筋肉は即座に収縮し、美しい鍛え抜かれたボディーラインに変化する

まるでダイヤモンドのような艶とハリのある極上の筋肉が色っぽい

ヒーラー?ヒーラーってなに?



吹き飛んだゴブリンを拾ってひょいっとゴブリン側に投げ込むとこちらを向くルカさん

「グレイさん、エールさん」

「は、はい!?」


「きさんら何をてらぁっとしとぉや!? 死ぬまで殴らなつまらんぞ!絶対殺させんけぇブチまわさんかこらぁ!」

(訳:あなたたちは何を油断しておられるのですか? 相手が倒れるまで攻撃しないと勝てませんよ 回復はしますから安心してください)



だれぇ!?このヒーラーだれぇ!?言ってることと訳の内容が全然違うううう!


鍛え抜かれたヒーリングバルクをお共にゴブリンをものともせず前進するルカさん

よく見ると次々と攻撃は直撃しているのに即座に回復するため回避も防御もしていない


ザシュッぽわぁーんドゴッぽわぁーんズバブシュッぽわぁーん


バイオレンス&ヒーリング


起きていることが理解できなくてエールと顔を見合わせる

エールをよく見るとゴブリンナイトの攻撃が直撃した後がエールのローブに痛々しく残っているがチラリと見える柔肌は傷一つ残っていない 

凄腕の回復で治されていたのだ



最前線にてへっぴり腰で攻撃を受け続けるセルクさん

敵の攻撃を一手に受けているといえば聞こえはいいが、あれは反撃しないことをいいことにサンドバックにされているだけだ


「ひゃああいたいようううう薬草なくなったよううう」

え、成人男性一人分くらいの量の薬草全部食べたの?


「ヒーラーさん!助けて!癒してえええ」


襲い掛かるゴブリンを投げ飛ばしながらセルクさんのそばにやってくるルカさん

「あぁ!よかった!肘を斬られました!いやしてください」

出血もしてねぇよ



「きさんどのツラさげて癒しやらほしがっとぉや!ワシに癒しやらもとめよったらつまらんぞ!」

(訳:回復はまだ必要ないと思います、危なかったら回復するので安心してくださいね)

どこの人?修羅の国の人?



涙と鼻水でグシャグシャになっているセルクの前に立つルカさん

ゴブリンの波状攻撃がセルクさんからルカさんに襲い掛かる!


ルカさんは微動だにせず敵の攻撃を受け続ける

回復するといっても傷口からは血が噴き出し、見るも無残に痛々しい


「ヒーリング・ノーガード!」

それは技じゃねぇだろ


敵の攻撃を一手に引き受けるルカさん、まるでそれはタンク役のようで

それを目の当たりにして自信なくうつむくセルクさん



エールと僕も慌てて全力攻撃、ルカさんは宣言通り自身への回復だけでなく僕らの回復も抜かりなく執り行う

けれどどんなに回復ができるといっても、僕らには決定打が足りない

ヒーリングナックルで反撃もするけれど、多勢に無勢だ



「セルクさん」

脳天に直撃したゴブリンの棍棒を手で払いのけながらルカさんがいう

「逃げるな、守るな、おびえるな わが身可愛さに攻撃をしないのはヒーラーへの冒涜とみなすぞキサン」

「ごめんなさい……こわいんです……ごめんなさい……」


どっかどっか殴られながらセルクさんをじっと見つめてるルカさん

ゴブリン、ちょっともうひいちゃってるじゃん



「キサン、ぼっちこいて殴りよると思いよっちか?」

(訳:あなたは一人じゃありませんよ)

「キサンがこんならぁをボテまわす以上にキサンの怪我ばワシがヒーリングでボテこかしよろうが!」

(訳:あなたが戦ってくれるなら、私はあなたの痛みや怪我をヒーリングで癒します)

「やけんがさっさとこんクソガキどもをボテまわさんかい!ワシがワレをボテまわすぞくらぁ!」

(訳:さぁ、一緒に戦いましょう!)

最後、絶対に訳の内容違うだろ




ルカさんの応援?に覚悟を決めたのか、涙を流しながら初めて武器を構え飛び込むセルクさん

背中に張り付いてたバハムートアックスさん、外すときベリィィって言ってた気がする


さすが伝説のプラチナランク、攻撃を始めてからのセルクさんはまさに獅子奮迅の活躍

一振りで数十人の敵は吹き飛び、ゴブリンメイジの集中砲火をものともせず突進し突き崩す


陣形を完全に崩されたゴブリン共はあっという間に敗走

僕らも必死に戦ったけれど、やはり戦局を決定づけたのはセルクさんの活躍だった



戦闘が終わり、僕らは近辺で野営地を設営する

相変わらず要塞かよ?みたいなバリケードを建築するセルクさん


ルカさんはあの戦闘の直後、目にもとまらぬ早業で破ったローブを手縫いで修繕してた

どこが破れたのかわからないレベルでピッカピカの縫製

「ヒーラーはみんなできます」

まずヒーラーは筋肉でローブを裂かねぇよ




「皆さん……先ほどはすいませんでした……」

現場監督みたいな恰好のセルクさんが頭を下げる


「やはり私は冒険者に復帰すべきじゃなかった……仕事を全うできないばかりか皆さんを危険にさらしてしまった」

セルクさんはゆっくりとどうしてこんなことになったのか教えてくれた

「昔、高難易度クエストでネームドモンスターであるジェネラルキングゴブリンの軍団を討伐に挑戦しました」

「僕らのタンク役のチームはジェネラルの攻撃を一手に引き受け、ヒーラーチームがそれを支えている間に戦闘職チームが討伐するという王道の作戦だったのですが

 敵の策略にはまってしまい、ヒーラーチームが撤退、回復がなくなったしまったため戦闘職チームは全滅……」


しゃべりながらガタガタと震えだすセルクさん

「タンクチームは状況がわからず、いつか回復魔法が飛んでくる、戦闘職が敵を減らしてくれると信じて必死に敵を引き付けました

 けれど敵の攻撃はやまず、回復はされず、一人また一人とタンクチームは倒れ、最後は私一人に……」


両手で顔を覆って涙を流すセルクさん

「必死に戦ったんですがジェネラルキングゴブリンの魔剣が私の体中に刻まれて、私は倒れました……」

「止めの一撃をかろうじて持っていた薬草でおさえ、ボロボロの状態で目が覚めたら、そこには仲間の死体だけが残っていました……」

「それ以来戦うのが怖くて怖くて……どんなに頑張ろうとしてもあの日の回復されなかった絶望がフラッシュバックしてしまうんです……」


言い終わるとまるで子供のようにセルクさんは泣き出してしまった

「そうだったんですね……セルクさん そんなつらいことが……」


僕はそう言いながらチラッとルカさんに視線を送る

こういう時、きっと僕よりもヒーラーさんの方が……

「ヒーリングベンチブレス!!!!」

聞けよ、聞いてやれよ






「このままではいけないとギルドに無理を言って参加させてもらいましたが、やはり迷惑をかけてしまった 廃業して田舎に帰ろうと思います」


顔を真っ赤に泣きはらしながら諦めた笑顔のセルクさん

「そんな……!」


『そうだ、田舎に帰る必要などないぞ……』

大地を震わすような冷たく響く声が聞こえるとともに頑強なバリケードがバリバリと紙細工の様に破られた!



『我の無敗伝説に泥を塗った戦士バル・セルク…、今日ここで貴様を打ち滅ぼし無敗伝説をわが手に取り戻させていただくとしよう』

2m近くあるベル・セルクの2倍はあるかという巨大な体躯、緑色に輝く筋肉は禍々しい黒と金の鎧に包まれているゴブリンが突如現れる!

「お、お前はジェネラルキングゴブリン……!?」

驚きと恐怖でガチガチと歯をならすセルクさん、その視線はジェネラルキングゴブリンの腰に携えられた巨大な剣に注がれていた


『ほう…その身に刻まれたこの魔剣の痕が忘れられないか』

仰々しく魔剣を抜き放ち天に掲げると、その刀身が濡れているかのように不気味に輝く

『ならばこの魔剣ジェノサイドマックスゴブリンソードに今度こそ撃ち滅ぼされるがよい!』

だっせぇなぁ、魔剣の名前だっせぇなぁ



もはや立っていることもままならず膝をつきひれ伏すセルクさん

僕やエールも何とか構えるけれど、ジェネラルキングゴブリンの気迫で体の自由が奪われてしまう

『雑兵共よ、貴様らはこの男を切り伏せた後に相手をしてやるから安心するがいい』


なんて恐ろしいオーラ……魔王軍幹部は伊達じゃない……!


「セルクさん!逃げましょう!このままじゃ全滅してしまいます!」

「ひ、ひいい……!」


立ち向かうでも逃げるでもなく、おびえてうずくまるセルクさん


『なんと情けない……これがあの我が魔剣技をその身に受け切った戦士だというのか……!』

落胆したかのように魔剣ジェノ(以下略)を見つめるジェネラルキングゴブリン

『この魔剣を刃こぼれをもたらせたのはこの数千年もの間で貴様だけだったというのに……失望したぞ!』



怒りで咆哮するジェネラルキングゴブリン!

『もはや興味も失せたわ!この大地の染みとなれぇい!』


魔剣が冴え走りおびえるセルクさんに襲い掛かる!


「ヒーリング・鉄山靠 !」


ジェネラルキングゴブリンとセルクさんの間にルカさんが割って入り、魔剣を持つ拳に強烈な体当たりをぶちかました!

だがその魔剣から立ち上る瘴気がルカさんの体に刃の様に次々と突き刺さっていく

回復が間に合わないのか、ルカさんの表情が苦痛に歪んでいく




「ぐう、う……!」

回復を上回るダメージがルカさんの傷口を広げていく


「あああ、ごめんなさいヒーラーさん、私が、私のせいで……!」


「ルカ……です」

「え……?」

「私の名前はルカ……、ケア・ルカ あなたのパーティのヒーラーです……」


回復魔法を繰り出し、傷口を抑え込むルカさん


「一つ ヒーラーは、誰よりもタフでなければならない」

「一つ どんなに困難でも仲間より先に倒れてはならない」

「一つ 牙なき民を救えるのは選ばれし勇者だが、選ばれし勇者を癒せるのはヒーラーだけ……!」



せっかく綺麗に縫ったローブがブチブチとちぎれていく

「私なりのヒーラー金科玉条です、セルクさん……」


「あなたが負った心の傷は深いでしょう……」

「けれどあなたの恐怖も、痛みも、心の傷さえもすべてこのケア・ルカが癒します」

「だから立ちなさい、偉大なる戦士バル・セルク!」


目を伏せてわなわなと震えるセルクさん、それは恐れによる震えというよりも……


「キサンの背中にワシは絶対立っとぅ!さっさと殴り合わんかいぼてくりこかすぞイチビリがぁ!」

ルカの叫びと共にローブが鳳仙花の様にはじけ飛ぶ!

(訳:あなたを必ず回復します、さっさと戦えぶっとばしますよ)

訳のテンションも明らかにおかしい!


セルクさんの目に光が戻り、ジェネラルキングゴブリンに飛び掛かった!


「うおおおおお!」

バハムートアックスが輝き、旋風と炎を巻き起こす!


『おぉ、蘇ったか我が宿敵!嬉しいぞ!』

バハムートアックスの一撃を凌ぎながら嬉しそうに声を上げるジェネラルキングゴブリン


「勝負だジェネラルキングゴブリン!!」

『よかろう!そうでなくてはな!』


伝説の戦士と魔王軍幹部の切り結びはまさに災害級

一撃一撃に大地が割れんばかりの衝撃が走る

木々は吹き飛び、天が雷雨で鳴り響く



身動きのできない僕らを目の前では、神話かと思わんばかりの戦いが繰り広げられていた



『ふはははは!いささかも衰えぬその力嬉しいぞ!勝ってしまうのが惜しいほどだ!』

ガキィンと鍔迫り合いになり、睨みあう

「俺はもう……負けん!」

セルクさんの眼光は、先ほどとは想像もできないほどに鋭い



『貴様の力には敬意を表するが、忘れてもらっては困るぞ……』

ジェネラルキングゴブリンの魔剣が怪しく輝きだす

『我の手にはこの魔剣ジェノサイドマックスゴブリンソードがあることをなぁ!』

魔剣ジェノ(以下略)の輝きが刃の残像になり、数十本の刃影が一斉にセルクさんに襲い掛かった!


一瞬防御の構えを取ろうとするセルクさんにルカさんが叫ぶ!

「防御なんてするな!存分に殴り合わんかぁ!キサンのチンケなかすり傷なんかチクリともせずに治し倒したるわクラァ!」



その言葉に一瞬微笑んだセルクさんが防御を解いて攻撃に移った!

数十の刃が一斉におそいかかるも、セルクさんの体は傷ついた数だけ癒しの光りが輝きかすり傷一つさえ残らない!



「ヒーリング・千手観音!」


ルカさんの回復の動きは、これまで見てきたヒーラーとは大きく違う動きだった

敵の攻撃が直撃した瞬間、その傷口とほぼ同じ大きさのヒールが炸裂し、最小の魔力と範囲で傷を吹き飛ばす

五月雨のように攻撃が直撃しようと、その数だけヒールが炸裂し、傷を消し去る


それは癒しというよりも、まるで回復魔法を用いた殴り合い……!


魔剣の刃影はセルクさんだけでなくルカさんにも襲い掛かる

ルカさんはセルクさんの回復に集中しているのか、どんどん血だらけになっていくけれど一歩も引かずに回復し続ける


「ジェネキンこらキサァン!どんだけこんなら殴ろうと殴り癒したるわクラァ!」


魔剣の勢いが少しずつ衰え、セルクの足が前に進む

「キサンが!死ぬまで!癒すのを!やめんぞクラアアアアアアアアアア!」




「うおおおおおおお!」

セルクさんが咆哮し、バハムートアックスが荒れ狂う!

魔剣の瘴気がその力にはじけ飛び、たまらず身を守るジェネラルキングゴブリン

「覚悟ぉぉ!」


防御した魔剣魔剣ジェノサイドマックスゴブリンソードごと真っ二つとなり、ゴブリンは倒れ伏した

セルクさんの勝利だ!







気が付けば荒れ狂っていた空は冴えわたり、爽やかな風が吹く

この勝利を讃えるように暖かな朝日が辺りを照らしていた――


「ありがとうございます、ルカさん……お陰様で私は……私は……」

目を潤ませながら頭を下げるセルクさんに高速で破れたローブを修繕する手を止め、優しく微笑むルカさん


「薬草、おいしくないからほどほどにしてくださいね」

ぽかんとするセルクさんを見てクスクスっと笑うルカさん

釣られてみんなで笑う



その時、倒れたはずのジェネラルキングゴブリンがルカさんに襲い掛かる!!!

『油断したなぁ!せめて貴様だけでモヴファアアアアアアア』



ゴシャアッ

ジェネラルキングゴブリンがしゃべり終わる前にルカさんの拳が顔面にめり込む


「ヒーリング・ジョルトフック!」



崩れ落ちるジェネラルキングゴブリン、砕け散る拳


滴る血に癒しの光を当てながら、表情も変えずルカさんは言った


「壊れても治せるから、やっぱり殴るのが一番効率いいわね」


破壊治癒者ブレイクヒーラーは回復で全てをぶん殴る――――

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