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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
8章 お父さんの誕生日

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72話 幼女と待ちぼうけ


 わたしの腕の中で、黒猫シェンナちゃんが「にゃおーん」と不安げに鳴いている。


 わたしたちは王宮の一間で待ちぼうけだった。

 そりゃそうだよね。国王陛下が爆発に巻き込まれ、重体なんだもの。


 当然、前夜祭も中止。場が騒然とする中、あっという間に血だらけの陛下は医療魔導士に囲まれ、治療を受けた。なんとか一命を取り留めたものの、今も予断は許さないらしく、夜が更けた今も治療継続中。


 わたしたちは王妃陛下から気にせず早く休むようにと言われたけれど、そんなわけにもいかないよね。いつも寝ているコアラだって、不安そうなシェンナちゃんを励まそうとしているのか「ぐもぐも」話しかけている様子だ。


 肝心のカーライル殿下は、国王陛下に付き添っているらしい。


「大丈夫かな……」

「にゃおん……」

「ぐもーも」


 その言葉に、応えてくれるものは使い魔の声だけ。


 わたしの保護者であるミハエル殿下は現場の調査中だ。

 爆破したペンダントは、きちんとミハエル殿下の監修を受けたものだ。

 爆破するなんてありえない。後天的に何者かが爆破の術式を付与したに違いない。

 そんな調査に協力しているらしい。


 複雑な立場だからとパーティーを辞退していたユーリさんは、今、大急ぎで王宮に向かってくれているという。爆破をすぐそばで見ていたわたしのことが心配なんだってさ。まったく心配症め。


 だから、わたしは部屋で祈るしかない。

 国王陛下と直接対話したことはないけれど、それでもカーライル殿下の大事な人だ。

 無事に回復してもらいたいに決まっている。


「どうせなら、転生チートで癒しの力があればよかったのに」


 思わず、そうつぶやいたときだった。

 頬をコアラにぺしっとされる。


 ん? ……怒っているのか?


「ごめんて。別にコアラに不満があるわけでもあるよ」

「ぐもも!?」


 慌てふためくコアラに、わたしとシェンナちゃんが癒されていたときだった。

 ノックもなく、扉がバンッと開かれる。


 視線を向けると、息を切らしたカーライル殿下が必死の形相で叫んできた。


「不死鳥の卵の殻だ!」

「ほう」


 いきなり何を言ってるんだ、と突っ込みたい気持ちはさておいて。

 殿下は神妙な面持ちで口を開く。


「治療師たちの話では、不死鳥の卵の殻があれば、父上を回復させられるかもしれないらしい」

「なるほど。今から不死鳥の山に行こうぜって話ですね」


 わたしは軽い腰をあげる。

 五歳児の体はちょっぴり眠いけど、ここで踏ん張らなくてはアラサーがすたる。


「コアラも気合いれて起きてるんだよ~?」

「ぐも~?」

「寝たら、またひげを引っこ抜いてやるんだからね。シェンナちゃん」

「にゃ!」


 使い魔たちとそんな会話をしていると、カーライル殿下が立ちすくしたまま目を丸くしていた。


「と、止めないのか?」

「止めてほしかったんですか?」

「いや……オレは、今すぐでも材料をとりに行きたいんだが……」


 まぁ、真夜中という時間をさておいても、止められるでしょうね。


 だって、国王のお命が危ない今。

 その正統なる後継者のカーライル殿下の価値がぐんっと上がったのだから。


 カーライル殿下のまだ十一歳という年齢を鑑みて、たとえ王の席が空いたなら、王弟とかを間に挟みたいという意見も出るだろう。だけど、あの実は一〇〇〇歳超えの男が、王座に就きたがるとは思えない。


 それこそミハエル殿下が後見になるからと、カーライル殿下を無理やりにでも即位させる可能性も高いのではなかろうか。


「オレのせいで、父上は大怪我を負ったんだ……だったら、オレが治療薬の材料をとりにいくべきだ。危ない場所にあるからこそ、オレが……」


 当然、国王陛下のお命を救うためだ。今も大急ぎで採取するための部隊が結成されている可能性が高い。そこにカーライル殿下も参加したいと言ったのだろうが、そんな立場だ。危ない場所なんかに連れていけるはずがない。


 だからこそ、おろしたこぶしを固く握っている殿下に、わたしは肩をすくめた。


「わたしは五歳児なので、難しいことはわかりません」


 わたしはにやりと口角をあげる。

 せめて出発前に、自称パパに向けて置き手紙くらいはしておかないとね。


 ――というわけで、行ってきます、と。


 そうしたら、明朝に到着したばかりのユーリさんとユカリさんが、大激怒しながらお迎えにきてくれるだろう。いい加減、わたしもげんこつを食らう覚悟をしたほうがいいかもね。


「か、感謝する……オレ、婚約者がルルティアで本当によかった……」


 わたしは泣きそうなカーライル殿下の肩をポンと叩く。


「それじゃあ、箒を探してきましょうか!」


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