閑話 カーライルの事情①
主人公&コアラと決闘して、自主退学した王太子、カーライル視点です。
◆
オレはパルキア王国の王太子、カーライル=フォン=パルキア。
そんなオレの憧れは、父上の弟にあたるミハエル叔父上だった。
オレが四歳……今のルルティアくらいの頃からだったか。
ミハエル叔父上は、公務で忙しかった父上や母上の代わりに、よくオレと遊んでくれた。
『おじうえはこーむしなくていいのか?』
『僕は仕事をサボることが仕事なんだよー』
『そんなしごとがあるのか!?』
『王弟だからねー。国王陛下ばんざーいって、みんなが思えるような雰囲気をつくるのが、ぼくの仕事なんだよー』
オレにとって、叔父上の話すことは、昔から少し難しい。
それでも叔父上から魔法の話を聞いたり、旅の話を聞いたりするのは大好きだった。
また旅の話を聞いていたある日、ぽつりと叔父上が言ったんだ。
『僕にはね、ほしい魔法があるんだ。それを探すためにあちこち旅をしているんだよ』
『どんな魔法なんだ?』
『そうだな……歴代で一番強い魔法があれば、叶うかな』
『なら、オレがその魔法を使えるようになってやる!』
あっさりとオレの夢は決まった。
世界で一番強い魔法が使える王様。こんなにカッコいいものはないだろう?
そんなオレに、叔父上は一瞬目を見開いて。
そして、伏せた表情はなんだか悲しそうにも見えた。
『あはは。じゃあ、将来を楽しみにしているよ』
そして、現在。
王宮に戻ったオレ、カーライル=フォン=パルキアは後悔していた。
四歳の女の子に、なんて酷いことをしてしまったのだろう。
だって、父上らに遊んでもらえなくて、しょぼくれていた頃のオレと同じくらいの年の相手に、決闘だと? しかも、女の子と?
それ以前にも、前代未聞な使い魔に奮闘していた彼女に、オレは何をしてやった? 一方的に嫉妬して、嫌みを言って、何の手助けもしてやらなかった。婚約者ということを横に置いても、知り合いの、四歳の幼子相手に!
反省の意を込めて自主退学してみたけど、本当にこれでよかったのだろうか。
ただ、逃げただけじゃないのか?
無理やりでもルルティアのそばにいて、彼女のフォローをしてやるべきだったのでは?
そんな案もあったけど、オレが退学を選んでしまった。
だって、ルルティアの顔を見るのが恥ずかしかったんだもん。
「オレ、めちゃくちゃかっこわり~!」
「反省しているなら、ひとまず謝罪の手紙でも送ってみればいかがですか?」
そう提案してくるのは、オレの世話役ベンジャミン。
四十代半ばの紳士で、片メガネかけている。昔は騎士をしていたためか、体格と姿勢がいい。過去に大怪我をした関係で騎士を引退。現役のときは規律に厳しい指導者だったこともあり、現在はオレの世話をしてくれている。アッシュグレーの髪が最近さらに白くなってきたことを尋ねたら『殿下に苦労させられてますから』とにっこり答えられた。なかなか神経が図太い男だ。
そんなベンジャミンからの提案に、オレの眉間に力がこもる。
「そういやあいつ、文字読めるのか?」
オレが四歳の頃は叔父上とたくさん本を読んだけど、あくまで読み聞かせてもらっていた。一人だったら、簡単な絵本がやっと読めるかどうかだった気がする。
「学園の授業についていけていたなら、問題ないのではないでしょうか」
「すごいな、あいつ……」
たしかに、実践授業はコアラが寝ていたので一度も参加していなかったが、座学で困っているという話を聞いたことがない。むしろパーティー前の小テストでは、満点だったと先生に発表されていた。だから、一問間違えてしまったオレは悔しくて、よりイライラしてしまったのだけど。
「本当にオレ、だっせーな……」
「だっせー殿下に朗報です。そんな天才ルルティア嬢は、このたびミハエル王弟殿下の養女になることが正式に決まったようですよ」
「は?」
さりげなくダサいと肯定されたことは、今だけ水に流してやろう。
叔父上の養女? オレの婚約者であるルルティアが?
「ようじょって、なんだ?」
「血が繋がってなくても、書類上の娘になることです」
「ルルティアの両親は?」
「カーライル殿下を愚弄した不敬を償うべく、ルルティア嬢を破門いたしました。そしてすぐさまミハエル王弟殿下が動いたようです」
「なんだって……」
正直言おう。オレの婚約者はかわいい。
ふわふわな桃色の髪。空より澄んだ水色の大きな瞳。まんまるほっぺ。好奇心旺盛でコロコロ変わる表情。妹じゃなくて、婚約者で本当によかったと思う。あんなかわいいのが妹だったら、本当に部屋から出さないところだった。
しかも最近、左腕にゆるい動物をくっつけて、なおかわいい。
あの微妙にぶさいくな動物をドヤ顔で腕につけているところがかわいい。
しかも四歳にして文字の読み書きが堪能で、頭もよくて、魔力も豊富で。
あげくにかわいいオレの婚約者が、なんだって?
「なんでルルティアが叔父上の娘になっているんだあああああ!?」
ミハエル叔父上がそばにいるなら、ルルティアはきっと安心だ。
だけど、オレの嫉妬心がそれを許さない。
ルルティアも好きだけど、オレが一番好きなのは叔父上なんだ!
「ズルい。ズルすぎるぞ! それだったら、オレだってミハエル叔父上の息子になりたい!」
「殿下……もっと声は控えてください。陛下に聞かれたら泣かれてしまいますよ」
「知ったことか! 父上なんて、どうせオレより公務のほうが大事なのだからな!」
「そういうところが、まだまだガキですよね……」
オレは真に不敬なベンジャミンを無視して、泣きながら手紙を書く。
そんなオレの文を覗き込んで、ベンジャミンはため息を吐いた。
「たとえ殿下が勝手に絶縁状を送っても、婚約解消は受理されないかと……」
「結婚はルルティアとするぞ! この絶縁状にビビったルルティアが、叔父上の娘をやめれば済む話だ!」
「そんな上手くいきますかね……」
ベンジャミンは小首を傾げているが、上手くいくに決まってる。
だって、ルルティアはオレの婚約者なんだぞ!
先日の別れ際だって、オレがコアラを撫でてやったら嬉しそうにしていたし。きっと、本当は自分を撫でてもらいたかったのだろう。あの顔は、オレのことが大好きに決まっている!
だから近いうちに、オレがルルティアの実の両親にきちんと掛け合えってやるんだ。謝罪もしてやる。そうしたら、破門なんてすぐになかったことになるはずだ!
「そうだよな、シェンナ」
机の上で欠伸をした黒猫シェンナの背中を撫でる。
そうだ、おまえは今のうちにゆっくり休んでおけ。
別にオレは学園をやめても、最強の魔法が使える王様の夢を諦めたわけじゃない。
それにルルティアだって、これからオレが守っていかねばならないのだ。
オレの手を舐めてきたシェンナに、オレは声をかけた。
「怪我が治ったら、おまえにはたくさん特訓に付き合ってもらうからな!」
「にゃ!」
これにて1章はおしまいです。
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