71話 殿下とプレゼント
国王陛下生誕祭、前夜祭。
当日の明日は、城下町で盛大なお祭りだ。日中は王城の一部も市民に開放し、王宮管弦楽団の演奏会や騎士団のパレード、有名な劇団を呼んだ観劇など、さまざまな催しものが開催されるらしい。
なので、いわゆるパーティーっぽいものは、今日の前夜祭に集約されている。
貴族たちが王宮の一番立派な広間に集まり、海外からのお客様は国王陛下に祝いの言葉ともに今後の親交を約束し、国内の臣下たちは今後の忠誠を誓うのだ。
ということで、赤い重そうなマントの似合うおじさま……国王陛下は、とてもお忙しそうに挨拶回りをしているのだけど……。
「カーライル殿下……こちらから話しかけたほうがいいのでは?」
「それはならない。父上の仕事の邪魔をしようものなら、会場からも追い出されてしまう……」
カーライル殿下は、綺麗に包装された小包を抱えて、会場の花となっていた。
この数年のイメージだけど、殿下はあまり物怖じするタイプだとは思ってなかったんだよね。さすがは王太子って感じで。いつでも堂々としていたというか。
そんな殿下が緊張しているなんて、年相応でとてもかわいい。
だけど、せっかく苦労してプレゼントを作ったのだから。
勇気を出して、殿下にも、国王陛下にも笑ってもらいたいと思うのは、私のメンタルがアラサーだからってだけではないと思う。
「出来はミハエル殿下が保証してくれてるじゃないですか」
「あ、当たり前だ! 叔父上が失敗などするはずがないだろう!」
調合……というか、錬金術は、ミハエル殿下立ち会いのもと行われた。
さすがに、二年生ふたり(しかもひとりは五歳児)には危ない実験だと判断されてしまった。やはりファンタジー世界の調合だから『魔力をふりかける』なんて工程があってね。わたしとコアラじゃ『ちゅどーん』する未来しか見えないと、カーライル殿下が四苦八苦する様子を遠くからぐもぐも眺めておりましたとも。
ともあれ、そうしてできあがったクリスタルはとてもきれいな逸品だった。
光に透かすと不死鳥の赤と金色に偏光する結晶体は、これまた魔法がかけられた紐でペンダントになるようにした。紐も殿下がたくさんの時間をかけて編んだものだ。十一歳の男の子が編んだとは思えない丁寧な出来だったよ。
そんな子どもからの贈り物を、喜ばない親はいないと思う! わたしに親の経験はないけどさ。だから、カーライル殿下もこんな緊張しなくていいと思うのに……かわいいなぁ。
「親子なんですから、パーティーが終わってから渡すというのは?」
「このあとも、父上は深夜まで会合の予定で埋まっている」
「明日の誕生日本番は?」
「民の前に顔を出したり、隙間時間も細かい打ち合わせがあったりと同様だ」
……国王陛下、大変だなぁ。
まあ、お国の一番偉い人が暇そうにしているにも、元庶民としては嫌なものだが。
それでも、実の息子がちょっと贈り物を渡すにも躊躇してしまうほどスケジュールが詰っているとは、まわりのサポート体制が機能していないのではなかろうか?
そんなことを思いつつも、今のわたしは五歳の女の子。
できることといえば、ぐもーと寝ているコアラを肩に載せ直しながら、殿下の手を引くことくらいだろう。
「それなら、うだうだしてないで家族仲良しアピールをしましょうかね」
「ル、ルルティア!?」
カーライル殿下は必死にわたしの手を振りほどこうとしているが、残念でした。コアラぱんちの応用で握力強化をしております。殿下もそれを察してか、必死に肩のシェンナちゃんに「どーにかしろ!」と頼んでいるけど、シェンナちゃんも「にゃおーん」と呑気に鳴くばかり。ほんと、シェンナちゃんはご主人様思いでかわいいなぁ。うちのコアラと違って。
「ぐも?」
「そーだねー、うちのコアラもかわいいねー」
「ぐも」
半目を開けたコアラと棒読みで会話している間に、あっという間に陛下のおそばへ。
「おや、陛下。かわいらしい方々がご挨拶にやってきましたぞ」
陛下と話していたお偉いさんも、わたしたちに気を利かせてくれたようだ。
「カーライルか」
「はい……あの、お父上……」
わたしがそっと背中を押せば、殿下も覚悟を決めるしかない。
「お誕生日、おめでとうございます!」
勢いよく両手で差し出した小包に、陛下も優しく目を細めていた。
「ほう……話によれば、私のために何かを作ってくれたとか? 開けてみせてくれるか?」
「は、はい!」
陛下からの申し出に、殿下は少しまごまごしながら包みを開ける。
陛下はちゃんとカーライル殿下が何を作っていたのか、情報を耳にしていた様子だ。おそらく、仕上がりも報告されているんだろうな。
まわりの人たちの視線も集めているし、これで殿下の株もあげようという魂胆もあるのだろう。未来の王太子だもんね。魔導の覚えがいいと知れ渡って悪いはずがない。
……なんて、大人の政治を垣間見つつも、わたしは陛下の顔を見上げながらにっこりだった。だって、陛下の顔が嬉しそうなお父さんそのものだったんだもの。
もしや、単純に息子を自慢したいだけ?
なんて思っていると、陛下と目が合う。
あれま、ドヤ顔じゃん。
と、わたしが苦笑していたときだった。
「ぐも!」
カーライル殿下が包みからペンダントを取り出そうとした瞬間、くつろいでいたコアラが前に乗り出してくる。
そして、わたしも思わずペンダントを凝視した。
えっ、ちょっと光すぎでは?
次の瞬間、わたしの鼓膜がビーンッと機能を失う。
とっさにわたしは目を瞑っていたらしい。
衝撃を受けなかったのは、コアラの防御バリアのおかげ。
そして、ゆっくりと目を開ければ……。
「父上! 父上っ!!」
泣きわめくカーライル殿下を抱きかかえるように屈んだ国王陛下の御身が、血まみれで真っ赤に染まっていた。
すぐそばには、殿下と作ったはずのペンダントが割れている。
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